46 血みどろの牙

文字数 4,276文字

“原理を我が身に!”
“原理を我が身に!”
“私はとっくに狂っている”







 

……。
 原理を我が身に、とした奴を何度も倒した。マンティスグリーン。クマドーサ。ハデスブラック。みんな永遠の闇に送りこんだ。
……。
 穂村だって俺と同じだ。倒すべき敵を目前にした俺と同じだ。ならば俺も彼女を敵として扱う。獅子である穂村利里は敵だ。
その眼差し……地上の誰よりも素敵なのに
 俺の目を見て、穂村の目も赤く変わる。
フレイムオブカタストロフィ!
 巨大で密度ある炎を水平に放たれる。
……。

 こいつは俺を怒らせた。もう逃げ惑わない。

 一直線に最短距離に。

終わらせる!
 スカシバレッドはソードを盾に突き抜ける。
焔舞!
ちっ
 さらなる炎が待ちかまえていた。肩を焼かれながらえぐられる。

 だとしても刹那の交差を――すべてが込められたクリティカルな一撃を避けた。

 ならば即座に切り返せ。

   00:00'01"04
……。
 体とひとつになったスピネルソード。
エ? キリカエシ、ハヤスギ
“好きなの選んで”
 レオフレイムの背中。
ジャスティスブラッドクロス!
 彼女も振り返る。
焔舞!

 赤と赤の熾烈な競演。裁きのXが迎え撃つ炎の剣を弾き飛ばす。

 むき出しになったレオフレイムへと。

 身とつながった対のソードで。

ジャスティスブラッドクロス!
――!!!
 レオフレイムの浴衣がXに裂ける。彼女の顔が苦痛に歪む。 
……。
“私に赤……。ほんなこつ優しか人やなあ”
 スカシバイク。背後の寄り添う体温。水族館。思い返すな。
“智太君”

 終わりにしたいなら、夢月だけを思え。


 姫の笑み。心と一体になったソード。姫を守るソードで。目を閉じて吠えろ!

ジャスティスブラッドクロス!
 牙のごときXを叩きつける。
あ……
…オレガワルイケド
 穂村利里の悲鳴。耳を閉ざしたい。
“ニコニコ”

 すべてが終わった後の竹生夢月の笑みを思え。無垢な笑みだけを思え。エナジーは無限に湧き上がる。

ばり痛
……。
 落ちていく穂村を冷血なスカシバレッドは追撃する。
チッ
ヒエ…
ウウ…
 傍観するハゲと宗像がいた。その足もとには千由奈。
 激突してドームを揺らす穂村。
……。
……たいがいにせんね

 西日本のエースである彼女は立ちあがる。血みどろの浴衣。その手にソードはよみがえる。俺を刺し違えるべき敵と見る。レオフレイムこそ最高の戦士だ。スカシバレッドへと跳躍する。


 終わらせろ。互いの牙で削りあえ。

焔舞!
ジャスティスブラッドクロス!






 

……終わったな
……どうだろう






 

……。
……。

 強者である穂村の剣がスカシバレッドの胸を貫く。

 さらなる強者が血のXを叩きつける。

 

 レオフレイムがドームに穴を開けて落ちる。

 まだだ。終わらせるために追撃しろ。とどめを刺せ。







“そうだとしても、あなたがあの子たちへしたことに、私は賛同者だよ。戦いは憎しみ合うだけでは終わらない。難しいけどね。口先だけかもしれないけどね……。だからこそ相生君はすごいと思う。”






 

俺の手で? 穂村を?

 できるはずないだろ。

 スカシバレッドはしゃがみ込んでしまう。

ぼろぼろじゃないか
 ハゲが俺を笑う。その手に藍色のマントが現れる。
俺の特性が分かるよな。“海賊”と“天使”だ

 それが何故に羽根の生えたシャチになる? 気にしている場合ではない。こいつは強がっている。横たわる俺に怯えているから、俺を龍にさせたくないから精霊になれない。

 誓って絶対に金輪際龍にならない。こんな奴らを喰らうはずない。

……。
 だから座ったまま喘ぎながら、にらみ返すだけにする。
……住吉ならば傷ついた龍を倒せるだろ

 宗像の手に端末が現れる。


……。
一緒に戦ってくれよ
 邪神のごときスカシバレッドから目を離せぬままハゲが言う。
相討ちでかまわない。お前だけは復活に力を貸す
 宗像が千由奈を抱きかかえる。端末のボタンを押す。
二人とも倒れるのはうまくないからな
ざけんな!
…おいおい
 龍の咆哮。千由奈とともに消え去ろうとする力をかき消す。
…真なるレッド
 スカシバレッドは立ちあがる。オヤジどもは腕に生えたソードだけを見ている。

……冗談抜きに永遠の闇へと引きずられそうだ

だが私は姑息だ。この娘を餌にされたくなければソードを消せ

 宗像が千由奈の身体を俺へと向ける。

 ハウンドピンクである千由奈はぐったりと目を閉じたままで、笑う。

桜散れ
 手に現れた枝を振る。
意識が
あったのか
 宗像だけが消える。
私も姑息だ。追跡はまだしない

ヨロッ

む、宗像……。どうせ戻ってこないよな」

ガクガクブルブル

そういう男だものな。……俺は誤った。みんな誤った。誘いに乗らず、黒岩のようにあの方の力でいれば、終わりなど来なかった

 藍色パンツだけのハゲが震えだす。
手がないけどヨイショ
すまぬ、春風の治癒
 ぐちぐちうるさい弱い敵を尻目に、スカシバレッドはハウンドピンクを抱き起こす。春風の治癒を授かり、胸の傷口が塞がる。
……。
ヨロッ

私が生きている限り龍は不死身だ。殺されて追跡されるか、兄のもとに連れていくか決めろ

ヨロヨロ

連れていく
 ハゲが両手をあげて降参する。
ひっ
 真下からの炎に飲みこまれる。
……。
ポイッ
ガルルル……
 ドームを突き破り、巨大すぎる二本足のライオンが現れる。黒焦げになったハゲを引きちぎり投げ捨てる。狂った目をスカシバレッドへと向ける。
桜吹雪!

 ハウンドピンクが全霊をかけて枝を振るのに、なにも起きない。


 地上のサイレンなど暴走した穂村の耳に入らないだろう。

バカバカバカバカ…
 馬鹿すぎる報道のヘリコプターが飛んできた。ライオンが顔を向ける。

 すべての盾となれ。スカシバレッドは飛龍のごとく化す。

敵は俺だろ!
ゴメン
 巨大な異形であるレオフレイムのぶっとい首へとスピネルソードを突き刺す。体ごと突き抜ける。スカシバレッドが穂村の血で染まる。
グアアアアア!
うわあ

 ライオンである穂村の最後のあがきが始まる。その雄叫びにドームが崩壊していく。その咆哮にスカシバレッドは吹っ飛ばされる。


 どんどんと飛ばされる。

 どんどんと。しゃちほこが見えた。
……。

 名古屋城までも飛ばされたではないか。天守閣に激突する。巨大な獅子が空をまたいで跳ねてくる。

 胸の傷がまた開いた。でも俺をターゲットにしてくれるなら、名古屋の被害は最小限――。

ガオオオオ!
 ライオンの口から巨大レーザー!
ヒエ…
 スカシバレッドは天守閣を盾にする。
ヒエエエエ…
 瓦解するそれともども空堀に落ちる。腕からソードが消える。瓦礫が降ってくる。
……。
 ……ゴキブリと猫が戦っているようなものだ。もう立ちあがりたくない。
戦い足りない。龍になれ
 巨大な赤いライオンが俺へと命じる。お前だってぼろぼろだろ……。
バカバカバカバカ…

 自衛隊は賢くて飛んでいないのに、テレビのヘリだけ追ってきた。生で中継されている。日本中のみんなが見ている穂村こそ、いまの世への叛逆者だ。

 なんでこんなことになっちゃったのだろう。

穂村ごめん
 彼女と並んで歩いた夜の京都を思いだす。静かな街並み。ピンク色の狼煙……。ピンク色の狼煙!
穂村ごめん
 高精度ならば避ける必要はない。ひとつの結末を見届けるだけ。
 
 音もなく照射される高位エナジー。巨大なライオンが石垣へともたれる。
ンガ
 

 それでも獅子は闇雲に空へとレーザーを放ち、またモスキャノンを浴びる。堀へと巨体を転がす。その腹部に大きな穴が開く。

ああ……
 その体がしぼんでいく。赤いシスターになる。







穂村……
 彼女へと体を引きずる。瀕死の陸の王がスカシバレッドを見る。
どげんしたと?
 平静さを取り戻した瞳。
うち、また暴走したと?
 その姿がかすんでいくのを、獅子はなおも耐える。
俺たちのせい。穂村ごめんなさい
 スカシバレッドは彼女を抱えようとして腕がないことに気づく。
そげん顔されたら赦すしかなか。……うちも赦されるかな

チュッ

 スカシバレッドの右腕に唇を当てる。
……。
まだ戦うと? ちかっぱ頑張りね
 
 

 左腕にもキスをする。スカシバレッドへと残りのエナジーを注いで、レオフレイムが消滅する。








フワッ
モウダメ…
レッド

 気絶した千由奈を乗せたコノハが飛んできた。隼斗であるちびっ子が俺へと手を伸ばす。

 スカシバレッドの手は復活しているけど。

夢月は? 柚香は?

 その答えを聞くまで握り返せない。


 スパローピンクは(かたく)なに、泣きながら、俺へと手を差し伸べる。

どの姿でも僕には智太さん。だから一緒にグリーンを奪還しよう
 そう言ってくれるならば、こう答えるしかない。
まだだ。順番を変えた。さきに千由奈の兄貴を救う
 スカシバレッドは自力で浮かびあがる。
……。
千由奈。宗像を追跡しよう
 ハウンドピンクは目を開ける。
は、春風の治癒
 なおもスカシバレッドの胸の出血をとめる。
私は犬死したくない。あなたも休むべき
 また目をつぶる。
……。
千由奈ちゃんこそ休ませてあげて。お願いします
 寄りかかったピンクを、もう一人のピンクが支える。俺へと強い目で訴える。
『司令部より。これ以上独断を続けるならば、貴様にもモスキャノンを照射する』
『嫌ならばモスプレイに戻れ』
……。
『智太君! ジジイはずっとスカっちを狙っていたんだよ! 私がずっと脅したから撃たなかったんだよ』
……。
 夢月の元気な声がした。……そんな理由でないはずだ。大都会の真ん中で撃てなかった……でもない。俺を照射しなかったのは、俺が龍にならなかったから……。それだけでもないはず。

『私はモスガールジャーへの帰還を許された

 智太君も許された』

……。
 柚香の声は震えを耐えていた。


 二人の声を聞けただけで、スカシバレッドは安堵する。そんな感情はエナジーに変わらない。でも愛情は力に変わる。穂村を倒した悔恨さえ越える。

『第35普通科連隊に包囲されているのだから早く来い。また本部に私がどやされ……もうあの組織は存在しないか。誰かの仕業でな。はははっ』
……了解。合流します

 終わりを共有してくれるのならば。

 最後の最後の戦いのために、モスへと合流しよう。違った。合流させてください。

 滅茶苦茶だろうが一途な正義を、もう邪魔するものが現れないでくれ。切に願う。

夜闇

 弱った結界に守られながら、スカシバレッドはコノハを追う。


 敵味方で生き延びているのは花鳥風樹。宗像。焼石。三度目の死を待つ百夜目鬼。夢月。それとモスガールジャー。

 それと櫛引博士。

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登場人物紹介

相生智太

=スカシバレッド

スカシバレッド

=相生智太

清見涼

=エリーナブルー

エリーナブルー

=清見涼

睦沢陸

=シルクイエロー

シルクイエロー

=睦沢陸

壬生隼斗

=スパローピンク

スパローピンク

=壬生隼斗

夏目藍菜

=与那国三志郎

与那国三志郎

=夏目藍菜

木畠茜音

=アメシロ

アメシロ

=木畠茜音

陸奥柚香

=白滝深雪

白滝深雪

=陸奥柚香

竹生夢月

=紅月照宵

紅月照宵

=竹生夢月

深川蘭

=紫苑大夫

紫苑大夫

=深川蘭

相生桧

=智太の妹(従妹)

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