02 俺がレッドを守る

文字数 2,618文字

 冷静に思いかえそう。

 俺は相生智太という二十歳の男で間違いないよな。親友も彼女もいない、練馬区の実家から通う地味大学生だったよな。

 それが何故空を飛び、穴から顔をだした男に睨まれている? それより、この男(トンネラー?)のドレッドヘアは、何故にそれぞれが上を向いてドリルみたいに回転している?


レゲエっぽい男が穴から抜けでて、金髪豊満姉ちゃんを引きずりだした。……髪の毛を握ってやがる。俺の胸から怒りの鼓動が聞こえた。

 関わっては駄目だ。それよりもだ。

俺はなんで飛べるのですか?

特性のおかげだ。それが何であるかは、司令官と合流するまで分からない

残り90秒。スパローピンク、やるぞ!

 また機銃掃射と矢の乱れ撃ちが始まった。回転するドレッドヘアがことごとく弾きかえす。
効かぬすぎるぞ、底辺戦隊め

 トンネラーの頭からドレッドヘアが無数に飛んできた。ドリル弾?

 俺は慌てて避ける。……体の反応が半端ない。


クソッ、被弾した。クッ、さらに被弾
助けないと。でも僕は飛べない

 こいつら弱すぎないか?

 底辺呼ばわりされていたよな……。戦隊を名乗る以上は、特撮番組にでてくる正義の味方たちだと思うけど。

『残り60秒』
エリーナ、シルク、あと少しだよ。がんばって! 相生レッドが助けにいく! だよね?
なんであの子たちはとどめを刺されないの?

なぜ二人が倒されないかは、強くない僕たちを生け捕りにしたいから。

そして、僕たちの正義感あふれるレッドをおびき寄せるためだ

 一方のトンネラーの両手がドリルに変わる。ベタだが怖い。

 俺はこの子を抱えて逃げるべきだろうけど、美女二人が拉致されるならば見捨てるわけにはいかない。助けてあげた後のご褒美をちょっとだけ夢想して、トンネラーへと突撃する。

 俺の腕に赤い籠手(こて)が現れた。武器は現れないのか?

 ドレッドドリルが数本飛んでくる。女の子を抱えたままでもたやすく避ける。


 トンネラーに空中から飛び蹴りをする。

とおっ……コワッ

 こいつの腕はドリルだった。太ももをかすめた。

 俺も露わな服装であることを思いだす。こんな奴相手に無防備すぎる。空へと逃れる。

逃げるならば、こいつをえぐる
きゃー!
 イエローが絶叫をあげて目覚める。尻を押さえながらのたうち回る。
変質者め!

 なんであろうとさすがに許せない。ドリルなど籠手で受けとめてやる!

 着地してピンクを降ろす。駆ける俺とドリルまみれの男が交差する。

うわあああああああ!

おえっぷ!!!

 俺の絶叫が倉庫街に反響する。籠手が縦に割れて手の甲から落ちる。伏した背中を踏まれて口から唾液が拡散される。


経験が少ないとしても弱すぎる……。底辺レッドか?

 トンネラーなどというふざけた野郎(ネーミングセンス)に笑われる。でも、髪の毛ドリルと両手のドリルを喰らいまくった俺は、瞬時に赤いぼろ布状態だ。

 腕も脚も裂傷だらけ。無傷なのは顔だけ。そこだけ守ったから。

30,29,28……もう少しだよ!
ゼ、0になると終わり?
オレニ、キクカ?

ミッションクリアだけでは意味がない! 現場から立ち去って完了だ。ルーキーに期待した私たちが間違えていた。シルクイエロー! スパローピンク! やるしかない!

ストライプス――

しゃらくせえ!
ぐえ!

きゃー!

わー!

 なにかしらの構えを取ろうとした三人が、両手から発せられた大型ドリル弾に跳ね飛ばされる。トンネラーが俺の後頭部を蹴ったあと、彼女たちへと歩きだす。俺は脳震とうで顔を上げられない――。
全滅警報が発せられました。至急ミッションを放棄して退避してください。全滅警報が発せられました。至急ミッションを……
 さっきまでと違って感情なき合成音声がスマートウォッチで冷静に騒いでいるけど、俺は目の前の水たまりを見つめる。波紋がおさまっていく。
 さきほどの女の子が不安そうに俺を見ていた。
大丈夫だから心配しないでね

 満身創痍な俺が微笑んでみせる。


……。

 女の子も不敵に笑いかえす。


 街灯の明かりを辛うじて拾った水たまりに映るモノクロの子。ストレートなミドルヘアでアーモンドアイの女の子。この滅茶苦茶にかわいい子は俺だ。

この子をこれ以上傷つけさせない

 強い目に変わった女の子をさざ波に消して立ちあがる。

『警報を無視するな! もう。総員レッドの援護にまわって』

 俺は喧嘩だけは強い。つまりこの子も強い。

 などと思ったら俺の手に刀が現れる。赤く燃えている。

……。
王子の持つ尖剣(スピネルソード)……

 鼻血を垂らしたピンクが憧れの目で見ている。イエローとブルーは大の字だ。

本気だしちゃうよ
たあ!

 トンネラーが髪の毛ドリルを乱れ撃つ。ソードで叩き落とす。トンネラーが俺へと両手のドリルを向けて駆けだす。


 俺がこの子(レッド)を守る。

 だから俺はソードを両手で握る。

貴様は終わりだ!

 叫びながら迎え撃つ。体を半身にまわし対のドリルを華やかに(かわ)す。振り向きざまに、こいつの背中を縦に切り裂――やばいかな、殺人罪になるかな、でも女の体で誘拐されても……おもいきり切り裂く。

ぐわああ

 禿げたままのレゲエ男の悲鳴がコンテナを揺らす。

 ここまできたらとどめだ! うずくまる背中へとソードを突き刺――

駄目、それ以上はやめてください!
さ、最終形態にさせるな……
ミッションは完了しているよ。司令官と合流しよう

 気づくと時計は0で止まっていた。花吹雪が画面を彩っている……。

 気配を感じて空へ身構える。

『諸君、本当に久しぶりになるが、よくやった。連中を乗せてくるまでの足止めは完了した。つまりミッションクリアだ』

 男の声が腕時計のスピーカーから流れる。上空にニュースで見かけたような飛行物体が浮かんでいた。
撤収するぞ。レッドもモスプレイに乗れ。イエロー、もたもたするな
そうですね。邪魔になると、あの子が怒ります
奴を放っておいていいのかよ
 イエローの大きな尻を押すピンクに声かける。
いまの僕たちでは勝てないよ。それに、とどめを刺すのは彼女たちの任務だ
 よく分からないまま、俺は背後にかまえながら浮かびあがる。
なんてこっちゃ

 俺の一撃を喰らったドリル男はまだ禿げあがった頭のままで、俺たちにケツを向けていた。西に向かった半月を見ていた。

 対のプロペラを廻しながら静止する黒色の機体に、俺も最後に乗りこみながら見る。

 月を背景に人のシルエットが三体浮かんでいた。

……。

 スタイルで分かる。奴らも女だ。

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登場人物紹介

相生智太

=スカシバレッド

スカシバレッド

=相生智太

清見涼

=エリーナブルー

エリーナブルー

=清見涼

睦沢陸

=シルクイエロー

シルクイエロー

=睦沢陸

壬生隼斗

=スパローピンク

スパローピンク

=壬生隼斗

夏目藍菜

=与那国三志郎

与那国三志郎

=夏目藍菜

木畠茜音

=アメシロ

アメシロ

=木畠茜音

陸奥柚香

=白滝深雪

白滝深雪

=陸奥柚香

竹生夢月

=紅月照宵

紅月照宵

=竹生夢月

深川蘭

=紫苑大夫

紫苑大夫

=深川蘭

相生桧

=智太の妹(従妹)

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