第3章  1983年 – 始まりから20年後……6 タイムマシンと乱入者(6)

文字数 963文字

              6 タイムマシンと乱入者(6)


 二十年前、伊藤もこの膨らみを押すか叩くかして、それでも慌てることなく出ていけた。であればそれが剛志でも、外に出るくらいの余裕はきっとあるはずだ。
 着替え終わった智子を座らせ、とにかくあの膨らみを触りまくる。そうすれば何か反応があって、そうなったらすぐに智子を残して退散する。
 そこまで思って、剛志が立ち上がろうとした時だ。
 ――あれ? こんなの……昨日もあったかな?
 足元に何か落ちている。見れば革製であろう巾着袋だ。手を伸ばし、真新しい茶色い袋を拾い上げる。そして中を覗いて、中身を目にした途端だった。
「おーい、どこにいるんだあ~」
 突然、そんな声が聞こえた。もちろん智子のものではまったくない。
 ――智子に、何かあったのか?
 彼は慌てて立ち上がり、マシンから出て階段上から外を眺めた。
「お、こんなところにいやがった。しかしこりゃあいったい、どうなってるんだ?」
 声の主は階段にいて、すでに真ん中辺りに立っていた。剛志との距離も二メートルと離れていない。どちらかが一歩踏み出せば、お互いの拳だって届くくらいの距離なのだ。
 ――どうして? あいつがここにいるんだ!?
 剛志の腹に乗っていた男……昨日四発も殴ってきたヤツが、再び剛志の目の前に現れていた。
 階段下にはあの二人もちゃんといて、昨日のように彼を見上げてニヤニヤ顔を見せている。
 そんな認知とほぼ同時、視界の隅に智子の姿が見えたのだ。
 まずい! と感じた次の瞬間、男が一気に剛志に迫った。足を一歩大きく踏み出し、その勢いのまま両手で剛志を突き飛ばす。不意を突かれて、彼はいとも簡単にマシンの中に吹っ飛んだ。
 一瞬、意識が遠のきかける。
 頭がガンガン割れるように痛かった。
 それでもすぐに、智子を助けなきゃ! そう思ってフラフラしながら立ち上がり、
 ――うそ、だろ……?
 剛志は慌てて振り返るのだ。
 ――やめてくれ……頼む。勘弁してくれよ……。
 誰に言っているのかわからないまま、
 ――どうして……?
 そんな疑問を思うと同時に、
「その後すぐに、キーンって耳鳴りがして、急に気持ちが悪くなったんです……」
 そんな智子の言葉を、頭の片隅で思い出していた。
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