第3章 1983年 – 始まりから20年後……6 タイムマシンと乱入者(3)
文字数 1,856文字
6 タイムマシンと乱入者(3)
――これが、二十年なんだ!
このまま始動させれば、それだけ未来に行ってしまう。そこは二十年後の世界で、すなわち昭和七十八年ということだ。ただし、そんな未来に行ってしまうなら、この時代に残った方が智子にとっては幸せだろう。
それにもし、ノストラダムスの大予言が当たってしまえば、人類にはあと十六年しか残されていない。そう考えればだ、二十年後の未来なんて、そもそもその存在自体が怪しいものだ。
それではいったいどうすれば、過去のあの日に戻れるのか? そう考えれば考えるほど、不思議に思えてくるのだった。これが思う通りの数字であるなら、
――同じ日、同じ時刻にしか行けないってことなのか?
八桁では、年号などを入力してしまえば、どうやったって時刻までは入れられない。
――となると、異なる単位を使うってことか?
例えば今から二十年と一日なら、二十に365日を掛けて、さらに二十四時間をその数字に掛けるのだ。そうして出た数に、さらに一日分の二十四を足すと、175224という正数がはじき出される。そんなのを入れる可能性もあるが、それなら今、表示されている「20」という数字はどういうことか?
きっとこれは、出発する年の同じ時刻、同じ場所にしかいけないのだ。
ただ、そう決めつけたとして、未来にだけってのはどう考えても不自然だろう。
智子は依然中には入らず、心配そうな顔で階段から様子を見守っている。
そんな彼女は、昨夜確かにこう言ったのだ。
「わたしのすぐ前で伊藤さん、背中を向けて何かをしてました。何をしてたのかは見えなかったけど……そう、ほんの十秒とか、そのくらいだったと思います」
そして伊藤は何かをし終えて、すぐにそこから出て行ってしまった。となればきっと、このボードの数字を前にして、何かしていたに決まっている。
その結果、この空間は二十年未来にまで運ばれた。だから過去に戻るには、切り替えスイッチのようなものがあるはずだ。それとも単に、八桁の数字をマイナスにでもするか?
そんなことを考えながら、彼は恐る恐る左端ある数字に触れてみた。
すると黒い数字が0からスッと1になり、触っただけさらに数が増えていく。
9までいって0となり、そんな変化はその隣でも、またその隣でもまったく同じ。
0から9まで循環して、いくらやってもマイナスにはならない。なんともスムーズに数は変わるが、依然過去への設定はわからないままだ。
それから剛志は、前方の壁を徹底的に触りまくった。
さらに椅子を叩いてみたり、足踏みしたりして、
「過去に戻る! 二十年バック! トエンティ! パースト! パースト!」
思いつく言葉を次から次へと声にした。
ところが何をやっても反応がない。とうとう半ば投げやりになって、
――どうすりゃいいんだよ!
こんな感情いっぱい指を数字に押しつけたのだ。
するとなんとも呆気なく、数字の色が瞬時に変わった。
浮かび上がっていた黒い数が、すべて一気に光り輝く白になる。
タイムマシンが起動した!
そんな恐怖に身動きできず、彼はただただ目の前の数字を心に刻む。
00001960……。
――1960年も先に、地球はあってくれるのか!?
そんな思いとともに目を閉じて、剛志は全身に力を込めた。
「最初、あの八桁の数字は20になっていた。あれは智ちゃんが二十年後、つまりこの時代にやって来た時のままだろうから、最初の黒い数字が未来への年数で、長押しして白字になると、今度は逆に、過去へさかのぼる年数を表すってことなんだと思う。ただ、八桁ってところがね、ちょっと気にはなるんだ。八桁ってことは最低でも一千万年だ。そんな時代にはまだ人間なんていないし、猿とかゴリラみたいなのがウロついているだけだろう。だからもしかすると、移動する年数より前に、日付か時刻を入力するのかなって思ったりもするんだ。それが入力されていなければ、出発の時と同じ時刻になる、とかね。ただまあ今回の場合、その辺は深く考えても仕方がないことだから……」
――これから戻れば、十五時までには出発できるだろう。
――絶対とは言い切れない。それでもここまでわかれば、やってみる価値は十分ある。
――20とだけ入れてから、長押しで数字を白くするんだ。
――そうしておけば、きっと智子は、昭和三十八年の三月十日に戻れるはずだ。
――これが、二十年なんだ!
このまま始動させれば、それだけ未来に行ってしまう。そこは二十年後の世界で、すなわち昭和七十八年ということだ。ただし、そんな未来に行ってしまうなら、この時代に残った方が智子にとっては幸せだろう。
それにもし、ノストラダムスの大予言が当たってしまえば、人類にはあと十六年しか残されていない。そう考えればだ、二十年後の未来なんて、そもそもその存在自体が怪しいものだ。
それではいったいどうすれば、過去のあの日に戻れるのか? そう考えれば考えるほど、不思議に思えてくるのだった。これが思う通りの数字であるなら、
――同じ日、同じ時刻にしか行けないってことなのか?
八桁では、年号などを入力してしまえば、どうやったって時刻までは入れられない。
――となると、異なる単位を使うってことか?
例えば今から二十年と一日なら、二十に365日を掛けて、さらに二十四時間をその数字に掛けるのだ。そうして出た数に、さらに一日分の二十四を足すと、175224という正数がはじき出される。そんなのを入れる可能性もあるが、それなら今、表示されている「20」という数字はどういうことか?
きっとこれは、出発する年の同じ時刻、同じ場所にしかいけないのだ。
ただ、そう決めつけたとして、未来にだけってのはどう考えても不自然だろう。
智子は依然中には入らず、心配そうな顔で階段から様子を見守っている。
そんな彼女は、昨夜確かにこう言ったのだ。
「わたしのすぐ前で伊藤さん、背中を向けて何かをしてました。何をしてたのかは見えなかったけど……そう、ほんの十秒とか、そのくらいだったと思います」
そして伊藤は何かをし終えて、すぐにそこから出て行ってしまった。となればきっと、このボードの数字を前にして、何かしていたに決まっている。
その結果、この空間は二十年未来にまで運ばれた。だから過去に戻るには、切り替えスイッチのようなものがあるはずだ。それとも単に、八桁の数字をマイナスにでもするか?
そんなことを考えながら、彼は恐る恐る左端ある数字に触れてみた。
すると黒い数字が0からスッと1になり、触っただけさらに数が増えていく。
9までいって0となり、そんな変化はその隣でも、またその隣でもまったく同じ。
0から9まで循環して、いくらやってもマイナスにはならない。なんともスムーズに数は変わるが、依然過去への設定はわからないままだ。
それから剛志は、前方の壁を徹底的に触りまくった。
さらに椅子を叩いてみたり、足踏みしたりして、
「過去に戻る! 二十年バック! トエンティ! パースト! パースト!」
思いつく言葉を次から次へと声にした。
ところが何をやっても反応がない。とうとう半ば投げやりになって、
――どうすりゃいいんだよ!
こんな感情いっぱい指を数字に押しつけたのだ。
するとなんとも呆気なく、数字の色が瞬時に変わった。
浮かび上がっていた黒い数が、すべて一気に光り輝く白になる。
タイムマシンが起動した!
そんな恐怖に身動きできず、彼はただただ目の前の数字を心に刻む。
00001960……。
――1960年も先に、地球はあってくれるのか!?
そんな思いとともに目を閉じて、剛志は全身に力を込めた。
「最初、あの八桁の数字は20になっていた。あれは智ちゃんが二十年後、つまりこの時代にやって来た時のままだろうから、最初の黒い数字が未来への年数で、長押しして白字になると、今度は逆に、過去へさかのぼる年数を表すってことなんだと思う。ただ、八桁ってところがね、ちょっと気にはなるんだ。八桁ってことは最低でも一千万年だ。そんな時代にはまだ人間なんていないし、猿とかゴリラみたいなのがウロついているだけだろう。だからもしかすると、移動する年数より前に、日付か時刻を入力するのかなって思ったりもするんだ。それが入力されていなければ、出発の時と同じ時刻になる、とかね。ただまあ今回の場合、その辺は深く考えても仕方がないことだから……」
――これから戻れば、十五時までには出発できるだろう。
――絶対とは言い切れない。それでもここまでわかれば、やってみる価値は十分ある。
――20とだけ入れてから、長押しで数字を白くするんだ。
――そうしておけば、きっと智子は、昭和三十八年の三月十日に戻れるはずだ。