第3章 1983年 – 始まりから20年後……6 タイムマシンと乱入者(2)
文字数 1,158文字
6 タイムマシンと乱入者(2)
幸い、心配を裏切るしっかりした階段で、揺れもしなければ滑りもしない。あっという間に天辺まで上がって、難なく不思議な空間に入ることができる。
すると智子が言っていたように、すぐに空間全体が明るくなった。
しかしどこを見回しても照明らしいものはなく、どうやら壁そのものが優しい光を放っているようだ。見事に殺風景な空間で、唯一その中央に椅子らしきものは確かにある。
ところが見たところ、どうにも座り心地は良さそうじゃない。階段に変化したやつとおんなじ物質なのだろう。碁石を大きくしたようなのが銀色に光って、なんの支えもなくポッカリ空間に浮かんでいる。
――こんなものに、本当に座れるのか?
そんなことを思っていると、不意に背後から声が聞こえた。
「それ、座るときっと、形が変わるんだと思うわ」
外から顔だけを差し入れ、智子が真顔でそう言ってくる。
正直、座るだけでも怖かった。それでもやるしかないと、意を決して浮かんでいるものに尻を載せる。するとその感触を尻に覚えた途端だ。予想を遥かに超える変化が起きる。
サラッと尻を撫でられた気がして、頭から足裏まで何かが一気に纏わりついた。
言ってみれば、飛行機のファーストクラスにあるような座席を、左右からグッと細くしたって感じか……身体にぴったり密着している割に、フワッとしていて圧迫感がまるでない。そんなのが後頭部から足先までを包み込み、なんともいい感じで気持ちいいのだ。
もしもこんな状況じゃなければ、さぞかし快適な気分でいられたろうと思う。
とにかくこれがタイムマシンなら、これこそが時間旅行のための座席で、その前方には操縦桿やら計器類があるはずだ。
ところが目の前には何もなかった。丸みを帯びた銀色の壁がただあって、やはりうっすら光を発しているだけだ。もし、テレパシーとかで動くのであれば、なんであろうとここで完全にお手上げになる。ならば、伊藤にそんな力があったのか?
――いや、他に何かあるはずだ……。
百年先の未来だろうが、人間にテレパシーなんて力が備わるわけがない。
彼はそう確信し、上半身を少し浮かして前方の壁に目を向けた。それからさらに、顔を前の方へ突き出したのだ。するとその動きに合わせるように、いきなり目の前にボードのようなものが現れた。見れば壁の一部がせり出して、手を出せばすぐ届くくらいにまで伸びている。
――これだ……これがそうなんだ。
一目見てそう感じられたのは、まさに思い当たる数字があったからだ。
言ってみれば、小さな勉強机でも飛び出したという感じ。
銀色の壁からせり出した平面に、「00000020」という八桁の数字が浮かび上がって見えるのだ。
幸い、心配を裏切るしっかりした階段で、揺れもしなければ滑りもしない。あっという間に天辺まで上がって、難なく不思議な空間に入ることができる。
すると智子が言っていたように、すぐに空間全体が明るくなった。
しかしどこを見回しても照明らしいものはなく、どうやら壁そのものが優しい光を放っているようだ。見事に殺風景な空間で、唯一その中央に椅子らしきものは確かにある。
ところが見たところ、どうにも座り心地は良さそうじゃない。階段に変化したやつとおんなじ物質なのだろう。碁石を大きくしたようなのが銀色に光って、なんの支えもなくポッカリ空間に浮かんでいる。
――こんなものに、本当に座れるのか?
そんなことを思っていると、不意に背後から声が聞こえた。
「それ、座るときっと、形が変わるんだと思うわ」
外から顔だけを差し入れ、智子が真顔でそう言ってくる。
正直、座るだけでも怖かった。それでもやるしかないと、意を決して浮かんでいるものに尻を載せる。するとその感触を尻に覚えた途端だ。予想を遥かに超える変化が起きる。
サラッと尻を撫でられた気がして、頭から足裏まで何かが一気に纏わりついた。
言ってみれば、飛行機のファーストクラスにあるような座席を、左右からグッと細くしたって感じか……身体にぴったり密着している割に、フワッとしていて圧迫感がまるでない。そんなのが後頭部から足先までを包み込み、なんともいい感じで気持ちいいのだ。
もしもこんな状況じゃなければ、さぞかし快適な気分でいられたろうと思う。
とにかくこれがタイムマシンなら、これこそが時間旅行のための座席で、その前方には操縦桿やら計器類があるはずだ。
ところが目の前には何もなかった。丸みを帯びた銀色の壁がただあって、やはりうっすら光を発しているだけだ。もし、テレパシーとかで動くのであれば、なんであろうとここで完全にお手上げになる。ならば、伊藤にそんな力があったのか?
――いや、他に何かあるはずだ……。
百年先の未来だろうが、人間にテレパシーなんて力が備わるわけがない。
彼はそう確信し、上半身を少し浮かして前方の壁に目を向けた。それからさらに、顔を前の方へ突き出したのだ。するとその動きに合わせるように、いきなり目の前にボードのようなものが現れた。見れば壁の一部がせり出して、手を出せばすぐ届くくらいにまで伸びている。
――これだ……これがそうなんだ。
一目見てそう感じられたのは、まさに思い当たる数字があったからだ。
言ってみれば、小さな勉強机でも飛び出したという感じ。
銀色の壁からせり出した平面に、「00000020」という八桁の数字が浮かび上がって見えるのだ。