124話 怒り爆発!仲間を想うパンザレスの叫び!
文字数 5,906文字
はぁ……!はぁ……!
まだ誰も着いてないみたいだな……!
ここはグロウブリッジ。
ステラフォールの上に設置された巨大な橋。
アーリーナイト城付近の観光地の1つになっていて、朝から夕方にかけて多くの人で賑わう。
中でもバンジージャンプ体験ができるスポットとしては珍しく、ジルベスタ率いる騎士団のメンバーが観光案内をしている。
そんな場所にやって来たのはパンザレス。
ドゥーンとジャックを探してキョロキョロするけれどその姿は見当たらない。
時刻は午前4時になったばかり。
クエストのタイムリミットは朝8時。
本当ならとっくにここに着いて、ジャックのバンジージャンプの手伝いをしてジョビデへ。
その後の事は分からないけれど、ジョビデかウエノできっと寝ているに違いない。
緊急事態でも体は正直。
体力も消耗しているし空腹感もある。
あくびをした途端「きゅるぅ……」とお腹の音が鳴ってしまった。
2人ともちゃんと逃げれたよなぁ?
ジョビデは酒場だし、飲み食いできるはずだから本当だったら腹いっぱい食べてたはず……
グロウブリッジの端から中央の位置にあるバンジージャンプの準備をする場所まで歩いていたパンザレスは、橋の上に設置された売店の前に座る。
それはシャッターこそ閉まっているものの、駅のホームにある売店と似たようなもので、様々な食べ物の絵と値段が飾られていた。
スケアゴーストのマシュマロ、
アーリーバードのバター焼き……
へぇ〜?何だか美味そうだなぁ。
焼き鳥食いてぇ〜!
初めて聞くメニューの名前でどんなものか想像。
店員がいる妄想をして注文すると「なんちゃって〜!」と笑ってみせる。
すると……?
えっ!?
何だ今の!?女の子みたいな声が聞こえたぞ!?
どこから!?何で!?え!?
ジルベスタでしょ?
ふざけてないで入ってきたらどうなのよ?
聞こえて来たのはダルそうな女の子の声。
その声はどうやら売店の中から聞こえるようで、何やらガサガサと物音が聞こえる。
するとパンザレスは中にいる女の子を想像。
パターン1。
売店のスタッフで小太りのねーちゃん。
食うの大好き。
パターン2。
売店に忍び込んだ食いしん坊オバサン。
かわいい声と思いきやダミ声。
パターン3。
売店に異世界転移したオタクの女の子。
ゲームしながらお菓子食ってる。
突然の出来事にポカーン。
シャッターの開いた音が聞こえた後、女の子が出てきて、お菓子の甘い匂いがふわっと香って……
キンパツスゲーーー!
ドリルスゲーーー!
コスプレじゃないよなぁ!?地毛だよなぁ!?
――へぇ?
誤解で捕まったから逃げてきたと?
大変ね、あなた。
でしょでしょ!
アーリーナイト城の騎士団に会うのはまずいんだよ〜!
それで〜君の名前は〜?
【クラーチェ】
そのアーリーナイト騎士団の
団長ジルベスタの右腕、クラーチェ様だけど?
日本から来た事もバレてる……!?
このまま帝国に引き渡されるんだ……!
あああ……!
そんな事して何の得があるの?
そんなもの1リエルにもならないんだけど?
あ……
あ、そうだ。何で日本から来たってわかったの!?気配とか!?
そっちじゃないわ!
異世界人には特別な匂いがするのよ。
今まで嗅いだ事のないものがふわっとね。
さっきジルベスタの名前出したけど、全然匂いが違ったからもしかしてって思ったわ。
それで?バンジージャンプするならいいけど、あなたがやるわけじゃないんでしょ?
だから何?
どうしてそんなめんどくさい事に付き合わなきゃいけないのよ?
毎日毎日食べ物に囲まれた生活はいいけど、団長のせいで10キロも太っちゃって困ってんの!
ええええええ!?
捕まったら殺されるかもしれないのに!?
そんな事あるわけないでしょ?
ジルベスタがいる限り傷一つ付ける事はない。
あなたも捕まっただけで怪我なんてしてないはずよ?
しょうがないから私も一緒に行ってあげる。
在庫が切れてるのがいくつかあるからちょうどいいし、他の子に交代してもらおっと♪
そう言うと、クラーチェは売店の中に入って荷物を取り、シャッターを閉める。
不意に「そういえばあなた……」とパンザレスを呼んだその瞬間……
忘却の古戦場。
昔世界中で大きな戦いがあって、その時に使われていた武器の事よ。
今は世界中のどこかに封印されているの。
でもその所有者はすでにいて、
その封印を解いた者、昔から受け継いでいる一族、
その武器に取り憑かれた者、認められた者……
私達アーリー騎士団の中にもいるわ。
名前はアルク。
10日前に騎士団に入ったばっかりの少年で、元々は「グランドール」の騎士団の1人なの。
北にある都市の名前ね。
周りにある町から実力者をスカウトして、屈強な戦士に育て上げることで高い軍事力を持ってるの。
まだ14の子供だけどね。
昔からとんでもない財産と古戦場の武器を持つ実力者なんだけど、"黒い噂"しか聞かない。
どうせうちの騎士団にいるのも何か企んでいるからに違いないわ。
確か、ジャックとかいう異世界人を探してるんだって。
アップデートの鍵になるとかなんとか。
そうそう。
今まで無かったものを付け足したり消したり、世界そのものを変えるのがアップデート。
それで、ジャックが何かするとそのアップデートが行われるんだって!
よくわかんないけど不思議よね!
え?ジャックを知ってるの?
もしかして異世界人の中でも有名だったり?
その瞬間、森の中から雷が落ちるような音が鳴り響く。
うおっ!?何の音だ!?
雷!?雨降ってないけど……!
さっき話した古戦場の1つ……!
使い手はアルク!真の力を解放すると槍を振るたびに雷が落ちたような音がするの!!
でも待って。
ゼイルノートを使っているのがアルクなのは間違いない。でも戦う相手なんていないはず……!
牢屋に誰かいた?
胸のバッジね。
これは騎士団の証で、緊急の時に鳴るようになってるの。帝国の人間が来たとか負傷者が出たとか、そういう時の連絡手段ね。
相手と話す事もできるわ。
クラーチェ!
聞こえるか!?返事をしてくれ!頼む!!
はいはい、聞こえてるわよ?
そんなに慌ててどうしたのよ?
今どこにいるんだ!?
もしグロウブリッジにいるなら城に戻ってきてくれ!!君の身が危ない!!
ちょっと、危ないってどういう事?
それよりさっきから雷の音が聞こえるんだけど、アルクの仕業でしょ?
どうなってんの?
やはりそっちも聞こえるか……!
わかった。城に戻りながら聞いてくれ!
アルクが騎士団を裏切った……!
負傷者は城の兵士と騎士団員!
それから青年が1人重体で意識がない……!!
名前はドゥーン……!
地下牢から逃げ出し、いろはちゃんを庇ってくれた異世界人だ!!
全身に火傷を負ってひどい状態だ!
全力で戦ってくれたんだろう……!!
治療班を呼んだが意識が戻らないままなんだ!!
このままだとドゥーン君の命に関わる!
頼む!君の治癒魔法の力を貸してくれ!!!
「ドゥーンが火傷を負っていて命に関わる」。
クラーチェのバッジから聞こえる言葉に動揺して体が震えるパンザレス。
そのままジルベスタに話しかける。
もしかして君は、地下牢から逃げ出したドゥーン君の仲間!?
頼む!
クラーチェと一緒に城に戻ってきてくれないか!?
捕まえるような事はしない!
ジャック君とパンザレス君の安全を約束しよう!!
な、何故だ!?
私の言葉に嘘はない!絶対に捕まえない!!
このままそこにいたら君も危険な目に遭うかもしれないんだぞ!?
奴はドゥーン君を攻撃した後、ジャック君を探して逃走した……!
恐らくグロウブリッジ周辺に潜んでいるはずだが……!
素手でバッジを壊した!?
どういうつもり!?一体何なのよ!?
途端にバッジを握り潰してしまうパンザレス。
そのままクラーチェの肩を掴んだ瞬間、全力で押し倒す。
クラーチェは突然の事に驚きつつも顔を赤くして叫ぶけれど、すぐにその意味を理解する。
ちょちょっとやめてよ!?
いきなり押し倒されたらびっくりするじゃない!
私に惚れちゃったのは分かるけど乱暴しないでよね!!
もう少し優しく……
チッ。外したか……串刺しにして生首をぶら下げてやろうかと思ったのに。
なんと、突如変わり果てた姿のアルクが襲来。
パンザレスは橋の下から飛んできた槍を避ける事に成功するだけでなく、クラーチェも安全な無傷。
そう。
突然クラーチェを押し倒したのは卑猥な意味ではなく、アルクの攻撃から守るため。
あのままジルベスタとの会話を続けていたら雷鳴の音と共に直撃していただろう。
(嘘でしょ!?気配も槍の音も気付かなかった!この暗さの中で正確に避けたっていうの!?)
(それにこいつ、アルクで間違いのよね……?雰囲気も体の色もいつもと全然違うじゃない!なにより威圧感がヤバい……!!)
あ、あんた……!
ついに正体を現したようね!
目的は私達騎士団の壊滅!?それとも城を堕とすため!?
答えなさいよ!!
生意気な女だ……
誰に口を聞いているのかわかってないようだな?
僕はアルク。
殲滅が大好きでね、人間もエルフも獣人も魔物も、全てを葬ってきた。
そしてとある大陸の男に憧れて旅をしている最中、最も再現度の高い力を持った騎士団にスカウトされたのさ。
それがグランドール騎士団。
脅威的な力を人間に注ぎ込むんだ。嫌だと言ってもね。
ただ僕は拒まなかった。血を見るのも悲鳴も聞くのも今までよりずっと楽しくなって仕方ないんだ。
やっぱり人体実験の噂は本当だったのね……!
狂ってるとしか思えない……!
あなたが憧れてる男は誰なの!?
オルーム様だ……!
彼こそ遠い大陸クロスウッドで殲滅を繰り返した男。
思わず動揺して叫んでしまうパンザレス。
一度ドゥーンと一緒にその名前を聞いた事がある。
それはガチャの世界で出会ったブルの故郷。
クロスウッドとは別の世界にある大陸。
あの時はコラボできる喜びを分かち合ったけれど、ブルのような少年もいれば殲滅を繰り返す者もいる。
そしてアルクこそ、
未知の大陸の登場人物に心打たれた者。
もちろん憧れの方向性は普通ではないけれど、殲滅が好きだと言う気持ちが本物なのを肌で感じる。
何だ?
お前、クロスウッドを知っているのか?
なら話は早いな。
お前はどこの騎士団にも入ってないだろ?
ならこんな力のない騎士団など止めておけ。
グランドールこそ至高。素晴らしい力が手に入るぞ?
そんな誘いに乗るわけないでしょ?
どうして私達の騎士団に入ったの!?
1つはジルベスタの力の正体を探るため。
もう1つはジャックだ。
もちろん!
奴はアップデートを起こす鍵なんだ!
世の中の弱い奴は皆殺し!
ジャックもそれ以外の奴も奴隷にしてやるんだ!
いい世界になるぜ!はははははは!
そうだ。
さっきクソ弱い異世界人がいたんだ。
いろはとかいう生意気な女を守りやがった。
いろはちゃん!?
その異世界人は無事なんでしょうね!?
見ろよ。
クエストクロックもボロボロだ。
弱すぎるんじゃ話にならない。
ん?あいつの知り合いか?
フン、この匂い。お前も異世界人だな?
だがお前だけは殺さないでおいてやる!
そう言って画面も割れて壊れてしまったクエストクロックを放り投げ……
ガシャン!
足で踏み潰し、跡形もなく消すようにガシャガチャと何度も踏んで笑うアルク……。
そのクエストクロックは、
ガチャの世界から脱出した後すぐに、ドゥーンがウエノの冒険者ギルドで作り直した新品そのもの。
これを手に入れてジョビデを目指す途中ジャックやルルカとバディをして、「たくさんの女の子とバディしたーい!」とこっそり笑っていた。
そして、そのドゥーンが女の子を守るために戦って、
ジルベスタの言った通り火傷を負って意識を失った。
きっとその女の子は「好き!」と言っていた子で間違いないだろう。
さっきの雷が落ちるような音も戦っていた時の音……。
もう必要ないだろ?
どうせ二度と動けないんだ。
暗闇の中で独りぼっちで「おねんね」さ!
ははははは!ははははは!
バーーーーカ!バーーーーカ!
弱いからこうなるんだよ!思い知ったかザコが!!
ははははははははははははは!
ドゥーンとの記憶を思い出すパンザレス。
その目には涙が。
何だ?お前も逆らうのか?
なら仕方ないな。今からお前は殲滅対象だ。
後ろにいる女もな。
上等だクソガキ……!!
どんなに痛くてもギャーギャー喚くんじゃねぇぞ。
教えてやるよ。
てめぇがナメた相手がどんだけ強ぇのか、仲間を傷付けられてどんだけ辛いか!!
クラーチェを守るようにして前に立ち、
アルクに向かって指をさすパンザレス。
つづく!
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