夢とうつつと

文字数 14,824文字

 空が青い。

 つまり、ここは夢のなか。

 深い青色の空が、薄い膜を一枚一枚重ねるように、少しずつ紺色になっていく。刻一刻と変わっていく空の色に目を細めると、少し涼しい風がやわらかく吹き付けて、膝丈のワンピースを泳がせた。

 黄昏。

 レンガ敷きの街に、ひとり佇んでいる。

 道の向こう、金属製の壁に映っている立ち姿は、エリザ自身のものだった。長く伸ばした蜂蜜色の髪も、白銀色の瞳も同じ。だけど、やけに大人びて見えた。七分丈の袖から伸びている腕は、やはり自分のもののようで、しかし風合いが少し違った。記憶のなかにある自分の腕よりも、すこし骨張っていて、柔らかさに欠けているような――

「エリザ?」

 そんなことを考えていた折。

 声が聞こえて、エリザは思考を中断する。ハスキーで、女性にしてはやや低めの声が、今度はもう少し近くで「どうしたの」と呼びかけた。

 エリザは顔を上げて、そちらを見る。

 金色の髪が印象的な女性が、早足でこちらに歩いてきていた。彼女が歩くと、硬いブーツの底がレンガ敷きの地面を叩いて、コツコツと高い音が鳴る。その女性はただでさえ背が高かったが、黒一色のコートと、ウェーブした長い髪、全体的に堅い服装が相まって、相当な存在感を放っていた。

「カシェ」

 口が勝手に動いて、そう言った。

 右手が持ち上げられ、彼女の方に向けて振られる。夢の中だからなのか、身体のコントロールはまったく効かず、まばたきすら自分の意志ではできなかった。エリザはただ、エリザに似た容姿の、エリザと呼ばれている女性の動きを、あたかも自分自身の体験であるかのように感じていた。

「危ないじゃない」

 カシェと呼ばれた女性は、そう言って眉を下げる。

「あのね、あまり拘束する気はないけど……あんまり不用意に出歩くのは危ないって、いつも言っているでしょう。この辺りは人が多いけど、それでも、うっかり見咎められたら面倒よ。ただでさえその目は目立つのに――」

 額を押さえて、カシェが「まったくもう」と肩をすくめた。どうやらエリザは、この夢のなかで、あまり人目についてはいけない存在らしい。カシェがエリザの隣に立つと、その長身が人目を遮って、往来からエリザの姿を隠してくれた。

「ラムは?」

 そう言って、カシェがこちらを見下ろす。

「もう部屋に戻っている時間よね」
「ええ、一緒に出てきたのだけど――訪ねるところがあるから、待っていてと言われて」
「それで貴女をひとりで放り出したの? 呆れた」

 整った眉根を寄せて、カシェは溜息を吐く。

 そこで、ふっと周囲の景色がかすむ。

 少し、映像が飛んだような感覚があった。気がつくと、藍色だった空はさらに暗くなっていて、黒に近い紺色に染まっている。道には等間隔に金属製のポールが立っていて、その天辺からオレンジ色の光が広がり、暗い街路に一抹の光を点していた。それが街灯と呼ばれるものであることに、エリザは少し考えて気がつく。昼も夜もない地下空間に街灯は存在せず、ライブラリのなかで画像を見たことしかなかったのだ。

「エリザ――」

 遠くから、呼ぶ声が聞こえた。

「ラム」

 名前を呼んだらしい声とともに、そちらに視線が向けられる。見ると、レンガ敷きのうす暗い道を、スーツに似た服装の男性が駆けてきていた。暗い色の、癖がある髪をうなじで結び、右眼にモノクルを掛けている。彼はエリザの隣にいるカシェを見て、おっ、と何かが詰まったような声を上げた。

「わ――吃驚した。カシェ、いたのか」
「貴方がエリザを一人で放っておくものだから、仕方なくね」
「あ、あぁ――それは、悪かった。ありがとう」
「こちらこそ悪かったわね。邪魔をして」
「邪魔とは?」
「お二人で一緒に出かけるところだったんでしょう?」

 カシェが長い髪の毛を背中に流しながら、からかいと皮肉が半々で混ざり合ったような口調で言う。その様子を見ていて、なるほど、とエリザは内心で頷いた。このラムという男性とエリザは、どうやら特別な関係にあるらしい。皮肉を向けられた当のラムは、一瞬不思議そうに目を見開いて、それから「ああ」とひとつ頷いた。

「いや、そんなことはない。むしろ、カシェ、君も呼びに行くつもりだったから、ちょうど良かった」
「私を呼びに?」

 カシェが不審げに呟いて、片方の肩を跳ね上げる。

「貴方が私に、何の用かしら」
「いや――今日、視察でバレンシアに行ってくると言っただろう。その時にもらった焼き菓子があるから、三人で食べないか――と、提案するつもりだったんだが」
「何を言っているの。そういうのをもらったのなら、まず、貴方の所属に届け出なさいな。貴方の独断で消費していいわけがないでしょう」
「うん、まあ本来そうなんだが……そうも行かなくてな。その、学舎を訪ねたんだ」

 ――学舎?

 ことの成り行きを眺めていたエリザは、内心で首をひねった。

 学舎。言葉の響きからして、学校のことだろうか。この夢のなかにも学校があるのは、何もおかしなことじゃないけど、エリザが知らない単語が出てくるのは少し不思議だった。夢というのは、あくまで、記憶の断片を繋ぎ合わせた幻に過ぎないはずなのに。

「学舎ぁ?」

 エリザが不思議に思っていると、カシェが「信じられない」と言いたげに、目を大きく見開いていた。

「ラム……貴方、学舎を訪ねたの。なに考えてるの本当に」
「いや、それはその。だって世話になっているから――」
「そんなこと分かってるわよ!」

 たじろいだ様子のラムに、カシェが鋭く一喝した。

 いったい彼女は何に怒っているのか、不思議に思いながらも、エリザは成り行きを見守っていた。目の前で起きることをただ見守る以外に、この夢のなかでできることはないようだ。妙に自由度の低い夢だけれど、まあ、そんなこともあるか――と、エリザは曖昧に事態を受け入れる。

「あのねぇ……!」

 一方、怒りを露わにしたカシェは、今にもラムの胸ぐらを掴みそうな勢いだった。

「万が一、あの娘と貴方を見比べた一般市民が、なにか違和感でも感じたら、いったいどうするつもり。言っておくけど似ているのよ、とくに貴方に!」
「いや――その……いや、すまない」
「……まったく」

 はぁ、とカシェが溜息を吐いた。

 彼女は怒らせていた肩から力を抜いて、腰に手を当てた。叫んだせいで乱れたらしい前髪を後ろに払ってから、カシェは幾分か落ち着いた声で「あのねぇ」と言い、綺麗な弧を描いた眉をひそめてみせる。

「大切にする気があるのなら、接触しないでおきなさい。問題が発覚したら、また、いちから受け入れ先の探し直しよ。あの娘、いま何歳だったかしら?」
「四歳と八ヶ月だ」
「とっくに物心ついた年齢ね。仲の良い友達なんかもいるでしょうね。だけど、もしも学舎で問題を起こしてしまったら、いまの環境とも引き離すことになるのよ。ラム――貴方、ちゃんと、そこまで分かってて行動した?」
「いや――」

 矢継ぎ早に責め立てられて、ラムが悲しげに頭を垂れる。

「……すまない。俺が浅慮だった」
「二度としないことね」
「分かってる」
「あと、そのお菓子はお詫びってことでもらってあげるわ。行きましょうか、いつもの酒場で良いわね?」
「あ……ああ! ありがとう」

 ぱっとラムが笑って、カシェは苦い表情ながらも口元を綻ばせる。その様子は、交わす言葉こそ厳しくても、二人が気の置けない友人なのだ――とエリザに確信させるのに十分だった。カシェが長身を翻して歩き始め、ラムが彼女を追いかけて、うす暗いレンガ敷きの道に歩き出していく。友人と呼べる相手を持たないエリザは、羨ましく思いながら彼らを見つめた。

 少し、周囲の景色が加速した。

 エリザの身体が走っているのだ。エリザは数歩分だけ先を歩くラムに追いついて、ラム、と名前を呼びながら、モノクルを掛けたラムの顔を見上げる。黄昏の光のなかで、曖昧な陰影の刻まれた顔が、優しくこちらを見下ろしていた。

「ね――元気そうだった?」

 そんなことを問う。

 するとラムは、今度はすぐに頷いてみせた。

「ああ。とても」
「そう」

 エリザが頷き、それに伴って視界が揺れるのと前後して、胸のまん中がふわりと暖かくなった。経験したことのない感覚に、エリザは少し戸惑う。お腹の中から何かがこみ上げて、今にも口から外に飛び出すような。とは言っても吐き気とか苦しさじゃなくて、もっと優しくて、温かいなにか。

 ――なんだろう。

 未知の感覚に戸惑いながらも、夢の流れは変えられない。エリザの身体は、ラムとカシェを追いかけて、宵の街に踏み出していく。

 すると、奇妙なことが起こった。エリザは変わらず、そのレンガ敷きの街にいるのに、友人たちと笑い交わす声や、頬をなでる涼しい風が、少しずつ遠ざかっていったのだ。身体が水飴に絡め取られたように重たくなる。同時に、遠くからベルの音が聞こえてきて、ああ、夢から目覚めつつあるのだ――とエリザは気がついた。

 待って、と叫んで手を伸ばそうとする。

 幸せな夢には、まだ終わって欲しくなかった。だけど、一度手の中をすり抜けてしまった夢は、二度と掴み返すことは叶わず、ただ一方的に遠ざかるのみだった。夜に沈んでいくレンガ敷きの街も、エリザと親しいらしい二人の人間も、彼らと交わす眼差しも、どんどんと遠ざかって虚空に消えていって。

 終わりかけの夢のまぎわ。

 ――ラピスの黄昏は、綺麗だ。

 エリザ自身の声で、そんな言葉が聞こえた。

 ああ、たしかに綺麗だわ、とエリザは心のなかで答える。どんなバーチャル・リアリティの映像より、あの藍色は美しかった。その一瞬だけ、身体の外郭を為している「エリザ」と呼ばれていた成人女性と、身体の内側に存在するエリザ自身が通じ合った気がした。

 そして、ひとつ瞬きをしたかと思うと、エリザは手狭な自室にいた。

 ベルの鳴る音が、頭のなかまで響いてきてうるさい。よれたブランケットを払いのけて起き上がり、目覚まし時計を止める。寝起きのふらつく足取りで洗面所に向かい、冷水で顔を洗いながら、エリザは夢の内容を思い出していた。

 あれは不思議な夢だった。

 アニメかドラマに影響されたのだろうか。あまり娯楽に触れる機会のないエリザだが、これも教養だから見ておけ、と言われて、過去にいくつかの映像作品を見たことがある。そういった記憶が掘り起こされて、頭のなかで混ざり合った結果、あんな夢を見たのだろうか。

 レンガ敷きの、欧風の趣があるクラシカルな街。カシェと呼ばれていた女性と、ラムと呼ばれていた男性。仕事仲間か同僚という雰囲気だった。服装はどちらもスーツに似ていて、でも少し違って。そして――ラピス、という名詞。

「ラピス?」

 洗面台から顔を上げて、エリザは呟いた。

 鏡の向こうで、白銀色の瞳が不思議そうに見つめ返している。

 ラピス――という名前は、記憶のどこを探しても見つからなかった。ラムやカシェというのはフランス語の名詞だが、ラピス、というのは聞いたことがない。自分自身が知らない固有名詞を、果たして夢のなかで耳にすることがあるのだろうか。

 少し引っかかったが、夢は夢でしかない。

 それよりも、他のメンバーが起きてくる前に朝食の支度をしないといけなかった。与えられた役割をこなせないと、誰かが――大抵はサティとニコライが不機嫌になり、誰かが――大抵はルーカスがおかしな庇い方をして、マリアがそれに嫉妬心を誘発され、アマンダにあとで睨まれる。そのせいでプロジェクトの進行が遅れると、ジゼルが舌打ちをする。ドミノが倒れるように雰囲気が悪くなっていくのは、未来視の目を使わなくたって分かるのだ。

 考えるのを止めてさっさと顔を拭き、エリザは調理室に向かった。

 だが、加工食品を温めて食器を取り出しながらも、ラピスという単語が、頭のどこかでくるくると回り続けていた。今朝のあれは、ただの夢だと捉えるにはやけに明瞭で、筋の通った展開だった。しかも、目覚めてから既に数十分が経ったのに、いまだに夢の中身をしっかりと覚えている。

 まるで映画を見たような。

 誰かに、無理やり見せられたような――

「……見せる?」

 そこで気がついて、エリザは思わず自分の目元に触れた。

 白銀のなかに虹色が散った、変わった色合いの瞳。幼少期は青かったのに、いつの間にか変色していたこの瞳には未来視の力があるが、エリザがそれを望んだわけではない。気がついたら手に入れていた、未来の景色を見せる謎めいた力。

 じゃあ、もしかして、あれは。

 エリザの意志とは無関係に紡がれた、あのワンシーンは。

「未来の、私……?」

 思わず唾を飲み込んで、エリザはそう呟く。

 ***

 あの夢を見てから、しばらく不思議な心地が抜けなかった。

 無機質な地下居住施設にいるのに、あの黄昏が記憶から離れない。歯に衣着せないながらも親しげに話し合っていた、ラムとカシェの声がどこかで聞こえたような気がして、思わず振り返ってしまうことが一日に何度もあった。

 ――あれが本当に、未来の私なら。

 そんな仮定を考える。どんな奇跡が起きたら、この雪に閉ざされた暗い世界から、あの美しい黄昏の街に移動できるのか――もちろん、それは分からないが。でも理屈が分からないのは未来視の目だって同じだ。理論で測れないことが起きうる世界なら、あの世界にエリザが転生する未来だって、あり得ないとは言えない。

「……もし」

 調理室の鏡と向かい合って、エリザはごくりと唾を飲み込んだ。

「あれが、私なら……」

 あの黄昏の街に映し出された光景は、何もかも今のエリザとは違っていた。薄手のワンピースで外を歩けるなんて、今の気候では考えられない。それに、ハイバネイト・プロジェクトに生活を拘束されていない様子で、何より――大切にしたい人たちがいる。

 そんな日々が、未来に待っているのなら。

「だったら、どうしよう……」

 どういうわけか火照り始めた頬を押さえて、エリザは呟く。心臓がどくどくと動いている感覚は慣れなくて、やけに熱く感じられる息を何度も吸って吐いた。

 そんな、妙に浮ついた日が続いたあとだった。

 とくに予定はなかったところ、エリザはジゼルに呼び出された。ジゼルはハイバネイト・プロジェクトで最年長の女性であり、環境学を専門とする研究者でもある。かつてプロジェクトリーダーのニコライと個人的な関係にあったとも聞くが、今の彼女を見ていると、とても他者を必要とするタイプの人間には見えない。ほとんど笑顔を見せず、他のプロジェクトメンバーとも他人行儀で、自分の研究室にずっと閉じこもっている。

 しかしエリザは、彼女のことは嫌いではなかった。

 彼女は優しくはないが、酷いことはしてこないし、こちらを困らせることも言わない。研究ひと筋に心血を注いでいる彼女は、エリザが持っている未来視の目のみを必要としていて、それ単体に値段を付けてくれる。どうせ優しく扱われることはないのだから、ジゼルの冷淡さはかえって救いだった。

「――失礼します」

 ノックをして、エリザはジゼルの研究室に入る。

 白い無機質な部屋が、エリザを出迎えた。正方形の部屋はかなり広いが、所狭しと並んだメタルラックが大半の面積を占めている。どれも同じ型番、同じサイズのメタルラックに、これまた同じ灰色の書類ファイルがいくつも整列している。整然と立ち並ぶそれらの隙間を抜けると、壁一面のパネルの前に座っていたジゼルが、くるりと振り向いた。

「来たか」

 それだけ言って、彼女は手元のファイルをめくる。

 丸くて背もたれのない椅子にエリザが腰を下ろすと、ジゼルはファイルのなかから二枚の紙切れを取り出して、こちらに差し出した。エリザは渡された紙をじっと見る。紙はいずれも細長く、紙幣より一回り小さいくらいのサイズだ。光沢のある表面に印刷されている文字は英語だが、見慣れない単語だった。

 えっと、とエリザは首をひねる。

「これは……」
(くじ)だ。それぞれ違う自治体が出している……と言っても、知らないか。まあ、当たりと外れがあり、この――表面にプリントされた番号によって抽選結果が分かれるが、これを買う時点では当たりの番号は分からない。この点だけ把握しろ。良いか?」
「分かりました」
「よし」

 ジゼルが頷いて「じゃあ」と一方の籤を指さした。

「この番号。569142――当たりか外れか。当たりなら何等か、見ろ」
「はい」

 素直に首肯し、エリザは目を少し細めた。

 白銀色に染まったこの瞳は、未来を見通すことができる。しかし「未来が見える」とひとくちに言っても、その実態は複雑だ。たとえば、地球が太陽に呑み込まれて焼失する瞬間まで見えるかというと、そこまででもない。また、次にサティに連れられて交渉に出かける日がいつかとか、その帰りに例の廃屋に連れ込まれるかどうかとか、そういう未来は、どうも見えないようだった。

 椅子に座ったまま、エリザは心を静めていく。

 周囲に溢れているさまざまな情報を意図的に無視して、握りしめた籤と、569142という番号に意識を集中させていく。思考のすべてを一点に集めて、目の前に座るジゼルや、ずらりと並んだメタルラックや、今ここにいるエリザ自身さえ忘れたとき――

 視界が白く濁る。

 次の瞬間、エリザは知らない街角に立っていた。どこかのメトロの駅のようだ。乗客もまばらな改札の隣に、前世紀から持ってきたように寂れた小さな売店がある。茶色いレンガの壁はひび割れて、窓の磨りガラスはひどく汚れていた。そして――エリザの手の中に、先ほど受け取った籤がある。違うのは、紙の表面に赤いペンで「五等」と書かれているのと、数枚のコインを握りしめていたところだった。

 エリザは目を開ける。

「569142は、当たり」

 じっとこちらを見ているジゼルが、小さく頷いた。

 それから「等級は」と無表情のまま尋ねる。

「五等です。賞金は五ドル」
「よし。じゃあ、こちらの籤は」

 そう言って、ジゼルが他方の籤を指さす。こちらは抽選の方式が違うのか、六桁の番号ではなく、二つのアルファベットと五桁の番号の組み合わせだった。

 PW・94320という番号を頭に叩き込んで、エリザはふたたび目を細めた。そして集中力を研ぎ澄まし、自分自身が透明になったような感覚のなかで、ひたすらに籤の番号をリフレインする。

 PW――94320――ピー・ダブル・9、4、3、2、そしてゼロ。ピー、ダブル。ナイン、フォー、スリー、ツー、ゼロ……

 しかし。

 いつになっても、未来は見えてこなかった。酷使しすぎた頭がじわじわと痛み始め、疲労から来る激しい動悸に集中力が乱されていく。ついに根負けしたエリザが目を開けたとき、全身は冷や汗に覆われていた。心臓を押さえて荒い息を吐くエリザを、ジゼルの冷淡な目が静かに見つめている。

「どうだ」
「……その」

 未来視の目が使えなかった。

 それはすなわち、エリザという存在の無価値さを意味する。役に立たないと知られれば、明日にも吹雪のなかに放り出されるかもしれない。恐怖で言い淀んだエリザに、ジゼルは「正直に言え」と硬い口調で言った。

「正直なことを言うのがお前の仕事だ。見えたものに意味を見出すのは、私のすることだ。お前はただ、ありのまま、嘘さえ吐かなければ良い」
「あの……見え、ませんでした」
「見えなかった?」

 ジゼルが片方の眉を吊り上げる。

「それは確かか」
「……っ、はい」

 肩をぎゅっと縮めながらも、エリザはどうにかこうにか首肯してみせる。

「あのっ……その、役に立てなくてごめんなさ――」
「いや。違う」

 半泣きで謝ろうとしたところで、ジゼルが小さく首を振った。

「これは対照実験だ。お前がこれを予知できないのは、私の仮説に沿っている」
「えっ、あの、実験って……?」
「この、お前が見えたほうの籤は、売り始める前から当選番号が決まっている。だが、お前が見えなかった方の籤は、ぜんぶの籤を売り終わってから当たりの番号を決めるそうだ。この意味が分かるか」
「……え、えっと」
「まあ、分からないだろうな」

 そう言いつつも、ジゼルはつらつらと言葉を並べ始める。エリザに聞かせて理解させるための言葉というより、彼女自身が考えをまとめるための言葉なのだろう。

「お前の未来予測は、たしかに超現実的な能力ではある。しかしながら、未来予測そのものは人間の知性によって既に可能だ。気象予報や災害予測――所謂シミュレーションだな。シミュレーションとは、ある環境にある作用を与えたとき、結果として何が起きるかを、偏微分方程式を時間方向に解くことで得られるものだ」

 そこで「だが」と言い、ジゼルは足を組み替えた。

「ならば、宇宙のありとあらゆる粒子の座標と運動量が分かっていれば、未来はすべて決定できるのではないか、という可能性を論じた学者がいた。もう数世紀は前のことだが。もし彼の仮説が正しければ、お前が今日の夜に何を食べるかも、私がこれから何を言うかも、すべて既に決まっていることになる。人間の自由意志などというものは、所詮、脳のシナプスに流れる電流の生産物でしかないのだからな」

 エリザは黙って彼女の話を聞いている。

 ジゼルの話はよく分からなかった。ただ、彼女が言っているように、人間の取る行動がすべて事前に決まっていると言うのなら、それはとても空しいような気がした。エリザの不安を感じ取ったのか、ジゼルは「安心しろ」と言ってわずかに表情を緩める。

「不確定性原理によって、とうの昔に否定された発想だ。マクロの剛体と異なり、量子は「そこにある」と確実に定義できるものではない。そして非線形問題には初期値鋭敏性がつきものであることから、決定論的未来予測は不可能だ――という結論に、人類はすでに、とっくの昔に到達している」
「……はぁ」
「そして、お前の能力も」

 曖昧な相槌を打ったエリザに、ジゼルは痩せた指をまっすぐ突きつけた。

「この制約を逃れないのではないか、というのが、私の仮説だ。超自然的能力であること自体は疑いようもないが――その特異性はひとえに、観測機器を用いなくても初期値を取得できる点と、量子コンピュータを使わなくても時間発展解を計算できる点に限られている。言い換えれば、この世界でもっとも優れたシミュレータ。それがお前だ。二枚目の籤が当たるかどうか予測できなかったのは、まだ当選番号が決まっていないからだな」
「当選番号……は、人が決めるんですか」
「無作為性が保障されるよう、回転盤にダーツを打つような手法で決めると聞くな。まあ……今時、ご丁寧に法律を守っているか知らないが――回転盤を回すのも、ダーツを打つのも、不正に番号を決めるのも人間だな。つまり人間に依拠する。そう、結論はそこだ」

 ファイルをペンのノック部分で叩いて、ジゼルが顔を上げた。

「お前には、人間の行く末は見えない」

 その言葉は、白いラボラトリにやけに響いた。

 エリザはスカートの上でぎゅっと手を握りしめて、小さく俯く。

「……そう、なんですね」
「より正確には……量子論的不確定性から生じるカオス、その振動解の行く末までは決定できないといったところか。だから――まあ、気候変動の予測へ応用するにしても、その点は留意しておかねば足下を掬われる、ということだな」

 ひとつ息を吐いて、ジゼルは背を向ける。

 話はそれで終わりらしかった。硬そうなシャツに包まれた、鋭利な印象の背中が、エリザを拒絶するようにこちらを向いている。何か書き物をしている様子だった。あまり邪魔をすれば怒られるのだが、どうしても彼女に、ひとつ尋ねたいことがあった。

「あの……ジゼルさん」

 意を決して話しかけると「なんだ」と言って彼女がふたたび椅子を回す。彼女の仮説が立証されたからなのか、ジゼルの機嫌は悪くないようだ。良かった、とひとまずエリザは胸をなで下ろす。

「そっちから話しかけてくるなんて珍しい」
「えっと、その、聞きたいことがあって――」

 数日前に見た夢のことを思い出しながら、エリザは口を開いた。

「ラピス、って……知っていますか」
「ラピス?」

 ジゼルは少し首を傾げてから「ああ」と唇を開いた。

「ラピスラズリのことか。綺麗な青色をした鉱石だ。お前のような子どもには縁がないものだろうが――」
「いえっ、その……地名、だと思うんですけど」
「それは耳にしたことがないな」

 ジゼルはばっさりと切り捨てて、水気のない眉間に深いしわを刻んだ。彼女が身に纏っている雰囲気に、氷雨のような冷たさが混じる。

「あまり、お喋りに付き合っている余裕はない。他の奴に聞け」
「……はい。ごめんなさい」

 ひとつ頭を下げて、エリザは足早に研究室を出る。

 ***
 
 エリザは自分の部屋に戻って、椅子に座った。

 目覚まし時計以外は乗っていない木製のデスクに肘を突き、ジゼルが言っていたことについて考える。詳しい説明は分からなかったが、結論としては「人間の未来は見えない」らしい。見えない理由は「不確定性」と言っていた……つまり、人間は何をしでかすか計り知れない、みたいな意味だろうか。

「それは、そうよね」

 エリザは呟いた。

 未来視の目を持っているエリザ自身だって、自分の未来は見えない。どの服を着るか、どちらの足から先に踏み出すか、決めることはできるけど、それは予知ではない。エリザが「こうしよう」と決めた、その意志によって初めて決まる未来だ。

 だから――

 大人になった自分の姿を見たような、あの夢は、やっぱりただの夢だったのだろう。だって人間の未来は見えないのだから。どれだけ鮮明な景色に思えたって、あれは、エリザの脳が作りだした虚構でしかなかった。

 決して手の届かない世界だったのだ。

「……っ」

 そう理解した瞬間、目から涙がぼろりとこぼれた。頭のなかで何かが爆発したみたいに、内側から押し出すものがあって、エリザは熱く火照った頬にいくつも涙を伝わせる。震える身体をまっすぐに保っていられなくなり、嗚咽しながらデスクに顔を伏せた。

 どこかで、期待していた。

 あれが自分の未来であれば良かったのに、と。吹雪に閉ざされた世界じゃなくて、藍色の空が見下ろす街で。薄手のワンピースで外を歩けたなら。口調は厳しいけど優しそうな友達がいて、どこか頼りないけど実直そうな恋人がいたなら。

 そして――

『元気そうだった?』

 夢のなかでラムに、彼と――おそらくはエリザの間に生まれた娘について尋ねたときの、あの優しい感覚。血の繋がった娘を愛する、もしかしたらありふれた、しかしながら絶対に手に入らない感情が、エリザ自身のものだったなら!

 どんなに、幸せだっただろう。

 だけどそれは手に入らないのだ。ハイバネイト・プロジェクトに飼われている限り、友人も恋人も、そしてもちろん娘にも、出会える日は来ないだろう。プロジェクトを抜け出せば多少は自由になるかもしれないが、お金は一銭も持っていない。友人や恋人になってくれるかもしれない相手に出会う前に、路頭に迷って死ぬに決まっている。どんな道を選んだって、あの未来に辿りつけないのは、未来視の目なんて使うまでもなく分かっていた。

 否、子どもを持つための身体の交わりという意味なら、エリザにだって経験はある。

 だけど。

 ――だけど。

「違う……」

 掠れた声で呟いて、エリザはワンピースの袖をまくる。二の腕の内側に、歪な形をした痣ができていた。太腿の裏側にも同じものがある。強引に身体を掴んで引っ張られるから、よく、こういうものができる。赤黒い痣を人差し指で押すと、じわりと痛みが広がる。実際にされるときよりずっと軽い痛みなのに、それは酷く苦痛に感じられた。

『サティに()()されてない?』

 誰かの言葉を思い出して、そうだ、とエリザは顔を上げた。

「あんなのは、違う……!」

 あれは()()だ。

 理解した瞬間、腹の底が抉られるような痛みに襲われた。

 どうして今まで受け入れていたのだろう。避けられない災害のように思えた()()は、自然現象とは違うのだ。エリザの身体を無理やり床に押し付けていたのは、はっきりと意志がある人間の腕だ。

「……えぅ、っ」

 口の中に嫌な味が広がる。

 風邪を引いたときよりもずっと酷い悪寒に襲われて、エリザはがたがたと震えながら自分の二の腕に爪を立てた。勝手に利用されている、良いように使われている、どうしてそれを、今まで怒らずにいられたのだろう。

 それを「乱暴」だと言って、助けてあげるよと甘く囁いたルーカスだって、同じだ。勝手に知らない店に連れ込んで、こちらの言い分も聞かずに顔を近づけて。今になって思えば、あの時とつぜん体調が悪くなったのは、ジュースに何かが混ぜられていたのだろう。その後にやろうとしたことは、多分、サティと大差ない。

「……気持ち悪い」

 ガタンと椅子を蹴って立ち上がる。

 全身の筋肉が強ばっていた。身体中が痒い。皮膚がぷちぷちと音を立てて波打っているような感覚に襲われる。身体が内側から押されて膨らみ、今にも爆発しそうだった。痛む頭にぎりぎりと爪を立て、エリザはこぼれそうなほど目を見開いた。

「気持ち悪い、気持ち悪いっ、嫌だ、やだ、嫌ぁあああああっ……」

 頭のなかから出てくるものが、そのまま悲鳴になった。

 叫ぶ声は、しかし、フェードアウトしていく。噴火のように吹き出した嫌悪感をすべて悲鳴に変えてしまうと、それ以上は何をするにも億劫になって、エリザは後ろにあるベッドに倒れ込んだ。放り出したままの毛布を爪先で引き寄せると、急に身体が重たくなった。

「あぁあ……」

 声にならない声を吐き出す。

 寝転がったまま時計を見ると、午前十一時だった。そろそろ食事の支度をしないといけないが、全身から活力が抜け落ちてしまって、とても起き上がれる気がしない。厚手の毛布を頭から被って、エリザは自分を暗闇に追いやる。向きを整えないまま被ったせいで、爪先が毛布の外に出るが、もう、それを被りなおすのすら面倒だった。

 もう、いい。

 全部なんでもいい。

 どれだけ叫んだって未来は変えられない。サティが今さら自分のやったことを反省するわけがない。ルーカスが態度を改めるわけがない。高性能なシミュレータとして飼われ、雑用係として扱われている日々は変わらない。

 そうだ、変わらないんだから。

 エリザが食事の支度をしなかったせいでプロジェクトメンバーの雰囲気が悪くなったって、だから何だ。ちょっと足掻いたところで未来は変わらない。どうせ最悪な明日しか待っていないのだ。何をしてもしなくても同じだ。なら、少しでも楽なほうに転げ落ちたところで、誰に咎められる筋合いもない。

「……そうよ」

 寝台の上で、エリザは目をぎゅっと閉じる。

「どうでも良いんだ、もう、ぜんぶ――」

 自分に言い聞かせるように呟いた、その時だった。

 コンコン、とノックの音がした。

「エリザ?」

 扉の向こうで、篭もった声がする。

「さっき、なんだか、すごい悲鳴みたいな……大丈夫?」
「……ユーウェン、さん」

 小声で、エリザは彼の名前を呟く。

 分厚い扉どころか、被っているブランケットすら通り抜けないような、ごく小さい声のつもりだった。だけど彼には聞こえていたのか、あるいは返事がないのを不思議に思ったのか、少し切羽詰まった声で「開けてもいい?」と尋ねてきた。

「平気なら、平気って教えて欲しいな、心配だから。それか、僕じゃ問題なら、マリアさんかアマンダさん辺りを呼ぶけど――」
「……っ!」

 ほとんど反射的に、全身が硬直する。

 どちらも、嫌いな名前だった。

「……嫌……っ」
「何か、あったの?」

 絞り出した悲鳴は、今度こそ彼に聞かれたらしかった。一瞬のためらうような沈黙の後に、ガチャリ、とドアノブが捻られた音がする。施錠を忘れていた扉の向こうから、細い扇形の光が差しこんだ。

「……ごめん。ちょっと入るね」

 そんな言葉と一緒に、硬い靴音が近づいてくる。コツンコツンという音が、頭蓋骨のなかでいやに響き渡って、ずきずきとした痛みに変わった。三メートルくらい向こうで立ち止まったユーウェンが「体調が悪いの」と尋ねるから、エリザはブランケットから顔だけを出して、小刻みに首を振ってみせる。

「平気ですから」
「いや……でも、顔色、酷いよ……!」

 ユーウェンが血相を変えて、どうしよう、と独り言のようなものを言う。

「体温計とか薬とか、どこかにないか、ニコライ先生あたりに聞いてこようか。それか、治療室に行ったほうが――」
「――……いで」
「え?」

 意表を突かれたらしい声が、素っ頓狂に応じる。

 垂れ下がった髪の毛の隙間から、エリザはユーウェンを睨んだ。

「来ないで、くださいっ……!」

 ――この人だって。

 一見、親切で良い人に見えるけど、そう見えるだけかもしれない。良い人のフリをするのなんて、きっと簡単なことだ。むしろ悪い人のほうが、何が悪いことなのか知っているから、良い人みたいに振る舞うことができるのだ。サティが交渉先の相手の前で好青年を演じているように。あるいはルーカスがマリアを上手く転がしているように、賢く器用に、内側に潜む悪を覆い隠せるのだ。

「……帰って下さい」

 ギリギリと音が立ちそうなほど、エリザは強くブランケットを握りしめる。ユーウェンは後頭部に片手をやって、途方に暮れたような声で「ええと」と呟いた。

「その――ごめんね、勝手に部屋に入って。もし何か助けが必要だったら、内線とかでも良いから呼んで。今日は僕は、ずっとラボにいるつもりだから」
「……」

 エリザは返事をしなかった。

「じゃあ、また」

 そう言って、ユーウェンはその場で踵を返す。立ち去る彼から背を向けるようにエリザが寝返りを打った、その時だった。

 カサッと軽い音を立てて、何かが落ちた。

「――あれ?」

 ユーウェンも気がついたらしく、立ち止まって振り返る。エリザは億劫に思いながらも、ふたたび寝返りを打って起き上がり、落ちたものを拾おうとした。だが、寝台に寝転がっているエリザよりも、ユーウェンの方が先に屈み込んで()()を拾い上げる。

「何か、落ちたけど」
「あ……!」

 彼が床から拾い上げたものが、視界の片隅に映りこむ。

 それは、空になった()()のフィルムだった。

 全身の血液が凍りつく。

 エリザはブランケットをはね除けて跳び上がり、無我夢中で手を伸ばした。ユーウェンの手から強引にそれを引ったくり、手のひらのなかに閉じ込める。いつもちゃんと、目に付かないよう紙に包んで捨てているはずだったのに、どうして今、こんな最悪のタイミングで。エリザは薬剤のフィルムを握りしめて、そのこぶしを、身体を縮めてさらに隠す。

 エリザ、と名前を呼ばれた。

 明らかに血の気が失せた顔をしていると、そう分かる声だった。

「ごめん、ちょっと見えたんだけど、この薬は、君が使うようなものじゃ――」
「……っ」
「エリザ。まさか君は――」
「止めてっ……!」

 今まで出したことがないほどの大声で、エリザは叫んだ。

「私っ、知りません、こんなの! 出てって、出てってください! もう……!」

 ユーウェンを拒絶する言葉を、エリザは思いつくまま吐き出した。途中からもう、自分が何を言っているのか、よく分からなくなった。ただ彼をここから遠ざけたくて、もう踏み込んでほしくなくて、ただただ叩きつけるように叫んだ。

 喉が痛くなって、エリザは我に返る。

 気がつくと、もうユーウェンは部屋にいなかった。扉も閉められていて、居室は暗闇と静寂に満たされている。エリザはぜえぜえと荒い息を吐きながら、上がりすぎた体温をさらに閉じ込めるように、ブランケットを全身に巻き付けた。

 寝返りを打つと、身体の下で小さいものが潰れるような感覚がした。

 重たい腕を動かして、身体とベッドの間に挟まっていたものを引っ張り出す。

 それはプラスチックの包装に包まれたマカロンだった。ベッドの上に置いたままだったのを忘れていて、身体の側面で押し潰してしまったようだ。マカロンのつるりとした表面には大きなひびが入り、間に挟まれたペーストがあふれ出ている。見るも無惨に潰れたマカロンを見ていると、また、ぼろりと涙がこぼれ落ちた。

 うまく動かない指先で、エリザはマカロンの包装を開ける。

 潰してしまったけど、せっかく貰ったものだから、食べないとダメな気がした。割れたマカロンの欠片をつまみ上げて、寝転がったまま口に運ぶ。じゃりじゃりした砂糖の舌触りを感じるが、味はほとんど分からなかった。ただ、疲れるほど甘ったるいと思っただけだった。

 口の中身を飲み下し、エリザは眠りに落ちていく。
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登場人物紹介

リュンヌ・バレンシア(ルナ)……「ラピスの再生論」の主人公。統一機関の研修生。事なかれ主義で厭世的、消極的でごく少数の人間としか関わりを持とうとしないが物語の中で次第に変化していく。本を読むのが好きで、抜群の記憶力がある。長い三つ編みと月を象ったイヤリングが特徴。名前の後につく「バレンシア」は、ラピス七都のひとつであるバレンシアで幼少期を送ったことを意味する。登場時は19歳、身長160cm。chapitre1から登場。

ソレイユ・バレンシア(ソル)……統一機関の研修生。リュンヌ(ルナ)の相方で幼馴染。ルナとは対照的に社交的で、どんな相手とも親しくなることができ、人間関係を大切にする。利他的で、時折、身の危険を顧みない行動を取る。明るいオレンジの髪と太陽を象ったイヤリングが特徴。登場時は19歳、身長160cm。chapitre1から登場。

カノン・スーチェン……統一機関の研修生で軍部所属。与えられた自分の「役割」に忠実であり、向学心も高いが、人に話しかけるときの態度から誤解されがち。登場時は19歳、身長187cm。chapitre1から登場。

アルシュ・ラ・ロシェル……統一機関の研修生で政治部所属。リュンヌの友人で同室のルームメイト。気が弱く様々なことで悩みがちだが、優しい性格と芯の強さを兼ね備えている。登場時は19歳、身長164cm。chapitre3から登場。

ティア・フィラデルフィア……とある朝、突然統一機関のカフェテリアに現れた謎の少年。ラピスの名簿に記録されておらず、人々の話す言葉を理解できない。登場時は10歳前後、身長130cm程度。chapitre1から登場。

サジェス・ヴォルシスキー……かつて統一機関の幹部候補生だったが、今の立場は不明。リュンヌたちの前に現れたときはゼロという名で呼ばれていた。赤いバンダナで首元を隠している。登場時は21歳、身長172cm。chapitre11から登場。

ラム・サン・パウロ……統一機関の研修生を管理する立場。かつて幹部候補生だったが現在は研修生の指導にあたっており、厳格だが褒めるときは褒める指導者。登場時は44歳、身長167cm。chapitre3から登場。

エリザ……かつてラ・ロシェルにいた女性。素性は不明だが「役割のない世界」からやってきたという。リュンヌと話すのを好み、よく図書館で彼女と語らっていた。笑顔が印象的。登場時は32歳、身長155cm。chapitre9から登場。

カシェ・ハイデラバード……統一機関政治部所属の重役幹部。有能で敏腕と噂されるがその姿を知る者は多くない。見る者を威圧する空気をまとっている。ラムとは古い知り合い。登場時は44歳、身長169cm。chapitre12から登場。

リヤン・バレンシア……バレンシア第43宿舎の住人。宿舎の中で最年少。年上に囲まれているためか無邪気な性格。登場時は17歳、身長152cm。chapitre31から登場。

アンクル・バレンシア……バレンシア第43宿舎の宿長。道具の制作や修繕を自分の「役割」に持つ、穏やかな雰囲気の青年。宿舎の平穏な生活を愛する。登場時は21歳、身長168cm。chapitre33から登場。

サテリット・バレンシア……第43宿舎の副宿長。アンクルの相方。バレンシア公立図書館の司書をしている。とある理由により左足が不自由。あまり表に現れないが好奇心旺盛。登場時は21歳、身長155cm。chapitre33から登場。

シャルル・バレンシア……第43宿舎の住人。普段はリヤンと共に農業に従事し、宿舎では毎食の調理を主に担当する料理長。感情豊かな性格であり守るべきもののために奔走する。登場時は21歳、身長176cm。chapitre33から登場。

リゼ・バレンシア……かつて第43宿舎に住んでいた少年。登場時は16歳、身長161cm。chapitre35から登場。

フルル・スーチェン……MDP総責任者の護衛及び身の回りの世話を担当する少女。統一機関の軍部出身。気が強いが優しく、MDP総責任者に強い信頼を寄せている。登場時は17歳、身長165cm。chapitre39から登場。

リジェラ……ラ・ロシェルで発見されたハイバネイターズの一味。登場時は22歳、身長157cm。chapitre54から登場。

アックス・サン・パウロ……コラル・ルミエールの一員。温厚で怒らない性格だが、それゆえ周囲に振り回されがち。登場時は20歳、身長185cm。chapitre54から登場。

ロマン・サン・パウロ……コラル・ルミエールの一員。気難しく直情的だが、自分のことを認めてくれた相手には素直に接する。登場時は15歳、身長165cm。chapitre54から登場。

ルージュ・サン・パウロ……コラル・ルミエールの一員。本音を包み隠す性格。面白そうなことには自分から向かっていく。登場時は16歳、身長149cm。chapitre54から登場。

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