第4章 1963年 - すべての始まり 〜 6 剛志の勝負(4)
文字数 1,128文字
6 剛志の勝負(4)
それからいつものメンバーが一人二人とやって来て、ほどなく全員が顔を揃える。
さらに何事もなく三十分くらいが経った頃、
――今日じゃ、なかったか……?
そう思い始めたそんな時だ。
「おお! ムラさんじゃないか! 何そんなところに突っ立ってんだよ、早く入れって、そんなところに立たれてちゃ、またこの店、閑古鳥が鳴いちまうぜ!」
そんなアブさんの声が響いて、剛志は慌てて顔を上げた。するとムラさんが店に入ってくるところで、伏し目がちに店の奥へ視線を向けて、さもバツが悪そうに呟いたのだ。
「正一さん……久しぶり……」
そこからは、剛志の記憶にあるままで、すぐに厨房から高校生の剛志が現れる。
「何が久しぶりだよ! 今頃ノコノコとよく来れたもんだぜ!」
「よさねえか剛志!」
後ろから響いた正一の声にも、彼の勢いは止まらなかった。
「金はちゃんと持ってきたのかよ? まさか殺人容疑者のいる店から、またタカロウって魂胆じゃねえだろうなあ?」
「よせって言ってるだろ!」
ここでやっと確信に至った。
間違いない。もうすぐこの場で、ずっと後悔し続ける事件が起きる。
――この後すぐに親父の手が出て、俺は思わず、「何しやがんだよ!」って叫ぶんだ。
それからたった数秒後、記憶通りのシーンに思わず身体が勝手に動いた。
顔にガツンと衝撃があって、気づけばテーブル席に突っ込んでいる。
「こら! 剛志! なんてことしやがるんだ!」
そんな声で一気に、失いかけた意識が我に返った。途端に店の客たちが集まってきて、剛志は何人かに抱き起こされる。そしてその時客たちは、「ミヨさん」「ミヨさん」と口を揃えて、大丈夫かと呼びかけた。
あれは、剛志がこの時代にやって来て、まだ三日目くらいのことだった。
「考えてみりゃさ、剛志の事件騒ぎなんかもあったから、旦那の名前、ちゃんと聞いてなかったんだよな」
なんて呼んだらいいのかと、正一が覗き込むようにしてそう聞いたのだ。
だから剛志も一旦は、素直に名井と言いかける。ところがまさにその瞬間、なぜだか不意に言ってはダメだという気になって、剛志は急に口ごもり、それでも言葉を続けてしまった。
「みょ……、ミヨ、とでも、呼んでください」と誤魔化して、かなりぎこちない笑顔を見せたのだった。
「へえ、ミヨさんか。なんだか変わった名前だね、ミヨさん、ミヨさんね、よし! これから旦那はミヨさんだ!」
そうして正一はその日から、彼のことをミヨさんミヨさんと呼ぶようになった。
そのうちに、年の頃が同じくらいのフナが彼と話すようになる。そうなるとあっという間に、例のメンバーからもミヨさんミヨさんと呼ばれるようになっていた。
それからいつものメンバーが一人二人とやって来て、ほどなく全員が顔を揃える。
さらに何事もなく三十分くらいが経った頃、
――今日じゃ、なかったか……?
そう思い始めたそんな時だ。
「おお! ムラさんじゃないか! 何そんなところに突っ立ってんだよ、早く入れって、そんなところに立たれてちゃ、またこの店、閑古鳥が鳴いちまうぜ!」
そんなアブさんの声が響いて、剛志は慌てて顔を上げた。するとムラさんが店に入ってくるところで、伏し目がちに店の奥へ視線を向けて、さもバツが悪そうに呟いたのだ。
「正一さん……久しぶり……」
そこからは、剛志の記憶にあるままで、すぐに厨房から高校生の剛志が現れる。
「何が久しぶりだよ! 今頃ノコノコとよく来れたもんだぜ!」
「よさねえか剛志!」
後ろから響いた正一の声にも、彼の勢いは止まらなかった。
「金はちゃんと持ってきたのかよ? まさか殺人容疑者のいる店から、またタカロウって魂胆じゃねえだろうなあ?」
「よせって言ってるだろ!」
ここでやっと確信に至った。
間違いない。もうすぐこの場で、ずっと後悔し続ける事件が起きる。
――この後すぐに親父の手が出て、俺は思わず、「何しやがんだよ!」って叫ぶんだ。
それからたった数秒後、記憶通りのシーンに思わず身体が勝手に動いた。
顔にガツンと衝撃があって、気づけばテーブル席に突っ込んでいる。
「こら! 剛志! なんてことしやがるんだ!」
そんな声で一気に、失いかけた意識が我に返った。途端に店の客たちが集まってきて、剛志は何人かに抱き起こされる。そしてその時客たちは、「ミヨさん」「ミヨさん」と口を揃えて、大丈夫かと呼びかけた。
あれは、剛志がこの時代にやって来て、まだ三日目くらいのことだった。
「考えてみりゃさ、剛志の事件騒ぎなんかもあったから、旦那の名前、ちゃんと聞いてなかったんだよな」
なんて呼んだらいいのかと、正一が覗き込むようにしてそう聞いたのだ。
だから剛志も一旦は、素直に名井と言いかける。ところがまさにその瞬間、なぜだか不意に言ってはダメだという気になって、剛志は急に口ごもり、それでも言葉を続けてしまった。
「みょ……、ミヨ、とでも、呼んでください」と誤魔化して、かなりぎこちない笑顔を見せたのだった。
「へえ、ミヨさんか。なんだか変わった名前だね、ミヨさん、ミヨさんね、よし! これから旦那はミヨさんだ!」
そうして正一はその日から、彼のことをミヨさんミヨさんと呼ぶようになった。
そのうちに、年の頃が同じくらいのフナが彼と話すようになる。そうなるとあっという間に、例のメンバーからもミヨさんミヨさんと呼ばれるようになっていた。