07 ヒマワリと流星の精霊
文字数 3,151文字
日本海沿い二か所の温泉と月山麓の温泉。三人は宿に泊まることなくタクシーを利用した強行軍で深夜のアジトを潰していく。経費は本部から五十万円も支給されている。余った金は返さなくていいそうなので、生活費として最低でも三十万円は残したい。芹澤にも渡さないとな。
早朝のひなびた泡々温泉では、農家裏の掘っ立て小屋アジトに誰もいなかった。
戦闘員服を三枚燃やして、朝市を見学してから公営の湯に入る。地元の爺さんと朝湯だ。
話しかけられたけど言葉が通じなかった。方言キツすぎ。
表で合流して二人に聞く。近くの林にコードを設定すれば危険なく行き来できる。
だったら俺だけ自宅で用を足そうとしたら。
心が強くなった芹澤でも、俺には遠回しだ。つまりトイレぐらいで使うなと言いたいらしい。
あの女とは夢月だが、男性早死家系である竹生家に婿入りする可能性が無きにしも非ずで、信ぴょう性を感じてやめることにする。
掘っ立て小屋アジトを見張るついでに、肘を折って仮眠。
三時間たっても布理冥尊は現れない。
これだけ点在する弱小アジトを星空義侠団は放置している。里に下りてきたツキノワグマを無傷で山に帰すので手一杯らしい。たしかに布理冥尊を倒すことだけが正義ではない。俺もそっちをやりたかった。
俺も生身でワンサイドに八人倒してきたから、ちょっと罪悪感が芽生えてきている。地方幹部一人と遭遇したが、マントを手に現した瞬間に穴熊パックが奪った。なので、まだスカシバレッドに変身していない。
アジトに気配が近づいてきた。……二人。とりあえず一人を倒す。
アジトに入ってきたのは、学校指定ジャージ姿のほっぺたが赤い女子高生二人だった。俺たちを見て固まっている。
俺も固まった。これは無理。
この子に任せよう。
女子高生のツインドロップキックに湖佳が吹っ飛ぶ。
二人の手に黒いマントが現れる。女子高生たちは……
実家のさくらんぼ畑の収穫を手伝うようなバンダナに長袖縞柄シャツと、下は学校指定ジャージのままの姿になる。
これとやりあうのはなおさら無理だろ。はやく体に力を込めて化け物になれ。
二人はさくらんぼのように並んで頬を赤らめているけど、俺には戦えない。自分で弱いとばらしているし。
芹澤と抱き合っている場合ではない。こんな純朴そうな女子高生を消し去れるかよ。
湖佳が鼻血を垂らしながら失礼を言う。岩飛の愛嬌と同じ系か。種が分かっても俺には戦えない。
芹澤の眼鏡が光った。その手に黒いマントが現れる。
芹澤が体にマントをかける。
その姿が、緑が主体のへそ出しレースクイーン姿と化す。ショートスカート。長いブーツ。眼鏡は消えている。
その姿をもう少し拝みたいのに、
芹澤が体に力を込める。黄緑色の光に包まれる――。
緑色のショートヘアに黄色のショートパンツ。アダムスキー型UFOをモチーフにした帽子。手には星型のマジカルステッキ。でも、顔の周りにヒマワリみたいな花びらが生えている。そして星型レンズの眼鏡。背丈が2メートル越えたし。
自称魔法少女の怪人が、二人へとマジカルステッキを振るう。幾多の星型の光線がさくらんぼ娘を襲う。悪の図式じゃないか。
姿勢よいコメットさんフラウに、さくらんぼ娘たちが従う。
芹澤はうっとりと夢想しているけれど、俺はスカシバレッドのままだし、力を込めれば血の色の龍になる。なので俺は持たない。
俺と芹澤の言葉に二人はまた涙した。芹澤の言う神々しい姿を見たいと言うので、山形に来て初めてスカシバレッドに変身した。
髪には銀色のティアラ。二人はさらに感涙する。またファンが増えてしまった。やはり寒かった。
さくらんぼ娘たちは、社会見学だかとこじつけて、親の車でここまで来ていた。是非にというので麓まで乗せてもらう。佐藤の父親は、気のよさそうな里芋農家だった。いも煮をご馳走したいとの話だが、時間がないので断る。こんなに気持ちよい県民たちを制圧しようとは、やはり布理冥尊は悪の組織だ。
女子高生二人が車内で寝たところで、湖佳が尋ねる。
心が強くなった芹澤でさえ答えない。心が強くなったから答えないのかもしれない。俺もコメントしようがない。
湖佳が追い打つように惑わしてくる。
ある女とはスカシバレッド。