終章  2017年 – 始まりから54年後 〜 平成二十九年三月十日(2)

文字数 1,079文字

      終章  2017年 プラス54 – 始まりから54年後 

      

       すべての記憶を取り戻し、新たな事実にも気がついた。
            そんな智子はすべてを受け入れ、
         岩倉節子として生きていこうと決めるのだ。
     さらに母親の死によって、桐島家のアルバムを手にした智子は、
          さらなる驚愕の真実を知ってしまった。
      ――じゃあ、あの時、わたしの背中にいた子供って……?



                平成二十九年三月十日

 
 何度、大きなため息をついたかしれない。
 どう考えようが、信じていいような話ではなかった。
 古いアルバムについての日記を読んで、剛志はありとあらゆる可能性を考えたのだ。
 しかし書かれていることが事実であれば、智子が導き出した結論しかないように思える。勇蔵から聞いた養護施設の話や、実際目にした佐智の状態だって日記としっかり合致する。
 もちろん節子本人からも、赤ん坊を施設に預けたことは聞いていた。そして智子自身も幼い頃は、やっぱり養護施設で育っている。
 ――やはり、智子の生んだ子供ってのは、俺の知ってる智子、なのか……。
 さらにいくら探しても、手拭いが貼ってあるというアルバムだけが見つからない。
 もしかしたらだが、フラフラと多摩川の土手沿いを歩いた時に、そのまま川にでも流してしまったか? きっとかなりのショックで混乱していたろうし、一種のパニック状態に陥ってたって不思議じゃないのだ。
さらにそんなことから十五年くらい経って、彼女は己の異変にも気がついていく。
 ――おかしい……どうして?
 そんなふうに思えていたのは、きっと数ヶ月か、長くても半年くらいの間だろう。
すぐにおかしいってこともわからなくなって、彼女の日記にもそれらしい言葉は出てこなくなった。
 そして剛志は今でも、ボロボロのノートを手に取るだけで熱いものが込み上げるのだ。
 ――どうしてなの?
 ――誰か助けて!
 ――もう、死んでしまいたい。
 こんな心の叫びがところどころに出てきて、彼はそのたびに大学ノートを静かに閉じた。
 そうしていつも思うのだ。
 ――絶対に、絶対におまえを治してやるからな……。
 こんなふうに何十回思ったかしれない。
三冊の日記すべて読み終え、一時は立ち直れないほどに衝撃を受けた。
ただその一方で、ほんの微かな、すぐに消え去ってしまうかもしれない小さな希望も見つけている。それはたった二行ちょっとの文章で、残りの人生ぜんぶ賭けたっていいくらい、そんな大いなる意味を含んでいた。
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