第20話 魔女っ娘★レーヴァちゃん Ⅰ

文字数 915文字

 その日、ライヒェンバッハ家の所領であるエスペンラウプへ戦況が伝えられた。
「フロドアルトはまた勝ったのか!」
 息子の活躍に目を細めたのは、フロドアルトの実父ルペルトゥス・ゲルラハである。
 永らく病を患っているルペルトゥスは外出すらもままならず、この日もベッドに横になったまま、リングルフという家令の説明に耳を傾けていた。
「フロドアルト様は先日のゼンゲリングでの勝利に続き、帝都を再襲撃した魔女集団に対して勇敢に立ち向かわれると、これを撃退するとともにシェーニンガー宮殿に居合わせた多くの招待客を避難させることに多大な功績を挙げられたそうです」
「フロドアルトはレギスヴィンダ殿下を補佐し、大ルーム帝国の守護者としての使命を充分に果たしているようだな」
「これも、レムベルト皇太子の血筋のなせる業。英雄の名を受け継ぐにふさわし活躍でございます」
「いずれフロドアルトは皇女殿下と成婚し、帝国の共同統治者となる身。魔女などに屈するわけにはいかぬ。ましてや、野心的な諸侯に付け入られるような隙を見せてはならぬのだ」
「お隠れになられたジークブレヒト陛下やラウレーナ皇后陛下も安堵なされていることでしょう」
「できれば今すぐ帝都へ赴き、フロドアルトと我が兵士を労いたいものだが、この身体ではそれもままならぬ。帝国が存亡の危機にありながら何もできないとは、今ほどこの弱体を恨めしく思ったことはない……」
 ルペルトゥスは自らの不甲斐なさを詰り、リングルフは主の苦悩に胸を痛めた。
 その時である。ルペルトゥスのもどかしさを解消するように、朗らかな一声が響いた。
「お父様、そのお役目わたくしが代わりにお引き受けいたしますわ!」
 ルペルトゥスとリングルフが声の方を振り返る。
 父の寝室を覗きこんで高らかに名乗りを上げたのは、ルペルトゥスの娘でフロドアルトの妹、この年十三歳になる公女ゴードレーヴァだった。
「帝都へ赴き、お兄様の活躍を拝見して、お父様にご報告すればいいんでしょ? それぐらい簡単ですわ! 大船に乗ったつもりで、わたくしにお任せ下さい!」
 なにやら誤解しているようではあったが、本人がどうしてもというのであれば、父は娘を信じて送り出すことにした。
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