第6章 1983年 – 始まりから20年後 〜 4 平成三年 智子の行方(4)
文字数 1,382文字
4 平成三年 智子の行方(4)
ちょうどその日も、節子は料理教室の生徒たちと温泉旅行に出かけていた。
たった二泊三日の小旅行。なのに一週間分はあるって感じの惣菜が、二台の冷蔵庫のあっちこっちに残される。
だから食事の心配はぜんぜんなかった。朝っぱらから農作業に精を出し、あとは酒でも飲みながら、映画でも観ていれば三日間なんてあっという間だ。そう考えた通りに、日が暮れかかるとすぐに晩酌の準備を彼は始める。用意された惣菜をアテに、節子がいれば絶対小言を言われる――ウイスキーをロックで飲み始めた。そうして彼は、溜め込んでいた録画番組を一気に見てしまおうと思うのだ。
そうして何気なく再生した映像に、剛志はあっという間に惹きつけられる。
それは番組改編時期にありがちな単発番組で、世界中で起きている不思議な現象をテーマに、学者やら芸能人らで討論し合うという特番だった。
UFOや、心霊写真の真偽についてああだこうだとあってから、司会者が続いて言い放ったひと言に、剛志は思わず手にあるグラスを落としそうになった。
――タイムトラベラーは実在するのか?
番組を観ている人の大半は、こんなのを聞いたからってなんてこたあない。それどころかあまりに突飛すぎて、チャンネルを変えてしまう場合だってあるだろう。
もちろん剛志はそうじゃなかった。タイムトラベラーなんて呼び名は別として、彼自身がまさにその体験者なのだ。タイムマシンは実在するし、それでもまさか、テレビが話題にするなんて想像すらしていない。
そこからは、酒を飲むのも忘れて大型テレビにかじりついた。次々映し出される映像を、剛志は食い入るように見つめ続ける。
それらはすべて日本以外で撮られたもので、今から七十四年も前、1917年の写真に長髪男のTシャツ姿が写っている。それから二十三年後の1940年にも、現代風のサングラスを掛けて、ロゴ入りTシャツの男がしっかり写り込んでいた。
この時代、長髪はもちろん、アメリカにだってロゴ入りTシャツなんてあるはずないのだ。そんな事実以前に、周りに写っている人々と比較すれば、まさにその異質さは一目瞭然。さらに携帯電話を手にする女性や、実際それを耳に当て、話している動画などが紹介されて、剛志の姿勢もますます前のめりになっていった。
実際ここに来て、携帯できる電話が次々発売されている。しかし動画に映るのは女性の手にもすっぽり収まり、この時代のものよりも圧倒的に小さい。
――こりゃあもう、決定的じゃないか……。
未来人は世界中、至るところに出現している。そんな確信が、不思議なくらい彼の胸を熱くした。そうしてずいぶん久しぶりに、桐島智子の顔が不意に脳裏に浮かび上がった。
――今頃おまえは、いったいどこで、何をしてるんだ?
そんなことを考えて、智子の今を思い浮かべた時だった。
ちょうど画面が映り変わって、日本の白黒写真がここで初めて映し出された。
見るからに時代を感じさせるもので、女性が一人、浴衣のような着物姿で写っている。さらにそこは室内ではなく、きっと呑み屋街の裏通りってところだろう。
そんな場所で、女性が地べたに仰向けになっていた。番組司会者の説明によると、それは昭和二十三年の春に撮られたもの。すでに死に絶えてから半日近くが経過していたらしい。
ちょうどその日も、節子は料理教室の生徒たちと温泉旅行に出かけていた。
たった二泊三日の小旅行。なのに一週間分はあるって感じの惣菜が、二台の冷蔵庫のあっちこっちに残される。
だから食事の心配はぜんぜんなかった。朝っぱらから農作業に精を出し、あとは酒でも飲みながら、映画でも観ていれば三日間なんてあっという間だ。そう考えた通りに、日が暮れかかるとすぐに晩酌の準備を彼は始める。用意された惣菜をアテに、節子がいれば絶対小言を言われる――ウイスキーをロックで飲み始めた。そうして彼は、溜め込んでいた録画番組を一気に見てしまおうと思うのだ。
そうして何気なく再生した映像に、剛志はあっという間に惹きつけられる。
それは番組改編時期にありがちな単発番組で、世界中で起きている不思議な現象をテーマに、学者やら芸能人らで討論し合うという特番だった。
UFOや、心霊写真の真偽についてああだこうだとあってから、司会者が続いて言い放ったひと言に、剛志は思わず手にあるグラスを落としそうになった。
――タイムトラベラーは実在するのか?
番組を観ている人の大半は、こんなのを聞いたからってなんてこたあない。それどころかあまりに突飛すぎて、チャンネルを変えてしまう場合だってあるだろう。
もちろん剛志はそうじゃなかった。タイムトラベラーなんて呼び名は別として、彼自身がまさにその体験者なのだ。タイムマシンは実在するし、それでもまさか、テレビが話題にするなんて想像すらしていない。
そこからは、酒を飲むのも忘れて大型テレビにかじりついた。次々映し出される映像を、剛志は食い入るように見つめ続ける。
それらはすべて日本以外で撮られたもので、今から七十四年も前、1917年の写真に長髪男のTシャツ姿が写っている。それから二十三年後の1940年にも、現代風のサングラスを掛けて、ロゴ入りTシャツの男がしっかり写り込んでいた。
この時代、長髪はもちろん、アメリカにだってロゴ入りTシャツなんてあるはずないのだ。そんな事実以前に、周りに写っている人々と比較すれば、まさにその異質さは一目瞭然。さらに携帯電話を手にする女性や、実際それを耳に当て、話している動画などが紹介されて、剛志の姿勢もますます前のめりになっていった。
実際ここに来て、携帯できる電話が次々発売されている。しかし動画に映るのは女性の手にもすっぽり収まり、この時代のものよりも圧倒的に小さい。
――こりゃあもう、決定的じゃないか……。
未来人は世界中、至るところに出現している。そんな確信が、不思議なくらい彼の胸を熱くした。そうしてずいぶん久しぶりに、桐島智子の顔が不意に脳裏に浮かび上がった。
――今頃おまえは、いったいどこで、何をしてるんだ?
そんなことを考えて、智子の今を思い浮かべた時だった。
ちょうど画面が映り変わって、日本の白黒写真がここで初めて映し出された。
見るからに時代を感じさせるもので、女性が一人、浴衣のような着物姿で写っている。さらにそこは室内ではなく、きっと呑み屋街の裏通りってところだろう。
そんな場所で、女性が地べたに仰向けになっていた。番組司会者の説明によると、それは昭和二十三年の春に撮られたもの。すでに死に絶えてから半日近くが経過していたらしい。