147話 弱点を探せ!コロシアムの3つの戦い!
文字数 4,187文字
前回のあらすじ。
再び現れた謎の声によってハルが命の危機に陥るも、笑顔を見せて見事に止めさせる事に成功したジャック。
コタローが怒って「笑い声が怖い、君は誰なの?」と謎の声の正体に近付くような事を言ってしまいハルが焦ると……
『ハルさんを離してくれてありがとう!
さぁ、オレと一緒に踊ろうよ!』
なんと、ダンシングノーツによる戦いを続行して謎の声の主を誘い出し、コタローの安全も確保。
ハルはジャックの信じられない行動を見ると、とある男からこの旅を頼まれた事を思い出して笑顔に。
そして一方、ルルカは1枚の手紙を発見。
ウエノの冒険者ギルドやラトリア、グランドールなどの言葉が書かれている事からハルがここまでの旅路の出来事をすでに知っていた事が判明。
ハルが今までに意味深な事を何度か言っていた事を思い出し、未来が書かれた手紙がないか探し出す……。
****
ハルに持ちかけたダンスバトル。
そのルールは簡単で、1人ずつオリジナルソングを歌って他の人は踊りつつクオリティを保ち続けるというもの。
例えばジャックが歌った場合ハルとコタローとウルクが踊る形になって、少しでも踊りのキレが落ちたら即失格。
そして「さっそくオレの番だー!」とジャックが張り切るけど、ここで突然のルール変更と説明タイム。
アタシの相手は1人でいいよ?
あとの2人は先に進みな!
このクエストの目的はシロナの救出さ。
アタシに勝ったって終わりじゃないよ?
このクエストの敵はアタシの他に2人。
それぞれ別の部屋でアンタ達を待ち受けてる。
アンタが言った「オレのやり方」で戦うのは結構だけどここは歴史のある円形型闘技場。
あんまり暴れすぎて壁やら天井やら壊したらえらい事になるよ?
もちろんです!
コロシアムはゾウとかライオンとかの動物が出て剣闘士が戦ったり、剣闘士同士の戦いもあるすごい所ですからね!
このクエストが終わったらいっぱい動画撮ろうと思ってます!
ふふ……さすがじゃないか。
このコロシアムには獣人が出場するものだけど、中には人間もいるみたいでね。
今までの優勝者の写真が飾られた部屋に見知った顔があったよ。
アンタが見たらビックリするだろう。はっはっは!
いいなぁ!早く見たいっ!
ルルカちゃんとアラネアさんがいる部屋もただの部屋じゃなさそうですね!
そうとも!実際に剣闘士が戦う部屋だからねぇ!
他にも剣闘士が休憩する部屋、猛獣を閉じ込めておく檻、ここには魅力がたくさんあるよ!
ハルの言うコロシアムの内部に心踊らせるジャック。
拳を握って両手を大きく広げて、動画を撮る気持ちが先走ってしまう。
エヘヘ!
ボク達にとっては普通のものでも楽しみにしてくれるの、すっごく嬉しいや!
もちろんっ!!
コタロー君、ウルク君、後で案内してね!絶対だよ!!
……ふぅ。
しょうがないな。コタロー、行くぞ。
中にいる敵の弱点くらい探しておこう。
そうすればすぐ案内できるだろ?
よーーーし!ボクはルルカちゃんに会いに行くぞ!
ボクの完璧な作戦であっという間に勝っちゃうんだから!
決まったようだね。
ルルカちゃんは地下1階、アラネアは1階にいるよ。
ジャック、作戦通り動けば勝てる。
そのための用意もしたし、まだハルに見せていない「変化」はあるんだ。
必ず、また後で会おう。
コタローとウルクは一足早く戦いの場へ。
それはあくまで倒すのが目的じゃなく、後にジャックが追いかけて再会した時に攻略のヒントを教えるため。
拳と拳をガツンと当てて、2人は入り口に向かって走って行った。
するとハルは思わせぶりに少し笑って、ため息をひとつ。
コタローにウルクか……
アンタの事をすっかり気に入っちまったみたいだね。
いい友達が出来たじゃないか。
……もっとたくさんの人と友達になりたい。
誰も失いたくない。みんなと一緒にいたい。
オレの潜在能力を鍛えて、ちゃんと安心したい。
みんながピンチになっても助けられるんだって思いたい。
そしたら、みんなともっともっと笑っていられるようになれるかな!
なれるさ。
潜在能力を鍛えるための「たくさん笑う」ってのはたくさん絆を結ぶって事さ。
戦うのが嫌で本気で殺すような事はしたくない、優しすぎる自分にピッタリだと思うだろう?
はいっ!!
オレ、もっともっと笑う!たくさん笑って、楽しく冒険したいんだ!!
……なんだろう?この気持ち。
ジャック君の心が暖かくなってく。
ハルの言葉によってジャックが笑顔になれたこと。
それを知った謎の声の主がジャックを諦めること。
これこそがハルが思わせぶりにため息をした理由。
(近いうちに仲間が死ぬって?お前の思い通りなんかにはさせないよ!!)
ドゥーンのスキルの世界の中でジャックに潜在能力を欲しいと言ったこと。
近いうちに仲間が死ぬと言ったこと。
実はこれらはルルカが拾った手紙には書いていなかった事で、アラネアの件でジャックが気を失っている間に新たに手に入れた手紙を読んで知った。
(2度とジャックに関わるな、と言いたいところだけどここは我慢か。こうなったら無理矢理でも笑ってもらわなくちゃね。)
さぁさぁ!楽しいクエストの再開だよ!
オリジナル曲いっぱいのダンスバトルを始めようか!
****
一方、コロシアム内部――。
レンガでできた壁に、一定間隔で設置された松明。
4メートルほどの高さでトンネルのような造り。
そして、ルルカの指示でジャック達を待ち受ける大勢の剣闘士がいるのは入り口から奥の部屋まで伸びる通路。
コタローとウルクの2人はハルが言った地下1階の部屋と1階の部屋を目指すべくこの通路を通ろうとしていたけど、ウルクには簡単に突破できる秘密の力が……。
あぁそうだ!
ジャックとかいう人間に協力してる子供ってのはお前達で間違いないな?
おいよせ、照れるじゃないか!俺達も日々鍛えてるだけあるだろう?
照れてる場合か。
それよりそのジャックがいないようだが、どういう事だ?
俺達が相手だ。
俺は獣人の中でも特別な血を引く一族、お前達を倒して先に進めというならすぐにでも倒してやる。
ウルクの目の色が変わってからわずか数秒。
20人以上いた獣人達の体は引き裂いたような爪痕が付いて倒れてしまった。
わぁ!壁にも爪痕が付いてるよ!
前に会った時よりパワーアップしてるね!
あっという間に倒しちゃったよ!
まだ体に馴染んでいない証拠だな……!
平気だ、少し休めば痛みは消える……!
お前は気にせず先に進んでくれ……!
1階の部屋はこの奥だ……!
ジャックの話だとルルカという人間は強い……!
必ず作戦通りに動くんだぞ……!
胸が痛むのか、壁に背を向けてゆっくりと座るウルク。
奥の部屋に向かって走っていくコタローを見つめながら深呼吸をして、落ち着きを取り戻す。
人間と動物の能力を持った獣人の中でも限られた者しか持たない能力。
普段の獣人は人間としての機能を8割、動物を2割しか持たないけれど、動物の力を100%引き出す事ができるのが「野生解放」と呼ばれる特別なもの。
ウルクはその能力が扱える選ばれた一族で、一瞬にして他の獣人達を倒すことに成功したものの、普段の何倍もの力を使ったために体に痛みが……
はぁ……困ったものね……
どうしてジャックがいないの?
どうしてあなただけなの?
…………。
待ち切れなくて部屋から出てきたのか。
悪いがジャックはハルと戦ってる最中だ。
俺とコタローは一足先にお前達を倒すヒントを探しに来た。
ヒント?
それならお願いがあるんだけどいいかしら?
ジャックのためになる事だから損はしないはずよ?
そう、協力してほしいのよ。
言っておくけど野生解放はお断りだからね?
まぁ、負担が大きすぎて戦える体じゃないだろうけど……
かわいそうだけど無理矢理でも従ってもらうしかないわね。
はぁ……理解してくれると思ったけど勘違いしてたみたい。
わあああああああ!?
熱い!熱い!熱い!熱い!熱い〜〜〜!!
だからっていきなり炎のパンチしなくたっていいじゃんか〜〜〜!
ボクはまだ扉を開けただけだよ〜〜〜!?
あたしのジョブはマジックファイター。
火、雷、水、風、いろんなエネルギーを体に纏って殴ったり蹴ったりするのが基本の戦い方。
だから火なら燃えるパンチになるし、雷ならパンチして感電もさせられる。
……まぁ、ほんとならこれはジャックに教えるつもりだったんだけど。
ふーっ!ふーっ!
息を吹きかけても火が消えないよ〜〜〜!
わああああああああ!?
何でもう一回炎のパンチするのさ!?
熱いし痛いよ!勘弁してよ〜〜〜!
これじゃ弱点なんて見つけられないよ〜〜〜!!
そうだよ!
後でジャック君が来るから!
その前にボクが君の弱点を見つけて教えてあげるんだ!!
そしたらあっという間に君をやっつけて、ジャック君にこのコロシアムを案内してあげるんだ!!
……無理ね。
あたしには弱点なんてないし、ジャックなんて一度もあたしに勝った事ないんだから。
そんなことない。
どんな人も必ず弱点はあるはずだよ!
何度やられたってボクは絶対に諦めないぞ!!
へぇ、おもしろいじゃない。
じゃああんたが弱点を見つけるのが先か、あたしのマジックファイターでボコボコにするのが先か……
ジャックVSハル。
コタローVSルルカ。
ウルクVSアラネア。
コロシアムの3つの戦いが今、始まる――。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)