第22話 宣戦布告 Ⅰ

文字数 1,071文字

 暗い室内。二人の男が会話をしている。
 一人は背の高い壮年の男性。もう一人は老いて傷つき余命いくばくもない白髪の老人――フレルクだ。
 フレルクは寝台に横になったまま、壮年の男の話を聞いている。話が終わると、したり顔を浮かべた。
「そうか……レギスヴィンダの誘拐は失敗したか。わたしのやり方は時代遅れだと豪語しておきながら、お前の主張した搦め手(・・・)とやらも大したことはなかったようだな。やはりルーム帝国を滅ぼすには、真正面から戦って力でねじ伏せるしかない」
 フレルクにいわれ、壮年の男は不満そうな顔をつくる。しかし、すぐに言い訳めいた反論を行った。
「御心配いりません。標的をレギスヴィンダ一人に絞れば、他にも手段はいくらでもあります。それより、例の女たちが仲間割れを起こしたようです」
「……七人の魔女どもか? わたしをこんな目にあわせておいて、自分たちだけで上手くやれると思ったのか。おそらくは、誰が次の主導権を握るかで揉めたのであろう……存外ファストラーデも甘いところがあるからな……」
「どうやらそのファストラーデを、リントガルトが追放したようです」
「ほう、リントガルトが? わたしに牙をむいた張本人が、まだ暴れたりなかったというのか……だが意外だ。あの二人は実の姉妹のように睦まじかったではないか?」
「女というものは感情の生き物です。たとえ姉妹であっても一度関係がこじれれば、修復は困難。まして魔女ともなればなおさらです」
「ククク……これは面白い。魔女にしてやった恩を忘れた女どもには、わたし自ら裁きをくれてやろうと考えていたが、やつら同士で殺し合うならそれもよい……」
 フレルクは、ほくそ笑むと咳き込んだ。壮年の男が煎じ薬を飲ませる。
 呼吸が落ち着くと、フレルクはさらに男に向かって訴えた。
「……ルオトリープよ、我が息子よ。わたしの命は長くない。あの時、アジトが崩壊するさなか、かろうじてオッティリアの首だけは持ち出すことができた。それを使って、お前が研究を引き継ぐのだ。そして、わたしの代わりにルーム帝国を滅ぼしてくれ。頼んだぞ……」
「お任せ下さい、父上」
 しゃべりつかれたのか、フレルクは瞳を閉じて眠りに就く。リントガルトに受けた傷が悪化していた。
 白髪の研究者の息子であるルオトリープは、父親の寝顔を見ながら呟いた。
「何を今さらルーム帝国などに執着するのか……あなたは長く生きすぎた。ゆっくりお休みください。心配せずとも、わたしがオッティリアを復活させて見せますよ」
 ルオトリープは静かに告げると、父の安眠を妨げぬよう暗い寝室を後にした。
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