第6章  1983年 – 始まりから20年後 〜 3 革の袋(2)

文字数 1,228文字

                 3 革の袋(2)


 あの日、十六歳の智子がマシンと一緒に現れ、それからなんだかんだありながらも自宅マンションに連れ帰る。そしてなぜか次の日に、あの三人組が現れるのだ。
 ――あの三人さえいなければ、智子は元の時代に戻れるはずだ。
 だからなんとしても、あいつらが屋敷内に入り込まないようにする。方法はいくらだってあったし、いざとなれば警察の手を借りたっていいのだ。
 きっとあの日、駅前のハンバーガーショップ辺りで見かけたのだろう。
普段から、住宅街なんかをウロついているはずないし、きっと成城からここまで尾けてきたに違いない。
 ただ、ここで注意しなければならないのは、智子はもちろん、剛志にも気づかれてはいけないということだ。そのせいで何がどう変化するかわからないから、二人の前になんびとたりとも近づけないよう心掛ける。
だから二人が敷地に入ったのを見届けてから、剛志は行動を起こそうと考えた。
 何がどうあれ、腕力では到底かなわない。けれど財力というところでは、奴らをコテンパンに叩きのめすぐらいのことはできるだろうと思うのだ。
 実際いくらなら、素直に言うことを聞いてくれるか? 
十万か二十万か? なんだったら百万出したって構わない。
これまで剛志は、チョコチョコと手にした金をその都度少しずつ貯めていた。
それはもう五百万以上になっていて、すべてはこの日のために準備したものだ。それを百万ずつ別々の封筒に入れ、ジャケット、コートのポケット五ヶ所に忍ばせる。
 そうして智子を戻してしまえば、その後のことには多少のことは目を瞑る。
 ところが運命とは皮肉なもので、そうそう思い通りには進まないものらしい。

「それじゃあ、わたしはこれから出かけますので、ご自分の庭だと思って自由になさってください……」
 不思議なものだが、過去の記憶に頼ることなく、そんな言葉がスラスラ声になっていた。
 予定通り、午前中に一度家を出た剛志だったが、その日は思いの外冷えて、そんなことでやっと離れの寒さを思い出した。
 剛志がこの屋敷に住み始めた頃、すでにあの離れはもうあって、そこだけがセントラルヒーティングと繋がっていなかった。二間の部屋それぞれにオイルヒーターが置かれていたが、とにかく部屋全体が温まるのに時間がかかる。目に触れないようヒーターに目隠しがされていたから、そのせいもあって余計時間がかかるのかもしれない。
 ――確かあそこに入った時には、部屋はすでに暖かかった。
 そんなことを思い出し、剛志は慌てて家に戻った。
そうして暖まるのを待っていたら、約束の時刻が近づいてしまう。
とにかく着ていたジャケット、コートを脱ぎ捨て、代わりに厚手のニットとダウンジャケットを慌てて着込んだ。さらにニット帽を目深に被って、門柱のところで三十六歳の彼が現れるのを待つことにする。
やがて見覚えのあるスーツにコートを羽織って現れ、ニット帽の剛志はそのまま門の外に出て行った。
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