28 鳳凰孤軍奮闘
文字数 3,206文字
こいつはサウスポーだったのか。今までの戦いで、それすらに気づかせなかった。
大司祭長はお前を見て、殺すのはやむをえないと判断した。ちなみにハウンドは、死んで枯渇した精神エナジーさえも追跡できるようになった
見れば分かる。レイヴンレッドはうずいているのに冷静だ。こいつは紅月を倒して、弱った生身の姿を捕獲するつもりか。
いまの俺には何もできない。ハイエナの化け物から漏れる笑いを聞かされるだけ。電気で体が痺れる。茜音の体もぴくぴくする。
紅月照宵。赤同士、戦いあう宿命だったかもな。
私は偽りに囚われていた頃から、お前とソードを交わす日を待ち望んでいたかもしれない
私はスーパームーンだ!
やっぱり月明かりを使う。せいや!
二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十六夜、二十三夜……
レベルが上昇した私がいるだけで、見えぬ花吹雪が常に舞う。敵の術は弱められ、味方の術は強まる。
昨夜は気づきもせず馬鹿丸出しで乱発したな
気品ある犬がうれしそうに尻尾を振る……。
などと状況説明を続けられるほどの容態では俺はない。下に行けば集中的に治療を受けるレベルだ。目覚めない茜音は呼吸しているから、人工呼吸も心臓マッサージも不要だけど――。
屋上に靄が立ち籠りだす。
これは、紅月の数少ない補助攻撃。敵をかく乱させる魔法。でも威力があり過ぎて、亀の隊長さんが全裸になったとも聞く。生身の俺はどうなる。茜音が全裸に……。
ウサミンミンが羽根を激しく震わせ拡散してくれたおかげで、杞憂に終わった。
ご免つかまつる!
やっぱりソードで勝負してやる。今日が貴様らの卒塔婆だ!
生身からではないとしても、宴の後の結界の中で自在に変身するとは……。
生身で焼石と戦うのは、愚かすぎる判断でした。傷ついたあなたの顔は、嫌悪を感じるほどでした
でも精霊になり、傷に塩をこすりつけたい心は霧散しました。
ああ。これぞ大司祭長の御心にたどり着く灯火。
カラスが戦いに集中する隙に、あなたの傷を治します。
紅月が屋上に落下する。……最初の立ち合いだけで、素人でも分かる。剣術が草とプロほど違う。
今のうち。
……カラスに見られたでしょうか? だとしても、あなたの外見は数時間は傷を負ったまま。欺けるはず
まず顔の痛みが消えた。折れた歯も戻ったけど。
レイヴンレッドが俺を見ながら。
……残虐すぎる。しかも夢月へと。
俺の心が紅蓮に燃えた。
熱い御心。でも穴に追いこまれた狐狗狸のように耐えるべきです。
……もしかしてあなたは雪でも妹さんでもなく。
……だとしても
心臓を刺されても悲鳴で済むのか、化け物め。
だが首を落とせば――
キャンキャン
やめろ! 大司祭長の言葉を忘れたのか!
キャンキャン
……レイヴンレッド、冷静になれ。いつものお前と違うぞ。捕獲が無理だとしても、そんな殺し方をしたら百夜目鬼様の望みが叶わなくなる。
……パックは何をしている? 私まで不信になってきた
わ……た……しの首は……、防御力100000000000だ!
紅月がレイヴンレッドを押しのけ起きあがる。
宙に浮かぶ。
私の心臓も防御力
100000000000だ! 喰らえ、
姫の紅く飛ぶ斬撃!
……きゃあ!
ルビーソードから放たれた光はレッドタイガーソードに弾きかえされて、紅月本人に直撃する。
俺は茜音を抱えるだけ。変身できない。転生できない。
……この戦いは長引く。
ハウンド。生身のテロリストを連れていけるか?
ワンサイドかつ泥試合な赤同士の対決を見ていたナマズラーガが、至極当然を口にする……って
かぐや姫である女剣士が立ちあがる。白帷子の胸もとが赤く染まっているが、すでに止血している感じ。
こいつは脅しを口にしない。実際に川口駅前で使った。花が間一髪後ろに倒して光は空に飛び、一般人も川口駅も消滅せずに済んだ
ナマズラーガが四つ足で駆けるなり、紅月の背中に爪を立てる。さらにおそらく電撃。
かわいい悲鳴なんて思うな。紅月が片膝を落とす。
ナマズラーガはヒットアンドウェイで離れる。
ははは
さすがハイエナらしい戦い。気が合うが、もう手出しするな
……ハウンド。私の電撃は強まるどころか弱まっている気がする。気のせいか?
凪奈は反原理主義の尖峰ゆえ。……あなたを救う策はあらためて練ります。
アフガンハウンドの前に、そのまんまの大きさのタヌキが現れる。
この姿で凪奈を守れと? ああ何と非情なカラスでしょう。
しかも、あなたは虎の本性を露呈するかもしれません。あなたは守ろうとする娘にも牙を向けるかもしれません。
その前に痛み分けで終わらすべきでは?
レイヴン様、穴熊パックがうるさいですけど、まだ続けますか?
ウサミンミンが久々に口を開く。このセミは余裕の面だ。
俺は変身したい。転生したい。なのに無力。モスガールジャーの参謀といるのに……。
レイヴンレッドが言う裏切り者とは、もちろん穴熊パック。
そう言うと思って、この戦いを拡散しておきました。
隊長は内勤ですが、賀良様が到着しました。すでにワシモーサですけど
巨大なコンドルが屋上に降りたつ。その尻尾はガラガラヘビの尾。
ガラガラ
ハウンドピンク。護衛任務の俺を置いて動くとは、大司祭長の御心に反した行為だぞ……。
うまそうなのが二人もいるじゃないか。ナマズラーガ、俺に取っておいてくれたのか?
ガラガラ
ワシモーサが俺と茜音を見る。その尾をガラガラと震わす。
紅月が口もとの血をぬぐう。
無敵だと思っていたけど、帷子を染めた血は薄らいでいくけど、月明かりを封じられると(複数の強敵相手では)意外にもろい。西新宿を巻き添えにする光をだせば一発逆転だけど、それは正義ではない。
俺はスカシバレッドにならないと戦えない。エナジー銃もナイフもしょせんは戦闘員相手の護身用だ。化け物相手に意味はない。
変身したい。転生でもいい。藍菜に連絡すればまだ可能だろうか。
加減せずに平手打ちする。 ようやく茜音が目を開ける。鼻血がたらり。
相生……
サングラスしてろよ。目覚めから気分が悪くなった
相生はモスじゃねーだろ。それにモスで戦える人はもういな……雪を呼べよ
柚香はスクランブルに反応しない。まだ意識がないかも
チークとリップの量はぎりセーフ。でもコロンつけすぎだし。
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