第6章  1983年 – 始まりから20年後 〜 3 革の袋(3)

文字数 917文字

                 3 革の袋(3)


 確かあの時、自分はまっすぐ離れに入って、それから一時間は出ていない。だから離れに入った頃を見計らい、剛志は再び門から中へ入っていった。
 もちろん離れの方には向かわずに、屋敷の東側から裏手に回る。そこから離れと岩が両方見える、屋敷の西側まで必死に走った。用意していた折り畳み椅子を広げて、ただただマシンの登場だけを待ったのだ。
 なんと言っても、今日はただ見ていればいい。それでも剛志はこの時、二十年前とは比べものにならないくらいに興奮していた。それから一時間ほどが経過して、彼がコートの襟を立て、ようやく離れから姿を見せる。
ただこの段階で、彼は何かが起きるとはそれほど思っていないのだ。
だからその姿に緊張は感じられず、辺りの様子に目を向けようともしない。
 そうしていきなり、あれが岩の真上に現れる。ゆっくり地上に向かって下り始め、そうなってやっと彼も気がついたようだった。
 そこからも、何もかもが記憶のままだ。空中からスロープが現れ、あっという間に階段へと変化する。その後、智子が階段上から現れた時、もっと近くで顔を見たいと強く思った。
 しかしこれ以上近づけば、剛志の姿は丸見えだ。だから屋敷から二人が出てしまうまで、ただただじっと待ったのだ。
 そうして二人が出て行って、あのマシンだけが残された。すでにそこに階段はなく、ポッカリ浮かんでいたあの入り口も消え去っている。
 そんな光景を見ているうちに、剛志はマシンの中を覗いてみたいと思い始める。
 だがあの時、マシンが反応したのは智子だった。彼女は紛れもなく搭乗者だったし、
 ――この段階で、俺はまったくの部外者、だしな……。
 だからダメでもともとと、剛志はマシンに手を近づけたのだ。
 するとなんとも呆気なく、銀色に光り輝く扉が現れてくれる。
 そこでようやく思い出した。あの三人組が現れるちょっと前、おんなじことを考えて、剛志はその手を近づけたのだ。もしもあの時、マシンが反応していなければ、きっと違った未来になっていたはずで、反応したからこその今なのだ。
そしてあの時と同様マシンはしっかり反応し、目の前にはちゃんと階段が現れている。 
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