第3章 1983年 – 始まりから20年後……3 止まっていた時(2)
文字数 1,288文字
第3章 1983年 プラス20 – 始まりから20年後……3 止まっていた時(2)
つい昨日まで、こんなことを考えるなんて想像さえしていなかった。しかし目の前にいる若々しい智子を思えば、常識的な考えなどで理解できようはずがない。
あの日、四方八方炎に囲まれ、智子は何かにつまずき捻挫してしまった。だから伊藤が彼女を抱き上げて、気づいた時には部屋のような空間にいたらしい。
「最初は暗くて、でも、すぐに電気が点いたみたいに明るくなって……気がつくと、わたしはフワッとした椅子に座っていたんです」
きっとさっきの階段を上がっていけば、そんな椅子のあるところに行き着くのだろう。
「小さな部屋に座るところが一つだけあって、あとはどこもかしこも銀色の壁で……」
そんな空間で智子に背を向け、伊藤はコソコソ何かをしていたらしい。
「でも、すぐにこっちを向いて、一言だけ言ってから、さっさと外に行ってしまったんです」
大丈夫……あっという間だからね――こう告げた後、すぐに伊藤はいなくなってしまった。
「だからわたしも、後を追いかけようとしたんです。でも、その時にはもう、出口がどこにあるのかわからない。部屋の明かりもおかしくなって……だからわたし、ああ、ここで死ぬんだなって、本当にそう思いました。でもその後、キーンって耳鳴りがして、急に気持ち悪くなったんです……」
部屋全体がフワッと浮かんだような感じがして、なんとも居心地の悪さを感じたらしい。
「でも、一、二、三って数えたくらいで、今度は逆に身体がフッと軽くなって、パッと明かりが元に戻ったんです。消えちゃった出口もすぐ左にあったから、だからわたし、急いで外に出ようと思って……」
椅子から慌てて立ち上がる。そして出口から表を眺め、景色の変わりように動けなくなった。
――うそ……火事は? 林は……どこにいっちゃったの?
智子は素直にそう思って、恐る恐る顔を外へと突き出したのだ。
そうしてすぐに、ちょうど剛志も智子の姿に気がついた。
なんにせよ、智子の話をそのまま受ければ、やはり彼女にとって二十年間はないにも等しい。
それでは記憶を消されたか? だったら歳は取ってるはずだ。となれば、やはりあの中にいると本当に、二十年という月日も一瞬となってしまうかだ。
その時、彼女は身体が重くなって、急に気分が悪くなったと言った。それからすぐに、今度は反対に軽く感じて、閉じていた扉が知らぬ間に開く。
それはまるで、昔のエレベーターそのものだろう。
今はそんなのに出会うことも少なくなったが、あの時代のエレベーターとは、そもそも気分のいい乗り物じゃなかった。今とは比べ物にならない唐突さで動き出すから、剛志も小さい頃よく気分の悪さを覚えたものだ。
――やっぱりあれが、智子を乗せて浮き上がったんだ……。
そうとしか思えなかった。それからどこかへ消え去って、二十年経った今日、景色を歪ませながら岩の上に下りてきた。そして智子が表に出ると、緩やかな階段が出来上がっていて、階段左手には剛志の姿があったのだ。
つい昨日まで、こんなことを考えるなんて想像さえしていなかった。しかし目の前にいる若々しい智子を思えば、常識的な考えなどで理解できようはずがない。
あの日、四方八方炎に囲まれ、智子は何かにつまずき捻挫してしまった。だから伊藤が彼女を抱き上げて、気づいた時には部屋のような空間にいたらしい。
「最初は暗くて、でも、すぐに電気が点いたみたいに明るくなって……気がつくと、わたしはフワッとした椅子に座っていたんです」
きっとさっきの階段を上がっていけば、そんな椅子のあるところに行き着くのだろう。
「小さな部屋に座るところが一つだけあって、あとはどこもかしこも銀色の壁で……」
そんな空間で智子に背を向け、伊藤はコソコソ何かをしていたらしい。
「でも、すぐにこっちを向いて、一言だけ言ってから、さっさと外に行ってしまったんです」
大丈夫……あっという間だからね――こう告げた後、すぐに伊藤はいなくなってしまった。
「だからわたしも、後を追いかけようとしたんです。でも、その時にはもう、出口がどこにあるのかわからない。部屋の明かりもおかしくなって……だからわたし、ああ、ここで死ぬんだなって、本当にそう思いました。でもその後、キーンって耳鳴りがして、急に気持ち悪くなったんです……」
部屋全体がフワッと浮かんだような感じがして、なんとも居心地の悪さを感じたらしい。
「でも、一、二、三って数えたくらいで、今度は逆に身体がフッと軽くなって、パッと明かりが元に戻ったんです。消えちゃった出口もすぐ左にあったから、だからわたし、急いで外に出ようと思って……」
椅子から慌てて立ち上がる。そして出口から表を眺め、景色の変わりように動けなくなった。
――うそ……火事は? 林は……どこにいっちゃったの?
智子は素直にそう思って、恐る恐る顔を外へと突き出したのだ。
そうしてすぐに、ちょうど剛志も智子の姿に気がついた。
なんにせよ、智子の話をそのまま受ければ、やはり彼女にとって二十年間はないにも等しい。
それでは記憶を消されたか? だったら歳は取ってるはずだ。となれば、やはりあの中にいると本当に、二十年という月日も一瞬となってしまうかだ。
その時、彼女は身体が重くなって、急に気分が悪くなったと言った。それからすぐに、今度は反対に軽く感じて、閉じていた扉が知らぬ間に開く。
それはまるで、昔のエレベーターそのものだろう。
今はそんなのに出会うことも少なくなったが、あの時代のエレベーターとは、そもそも気分のいい乗り物じゃなかった。今とは比べ物にならない唐突さで動き出すから、剛志も小さい頃よく気分の悪さを覚えたものだ。
――やっぱりあれが、智子を乗せて浮き上がったんだ……。
そうとしか思えなかった。それからどこかへ消え去って、二十年経った今日、景色を歪ませながら岩の上に下りてきた。そして智子が表に出ると、緩やかな階段が出来上がっていて、階段左手には剛志の姿があったのだ。