第9章  1963年 – 始まりの年 〜 2 「22年 8月28日 友子」(3)

文字数 782文字

 2 「22年 8月28日 友子」(3)



 途中、自分の若い頃が現れて、智子は思わずドキッとする。正月に撮られたその一枚は、家族と一緒に写る女中だった頃の自分の姿だ。
 そして桐島家に新しい家族が現れるのは、そのすぐ次のページでだった。
 ――若い……へえ、けっこう盛大じゃない……?
 まだまだ戦後の混乱期だというのに、ホテルらしいところでの結婚披露宴の写真。勇蔵の隣には母、佐智がいて、智子も知っている美しい顔がそこにはあった。
 勇蔵個人のアルバムだと思っていたが、どうやらこの一冊も桐島家としてのものらしい。
 だからいずれ、佐智が妊娠し、生まれたばかりの自分の写真が現れ出る。そう思っていたのだが、最後までそんな写真は出てこなかった。
 その代わり……、それは、あまりに突然だ。
 ――どうして……?
 そう思ったまま固まって、
 ――これって、いったいどういうことなの?
 たった一枚の写真だけを、智子はジッと眺め続ける。
 赤ん坊の時代を通り越し、そこに写っていたのは幼子の姿。
 まだまだ小さい女の子を、嬉しそうに両親、祖父母が眺めている。
 きっと女中か誰かに撮ってもらったものだろう。女の子が乗っているのは今で言うところのシーソーで、智子は昔、それを〝ギッタンバッコン〟と……呼んでいた。

「……大きなお家に本当に広い庭があって、わたしが行った時、ちょうどご家族全員が庭に出ててね、わたしの子供が木でできたギッタンバッコンに乗ってた……おじいちゃんおばあちゃん、そして若いご夫婦みんなが嬉しそうに眺めてるの……着せられているお洋服もね、わたしなんかじゃ絶対に買ってあげられないなって思ったわ……このままの方があの子のためになるなって、心の底から思えちゃって、だから、そのまま……逃げるようにその場を離れました……」

 昔、剛志に話した時のことが、一瞬にして智子の脳裏に蘇った。
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