第3章 1983年 – 始まりから20年後……6 タイムマシンと乱入者(5)
文字数 1,830文字
6 タイムマシンと乱入者(5)
剛志は改めてそんな事実を思い出し、己の思いつきをしっかり反省。そうして駅前にあったハンバーガーショップへ智子を連れて向かうのだった。
ところが予想を遥かに超えて、彼女はそんなところを気に入ってくれる。
「自分の時代にこの店ができたら、わたし絶対食べに行きます!」
嬉しそうな顔でそう言って、白身魚フライを挟んだバンズに大口開けてかぶりついた。それからあっという間に昼食を済ませ、さっき見知った事実を智子にしっかり説明する。
あとは腰掛けるだけで、昭和三十八年の三月十日に戻れるはずと、自信たっぷりに告げたのだった。そうして再び岩倉邸へ向かうが、いよいよ屋敷の門をくぐろうとすると、智子が不安そうに剛志に向かって聞いてくるのだ。
「もしもね、あの林に戻った時、まだあそこが燃えていたらどうしよう?」
「いや、それは大丈夫だよ。あの火事はね、不思議なくらいあの後すぐに消えたんだ。雨が降ってたってこともあるだろうけど、燃えていたのは短い間で、夜には完全に消えてたと思うよ」
二日目になっても、まだ燃えている。そう思ってしまうくらいの火事だったのだ。
それなのに、伊藤さえ始末できれば炎なんかに用はない――まさしくそんな印象で、火事は実際、あっという間に鎮火した。
「ただきっと、あの辺には警察官がウヨウヨしているから、その格好はちょっとまずいかもしれないな。念のためここで着替えておいて、着いたらすぐに、どこかに隠してしまった方がいいのかもしれないね」
剛志にそう言われ、智子は改めて自分の格好に目を向けた。
「そうね、こんな高級なお洋服着ていたら、きっとお父様だって驚いちゃうわ」
ペロッと舌を出し、彼女は手にしていた風呂敷包みを胸に抱える。
「じゃあ、着替えてきます」
そう言った後、妙に神妙な感じで頭を下げた。
彼女なりに、この時代を去ることに思うところがあるのだろう。もちろん剛志にしたって同様だ。この二日間の出来事は、一生忘れることなどできやしない。
さらに木陰に向かう智子を見つめるうちに、
――このまま智子を帰してしまって、俺は本当に、それでいいのか?
そんな疑問が浮かび上がって、「行くな!」と何度も叫びそうになった。しかし剛志がどう思おうが、智子の願いは絶対的に他にある。だから無理やり吹っ切って、
――着替えが終わるまで、もう一度、あれをチェックしておくか……。
そう思うまま、マシンのある辺りに手を差し向ける。するといきなり銀色の扉が現れて、あっという間に変化しながら階段となった。
今度は不安なしに上がっていけて、さっさと銀色の空間に入り込む。浮かんでいる椅子に腰を下ろし、ほんの数秒間だけ座り心地を楽しんだ。そうしてから、上半身をゆっくり起こし、せり出してくるボードに目を向けるのだ。
00000020……数字に間違いないし、しっかり白い光を放っている。
――これで後は、こいつに軽く触れればいいのか?
――それとも、力いっぱい押さないとダメなんてことか?
そう思いながら見つめる先に、柔らかい光を放つ小さな盛り上がりがあったのだ。
それは数字の並びから少し離れた右手にあって、掌で包み込めるくらい、ちょうどソフトボール半分くらいの膨らみだ。
見たところ、材質は周りの銀色と同じようで、少しだけより強い光を放っている。
さっき、数字がいきなり白に変わった時のことだ。
――これが、過去に切り替わったってことなのか?
そんなことを知るちょっと前、銀色だったその膨らみが、知らぬ間に色を発していることに気がついた。薄いピンクからクリーム色になって、それが青みがかったかと思えば淡いグリーンに変わっていく。
数字から離れていたせいで、当初その膨らみにまるで気づいていなかった。
そこから発せられる色とりどりの光こそ、紛れもなく出発できるというサインだろう。剛志が立ち上がるまでちゃんと続き、座席が元に戻ってしばらくしてから消え去った。
数字を反転させれば、この膨らみが光り始める。
そう思った通りに、今、それはほんのり光を放ち、あとは光っているうちに出発するという意思を示せばいい。さらに今度ばかりは、数字の時のように確かめるわけには絶対にいかない。
だから一切手を触れておらず、ここからがまさに一か八かの大勝負なのだ。
剛志は改めてそんな事実を思い出し、己の思いつきをしっかり反省。そうして駅前にあったハンバーガーショップへ智子を連れて向かうのだった。
ところが予想を遥かに超えて、彼女はそんなところを気に入ってくれる。
「自分の時代にこの店ができたら、わたし絶対食べに行きます!」
嬉しそうな顔でそう言って、白身魚フライを挟んだバンズに大口開けてかぶりついた。それからあっという間に昼食を済ませ、さっき見知った事実を智子にしっかり説明する。
あとは腰掛けるだけで、昭和三十八年の三月十日に戻れるはずと、自信たっぷりに告げたのだった。そうして再び岩倉邸へ向かうが、いよいよ屋敷の門をくぐろうとすると、智子が不安そうに剛志に向かって聞いてくるのだ。
「もしもね、あの林に戻った時、まだあそこが燃えていたらどうしよう?」
「いや、それは大丈夫だよ。あの火事はね、不思議なくらいあの後すぐに消えたんだ。雨が降ってたってこともあるだろうけど、燃えていたのは短い間で、夜には完全に消えてたと思うよ」
二日目になっても、まだ燃えている。そう思ってしまうくらいの火事だったのだ。
それなのに、伊藤さえ始末できれば炎なんかに用はない――まさしくそんな印象で、火事は実際、あっという間に鎮火した。
「ただきっと、あの辺には警察官がウヨウヨしているから、その格好はちょっとまずいかもしれないな。念のためここで着替えておいて、着いたらすぐに、どこかに隠してしまった方がいいのかもしれないね」
剛志にそう言われ、智子は改めて自分の格好に目を向けた。
「そうね、こんな高級なお洋服着ていたら、きっとお父様だって驚いちゃうわ」
ペロッと舌を出し、彼女は手にしていた風呂敷包みを胸に抱える。
「じゃあ、着替えてきます」
そう言った後、妙に神妙な感じで頭を下げた。
彼女なりに、この時代を去ることに思うところがあるのだろう。もちろん剛志にしたって同様だ。この二日間の出来事は、一生忘れることなどできやしない。
さらに木陰に向かう智子を見つめるうちに、
――このまま智子を帰してしまって、俺は本当に、それでいいのか?
そんな疑問が浮かび上がって、「行くな!」と何度も叫びそうになった。しかし剛志がどう思おうが、智子の願いは絶対的に他にある。だから無理やり吹っ切って、
――着替えが終わるまで、もう一度、あれをチェックしておくか……。
そう思うまま、マシンのある辺りに手を差し向ける。するといきなり銀色の扉が現れて、あっという間に変化しながら階段となった。
今度は不安なしに上がっていけて、さっさと銀色の空間に入り込む。浮かんでいる椅子に腰を下ろし、ほんの数秒間だけ座り心地を楽しんだ。そうしてから、上半身をゆっくり起こし、せり出してくるボードに目を向けるのだ。
00000020……数字に間違いないし、しっかり白い光を放っている。
――これで後は、こいつに軽く触れればいいのか?
――それとも、力いっぱい押さないとダメなんてことか?
そう思いながら見つめる先に、柔らかい光を放つ小さな盛り上がりがあったのだ。
それは数字の並びから少し離れた右手にあって、掌で包み込めるくらい、ちょうどソフトボール半分くらいの膨らみだ。
見たところ、材質は周りの銀色と同じようで、少しだけより強い光を放っている。
さっき、数字がいきなり白に変わった時のことだ。
――これが、過去に切り替わったってことなのか?
そんなことを知るちょっと前、銀色だったその膨らみが、知らぬ間に色を発していることに気がついた。薄いピンクからクリーム色になって、それが青みがかったかと思えば淡いグリーンに変わっていく。
数字から離れていたせいで、当初その膨らみにまるで気づいていなかった。
そこから発せられる色とりどりの光こそ、紛れもなく出発できるというサインだろう。剛志が立ち上がるまでちゃんと続き、座席が元に戻ってしばらくしてから消え去った。
数字を反転させれば、この膨らみが光り始める。
そう思った通りに、今、それはほんのり光を放ち、あとは光っているうちに出発するという意思を示せばいい。さらに今度ばかりは、数字の時のように確かめるわけには絶対にいかない。
だから一切手を触れておらず、ここからがまさに一か八かの大勝負なのだ。