第4章  1963年 - すべての始まり 〜 8 智子の両親(8)

文字数 588文字

                8 智子の両親(8)


 〝佐智を追い出すというのなら、わたしもこの家から出て行きます〟
 そんな勇蔵の宣言に、母親はすべてを受け入れていた。そして彼女の死後しばらくして、勇蔵は実家である屋敷を売り払う。その金で二子玉川と用賀に挟まれた住宅街に土地を買い、そこそこ大きい家を建てるのだ。
 その後智子は、自分が養子と知ることもなく、新しい土地ですくすく元気に育っていった。
 勇蔵も最初は、捨て子だったということから、
 ――変な血が流れている……なんてことはないだろうか?
 内心そんな心配をしたこともあった。しかし日に日に可愛らしさは増していき、小学校に上がる頃には圧倒的な賢さも明らかとなる。
 その後ますます養子という意識は希薄になって、彼の唯一の心配といえば、家にしょっちゅう出入りする〝悪ガキ〟だけになっていた。
「おい、あんな不良と一緒にいると、おまえまでおかしな目で見られるんだぞ」
「剛志くんは不良じゃないわ。それに、本当は頭だっていいのよ。今はちょっと口も悪いし……確かにあれだけど、いずれきっと、勉強だってするようになるんだから」
 そんな言葉を言い返したという智子は、今この時を、いったいどこで過ごしているのか?
 剛志は門を出て振り返り、昔から何度も見上げた屋敷に目を向ける。
そして智子の今を思いながら、やはり児玉亭とは反対方向へ歩き出した。
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