13 ロミオな俺
文字数 3,931文字
この車はクリーニングされています。味方にすら。
屈指の追跡者である凪奈でも追えません。政府が極秘裏に打ち上げた人工衛星を利用した裏GPSも解除しました。
もう誰からも探知されません。もともと高速道路はフリーで使用できて、記録されない存在ですし。
カーナビを操作している。
俺の欺瞞の魅力はオタっぽい十三歳の布理冥尊にも通用するようだが、そこにはラクダが生息しているらしいが、そんなところまで行っていられない。おそらく眼鏡をはずせば(そこそこ)かわいい娘だろうけど、下手すれば未成年者誘拐で逮捕される。
そこが何県なのか知らないけど、ポケットから二万円がなくなっていた。ハイグレードどもめ……。
昨日ダミーのアジトを監視する結界内のテロリストを、私は別のビルから監視カメラで眺めていました。あなたであるスカシバレッドは、白滝深雪と百合っぽい雰囲気を醸していました。
あなたたちはリア充ですか?
ワンボックスは発車するなり派手に切り返す。東の空が白んでいく。
聞きながら、諭湖に借りたスマホで毎日十回の復唱を義務づけられている番号へと、駅名と車名をショートメールする。これでこの番号は二度と使われない。すぐに新しい番号が日本中のチームに通知される。この一か月で三度も変更されている。
諭湖はスマホをポーチにしまいながら、片手で運転する。
上級戦闘員二名を倒したスカシバレッドは、さらには親衛隊員までも倒し、彼女を拉致して車を強奪して逃げた。どこぞの駅で彼女を昏倒させ束縛し、早朝の都会に消えていった――。そういう筋書きにするらしい。さすがレッドと、さすがに
貉の特性を持つ諭湖が答える。
焼石の報酬は生身での力と聞いていたが、麦わら帽子にサンダル履きの状態で、手足を伸ばせるはずもなく、エリーナブルーたちより上なのか。グレネードランチャーを持ち、空高くジャンプするエリート戦闘員に勝るというのか。ギアがセカンド、サードになったらどうなるのだ?
あり得ない。ガセだ。というか、俺の特性が知られているみたいだが、もうひとつの恥ずかしいのもバレているのだろうか。
交通量は少ないので、ワンボックスカーは平均時速90キロで進む。クラクションを鳴らして五台ぐらい追い越して、クラクションを鳴らしながら信号を五つぐらい無視したら、すぐに駅に着いた。さすが布理冥尊。悪に精通している。
街はまだ青白い。人通りは無しに近い。
鼻にティッシュを詰めて、後ろ手に手錠をした諭湖が、一万年と二千年の別れのような目を向ける。俺は布理冥尊相手にそんな感慨はない。女子中学生相手にも。
メッセージが画面に表示されていた。パスワードを聞きだすために再度起こさずに済んだ。
言われたとおりにして、助手席で待つ。
夜桜のガキの片腕じゃないか。こいつはマンティスグリーンと違った意味で変幻自在だ。しかも賢い。
先月四国管轄のチームが全滅したのも、先々月東海管轄の作戦が大失敗に終わったのも、こいつの仕業だ。昨日の我々の失態の一因もどうせこいつが噛んでいる。裏から指図していたのだろう。
……とてつもない手柄だぞ
……ちょっと待て。命の恩人を本部に直行させる訳にはいかないよな。
『やさしく』
『ご丁重に』
言葉通りに捉えていたピュアな俺でもさすがに気づいた。麻酔を打たれてすやすや眠る押部諭湖は、バケツで水をかけられて目を覚ますなり拷問される。ボーナスポイントが100もある抹殺対象であろうと、眼鏡が落ちた寝顔だけ見れば、あどけない女の子なのに。胸はまだまだだし、将来的にも期待できなさそうだけど。
そんなことは関係ない!
俺のアドバイスに、彼女の青筋がなおさら増える。
今日が終われば一切あれと口をききたくない。お前が窓口になれ。以前にもエリーナに依頼したが、忙しいし道理でないと断られた。
……他の二人のがまだしっかりしていそうだが、私はレッドを信じる
にやりとするな。
使用履歴は記録されるから私的に使うなよ。これからは余程の案件でないかぎり夏目でなくお前に連絡する。木畠に血がでるほどにつつかれようが気にするな。
あの穴熊を捕らえたのだ。お前が嘘っぱちの魅力にあふれているのは間違いない。でもな、柚香はピュアだ。あの子を騙したら、私の残りの人生は、正義でなくお前を地に伏すために存在する
蘭さんの真剣な目に俺も真摯にうなずき、端末を握りしめる。トリセツがないので、使用法をざっくり教えてくれた。さすが魔法少女って感じの端末だった。
大事なことを言っておかないと。
きょとんとするな。
つまり私とともに赤モスになる。そして紅月とともに解除して、いまのイラつく姿に戻る。面倒くさいだろうがクリーニングされて、ハウンドピンクがつけた
夏目の顔を見ると忘れそうだから今のうちに済ましておく