星空に手を伸ばして

文字数 12,867文字

 ――創都三四五年 五月
 ――ラピス MDPスーチェン支部

 窓の向こうの街路樹に、緑色の若葉が芽吹き始めた初夏。休憩室のテーブルで一心不乱に書類と向き合っていたリヤンは、一区切り付いたところで大きく後ろに身体を反らした。

「あ……」

 逆さまになった視界に、壁掛けの時計が映りこむ。その短針はとっくに頂上を過ぎて、一と二の間あたりを指していた。

「お昼、過ぎてる」

 毎日正午、MDP主導で炊き出しをしているのに、貰いに行くのを忘れてしまった。食べ損ねたことを理解した瞬間、胃がぎゅっと竦んで空腹を訴える。不注意な自分が悔しくて、リヤンはむぅと唇を横に引いた。今日が調理当番の日ではなかったから、まだ良かったが。

 せめて何か飲もう――と立ち上がり、向かいの部屋で湯を沸かしていると、親しみ深い声が聞こえてくるのに気がついた。リヤンは私用のマグカップをテーブルに置いて、通路に顔を出す。

「フルル、おかえり」

 ぶんぶんと腕を振って呼びかけると、玄関先で構成員と何か話していたらしいフルルがこちらに振り向く。返事の代わりだろう、こちらに片手を持ち上げてみせた彼女は、倉庫に荷物を置いてから部屋に入ってきた。

 湯気を吐くポットを見て、お、と彼女が片方の眉を上げる。

「休憩中?」
「うん。あ、フルルも紅茶飲む? あの――なんだっけ、黒い缶のやつ」
「ディンブラね。じゃあ遠慮なく」

 数分後、リヤンが差し出したマグカップを、ありがとうと言ってフルルが受け取る。だが、その半分も飲まないうちに、彼女は長い息を吐いてテーブルに突っ伏した。

「お茶飲んだら、暑くなった」
「えぇ? 知らないよぉ」
「窓、開けていい?」

 そう言うやいなやフルルは立ち上がって、休憩室の窓を開ける。窓から扉へ風が吹き抜けて、かすかに草のような青い匂いがした。少し前まで冬だった気がするのに、いつの間にか、すっかり暖かい季節になった。

「今日はさぁ――」

 窓際で外を眺めているフルルに、リヤンは問いかける。

「朝から、どこに行ってたの?」
「サン・パウロに」

 あっち、と言って、フルルが南の方角を指さした。どうしてサン・パウロに行ったのか――というリヤンの疑問が表情に滲んでいたのだろう、彼女は「なんでかっていうと」と言いながら振り向いて、窓枠に背中を預けた。

「まだ決定じゃないんだけどね、統合議会の本部がサン・パウロに設置されそうなんだよ」
「え! そうなんだ」

 驚いて、思わずリヤンは腰を浮かした。

 統合議会というのは、七語圏を横断した意思決定の場である。

 MDP(メトル・デ・ポルティ)は、七語圏が融合して間もない混乱期にラ・ロシェル語圏の代表であったため、そのまま統合議会にも参加することになっている。しかし、他の六語圏では代表者の選出が難航しており、統合議会の設立はあと一歩というところで滞っていた――はずだった。

「そっかぁ……」

 マグカップに口を付けて、リヤンは頷く。

「場所が決まったってことは、ついに統合議会が始動するんだね?」
「そう。まあ……どうせ都市移転計画が進んだら、場所はそっちに動くんだけどさぁ。なんか、ようやく第一歩……って感じだよね」
「そうだねぇ……」

 はぁ、と息を吐く。

 一応はリヤンもMDPを介して計画に携わっているはずだが、末端にいるために当事者という実感はないままだ。目まぐるしい社会変革を、今ひとつ現実のこととして受け入れられないまま、リヤンはぼんやりと空を眺めた。

 そのときだった。

 通路の向こうから足音が近づいてきたかと思うと、それは休憩室の前で立ち止まり、跳ねた黒髪をひとつに括った少年が顔を出した。彼はリヤンを見て、ほんの少しだけ上まぶたを跳ねさせる。

「あ――」

 それから、浅い角度で頭を下げる。

「お疲れさまです」
「あ、レゾン君、お疲れさま」

 扉の向こうに現れた彼に、リヤンは片手をあげてみせる。一時期、彼とはどうにも気まずかったけれど、いつの間にか気負わずに接することができるようになった。時間が解決してくれたのだ、と思う。

「お茶入れたけど、飲む?」

 まだ中身の残っているティーポットを指さして尋ねるが、いえ、と彼は小さく首を振った。

「嬉しいんですけど……俺、フルルさんを呼びに来たんです」
「え、私?」

 陽だまりのなかで目を細めていたフルルが、驚いたように声を上げる。はい、と頷いて、レゾンが天井を指さした。

「俺たちがアルシュさんに呼ばれてて」
「なんかあったっけ」
「俺も、心当たりないんですけど。そういうわけで……リヤンさん、邪魔してすみません」
「あ――ううん、全然」

 申し訳なさそうに眉を下げながら、レゾンが部屋を出て行き、フルルが早足で彼に続く。リヤンはぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、二人の背中を見送る。まだ中身の残っているマグカップが、所在なげにテーブルの上に佇んでいた。

「……戻るかぁ」

 リヤンはそう呟いて、背中をぐっと上に戻しながら立ち上がる。朝に頼まれた書類整理は、まだ半分くらいしか終わっていない。そろそろ作業に戻ろう――と思いながら、使ったティーポットを洗っていた、そのときだった。

「ごめんね、部屋まで来てもらって」

 緑風に乗って、そんな声が聞こえてきた。

 上の部屋で仕事をしているアルシュが、フルルたちに向かって話しているのだ――と察する。あまり聞き耳は立てないようにしながら洗い物を済ませ、濡れた手を拭いて部屋を出ようとしたのだが、そこで聞き流せない言葉が聞こえてきた。

「……だからね」

 アルシュの声。

「二人にも、サン・パウロに移動してもらえないかなって思って――どう、思う?」
 
 ***

 その夜、八時過ぎ。

 食堂の大部屋で夕食を食べてから、リヤンたちは少し離れた寄宿棟まで帰る。初夏の心地よい夜風の中で、友人たちと歩く数分間は、リヤンにとって毎日の密かな楽しみだった。だが今夜に限っては、昼間にうっかり立ち聞きしてしまった会話が尾を引いて、爽やかなはずの風がやけに生ぬるくべたついて感じられる。

「あのさ、二人とも」

 ぽつぽつと雑談を交わしながら歩いていたフルルとレゾンに、リヤンは思い切って切り出してみた。

「昼間のさ……アルシュさんのお話って、なんだったの?」
「あ――えっと」

 話の内容は知らない体を装って、問いかけてみる。すると二人は一瞬気まずそうに顔を見合わせて、それからほぼ同時に首を振った。

「ごめん、あんまり口外しないように――って言われてて」
「あぁ……そうなんだ?」

 表向き、何でもないことのように微笑んでおきながらも、内心では「そうだろうな」とリヤンは頷く。

 アルシュが二人に話していた、サン・パウロへ移動しないか――という提案。あれはおそらく、統合議会の運営に携わって欲しい、という意味なのだろう。かつてラピスの統治機構だった統一機関の出身で、MDPでも実務経験を積んでいた二人にそういう誘いが持ち上がるのは、ごく自然なことだ――と思えた。

 自分の部屋に帰ってから、リヤンは寝台に転がって考える。

 二人はどうするのだろう。

 多分、提案に乗らない理由は少ない。もとから、統治する側として教育されてきた二人だ。新ラピス統合議会はその能力を存分に活かせる場だし、彼らだってそれを拒否するような性格ではないだろう。

 ――だけど。

 ブランケットをぎゅっと握りしめて、リヤンは顔を埋めた。状況は分かっているつもりだ。多少は安定してきたとはいえ、ラピスの先行きは依然として不透明だし、優秀な人材があるべき場所に配置されるのは当然のことだ。

「うぅ~……」

 呻きながら、リヤンは暗い天井を見上げる。

 見開いた目の端から、じわっと涙がにじんだ。

 友達に置いて行かれたくない――だなんて、きわめて個人的で身勝手な感情は、五十万のラピス市民(ラピシア)の安全と未来を背負った統合議会では、議論の俎上に乗せることすら許されないだろう。

 分かってはいるけれど。

 だからといって笑顔で手を触れるほど、自分はまだ大人ではない――と思った。

 ***

「あ、レゾン君」

 翌朝、顔を洗おうと洗面台に向かうと、片手にハンドタオルを掛けたレゾンが階段から降りてきた。眠たそうに目をこすっていた彼は、リヤンに気がついて小さく頭を下げる。

「おはようございます」
「うん、おはよう」

 目元が少し腫れていることに、気がつかれませんように――と祈りながら、リヤンは頬を持ち上げた。幸か不幸かレゾンは何も言わず、二人はお互いの身長ほどの距離を挟んで歩き、会話らしい会話もないまま洗面台まで辿りついた。

 水色の空が、窓の向こうに広がる。

 その日も良く晴れていた。

「今日、暑くなりそうですね」

 タオルで顔を拭って、レゾンが呟く。

 そうだね、とリヤンも相槌を打つ。髪の生え際に冷水が浸みるが、むしろその冷たさが心地よいと思える気温だった。昼頃、太陽が天頂から街を照らせば、もっと気温は上がるだろう。

 もうすぐ、夏が来る。

 そうしたら――レゾンたちは、遠くの街に行ってしまうのだろうか。昨日の夜、暗い天井を見つめながら考えたことが、また胸の中で暗い靄みたいに渦巻いた。ずっしりと重くなった心を払拭すべく、リヤンは頬を両側から手のひらで叩く。

 考えるのは止めよう、と思った。

 リヤンが気をもんだところで仕方がない。最終的にサン・パウロに行くかどうかを判断するのは、レゾンやフルルの役割なのだから。考えるな――と自分に言い聞かせながら、リヤンは寝癖で跳ねた髪をとかす。すると、横で髪を結んでいるレゾンの指先から、うなじ近くの一房がこぼれ落ちるのが見えた。

「レゾン君、ここ」

 リヤンは手を止めて、自分のうなじを指さしながら言った。

「ここの髪の毛――まとめられてないよ」
「え……あれ、本当ですか」

 すみません――と何か悪いことをしたわけでもないのに謝って、レゾンが自分の首の後ろを探る。だが、その指先がまったく見当違いの場所を探している。見ている方がもどかしくなり「そこじゃなくて」とリヤンは彼の両肩に後ろから手を掛けた。癖のある黒髪を拾い上げて、彼の指に握らせる。

「ほら、これ――あ」

 そこで指と指がぶつかって、レゾンの指先に引っかかっていた髪ゴムが落ちてしまった。リヤンは「ごめん」と謝りながら、彼の肩に乗っかったゴムを拾い上げる。

「あたしがやってあげる」
「え、あの、いいですって――」
「でも、自分でやるより早いよ?」

 言いながらリヤンは、くるくると巻いている髪の毛を集めて、ゴムで束ねてしまう。リヤンがまだバレンシアにいた頃、当時は長かった髪の毛をさまざまに結って楽しんでいたので、この手の作業には慣れていた。

「はい――できた」

 そう言いながらレゾンの顔を見上げて、リヤンはぎょっと目を見開く。彼の眉間には見たことがないほどしわが寄って、表情は硬く張りつめていた。

「どっ――どうしたの」

 驚きで、声が高くなる。

「えっ、ごめん、あたし……何かした?」
「え……?」

 夢から覚めたような呆けた顔をして、はっとレゾンがこちらに焦点を合わせた。

「あ、いや、あの――」
「ごめん。嫌だった?」
「や、その――いえ。ありがとうございます」

 妙な早口でお礼を言って、彼はハンドタオルで自分の頬を擦った。もしかして彼は、髪を触られるのは好きではなかったのだろうか――と心の中で反省会を開きつつ、リヤンは自分の髪を整える作業に戻る。前髪を耳の後ろに流してヘアピンで留め、ワイヤーを編んだイヤリングを付けていると「リヤンさん」と今度は彼から話しかけられた。

「あの、貴女は……いつまで、MDPにいますか?」
「あたし……?」

 不思議な質問に、リヤンは目を眇める。それはむしろリヤンの方が、レゾンたちに聞きたいことなのだが。とはいえ聞かれたからには質問に答えなければ――と思い、リヤンは「あたしは」と切り出した。

「ここにいることを許される限りは、ずっと、お手伝いしたいかなぁ……」
「……そう、なんですね。MDPでの仕事は面白いですか?」
「うん」

 今度は迷いなく、頷く。

「難しいことはあるけど、でも楽しいよ」
「そうですか……」
「レゾン君?」

 初夏の涼風に似合わない、複雑に淀んだ表情を浮かべる彼に、リヤンはいつも通りを装って問いかけた。

「なんだか、変なこと訊くんだね」

 きっと自分は、レゾンの様子がおかしい理由を知っている――そう思いながら、リヤンは何も知らない振りをして、彼と一緒に階下の食堂に向かう。別に嘘を吐いているわけじゃないけど、それに近いことをしている。飲み下した罪悪感が重たくて、まだ朝食を食べていないのに、胃が膨れたような苦しさがあった。

 階段を降りると、話し声が聞こえた。

 アルシュとフルルが話している声のようだ。どうやら食堂で、なにか相談をしているらしい。廊下の突き当たり、開け放たれた扉の向こうにフルルの真剣な横顔が見えて、見慣れない表情に心臓がどきりと跳ねる。

「お二人とも、すみません」

 思わずたじろいでしまったリヤンの横から、レゾンが部屋の中に声を掛けた。

「食事の支度をしたいんですが……いま、お話中ですか?」
「ううん、大丈夫。あぁ――そっか、もうそんな時間か」

 壁の高いところに掛けられた時計に目をやって、アルシュが呟く。彼女は机の上に散らばった書類をトントンとまとめて、椅子から腰を浮かした。

「フルル、続きは後にしようか」
「そうですね」
「あの、フルルさん」

 アルシュに続いて立ち上がったフルルに、レゾンが呼びかける。

「今日の昼なんですけど……ちょっと時間をもらっても良いですか?」
「あ――うん、()()()ね」

 一秒にも満たない間だけ、リヤンに視線を滑らせてから、フルルが心なしか小声になって答える。暗黙の了解ありきで交わされる会話は必要最低限で、リヤンが割って入れないまま立ち尽くしていると、フルルが「リヤン」とこちらに振り向いた。

「いつまで廊下に立ってるの」

 彼女が窓を開けながら、見慣れた友人の顔に戻って首を傾げる。

「入って良いんだよ?」
「あ――う、うん。ありがとう」

 その言葉で許されたような気がして、ようやくリヤンは部屋の境目を踏みこえた。

 ***

 そのまま、数日が過ぎた。

 夜、いつものように寄宿棟に戻ったリヤンは、部屋にいてもそわそわとして落ち着かなくて、自分のなかに渦巻くエネルギーを逃がすように部屋を出た。月明かりが差しこむ暗い廊下を横切って、階段を降りると、突き当たりから黄色っぽい光が差しているのに気がついた。

 食堂に電気が付いている。

 誰かいるのか、それともただ単に消し忘れか――と思いながらリヤンがそちらに歩いて行くと、棚の扉を開ける音が聞こえた。そっと部屋の中に顔を出すと、Tシャツに七分丈のズボンと、普段よりラフな服装をしたアルシュと目が合った。

 どうしたの、と笑いかけられる。

「貴女も、何か飲みに来た?」
「え……えっと」

 あまり目的があって来たわけではない。だけど夜中に食堂に来る理由としては、喉が渇いたから――というのが適切に思えて、リヤンは曖昧に頷いた。

「お茶、もらおうかなって……アルシュさんも、そうですか?」
「いや――」

 アルシュは緩く首を振って、まるで悪事を見咎められたように苦笑いを浮かべた。それから彼女は、今しがた棚から取り出した円筒形の瓶をリヤンにみせる。緑色っぽいガラスの向こうに、透明に近い液体が揺れていた。

 ああ――とリヤンは頷いた。

「アルシュさん、お酒、飲むんですね」
「うん、最近はね。付き合ってくれる?」
「えっとぉ……あたし、まだ十七です」
「分かってるよ。お茶飲むなら、一緒にどうかなって」

 ふふ、とアルシュが含むように笑う。

 そうしてリヤンは、静まりかえった夜の食堂で、アルシュと向かい合ってハーブティを飲んだ。湯を沸かしたせいで空気が篭もったので、窓を開けると、涼しい夜風がワインの匂いを部屋中に運んだ。

「あの……アルシュさん」

 彼女は注いだワインに口を付けるでもなく、ぼんやりと夜空を見上げている。

「去年ラ・ロシェルにいたときは、お酒、全然飲んでなかったですよね?」
「うん。まぁ――あの頃は、今よりずっと忙しかったしね」
「そうですよね」

 リヤンは頷く。

 去年の冬、ラ・ロシェルの一角でアルシュたちと共同生活をしていたとき、彼女は寝る間も惜しんで働いていた。地上と地下の対立で、今よりずっと情勢が不安定だったことがその一員だ。当時の彼女は、身辺を世話していたフルルが心配するほど心身を削り詰めており、アルコールを嗜好するような余裕はなかっただろう。

「たまに……誰かと飲むことはあったけど」

 透明なグラスの縁に唇を付けて、アルシュがいったん言葉を切る。一口だけ飲んで「美味しい」と呟いてから、グラスをテーブルに戻して頬杖をついた。

「こうやって誰のためでもなく、自分が楽しむためだけに飲もうと思ったのは、地下を出てきてからだなぁ……」
「楽しい……んですか。お酒飲むのって」
「いや、あんまり?」

 微妙に矛盾しているようなことを言って、アルシュが微笑む。

「楽しい人もいると思う。リヤンも大人になったら、試してみたらいいよ――でも、私は残念なことにね、まったく酔えないみたいで。体質なんだろうね。ちょっと変わった味のジュースを飲んでるのと、同じ」
「そうなんですか……酔うと、楽しいんでしょうか」
「さぁね……ロンガは教えてくれなかった?」

 以前は一緒に暮らしていた彼女の名前を出して、アルシュが微笑む。その名前は懐かしく、肩にぎゅっと力がこもるのを感じながら、リヤンは「いいえ」と首を振った。

「あんまり、そういうことは……あたしが子供だから、遠慮してたのかも」
「へえ……意外に、教育的なんだな。そういう配慮とか、できないタイプかと思ってた」

 頬杖をついたまま、口元をわずかに持ち上げてアルシュが笑った。彼女は、旧友であるロンガに対しては、年下のリヤンに対するのとは全く違う態度を示す。悪く言えば無遠慮で、良く言えば信頼と付き合いの長さを感じさせる。

「あのっ――アルシュさん、ロンガは……帰ってくるんですよね?」

 そんな、彼女が滲ませたもうひとつの顔に触発されて、リヤンは気がつけば、そう問いかけていた。アルシュは少し驚いた顔を浮かべてみせてから「さあ」と呟いて、テーブルに置かれたグラスに手を掛ける。

「私には、何とも言えない」

 不安定に揺れる水面に反して、彼女の表情は夜空よりも凪いでいた。

「D・フライヤの気紛れ次第――としか。それに、帰ってくるとして、それがいつなのかもよく分からない」
「四、五年くらいって、前に……言ってませんでしたか」
「そう。でも、あくまで仮説だからね。その根拠も、今となっては無いに等しいし」
「……そうですけど」

 リヤンはぎゅっと唇を噛んだ。

 ロンガの身に起きたことは、一通り話を聞いていた。時空間異常である幻像(ファントム)や、それを引き起こす原因である超越的存在、D・フライヤについても、一応理解しているつもりだ。だけど「彼女が無事に帰ってくるのか」という未来の事象については、賢い人々がどれだけ思考を巡らせたところで、結局は分からないままらしい。

 今にも泣きそうなのを見抜かれたのだろう、アルシュが「ごめんね」と呟いて眉を下げた。

「そんな、茹でられたみたいな顔しないで」
「茹で……!?

 一体どんな顔をしていたのか、とリヤンは自分の頬に手を当てる。たしかに、妙に火照っていて熱かったが。リヤンが目を白黒させていると、アルシュが悲しげに笑った。

「冷たい言い方をしたけど……私だって、もちろん帰ってきて欲しいよ。ロンガと会えないまま、十年二十年経ってたらどうしようって、今から怖い」
「怖い……ですか」
「そうだよ。そうでしょう? 親しかった人がいなくなるのは、何度経験しても慣れないよ」
「そう……ですね」

 リヤンは頷く。

 アルシュはそれ以上何も言わずに、視線を横に滑らせて、暗い窓の向こうを見つめた。

 リヤンも彼女の真似をして、夜空を見上げてみる。ぽつぽつと灯る街明かりのはるか頭上に、もうひとつ光の群れがあった。はるか遠い光が、決して手の届かない場所で、わずかに明滅しながら燃えている。

「……いつの間にか」

 ほとんど呟くような声が言った。

「みんな……どこかに行っちゃった」

 星が、静かに揺れている。

 彼女の声も、わずかに震えていた。

「望んでた別れなんて、ひとつもないのに……手を離した覚えもないのに、みんな、いなくなるんだなぁ……」
「……アルシュさん」
「なんて――貴女に言うようなことじゃないよね」

 いつもの調子に戻って、アルシュが苦笑する。口調は明るくても、影になっている目元は、わずかに充血しているような気もした。

「ごめんね。お酒のせいってことにさせて」
「えっとぉ……」

 ついさっき、自分で、自分は酔わない体質だと言ったのに。リヤンは胸がぎゅっと痛むのをこらえて「気にしないでください」と首を振った。

 リヤンは眉根を寄せて、握りしめたマグカップのなかで揺れる水面を見下ろした。必死に握りしめているつもりでも、手のひらの中からすり抜けていくものがある。自分より年上で賢いはずの人だって、それは同じこと。きっと、この世界というもの自体が、そういう風にできているからなのだろう。

 だけど。

 だからこそ――離れていくかもしれないと分かっている相手には、自分から手を伸ばさないと。

「あのっ……」

 リヤンは意を決して、切り出した。

「ひとつ、あたし、アルシュさんに黙ってたことがあって」
「リヤンが、私に?」

 星空からこちらに視線を戻して、アルシュが「なんだろう」と不思議そうに顔を傾けた。温かいハーブティと穏やかな星明かりに勇気をもらい、リヤンは思い切って顔を上げる。

「この間、フルルとレゾン君に話してたの……聞いちゃって。二人がサン・パウロに行くかもって話……」
「ああ――」

 アルシュが頷く。

「その話ね。そっか、知ってたんだ」
「はい……ごめんなさい」

 リヤンが肩をすくめると「いや」とアルシュは横に首を一往復させた。

「私の注意が欠けてただけだから、謝らないで。まあ、それに一応は機密だけど……そこまで聞かれて困る話でもないから、誰かに広めないでくれれば別に構わないよ」
「あ――そうでしたか」

 ひとまず安堵して、リヤンは溜息を吐いた。

 ――でも。

 アルシュ本人に確認したことで、期せずして、フルルたちがサン・パウロに行く可能性がある――というのが真実であると分かってしまった。冷たくなり始めたマグカップを、リヤンは両手でぎゅっと握りしめる。

「……リヤン」

 アルシュがこちらにちらりと視線を向けて、それから逸らした。彼女は星空を見上げたまま、独り言に近い口調で呟く。

「二人とも、まだ意向を決めかねてるみたい。ただ、私としては、是非とも二人に協力して欲しい。統合議会の運営もそうだし、将来的には意思決定にも関わって欲しいなと思ってる」
「……そう、ですよね」
「だけどね?」

 そこで声のトーンを明るくして、アルシュがこちらに振り向いてみせた。

「二人が悩んでるのは、多分……半分くらいは、貴女のためなんだよ」
「――え」
「私は、そう思う」

 アルシュが苦笑してみせる。

「二人とも、MDPの立ち上げ当時から関わってくれた子だから。ラピスのために貢献したいって意思は、人一倍に強いはずなんだよ。統合議会に携われば、MDPにいるよりもっと直接的に、世の中を動かしていけるはずで――」

 なのに――と、アルシュがこちらをまっすぐ見据えた。

「どうして二つ返事に了承しないんだと思う?」
「そっ、その原因が、あたしだって言うんですか」
「そんな気がする。そのうえで、貴女に聞きたいな……リヤンは、どうしたい?」
「あ――あたしは……」

 どきどきと胸が鳴るのを感じながら、リヤンは顔を上げた。

「二人と、離れたくないです」

 それが素直な答えだった。

「そのっ――あたし、二人みたいに賢くないですけど……サン・パウロに、一緒に行くことってできませんか」

 膝の上で手を握って、リヤンはアルシュの顔を正面から見つめた。

「お願い、します」
「あー……」

 対するアルシュの返事は曖昧で、表情はほとんど揺らがなかった。リヤンがそう言い出すことを、アルシュは想定していたのだろう。

「うん……ごめんね、頼ませちゃって」

 静かな声が言う。

「ただ、その……先に断っておくね。私が統合議会に斡旋できるのは、あくまで実績と経験がある子なんだ。今は、MDPは――伝令鳥の主人(メトル・デ・ポルティ)とは名ばかりで、ラ・ロシェル語圏全体の代表として、妥当な意見しか出せない立場だからさ……貴女だけを特別扱いってできないんだ」

 ごめんね、とアルシュが再び繰り返してから「でも」と口調を明るくした。

「統合議会は難しいけど。サン・パウロに行きたいなら、方法はいくつかあるよ」
「え……」

 途端に目の前がぱっと明るくなった気がして、リヤンは思わず両手の指を組んだ。

「そうなんですか?」
「うん。あのね、統合議会ができて、そこに七語圏を集めるってことは、今まで以上にたくさんの人が、サン・パウロで生活するようになるってことなんだよ。当然、それに付随して、街には色んな役割が求められる」
「色んな……」
「ぱっと思いつくだけでも、食事の支度や食材の管理、住居や水道や電気の管理とか掃除、事務仕事もあるし……もしかしたら学舎とか図書館とかも、それから……」

 アルシュが指を折りながら語ってみせるのを、リヤンはどこか呆然としながら聞いていた。話を聞いているだけで、見たこともないサン・パウロの街が目の前に浮かんで、鮮やかに彩られていった。色々な役割が噛み合うことで、街という、宿舎やMDP支部よりも遙かに大きな世界が作られる――そんなイメージは、リヤンを瞬く間に魅了した。

「リヤン」

 言葉を連ねることでサン・パウロの街並みを描き出してみせたアルシュが、折った指を広げながら微笑む。

「貴女は、何かしたいことはある?」

 ***

 七月、最初の日の朝。

 小型航空機(メテオール)の操縦席によじ登りながら「それにしても」とフルルが振り返って笑った。

「リヤンが、サン・パウロに来るって言い出したの、意外」
「えっと……そうかなぁ」
「っていうか、選んだ働き先が、意外だった。後ろ、荷物入る?」
「んん……何とか」

 荷物は厳選したつもりだったのに、リュックサックは破裂しそうなほど膨らんでしまった。リヤンは両腕に力を込めて、座席の後ろに設けられたスペースに、どうにか自分の荷物を詰め込む。唸るような小型航空機(メテオール)のエンジン音が、後部座席を揺らしていた。それを聞いていると、自分はスーチェンを離れて新しい街に行くのだ――ということを、改めて実感した。

 リヤンは来月から、保健所の職員としてサン・パウロで働くことになった。先月に建物の改築が終わったばかりというサン・パウロ保健所は、街の衛生管理から医療まで、幅広い役割を担っている組織だ。統一機関時代からその前身は存在していたらしいが、その保健所が、今夏、急激にサン・パウロの人口が増加するため、事務職の大規模な追加募集を行っていた。リヤンはMDPに届いた募集を見て、一か八かと応募してみたところ、二週間前に採用通知の連絡が届いたのである。

「そんなに意外かなぁ」

 リヤンは肩をすくめる。

「あたし、フルルたちみたいに、前に立って誰かを引っ張ることはできないかもって思ったけど……後ろとか下から、みんなを助けることがしたいなって思って」
「あぁ……そうなんだ」

 どこか感心したような声で、フルルが相槌を打った。

「それで保健所なのか」
「うん。フルルたちと一緒にサン・パウロに行けて、良かった」

 リヤンが頬を持ち上げて笑ってみせると、フルルは少し意表を突かれたように素早く瞬きをして、それから「実はさ」と声をひそめてみせた。操縦席から後ろに身を乗り出して、後部座席に座っているリヤンの耳元に口を寄せる。

「リヤンにさ、サン・パウロでも色んな仕事があるって言ったら、一緒に来ないかな……っていうのは、かなり前からレゾン君と相談してたんだよ」
「……うそぉ」

 驚いて、リヤンは口元に両手を当てた。

「そうだったの?」
「うん、裏でこっそりね。でも、リヤンはMDPに残りたいみたいだって、レゾン君から聞いたから――どう提案したもんか、悩んでたんだよね。なんか、結果として上手く行ったけど」
「ふぅん……?」

 リヤンは唇を尖らせる。

 いつ、レゾンにそんな話をしたのか考えたが、すぐには思い出せなかった。記憶に残らないような、さり気ない聞かれ方をしたのだろうか。

「そんな、回りくどいことしなくたってさ……一緒に来ない? って一言聞いてくれてたら、あたし、すぐ頷いてたのに」
「ごめんって。次があったら、そうするよ」

 フルルが申し訳なさそうに手を合わせるので、リヤンは片方の頬に空気を詰めながら「絶対だよ」と念を押した。どうやら、最初からリヤンと友人たちは同じ場所に手を伸ばしていたのに、その指先がちょっとだけずれていたらしい。そのまますれ違ってしまわなくて良かった――と思いながら、リヤンは背もたれに身体を倒した。

 窓ガラス越しに、外を見る。

 スーチェン支部に残る構成員たちが、旅立つリヤンたちを見送ってくれていた。その人垣に頭を何度も下げながら、大きなリュックサックを背負ったレゾンが小型航空機(メテオール)に歩いてくる。

「それにしてもさ」

 日光で暖まったガラスに額をくっつけて、リヤンは口元を持ち上げた。

「二人が、あたしと一緒にサン・パウロに行きたいって思ってくれてたの、嬉しいなぁ……」
「いや、まあ私はともかく――レゾン君はそりゃ、そうでしょ」
「なんで?」
「え?」

 フルルが片目を眇めて、訝しげな表情でまじまじとリヤンの顔を見た。どれだけ真剣に見つめても、リヤンの後ろが透けて見えるわけでもないだろうに――まっすぐな視線にそわそわと背中を揺らすと「ひょっとして」と彼女はあごに指を当てた。

「あれ、そっか、まだ聞いてない感じか」
「聞くって……何を、誰から」
「いや――っていうか、もしかしてまだ、察してすらない? あれ? なんかもう、とっくに、そこは通り過ぎたもんだと思ってた――」
「えっとぉ……?」

 仕事中でも滅多に見せないほどの難しい顔で、フルルがぶつぶつと呟きながら考え込む。彼女がそんなに眉間にしわを寄せているのは、かれこれ一年近い付き合いになるが、ほとんど見たことがない。

 それからフルルは、ひとつ頷いて、後部座席に身を乗り出した。

「リヤン」

 背もたれの合間に腕を組んだかと思うと、フルルはそこに顔を乗せて、どこか悪戯っぽい表情で微笑んだ。

「前にさぁ……恋がしたいって言ってたじゃん」
「なんで今更、その話?」
「身近なところに目を向けてみる気は?」
「え――」

 心臓が、何かに刺されたように跳ねた。

「ま……待って!」

 とんでもなく大胆な、それでいて妙に整合性の取れたアイデアを思いついてしまって、リヤンは慌てて首を振った。勢いよく揺さぶられた髪からヘアピンが飛んでいくが、思いついてしまったことの方は薄れてくれないどころか、ますますはっきりと脳内に浮かび上がってしまう。

「やだぁ……!」

 リヤンは子供のように耳を抑えた。

「もう良いっ、聞きたくない!」
「聞きたくない、は可哀想だなぁ」
「あの、すみませんお二人とも、お待たせしました――」
「うゎあぁ!?

 話の渦中だった人に声を掛けられて、リヤンは悲鳴じみた声を上げながら機体の側壁に張りついた。怪訝そうな表情をしつつも、レゾンが梯子を登ってきて、後部座席の隣に腰を下ろす。

「じゃ、また――この話は、後で」

 機体の扉が閉まる。

 にやっと笑って、フルルが操縦桿をぐっと押し込んだ。
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登場人物紹介

リュンヌ・バレンシア(ルナ)……「ラピスの再生論」の主人公。統一機関の研修生。事なかれ主義で厭世的、消極的でごく少数の人間としか関わりを持とうとしないが物語の中で次第に変化していく。本を読むのが好きで、抜群の記憶力がある。長い三つ編みと月を象ったイヤリングが特徴。名前の後につく「バレンシア」は、ラピス七都のひとつであるバレンシアで幼少期を送ったことを意味する。登場時は19歳、身長160cm。chapitre1から登場。

ソレイユ・バレンシア(ソル)……統一機関の研修生。リュンヌ(ルナ)の相方で幼馴染。ルナとは対照的に社交的で、どんな相手とも親しくなることができ、人間関係を大切にする。利他的で、時折、身の危険を顧みない行動を取る。明るいオレンジの髪と太陽を象ったイヤリングが特徴。登場時は19歳、身長160cm。chapitre1から登場。

カノン・スーチェン……統一機関の研修生で軍部所属。与えられた自分の「役割」に忠実であり、向学心も高いが、人に話しかけるときの態度から誤解されがち。登場時は19歳、身長187cm。chapitre1から登場。

アルシュ・ラ・ロシェル……統一機関の研修生で政治部所属。リュンヌの友人で同室のルームメイト。気が弱く様々なことで悩みがちだが、優しい性格と芯の強さを兼ね備えている。登場時は19歳、身長164cm。chapitre3から登場。

ティア・フィラデルフィア……とある朝、突然統一機関のカフェテリアに現れた謎の少年。ラピスの名簿に記録されておらず、人々の話す言葉を理解できない。登場時は10歳前後、身長130cm程度。chapitre1から登場。

サジェス・ヴォルシスキー……かつて統一機関の幹部候補生だったが、今の立場は不明。リュンヌたちの前に現れたときはゼロという名で呼ばれていた。赤いバンダナで首元を隠している。登場時は21歳、身長172cm。chapitre11から登場。

ラム・サン・パウロ……統一機関の研修生を管理する立場。かつて幹部候補生だったが現在は研修生の指導にあたっており、厳格だが褒めるときは褒める指導者。登場時は44歳、身長167cm。chapitre3から登場。

エリザ……かつてラ・ロシェルにいた女性。素性は不明だが「役割のない世界」からやってきたという。リュンヌと話すのを好み、よく図書館で彼女と語らっていた。笑顔が印象的。登場時は32歳、身長155cm。chapitre9から登場。

カシェ・ハイデラバード……統一機関政治部所属の重役幹部。有能で敏腕と噂されるがその姿を知る者は多くない。見る者を威圧する空気をまとっている。ラムとは古い知り合い。登場時は44歳、身長169cm。chapitre12から登場。

リヤン・バレンシア……バレンシア第43宿舎の住人。宿舎の中で最年少。年上に囲まれているためか無邪気な性格。登場時は17歳、身長152cm。chapitre31から登場。

アンクル・バレンシア……バレンシア第43宿舎の宿長。道具の制作や修繕を自分の「役割」に持つ、穏やかな雰囲気の青年。宿舎の平穏な生活を愛する。登場時は21歳、身長168cm。chapitre33から登場。

サテリット・バレンシア……第43宿舎の副宿長。アンクルの相方。バレンシア公立図書館の司書をしている。とある理由により左足が不自由。あまり表に現れないが好奇心旺盛。登場時は21歳、身長155cm。chapitre33から登場。

シャルル・バレンシア……第43宿舎の住人。普段はリヤンと共に農業に従事し、宿舎では毎食の調理を主に担当する料理長。感情豊かな性格であり守るべきもののために奔走する。登場時は21歳、身長176cm。chapitre33から登場。

リゼ・バレンシア……かつて第43宿舎に住んでいた少年。登場時は16歳、身長161cm。chapitre35から登場。

フルル・スーチェン……MDP総責任者の護衛及び身の回りの世話を担当する少女。統一機関の軍部出身。気が強いが優しく、MDP総責任者に強い信頼を寄せている。登場時は17歳、身長165cm。chapitre39から登場。

リジェラ……ラ・ロシェルで発見されたハイバネイターズの一味。登場時は22歳、身長157cm。chapitre54から登場。

アックス・サン・パウロ……コラル・ルミエールの一員。温厚で怒らない性格だが、それゆえ周囲に振り回されがち。登場時は20歳、身長185cm。chapitre54から登場。

ロマン・サン・パウロ……コラル・ルミエールの一員。気難しく直情的だが、自分のことを認めてくれた相手には素直に接する。登場時は15歳、身長165cm。chapitre54から登場。

ルージュ・サン・パウロ……コラル・ルミエールの一員。本音を包み隠す性格。面白そうなことには自分から向かっていく。登場時は16歳、身長149cm。chapitre54から登場。

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