第17話 最強の剣と楯 Ⅰ
文字数 1,745文字
リッヒモーディスから先に撤退しろといわれたスヴァンブルクだったが、リントガルトを抱えたまま帝都の上空で待機していた。
「放せ、スヴァンブルク! ボクも戦うんだ! あんな奴ら皆殺しにしてやる!!」
シェーニンガー宮殿に戻れと、リントガルトが暴れる。
「やめて、リントガルト。落っこちちゃう……」
「スヴァンブルクの臆病者! そんなにハルツの魔女が怖いのか!」
「違う、リントガルトが心配なの……」
「ボクの心配なんて余計なお世話だ! 放せっていってるだろ!!」
暴れるリントガルトは、あろうことかスヴァンブルクの手首に噛みついた。
「いた……!」
思わずスヴァンブルクが手を放すと、リントガルトはしめたとばかりに地上めがけてダイブした。
優に数百メートルはあろうかと思われる上空からの落下だったが、リントガルトは難なく着地する。
「待って、リントガルト!」
手首をさすりながらスヴァンブルクが後を追いかけたが、市内に駆け出した魔女の姿はすぐに見えなくなった。
自由落下する黒猫を辛うじて受け止めることに成功したヴァルトハイデの下へ、レギスヴィンダたちがやってくる。
「ヴァルトハイデ、侵入者はどうしました?」
「申し訳ありません、逃げられました」
レギスヴィンダ、ゲーパ、グローテゲルト伯爵夫人の三人は、ヴァルトハイデの腕の中で意識を失うフリッツィの姿に、どういう経緯があってそうなったのか想像もできないでいた。
「ですが、まだ城下にいるはずです。すぐに追います」
ヴァルトハイデがレギスヴィンダにフリッツィを渡す。
「……分かりました。では、騎士団にも伝え捜索させましょう。市民にも被害が出ないようにしなくてはなりません」
「そちらは殿下に任せます。それからゲーパ」
「なに?」
「まだ空中に仲間がいるかもしれない。見て来てくれるか?」
「分かったわ」
「凶悪な魔女たちだ。くれぐれも注意を怠るな」
「任せといて」
「では!」
ヴァルトハイデはリッヒモーディスの後を追った。
「ところで、こいつは何をしてたんだ?」
グローテゲルト伯爵夫人が黒猫の頬をつついた。
フリッツィの活躍を知る者はいなかった。
地上へ戻ったリントガルトは、シェーニンガー宮殿を目指して駆けだした。しかし、自分が落ちた場所がどこかも分からず、路地裏に入り込んで道にまよった。
「くそっ! これじゃあまるで迷路じゃないか! 帝国の奴らめ、ボクの邪魔をするために、わざとこんな道を造ったな!!」
気持は焦るが、思うように進めない。行き止まりに阻まれては、何度も同じ場所を行ったり来たりする。いっそ街も道もすべて叩き壊してやろうかと思いかけた時だった。民家の薄明かりが漏れる路地の先に、長い金髪の人影を発見した。
「リッヒモーディス! よかった、無事だったんだね!!」
名前を呼んで駆け寄るが、すぐに別人だと気づく。
「ごめんよ、人違いだ……」
リントガルトは素直に謝ると、走ってきた道をそのまま戻っていく。
呼びかけられた女はキョトンとした顔のまま眼帯の少女を見送る。女は客引きをする娼婦だった。
フレルクの下へ連れてこられる前、リッヒモーディスも同じように夜の街角に立っていた。当時から、ぶっきらぼうだが姐御肌のリッヒモーディスを慕う少女は多く、本人の望む望まざるに係わらず、面倒事に巻き込まれるのが常だった。
リッヒモーディスにとって魔女の国を創ることは、そのような女たちをなくすためであり、同じように行き場のないはぐれ魔女たちを救うことでもあった。
「リッヒモーディス!!」
夜の街に魔女の名を呼ぶ声が響いた。
上空から聞こえた自分の名前に驚き、金髪の魔女が見上げる。
「スヴァンブルク……こんなところで何をしている? 先に帰れといっただろ。リントガルトはどうした?」
「リッヒモーディスのとこに戻るって、飛び降りた」
「なんだって!?」
「リントガルトに噛まれた……」
歯型のついた手首を見せた。
「あのバカ、どうしていつもいうことを聞かないんだ!」
怒り心頭に発するも、それが自分を心配しての行為であるだけに、やりきれなかった。
「仕方がないね、ついてきな!」
リッヒモーディスはリントガルトを連れ戻すため、せっかく逃げてきたシェーニンガー宮殿へ引き返すことになった。
「放せ、スヴァンブルク! ボクも戦うんだ! あんな奴ら皆殺しにしてやる!!」
シェーニンガー宮殿に戻れと、リントガルトが暴れる。
「やめて、リントガルト。落っこちちゃう……」
「スヴァンブルクの臆病者! そんなにハルツの魔女が怖いのか!」
「違う、リントガルトが心配なの……」
「ボクの心配なんて余計なお世話だ! 放せっていってるだろ!!」
暴れるリントガルトは、あろうことかスヴァンブルクの手首に噛みついた。
「いた……!」
思わずスヴァンブルクが手を放すと、リントガルトはしめたとばかりに地上めがけてダイブした。
優に数百メートルはあろうかと思われる上空からの落下だったが、リントガルトは難なく着地する。
「待って、リントガルト!」
手首をさすりながらスヴァンブルクが後を追いかけたが、市内に駆け出した魔女の姿はすぐに見えなくなった。
自由落下する黒猫を辛うじて受け止めることに成功したヴァルトハイデの下へ、レギスヴィンダたちがやってくる。
「ヴァルトハイデ、侵入者はどうしました?」
「申し訳ありません、逃げられました」
レギスヴィンダ、ゲーパ、グローテゲルト伯爵夫人の三人は、ヴァルトハイデの腕の中で意識を失うフリッツィの姿に、どういう経緯があってそうなったのか想像もできないでいた。
「ですが、まだ城下にいるはずです。すぐに追います」
ヴァルトハイデがレギスヴィンダにフリッツィを渡す。
「……分かりました。では、騎士団にも伝え捜索させましょう。市民にも被害が出ないようにしなくてはなりません」
「そちらは殿下に任せます。それからゲーパ」
「なに?」
「まだ空中に仲間がいるかもしれない。見て来てくれるか?」
「分かったわ」
「凶悪な魔女たちだ。くれぐれも注意を怠るな」
「任せといて」
「では!」
ヴァルトハイデはリッヒモーディスの後を追った。
「ところで、こいつは何をしてたんだ?」
グローテゲルト伯爵夫人が黒猫の頬をつついた。
フリッツィの活躍を知る者はいなかった。
地上へ戻ったリントガルトは、シェーニンガー宮殿を目指して駆けだした。しかし、自分が落ちた場所がどこかも分からず、路地裏に入り込んで道にまよった。
「くそっ! これじゃあまるで迷路じゃないか! 帝国の奴らめ、ボクの邪魔をするために、わざとこんな道を造ったな!!」
気持は焦るが、思うように進めない。行き止まりに阻まれては、何度も同じ場所を行ったり来たりする。いっそ街も道もすべて叩き壊してやろうかと思いかけた時だった。民家の薄明かりが漏れる路地の先に、長い金髪の人影を発見した。
「リッヒモーディス! よかった、無事だったんだね!!」
名前を呼んで駆け寄るが、すぐに別人だと気づく。
「ごめんよ、人違いだ……」
リントガルトは素直に謝ると、走ってきた道をそのまま戻っていく。
呼びかけられた女はキョトンとした顔のまま眼帯の少女を見送る。女は客引きをする娼婦だった。
フレルクの下へ連れてこられる前、リッヒモーディスも同じように夜の街角に立っていた。当時から、ぶっきらぼうだが姐御肌のリッヒモーディスを慕う少女は多く、本人の望む望まざるに係わらず、面倒事に巻き込まれるのが常だった。
リッヒモーディスにとって魔女の国を創ることは、そのような女たちをなくすためであり、同じように行き場のないはぐれ魔女たちを救うことでもあった。
「リッヒモーディス!!」
夜の街に魔女の名を呼ぶ声が響いた。
上空から聞こえた自分の名前に驚き、金髪の魔女が見上げる。
「スヴァンブルク……こんなところで何をしている? 先に帰れといっただろ。リントガルトはどうした?」
「リッヒモーディスのとこに戻るって、飛び降りた」
「なんだって!?」
「リントガルトに噛まれた……」
歯型のついた手首を見せた。
「あのバカ、どうしていつもいうことを聞かないんだ!」
怒り心頭に発するも、それが自分を心配しての行為であるだけに、やりきれなかった。
「仕方がないね、ついてきな!」
リッヒモーディスはリントガルトを連れ戻すため、せっかく逃げてきたシェーニンガー宮殿へ引き返すことになった。