第7章 2013年 – 始まりから50年後 2 すべては、書庫と日記から(4)
文字数 1,394文字
2 すべては、書庫と日記から……(4)
中は何から何までおんなじもので、それらはまさに、市販されている日記帳……だ。
慌てて同じ大きさの本をぜんぶ抜き取る。それからすべてのカバーを次から次へと外していった。すると現れるのはどれも一緒で、それらはぜんぶで二十六冊にも及んだ。
一冊が365ページ。一年で一冊だから、二十六年分の日記帳だということになる。
――わざわざ一冊ずつ、それぞれ違うカバーを……?
どう見たって本物の表紙で、プロの印刷屋にわざわざ依頼したに違いない。
――だからあいつは、自分が死んだらここを読めと……?
節子は同時に、自分に何か起きない限り、剛志は決して読んだりしないと知っていた。
そんな彼でもだ。もしも節子が死ねば彼女の言葉を思い出し、ふと、目を通そうと思うかもしれない。
彼は最初手にした日記を再び手に取り、慌てて扉を開き目を向けた。
そこには手書きで「2001年」と書かれてあって、となれば八年前に書かれた日記ということだ。その頃節子は何を思い、日々をどう感じていたのか?
剛志はドキドキしながら読み始めるが、どのページにも大したことが書かれていない。
だいたいが一日、数行程度しか記述がないのだ。寒いからヒーターを点けたとか、今夜は疲れたからもう寝たいなど、どうでもいいことばかりが綴られている。それでも飛ばさず読み進めると、なんの前触れもないまま途中でピタッと白紙になった。
四月の二十三日が最後で、それ以降は一文字だって書かれてない。
それも最後のページには、何を言いたいのかわからない文章がたった一行あるだけだ。
拍子抜け。まさにそんな感じで、最後のページを意味ないままに見つめ続ける。
すると不意に、目にしている文字に違和感を覚えた。
――あいつ、こんな字だったかな?
記憶にある節子の文字は、もっとしっかりして美しかったはずだ。
ところが目の前の文字はぜんぜん違う。筆圧の感じられない弱々しい線で、ミミズが這ったような文字ばかりが並んでいる。
どうして? そんな疑問を思いつつ、剛志は2001年の日記帳を床に置き、その隣に並んでいたもう一冊を手に取った。
開いてみれば、しっかりした字で「2000年」と書かれている。
――またどうせ、似たような感じなんだろうな?
さっきまであった高揚感は消え去って、一冊目とは段違いの気軽さで最初のページに目をやった。ところがページの一番上に目を向けた時、剛志の心はそこで一気に凍りついてしまう。
『このままわたしは、どんどんおかしくなっていくの?』
そんなのが目に飛び込んで、剛志は思わず手にある日記を閉じたのだ。
2000年、平成十二年の正月といえば、節子がおかしいと気がつく二年以上も前のことだ。
――そんな頃からあいつは、自分の状態に気づいていたのか!?
そんな可能性をうかがい知って、いっときのお気楽さが跡形もなく消え失せる。
正直、読むのが怖かった。それでも節子はまだ生きていて、日記から彼女の願いが知れるかもしれない。そうなれば、まだ何かしてあげられる可能性だってある。
――それに、さっきのことだって、何か書かれているかもしれないし……。
だから嫌でも読まなきゃならない。そう決めて、彼はその場に腰を下ろした。それから深呼吸を一回だけして、2000年の日記に目を通していったのだ。
中は何から何までおんなじもので、それらはまさに、市販されている日記帳……だ。
慌てて同じ大きさの本をぜんぶ抜き取る。それからすべてのカバーを次から次へと外していった。すると現れるのはどれも一緒で、それらはぜんぶで二十六冊にも及んだ。
一冊が365ページ。一年で一冊だから、二十六年分の日記帳だということになる。
――わざわざ一冊ずつ、それぞれ違うカバーを……?
どう見たって本物の表紙で、プロの印刷屋にわざわざ依頼したに違いない。
――だからあいつは、自分が死んだらここを読めと……?
節子は同時に、自分に何か起きない限り、剛志は決して読んだりしないと知っていた。
そんな彼でもだ。もしも節子が死ねば彼女の言葉を思い出し、ふと、目を通そうと思うかもしれない。
彼は最初手にした日記を再び手に取り、慌てて扉を開き目を向けた。
そこには手書きで「2001年」と書かれてあって、となれば八年前に書かれた日記ということだ。その頃節子は何を思い、日々をどう感じていたのか?
剛志はドキドキしながら読み始めるが、どのページにも大したことが書かれていない。
だいたいが一日、数行程度しか記述がないのだ。寒いからヒーターを点けたとか、今夜は疲れたからもう寝たいなど、どうでもいいことばかりが綴られている。それでも飛ばさず読み進めると、なんの前触れもないまま途中でピタッと白紙になった。
四月の二十三日が最後で、それ以降は一文字だって書かれてない。
それも最後のページには、何を言いたいのかわからない文章がたった一行あるだけだ。
拍子抜け。まさにそんな感じで、最後のページを意味ないままに見つめ続ける。
すると不意に、目にしている文字に違和感を覚えた。
――あいつ、こんな字だったかな?
記憶にある節子の文字は、もっとしっかりして美しかったはずだ。
ところが目の前の文字はぜんぜん違う。筆圧の感じられない弱々しい線で、ミミズが這ったような文字ばかりが並んでいる。
どうして? そんな疑問を思いつつ、剛志は2001年の日記帳を床に置き、その隣に並んでいたもう一冊を手に取った。
開いてみれば、しっかりした字で「2000年」と書かれている。
――またどうせ、似たような感じなんだろうな?
さっきまであった高揚感は消え去って、一冊目とは段違いの気軽さで最初のページに目をやった。ところがページの一番上に目を向けた時、剛志の心はそこで一気に凍りついてしまう。
『このままわたしは、どんどんおかしくなっていくの?』
そんなのが目に飛び込んで、剛志は思わず手にある日記を閉じたのだ。
2000年、平成十二年の正月といえば、節子がおかしいと気がつく二年以上も前のことだ。
――そんな頃からあいつは、自分の状態に気づいていたのか!?
そんな可能性をうかがい知って、いっときのお気楽さが跡形もなく消え失せる。
正直、読むのが怖かった。それでも節子はまだ生きていて、日記から彼女の願いが知れるかもしれない。そうなれば、まだ何かしてあげられる可能性だってある。
――それに、さっきのことだって、何か書かれているかもしれないし……。
だから嫌でも読まなきゃならない。そう決めて、彼はその場に腰を下ろした。それから深呼吸を一回だけして、2000年の日記に目を通していったのだ。