第7章  2013年  – 始まりから50年後 〜 1 平成二十五年(2)

文字数 907文字

               1 平成二十五年(2)


 さらにその実行には元気でいることが絶対で、彼はここ十年近く、それを達成するために生きたと言っても過言ではない。
 基本、身体に悪いと言われているものは遠ざける。
マーガリンやコーヒーフレッシュなどトランス脂肪酸はもちろんのこと、様々な食品添加物、人工甘味料にも常日頃から気を遣った。
 ジャンクフードなどの高カロリー食品や、外食は油が怖いので揚げ物、フライは口にしない。
だから当然、自宅ではココナッツオイルとエクストラバージンオイルオンリーだ。
 日本人に合わないとされる乳製品全般や、最近では白米さえ極力避けて、代わりに玄米を一日茶碗一杯だけ食べている。
 有効だと評判になったサプリメントなど、健康にいいとされるものはどんどん取り入れ、水などにも徹底的にこだわった。さらに電磁波を恐れて蛍光灯を白熱灯に総取っ替えし、当然電子レンジやIH製品も使わない。
 そうしてその一方で、日々身体を徹底的に動かし続ける。
 朝早くから農作業に精を出し、午後からジョギングを一、二時間してから遅い昼食をとるようにする。そうすれば夕食は軽めで済むし、もちろん炭水化物は絶対取らない。週に三回は専属トレーナーを屋敷に呼んで、加圧をはじめ様々なトレーニングで身体を鍛えた。
 そんな生活を続けているせいか、剛志を八十代だと思わない人も多い。髪を撫でつけスーツでも着込めば、七十歳そこそこにだって見られる場合があるくらいだ。
 だからというわけではもちろんないが、節子を見舞う時には必ずスーツと決めていた。よれよれの爺さんでは節子が不憫だし、たとえ今がどうであれ、幸せな夫婦だったと思われたいと強く願った。
 最初は、歳のせいだと決めつけたのだ。七十歳を過ぎれば誰であろうと忘れっぽくなるし、ついうっかりなんてことは当たり前だと考えていた。
 ところがある日、二日連続でおかしなことが起きる。そんなんでやっと、彼もただごとではないと感じ始めた。しかし実際はかなり前から始まっていて、
 ――どうして、もっと早く気づいてやれなかったんだ!?
 そんなふうに思う頃には、彼女の様子は誰の目にもおかしくなった。
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