70話 託された願い!
文字数 5,809文字
前回のあらすじ。
2階の廊下から校庭に移動し、後ろから追いかけてくる謎の少年と巨大化したソラから逃げていたバルバトス、ミノル、リサ。
その最中、ミノルの提案から謎の少年に銃を撃つ3人だが、弾のチョコが跳ね返ってしまいリサに被弾。
その直後、リサはライフポイントが減り、その場に気絶。
ミノルが立ち止まったら追い付かれてしまう事を察し、バルバトスは倒れたリサを連れて一緒に逃げる事を断念。
苦渋の判断をしたバルバトスとミノルは、巨大化する前のソラがいた体育館へ走る。
『私が欲しいのは……
フレイムイーターも持っていない、復讐もしない、純粋で騙されやすくて優しくて、いつも仲間に囲まれて笑っている本体のジャック……』
『あなたが存在していいのは私の隣だけ♪
この時をずーっと待ってたわ♪』
メルーナの魔法によって怪しく光る紫色の光の粒に包み込まれ、眠るジャック。
その姿はグレたジャックではなくオリジナルのジャックの姿。
ジャックの心の中にもメルーナの姿が現れ、ジャックは「やった……来てくれた……」と呟きながらどこかへ向かってふらふらと歩いていた。
違う!みんなも許してくれる!
みんなと一緒にいていいんだ!
さぁ、オリジナル以外の心は体から出て行きなさい♪あなた達の事は本体の記憶から消えるわけじゃないんだし、別にいいじゃない♪
さようなら。
本体よりもかっこよくて頭も良い、勇敢なジャック♪
さようなら。
仲間に裏切られ、全てを憎む哀れで可哀想なジャック♪
もう彼は戻れないわ。
新しく生まれ変わったように、今までとは違う心になる。
そしてそれが彼自身の心、つまりオリジナルとしての心になるの。
異世界人ジャックよ。
この女神が、あなたを新たな心へ導いてあげます♪
一段と激しくなる紫色の光。
メルーナが禁忌と言った魔法の効果により、ジャックの体から2つのジャックの心が消滅。
勇ましさも憎しみも無くしたジャックの心には、過ごした記憶のないメルーナとの甘い日々が次々に浮かび、満面の笑みになると意識を失い、眠りについた。
書き換え完了♪
今は変わらないけどだんだん変わっていくわ。眠りから覚めて、セクシャルレインボーに着いた頃にはもう……♪
ふふ♪あはは……♪
微笑を浮かべ、甲高い声で笑うメルーナ。
「次はあの男ね♪」と呟くと、眠ったジャックと共に消えてしまった。
……壁に隠れていた意外な人物に、その一部始終を見られていた事にも気付かずに。
謎の少年とソラから逃げ、体育館へ向かって走ったバルバトスとミノル。
念のため、2人は体育館の周りを走る事で他の場所に走ったように見せ、こっそりと体育館へ入ったが……
バルバトスはリサを置き去りにしてしまった事から悔しそうに体育館の扉を蹴り、ミノルはバルバトスを止められずにいた。
バルバトスさん!
扉を蹴っちゃダメだよ!ボク達の居場所がバレちゃうよ!今は落ち着こうよ!
巨大化したソラと謎の少年が追いかけてきている状況で、リサを置き去りにしてしまった事。
それが頭から離れず、自分の情けなさにガン!ガン!と蹴りながら後悔するバルバトス。
リサを救う作戦を考える彼の頭の中にはどれも無茶をするものばかり。
この体育館に入ってからというもの、ミノルはバルバトスの作戦を「危険だよ!」と言って止めたけれど、作戦の内容が次第に危険になっていく。
ミノルは「どうしたらいいんだよ!」と暴れるバルバトスを止められずにいた。
ソラはでっかくなって殴ってくる!
訳わかんねぇガキに追いかけられる!
ねーちゃんは置き去り!
学校に来てから変な事ばっかりじゃねぇか!!
どうなってんだよ!!
なんとかって何だよ?
ねーちゃんもソラも、全部なんとかなるってのかよ!?
わからないよ!
わからないけど、なんとかするしかない!
そのために体育館に……!
「体育館なら強力な武器があるかもしれない」
そう提案したのはミノル。
しかし、体育館の中にはステージの上にある教壇とソラが怯えていたボール以外何もない。
一刻も早くリサを助けたいが、成す術なし。
するとミノルはステージの上にあるボールが月の光に照らされている事に気付き、窓の外を見る。
外には巨大化したソラと謎の少年、そして倒れているリサ。
……のはずが、リサの姿は無く、一瞬ピンクの長い髪が目の前を横切ったのが見えた。
あれ?リサさんがいない……?
それに今、何かが……?
慌てて窓の外を見るバルバトス。
その背後。
突如として姿を現したメルーナ。
彼女はバルバトスとミノルに撃たれないよう一瞬でステージの上に移動すると、グラスオーヴィのライブがあった時にバルバトスを閉じ込めていた結晶を出し、バルバトスに手招きをしてにっこりと笑う。
返してほしい?
あなたの大事な人、この中に入ってるわよ?
途端に走り出し、大きくジャンプしてステージの上にいるメルーナに向かってパンチを仕掛けるバルバトス。
その拳は想像以上に強く、
メルーナの隣にあった教壇を粉々に壊し、
ステージの上に飾ってあった校章のモニュメントも壊れて落下。
バルバトスはメルーナの激しく揺れる長い髪の匂いを嗅ぐように一度息を吸い込むと、低い声で呟いた。
次は外さねぇぞ。
せっかくの綺麗な髪が汚れる前に姉貴を返せ。
す、すごい……!
すごいよバルバトスさん!ボクも加勢するよ!
ふふ……♪
髪を褒めてくれてありがとう♪
いきなり怖い顔して飛び込んでくるからびっくりしちゃったわ♪
「外してくれた」おかげで、洋服も汚れなくて済んだわ♪
どうしてそんなに怒ってるの?
私は校庭で眠ってたあなたの大事な人を連れて来てあげただけよ?
別に奪ってないわ♪
イヤよ。
せっかちは好きじゃないわ。
それより私から提案があるの。もちろん聞いてくれるわよね?
バルバトス君♪
そう♪
あなたは強いけれど女性を傷つけたくない、かっこよくて優しい紳士♪
戦わず話し合いで済むのならそれでいい。
そう思わない?
バルバトスさんダメだよ!
その人から離れて!ボクも戦うから!!
いや、ここはオレに任せろ。
お前はジャックを探してこい!
この学校にいるんだろ?
最初にチョコに乗ってお前がやってきた時は「ジャックが好きすぎる自分」だったんだろうけど、ジャックの事が好きなのは本当なんだろ?
そのお前がジャックを探してこの学校に来たんだ!だったら絶対にいる!!
ミノルとジャックは同じチームだけどバルバトス君は敵のチームよ?
どうして敵にアドバイスなんてするの?
確かにあの時、オレはジャックに敵だって言ったよ。
でもな、こんな状況になってまでルールに従う必要なんてあるか?
オレ達の目的はサバイバルゲームじゃねぇ。試験に合格する事だろ?
ふ〜ん?
その言い方、まるでこれ以上試験に付き合ってられないと言いたげね?悲しいものだわ、せっかく楽しい世界に招待してあげたのに……
そんな事言わないでもっと楽しんでいきましょう?
豪華賞品も用意してあるのよ?
メルーナちゃん。
確かに君はかわいい!綺麗だ!ボインも申し分ない大きさだ!
興味がないと言えば嘘になる!あぁそうさ!
君は美しい!!
あら、そこまで言ってくれるなんて思わなかったわ♪
ありがと❤️
でも、君ももうこんなサバイバル、どうでもいいんだろ?
オレがゲームを放棄する理由は今君がここにいる理由と同じだ。
なるほど?
ただの筋肉バカと思ったら頭もキレるのね?
バルバトスの「友達」という言葉を聞き、
涙を流しながらメルーナとバルバトスに背を向けて体育館から出ていくミノル。
願いを託したバルバトスは「ふぅ……」とため息をひとつ。
準備運動でもするかのように腕をグルグルと回し、ファイティングポーズをとるとニカッと笑う。
何のつもりか知らないけど、あまり女神をナメない方がいいわよ?
バチが当たるから。
巨大化したソラの容赦のないパンチによる痛恨の一撃。
ソラに向かって体のいろいろな所から光線を放っていたゴラロボだったが、パンチを喰らってしまった事で吹っ飛んでしまい校舎の2階に激突。
そのまま校庭まで落下してしまった。
諦めず、ソラに向かって走り出すゴラロボ。
その行動には訳があり、彼は焦っていた。
そう、
バルバトス、ミノル、リサを追いかけていたはずの謎の少年がソラを狙って攻撃を仕掛けていた。
ところが、ゴラロボがソラに気付いてほしくて光線を撃っていたにも関わらず、パンチを受ける始末。
邪魔したら首をグルグル!
ジャックの頭もグルグル!あははハハハ!
ゴラロボの元に現れたのは、
またも禁句を聞いてしまったミノル。
五智谷中学校に来た時と同じ顔をして立ち、謎の少年に向かって銃を発射。
跳ね返ってきたチョコの弾を避け、一瞬で謎の少年の頭上にジャンプしたミノルは、充分な間合いをとると手をパーにして謎の少年を見つめる。
しかし謎の少年も黙ってはいない。
両手に黒い渦のようなものを纏うとケタケタと笑い、ミノルに攻撃を仕掛けようとする。
ボクはこの世界で「ジャックくんを好きすぎる自分」と入れ替わった。
でもそれはもともとで、グラスオーヴィに着く前からずっと嫉妬してた。
本当はね、嫉妬してるのも好きでいるのも辛いって思ってた。
誰にも言わなかったけど、いっそボクの気持ちが無くなっちゃえばいいのにって思った事もある。
だけど……
『最初にチョコに乗ってお前がやってきた時は「ジャックが好きすぎる自分」だったんだろうけど、ジャックの事が好きなのは本当なんだろ?
そのお前がジャックを探してこの学校に来たんだ!だったら絶対にいる!!』
ボクがジャックくんの事を好きっていう気持ちを理解してくれた人がいるから!
嫌わないで、怖がらないでくれた人がいるから!
だからボクは、使っちゃダメって言われても"あの力"を使う!!
ボクはジャックくんが好き……
ボク以外が触れるなんて嫌だ……
ボク以外の誰かと笑ってるなんて嫌だ……
手を前に出したまま下を向き、
「好き、好き、好き、好き……」と同じ言葉を繰り返しながらジャックへの気持ちを増幅させるミノル。
そしてジョブや武器などの異世界の要素のデータベースとミノルを見比べながら"異変"に気付き、驚くゴラロボ。
闇エネルギーを感知……!
10%、20%、30%、どんどん上がっていく!
でもおかしいぞ。
魔法ジョブなら空気中の精霊の力を使っているはずだけど彼女は魔法ジョブじゃない……
つまりこの闇の力は魔法じゃない……
じゃあこの力はどこから……?
あはは!
闇が欲しいの?あげるよ?あげるよ?
いっそのこと"君も"一緒になる?
謎の少年の発言に動揺するゴラロボ。
恐る恐るミノルの体を見ると、黒いオーラのようなものがはっきりと見えている。
そしてそれを辿ると、謎の少年の体にたどり着く。
少年の闇の中から人間の生命反応を感知!
理解不能!理解不能!!
そう、ミノルは嫉妬の力を増幅させるのと同時に、謎の少年からジャックの心臓の鼓動が聞こえていた。
メルーナだよ。
きっとジャックくんの元に何かがあって、少年の闇に閉じ込められたんだ。
リサさんが結晶の中に閉じ込められたのと同じように……!
(あれ……?なんでジャックくんとリサさんは別々の場所に閉じ込められたんだ……?)
少年の闇の力を吸い取りながら今までの事を思い出すミノル。
気になった事は3つ。
少年に当たったはずの弾が跳ね返った事。
メルーナがリサは結晶の中にいると言った事。
バルバトスがサバイバルを放棄すると言った事。
『バルバトスさん!
リサさんがチョコに当たっちゃったよう!!』
『返してほしい?
あなたの大事な人、この中に入ってるわよ?』
『でも、君ももうこんなサバイバル、どうでもいいんだろ?
オレがゲームを放棄する理由は今君がここにいる理由と同じだ。』
そう。そうだったのよ。
よくわかったわね、バルバトス君♪
でもどうして?
なぜそれがわかっていながらここに残ったの?
何の意味もないのに……♪
意味ならあるさ。
ミノルは自分の気持ちに自信が持てた。
それにオレ達はこれから、運命を共にするんだ。
ロマンティックだろ?
あら、ロマンティックなのは好きよ?
どんなデートをしてくれるのかしら?
そうだな〜!
どうせこの場にゃ"誰もいない"んだし、1発ドカーンとやっちまうのもアリかもなぁ!
意味深な会話をしながら笑い飛ばすバルバトス。
そして怪しく笑みを浮かべながらまだ何かを企むメルーナ。
果たして、ミノルの考えた可能性とは何なのか?
メルーナ、バルバトスの会話の内容は?
少年の中にいる人間の生命反応の正体は?
何かを察したミノルはすぐに体育館へ走る。
「手遅れ」になる前に。
つづく!
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