第18話 心の距離 Ⅲ

文字数 958文字

 レギスヴィンダがフロドアルトとの協議を終えた後、諸侯連合の解散が正式に発表された。
 諸侯の中には戦い足りぬ者、魔女の力を思い知って厭戦気分に浸る者など様々だったが、死者の軍勢に勝利したという一応の戦果は残した。
 参加したすべての将兵が生きて郷里へ帰還できたわけではないが、彼らの結束はルーム騎士団の精強さを内外に知らしめるものとなった。
「では、わたしもブルーフハーゲンへ引き取らせてもらいます」
 諸侯連合とともに、帝都を去ろうとする者がいた。
 グローテゲルト伯爵夫人である。シェーニンガー宮殿にてレギスヴィンダたちに別れの挨拶を行う。
「え、帰っちゃうの!? これからもっとあたしの活躍を見せてあげようと思ったのに」
 寝耳に水といった様子だったのはフリッツィである。
「いつまでも国許を離れているわけにもいかないのでな」
「寂しくなるわね……」
 仕方のないこととはいえ、ゲーパも別れを惜しんだ。
「グローテゲルト伯爵夫人、あなたには大変お世話になりました。これからも伯爵家の持つ豊かな知見を帝国のため、臣民のために役立てて下さい。心から感謝しています」
「もったいないお言葉。たとえどこにいようとも、わたくしはルーム帝国の忠実な臣として、心は常に殿下のお傍に寄り添っております。今後ともグローテゲルト伯爵家をお見捨てなきよう、切に願います」
 皆に別れを惜しまれるのは、それだけグローテゲルト伯爵夫人が人望を集め、若年者たちの支えとなっているからだ。しかし、帝都に残れないことを誰よりももどかしく感じていたのは、伯爵夫人本人でもある。
 グローテゲルト伯爵夫人は最後に、ここに居ない者への伝言をゲーパに託した。
「ヴァルトハイデにも伝えてくれ、殿下と帝国を頼むと」
「分かったわ」
 黒猫の使い魔も別れを惜しむ。
「フェルディナンダ、気をつけてね」
「フリッツィも、無茶するんじゃないぞ」
「大丈夫よ。だってあたしは――」
「経験者だもんね」
 横から茶化してゲーパがいうと、フリッツィは憤慨した。
「違うわよ! 豊かな人生経験と優れた頭脳で、どんな窮地も乗り切るの!」
 あんまり変わらない否定のし方で、レギスヴィンダとグローテゲルト伯爵夫人の笑いを誘った。
 去りゆく者を見送りながらも自分が孤独ではないことを感じて、レギスヴィンダは満たされた。
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