36 新世代にして最終世代
文字数 2,548文字
ミカヅキリムジンは結界に隠されて都心の空を飛ぶ。エリーナブルーはまた眠っている。人の姿のペンちゃんに抱かれて眠っている。
……。俺も深雪も紅月も黙ったままだ。荒川に沿って時速170キロで滑空する。赤羽からJRの上を進む。 夜景が綺麗すぎる。いつか三人でもう少し低い空をゆっくり飛びたい。そんな日は絶対に来ない。そんな予感は俺が作っているだけであって、柚香も夢月も黙ったままだ。
柚香! じゃね深雪! しったげ大人になっているし。めんこいじゃね、きれいだ
集合場所である大宮駅近くのマンションの屋上で、金色の鎧に包まれた男が騒ぐ。仮面に輪郭を隠されていてもイケメンだと分かる。この人が二十二歳のきりたんぽ職人の野原宏。関東以北で戦い抜いた、十八人の正義の味方からなる星空義侠団のリーダー。特性は天馬と剣闘士。コードネームはセイントアロー。
深雪である柚香はマジで怒っているけど、初見で分かる。この人はいい人だ。おのれの容姿を気にしない、純朴で秘めた闘志が伝わる。レベルなど関係なく、俺も配下に加わりたいほどのオーラ。
エリーナブルーは眠ったままだ。岩飛がビキニ姿で抱いている。眼下のつぶれたボーリング場は、一般人の目を欺ける程度の弱小な結界に包まれている。
スカシバさん久しぶりです。やっぱり相生さんと同じぐらい素敵ですね
身震いする声が背後から聞こえた。レオフレイムがサント号に乗っていた。両脇のアギトゴールドとレアシルバーは穴が開くほどに俺をにらんでいる。
これはモスからの支給品です。今晩の作戦指令室はモスプレイになります
コノハに乗ったスパローピンクとハウンドピンクもやってきた。タンポポの綿毛みたいにパラシュートも二つ降りてくる。
アナグマ状態の穴熊パックとHA16である桧がふわりと着地する。
この作戦に参加するメンバーがそろった。
紅月とトリオス、それにセイントアローとハウンドピンクの合計六人は、彩りランド本部屋上で魔女の到来に備える。現れたならば最終決戦が始まる。
俺が復帰したモスガールジャーの六人がアジトに突入して戦う。花鳥風樹の残り三人も、エリーナブルーに寄り添いながら同行する。
そのエリーナブルーはまだ起こさない。ピンクとイエローとグリーンは先行して敵アジトを監視する。
“トリオスと田舎者は不要なのに、本部が私の作戦に気づきやがって送りこんだ”
俺は一兵卒だ。不平も不満も不安もあるけど、与那国司令官である夏目藍菜だけがトップだ。そいつの指示に従うだけだ。
私には彼氏がいますと、はっきり言ってやれるのに。へへへ
金色の剣闘士はすでに戦いの目になっていた。俺たちなど見ていない。
かぐや姫もハンターの眼差しで大宮の空だけを見ている。
現れるかな。
あの女、とてつもなく強いよ。稲葉さんのかたきなど討てないくらいに
彼女は紅月を頼っている。それくらい紅月は強くなった。
三人一緒ならばできるよ。
でも今夜は現れない。臆病カラスも来ない
かぐや姫は空を見たまま言う。 三人に俺も含まれている。そうに決まっている。
なんで私を無視しているの! 本当の最初の戦いなんだから声をかけなさい!
それと、私のコードネームはお兄ちゃんが決めるのでしょ? はやく名付けなさい!
そんな約束をしていたな。でも……。
紅月がいるところで目立ってはダメだよ。月をかたどったピアスもペンダントも見られちゃやばいだろ? それに……メイド姿の桧は誰よりもかわいいよ。青白いブリムも、エプロンドレスもよく似合う。お兄ちゃんのくせに見惚れちゃうぐらいに――。なのに、ここからはお兄ちゃんは桧を守れないんだよ。怪我ひとつしないように戦ってもらいたい。
……お兄ちゃんはもう桧を一番に守れない。
なので、あなたの名前はショッキングファイヤーウッドです!
そうだった。何よりも清見さん。誰もが戦闘モードに入る。
『こちらシルクイエロー。敵本部正面に異常は見当たりません』
『こちらキラメキグリーン。裏口からの出入りもなし。中にいるのは変わらず三十三体』
『こちらスパローピンク。屋上も変化なし。ハウンドちゃん、がんばろうね』
『敵にレベル100以上が三体しかいないからってたるむな』
『いやいや、これくらいがいい。今回の目的はひとつだけだ』
与那国司令官が言うとおり、目的はひとつだけ。
俺は南極トビーに顔を向ける。
彼女が頷き、体に力を込める。巨大なイワトビペンギンが現れる。エリーナブルーを抱える。
南極トビーが深雪の祓いを受けながら古巣へと飛び降りる。俺と深雪も続く。
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