chapitre140. 微音と静寂
文字数 7,859文字
照明を落とした部屋のなかで、液晶パネルだけが白く煌々と光っている。スケルトンで描画された立体地図のなかを、いくつもの光点がざぁっと流れていく。
“
「――おや」
ひとつの光点の動きを見て、カノンは小さく目を見張った。
「こりゃあ――ひょっとして上の層から、床を抜いたのか」
昇降装置もスロープもないはずの場所で、ほとんど垂直に光点が流れ落ちている。ひとりごとのつもりで、返事は期待していなかったが、意外にも「そうね」と低い声が応じた。
「馬鹿正直に、道筋通りに行くよりは賢いわ」
「そちらは――うまく行きそうですか」
「エリザに任せられたのだから、失敗はしない」
カシェは迷いのない口調で言い切って、それからカノンに視線を向けた。白銀の瞳に宿る眼光は、エリザに向けるものとは別人のように冷たいが、彼女が政治部の重鎮であったころの鋭さもまた、感じ取れない。ただ、何かを失った中年女性の、冬の夜によく似た静寂があるばかりだ。
「貴方も、こんな場所で油を売っていないで、さっさとエリザを迎えに行きなさい」
「あぁ――はい」
仮眠明けの重たいまぶたを擦りながら、素直に従って立ち上がる。それからひとつ思い出して、そうだ、と振り返った。
「あの……マダム・カシェ。あんたも、MDPの人たちが、もし、押し掛けてきたら逃げてくださいよ。マダム・エリザは、どうも、あんたの安否を気に掛けていたようですから」
「ご親切に、ありがとう」
骨の浮いた手の甲で口元を覆って、カシェがすっと目を細める。
「貴方にはなんの利害もないでしょうに」
「いえ、マダム・エリザの願いは、きっとあの子の願いでもあるだろう。なら、俺の願いでもあります」
「ああ、そう……難儀なこと」
興味がなさそうに顔を背けた、その動作がふと静止する。束ねた髪の向こうで、静かに息を吸う気配があった。
「ラムなら何て言ったのかしら」
その呟きは、独白にしてはやけに明瞭で、聞き捨てて部屋を出て行くには、後ろ髪を引く何かがあまりにも力強かった。カノンは静脈認証パネルに伸ばしかけた手を引っ込めて「さあ」と応じる。
「どうでしょうね。俺にはさっぱり」
「貴方、ラムの付き人だったと聞いたけれど。分からないの」
「いつの話ですか。いったい、誰が教えて……まだ研修生だったころの、それも、ほんの数年だけですよ」
苦笑交じりに言って、カノンはコアルームの扉を開ける。たしかに一時期、ラムの身辺の警護を担当してはいたが、今となっては記憶の奥底に埋もれた古い記憶だ。彼の顔立ちや声すら、もう明瞭には思い出せない。
だが、たとえカノンが昨日までラムの付き人をしていたとしても、彼に代わってラムの言葉を代弁できるわけがない。
「分かりませんよ。死んじまうってのはそういうことでしょう」
何かを感じ取る心や、思考の理由付けとなる記憶ごと、意味を持たない物体に変わってしまい、その複製はどこにも存在しないのだから。
そうよね、と呟くかすれ声を背後に、カノンはコアルームを出た。
*
ベルトコンベアの床は静かに振動している。
少し離れて腰を下ろしたシェルとアルシュは、しばらく沈黙を間に挟み、息を整えていた。
「――ん」
身体をゆする無機質な振動に、わずかに違うリズムが挟まった気がして、アルシュは周囲を見渡した。シェルが気がついて、小さく首を傾げる。
「どうしたの」
「なんか、こう――揺れてない?」
「あ……言われると、たしかに」
視線を天井に持ち上げて、シェルが首を捻る。振動は次第に大きくなり、カタカタという音がどこからか聞こえ始める。
「いったん降りた方が良いかな。血、止まった?」
「うん、もう平気」
「良かった」
シェルが立ち上がって、ベルトコンベアから降りる。少し先に進むと、無骨なステップがあり、そこのパネルが取り外せる構造のようだった。拘束された手首で、シェルが器用にパネルを外し、迷いなく向こうに飛び降りる。流れるような行動に、アルシュは一瞬だけ目を見張ってから、慌てて後を追いかけた。パネルのふちを掴んで、自分の身長より少し高い程度の距離を、慎重に降りる。
薄暗い空間は、小さい振幅ながら、やはり揺れていた。メタルラックが壁とぶつかって、音を立てている。非常灯のみが照らす、見覚えのない構造の部屋を見渡して、アルシュは眉をひそめる。
「ここ、どこかな」
「第16層、って書いてある。中間層だね」
壁に埋め込まれた金属製のパネルを見て、シェルが応じる。
中間層というのは、ハイバネイト・シティ最下層と居住区域の中間に存在する、普段は人の立ち入らない領域だ。第11から20層がそう呼ばれており、ハイバネイト・シティが人間の生活する施設として機能するための諸々の機能が詰め込まれている。
「ここには何があるの。安全なの?」
「いや――全然分からないな」
シェルが首を捻る間にも、床が揺れている。アルシュは部屋を見渡して、外の通路につながると思われる扉を見つけた。内鍵を捻り、ドアノブを押し下げると、あっさりと開いた。
「シェル君、外に――」
突然、けたたましく耳障りな音が響いた。
落雷のような音に、全身が凍りつく。思わず細めた目を、おそるおそる見開くと、メタルラックのひとつが倒れていた。巻き込まれて下敷きになるのを、すれすれで逃れたらしいシェルが、数秒のラグを挟んでアルシュに視線を向けた。どうにか浮かべたらしい笑顔は、強ばって歪んでいる。
「うん……外に行った方が良いね」
シェルはそう言って、冷や汗を拭うように、首筋に手を回す。
通路を歩いているうちに振れは収まったが、何かが砕けるような音が数分に一度の頻度で聞こえて、そのたびにアルシュは背筋を強ばらせた。
途中、立ち寄った部屋で工具箱を見つけ、お互いの手錠を壊す。小型のニッパーしか見つけられず、二十分ほど掛けて、両手首をつなぐチェーンを切るのが精一杯だった。それでも、両手が別々に動かせる、数日ぶりに獲得したその自由は、なかなか気分の良いものだった。
さて――と呟いて、シェルは解放された肩をぐるりと回す。
「下に向かいたいところだけど」
「さっきの部屋に戻る?」
「どうしようか。相変わらずどこかでパキパキ言ってるし、また揺れたら物騒だね」
「パキパキって」
断続的に響いている破砕音を、シェルはやけに軽妙な擬音で表現してみせる。
思わず笑ってしまった、その一秒後。
何かが吹き飛ぶ音がする。
それと同時に何かが飛んできて、アルシュは反射的に身体を屈めて飛びすさる。頭をかばった手の甲に、プラスチックのような欠片がぶつかった。
続いて、水しぶきが頬に当たる。
しばらく背を丸めていたが、それっきり何も起こらないので、姿勢を下げたまま視線だけを持ち上げた。通路の暗がりに屈み込んでいたシェルが、ゆっくりと立ち上がるのが見えたので、アルシュもおそるおそる身体を起こした。
音と衝撃の原因はすぐに分かった。
割れたパネルの隙間から、壁の内側をのぞき込む。工具箱からくすねてきたペンライトで照らすと、縦に走っているパイプの一部にひびが入り、そこから濁った水が噴き出していた。顔を近づけると、腐ったような嫌な臭いがして、アルシュは眉をひそめた。
「音の正体はこれか」
頬に飛んだ汚水を拭いながら呟く。
「さっきの揺れも、どこかの水道管が割れたせいかもね」
「ああ、そうかも……」
シェルは同調して頷いたが、ふと片方の眉を持ち上げた。
「いや――でも、局地的な浸水はずっと起きてたけど、振動ってのは聞いたことないな。排水設備がやられて、水が漏れたりはあったけど……」
「そうなの?」
「ぼくの記憶にある限りでは、ない」
彼は頷いて、細めた目を天井に向けた。
「やっぱり、スロープに乗り込むのはちょっと危険かも。浸水したときに逃げ場がないし、遠回りでも、下に行くほかの道を探そう」
「そんな道、都合良くある? あ、そうか、
ハイバネイト・シティの包括的管理AIを頼ることを思いつくが、普段なら呼びかけひとつで応じるはずのAIは、待てど暮らせど返事をよこさなかった。
シェルが唇を尖らせる。
「この辺にスピーカーがないみたいだね」
「間が悪いなぁ」
「居住区域じゃないからね。仕方ない、手探りになるけど、下に降りれる場所を探そう」
「……分かった」
アルシュは頷いて、溜息まじりにジャケットを脱ぐ。空気は少し湿っていて、じわりと暑かった。地上が冬であることを忘れそうなほどの不快感を、じっと押し殺して、無骨な金属製の床をひたすら進む。
「あれ――」
またどこかで音が鳴る。
今度は斜め下の、かなり遠い場所だった。
もう慣れたと言わんばかりに、シェルは肩を持ち上げただけで無反応だったが、アルシュはそれが少し気に掛かって足を止める。
やけに高く響いた音に聞こえたのだ。
エリザがかつて眠っていた、あの吹き抜けのような空間が、音の聞こえた方角にあるのではないか、と想像する。天井が低く、小部屋と細い通路で区切られたアルシュたちの現在地とは、明らかに違う意匠の構造だ。
アルシュが着いてこないことに気がついたシェルが振り返り、疑問の言葉を呈す代わりにひとつ瞬きをしてみせる。アルシュは、自分の思いつきを彼に説明して、最後にこう付け足した。
「当てもなく進むよりは、ともかく、違うものがある方に行ってみない?」
「……道の話、それ」
「そうだけど?」
アルシュが首を傾げると、シェルは口元に小さく笑みを浮かべて見せた。
「そういう哲学、好みって話」
「ああ、シェル君も似たとこあるよね」
「そうかな」
「私よりよっぽど、
一瞬だけ、自分たちが置かれた状況も忘れて、ふたりは顔を見合わせて笑った。
行こう――と頷き合って、音の聞こえた方角へ歩き始める。音を聞き逃さないように、自然と口数が減る。ペンライトの弱い光だけを頼りに、暗く閉ざされた道を行くと、やがて、ずんと重たく冷えた空気が漂ってきた。今までアルシュたちを包み込んでいた蒸し暑い空気とは、正反対と呼べる冷たさに、知らず知らずのうちに唾を飲み込んでいた。
空気が変わった。
つまり、今までとは異なる空間に踏み込みつつあるようだ。アルシュは壁に埋め込まれたパネルを見つけて、そこにペンライトをかざす。金属光沢のなかに浮かび上がったのは文字の羅列だが、意味は分からない。異言語――今となってはその言葉も曖昧な表現であるが、とにかくアルシュが親しんできたものとは別の文法で書かれているようだ。
「シェル君、これ読める?」
一番大きく刻字された単語を指さすが、シェルは眉をしかめた。
「あぁ――何だったかな」
「その下に書いてあるのは読める?」
「こっちに行くと、それ――この単語の示すものがありますよって案内」
「なるほどね」
一行目に書かれた単語が読めない以上は、その情報の価値は無に等しい。思わず溜息を吐いてしまうと、シェルは少しうつむいて、ごめん、と申し訳なさそうに言った。
「役に立てなくて」
「ああ――良いよ良いよ、全然」
慌てて笑顔を浮かべてみせると、シェルは少し不思議そうな表情になってこちらを見上げた。
「アルシュちゃんてさ、最近――」
「何?」
「いや……ごめん、やっぱり勘違い」
彼は、前髪を払うように首を振って、ぎゅっと目を瞑る。それから背をひるがえして、行こう、と歩き出した。
やがて、上下左右に開けた空間に出た。
細い手すりのみがある通路が、茫洋と広がる暗闇のなかに伸びている。
ふたりはペンライトで四方を照らして、その空間のおおよその形状を測った。縦方向には非常に長く、端までは光が届かない。ハイバネイト・シティの層に換算すると、概算して10層以上はあるだろう。横方向にも広いが、縦に比べれば控えめで、全体としては縦に長い円筒のような構造をしている。
アルシュたちがいるのは、そのちょうど中腹あたりだった。湾曲した壁の内側を、蛇が這うように
巨大な空間に圧倒されながらも、通路に一歩踏み出してみる。少し軋むような音はしたものの、簡素な見かけによらず堅牢な構造のようで、アルシュは安堵して振り向いた。
「下に行けそう」
「うん……これ、何の場所だろうね?」
シェルはあごに指を当てて、不思議そうに四方を見回す。見回すだけなら良いのだが、あろうことかその場に立ち止まったので、「ちょっと」と口を尖らせながら彼の腕をつかんだ。
「考えるなら、歩きながらにして。また揺れるかもしれないんだよ」
「あぁ――ごめん」
「まったく、なんで貴方たちはそう、思考に注意力を奪われるかなぁ」
今はここにいない友人も、似たような性質を持っていたことを思い出して、アルシュは小さく肩をすくめる。シェルは何か言いたげに視線を持ち上げたものの、そのまま口を噤んで歩き出した。
二組の足音が高い天井に反響する。
アルシュは音の響きを追って、暗い天蓋を見上げた。
シェルを咎めた建前上、あまり口に出す気にならなかったが、この広大な空間の用途はたしかに気になる点だった。実用上の意味がなくとも、美術的、あるいは宗教的な意味合いのために作られた空間というものは存在する。しかし、ここは中間層であって、本来なら居住者の立ち入らない領域だ。実用性のないものを、わざわざこの階層に作る意味はないだろう。
方々にペンライトの光を巡らせながら、そんなことを考えていると、ふと、壁に刻まれた不思議な模様に気がついた。手のひらほどの大きさをした円形の溝が、金属製の壁にずらりと並んでいる。ただの装飾かと思ったが、目を近づけて観察すると、溝の内側と外側でわずかに質感が異なる。どうやら、壁のなかに無数の円筒が埋め込まれており、その断面が模様のように見えた、というのが真相のようだった。
螺旋の回廊を下り、10分ほど掛けて最下部に辿りつく。無事に底まで降りられたことに安堵して、アルシュは思わず息を吐き、壁にもたれかかった。
すると、ガコン――と軽い音が背後で鳴る。
「うん?」
同時に、壁を押していた肘が、バネのような反動と共に押し返される。驚いて振り返ると、わずかに湾曲した壁から円筒がせり出していた。例の、円形の模様に見えていた溝のひとつだ。どうやら、押し込むことで飛び出してくる仕組みだったようだ。
予期していなかった動きに、背筋を冷や汗が伝う。
「うっわ……これ、まずかったかな」
「どうしたの?」
声に気がついてシェルが近寄ってきたので、せり出した円筒が彼にも見えるよう、アルシュは身体を半回転させる。シェルは床に膝をつき、円筒をペンライトで照らしてじっと見つめる。少し息を整えたかったのもあり、アルシュも彼に倣って、円筒を観察してみた。
両手のなかにすっぽりと収まりそうな大きさの円筒だ。半ばあたりから壁に埋まっているので、正確な奥行きは分からないが。金属製なのは外に露出していた部分のみで、メインの素材は半透明なプラスチックだった。円筒形をしたプラスチックの器に、金属の蓋がついている――という解釈が、おそらく正しいのだろう。
その内側には、白いものが詰められていた。
乾いた木か炭のような質感だ。かなり脆く、砕けやすそうに見える。なれの果てだと思われる白い粉が、円筒の半ばまでを満たしていた。
「なんだろう」
首を傾げたアルシュの横で、シェルが静かに立ち上がった。そのまま、金属の蓋に手を当てて、壁にぐっと押し込む。軽快な音と共に、円筒は元通り、壁に収まった。
「そっか……悪いことしたな」
彼はそう呟いて、首の後ろに手を回す。それからアルシュに視線を向けて、少し気まずそうに切り出した。
「中に入ってたの――たぶん、焼いた骨だと思う」
「焼いた……え?」
「骨だよ」
あまりに馴染みのない言葉に、思考が停止する。ぽかんと口を開けたアルシュから視線を逸らして「つまりさ」とシェルが静かな声で言う。
「ここはお墓なんだ」
無数の円形が刻まれた天井に、彼の声が吸い込まれていく。
「地上で死んだ人は海に送られるけれど、ハイバネイト・シティで死んだ人は皆、ここに来るんだね」
「……この数、じゃあ、ぜんぶ」
身体の中心がぎゅっと絞られたような感覚に襲われて、アルシュは思わずよろめいた。壁に体重を掛けそうになったが、すんでのところで身体を引き戻す。血の気の失せた額に手を当てると、シェルが片方の眉をひそめた。
「ごめん、言わない方が良かったか」
「ああ――いや、私こそ、ごめんなさい。ちょっと動揺して」
気付け薬の代わりに頬を叩くと、シェルが苦笑を返した。まだ高鳴っている心臓を抑えながら、アルシュは円筒形の部屋をぐるりと見渡す。
地下で死んでしまった
目を見開いて、しばらくそのまま瞬きを堪えてみる。数十秒も経つと目が痛くなって、溜息と共に目元を拭った。シェルに不思議そうな視線を向けられているのに気がつき、アルシュは気まずさを笑顔でごまかしてみせる。
「……泣けるかなって思って」
「あぁ――その、先に外出て待ってようか?」
「ううん。なんかね、全然、悲しいと思えなかったから、良いんだ」
言ってから語弊に気がついて、ああ、と慌てて首を振る。
「一緒にがんばろうって言った仲間がさ、亡くなったのは、もちろん悲しいんだけど。でも、ここに彼らの骨があるとしても、なんか、悲しくも嬉しくもないと言うか……」
「……そう」
「冷たいかな」
「いや……同じこと考えてた」
シェルはそう言って、目を伏せた。
「ぼくが尊敬してた人とか、友達だと思ってた人とか……嫌いだった人も、ここにいるはずなんだけど。でも、ぼくにとって、彼らを彼らたらしめてたものって、骨じゃなくて、言葉とか、目の輝きとか、理想の持ち方とか、そういうものだったから――
「そうか――そうかもね」
頷いてから、ふと意地悪な質問を思いついた。
「塔の上にあった、あの装置でさ……過去に戻れば、また、会えるのかな」
「会えるんじゃない?」
ともすれば彼を傷つけかねない言葉だったが、シェルはあっさりと頷く。それから、遠い場所に視線を合わせて「でも」と呟いた。
「同じ関係には戻れないと思う。死んだ人たちじゃなくて……ぼくたちが、変わってしまったから。あったことを、なかったことにはできなくて」
「ここは、皆が生きていない分枝だもんね」
分岐した並行世界を、樹木の枝分かれに例えて、そう呼ぶらしい。アルシュが相槌を打つと、シェルも頷いてみせる。
「この世界そのものを、なかったことにはできないんだって、やっと――理解した」
夜空に似た暗闇を見上げる。
天井から落ちてきた冷たい雫が、頬を打った。