第6章  1983年 – 始まりから20年後 〜 3 革の袋(5)

文字数 897文字

              3 革の袋(5)


 どんなものかはわからないが、きっと何かが邪魔をする。
 もしかしたら明日の朝までに、剛志が死んでしまうってこともあるだろう。
 死ぬまで行かずとも、事故に遭って病院にでも担ぎ込まれれば、あの三人を阻止するものはいなくなってしまうのだ。その結果、金目のものすべてこの時代に残したまま、あいつは一文無しで向こうの時代へ行くことになる。
 ――ではいったい、俺はこれからどうすればいい?
 昭和五十八年発行の一万円札なんか持っていけば、偽札だと思われて大騒ぎになるだろう。
 以前、どこかで聞いたことがあったのだ。
紙幣の寿命は意外と短い。千円札なら一年二年で、高額紙幣でも、五年以上流通し続けるのは珍しいことらしい。
 そんな短い寿命なのに、二十年以上流通している紙幣だけをかき集めなければならない。
 それも四百万近い金額をだ。
 そんなことが、明日までにできるか?
 そのような不安を感じる一方で、剛志はなんとかなるんじゃないかとも思うのだ。
 ――過去の自分ができたんだから、この俺にだってできるだろう。
 革袋が置いてあったということは、五十六歳の剛志が用意できたということになる。素直にそう考えて、思いの外スムーズにいくだろうと剛志は思った。
 ところがだ。事はそう簡単には進んでくれない。
 もっと古い時代の紙幣であれば、古物商とかに問い合わせればいい。
しかし発行年だけが問題で、それ以外は普通に流通している一万円紙幣と変わらない。となれば、あっちこっち探し回るくらいしか手がないだろう。
 ――どうする? どうしたらいい? 明日朝一番、銀行に行って相談してみるか?
 と、そう思った途端だった。
以前、節子から聞いた話を、剛志はいきなり思い出した。
「銀行なんて信用できないんですって。だからぜんぶ現金で、自宅に置いてあるって言うのよ。逆に怖いわよね。ご夫婦だけで、それもけっこうなお年寄りなんだから……」
 農協で知り合った老婆がそう教えてくれたと、節子が驚いた顔で告げたのだった。
 ――あれは、どの辺だったか……?
 さらに近所を散歩していて、急に声にしたことがあったのだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み