40話 ミノルを止めろ!禁忌のスキルとソラの涙!
文字数 5,116文字
前回のあらすじ。
ソラの過激なスキンシップに、限界を超えるミノルの嫉妬心。
ミノルは嫉妬に狂い、黒いオーラを纏うとソラだけではなくジャックも含めた攻撃を放つ。
その直後、ジャックとソラは姿を消し……
ねぇ、急にどうしたの……?何でそんなに怒ってるの?なんでそんな顔するの……?
あんた、誰かに操られてるのよ!でなきゃこんな事するはずない!ジャックもソラも味方なのに攻撃するなんてあり得ない!そうでしょ!?
リリムの説得も虚しく、攻撃を繰り出すミノル。
嫉妬が生んだ禍々しい渦は、標的となったリリムだけでなく結衣やリーシャも巻き込むほどの大きさに変わっていた。
涙目で叫ぶリリム。
ソラは消えてしまったけれど、きっと生きているはず。
きっと何事も無かったかのように、ひょっこり現れて助けに来てくれるはず。
そう信じて目を閉じる。
その瞬間。
大丈夫、ボクが守るよ。
君を傷つけたりなんてしない。
突如リリムの前に現れたソラ。
迫り来る嫉妬の渦を見ると、手を上げて「おいでー!」と叫ぶ。
するとどうだろう。
たこ焼きボンバーの周りを浮いていた料理がソラの前へ、次々に集まっていく。
なんで食べ物がこっちに来るの?当たったら大変だよう!
天丼、カツ丼、牛丼、豚丼……あ〜お腹すいたなぁ〜……。
様々な料理を自分の前に集めながら、1つずつ眺めるソラ。
頭の中で何かをイメージしているのか、ブツブツと呟きながら手を怪しげに動かす。
まずはカツ丼……それとネギ……ワサビに……あとは〜……
ソラが料理を操り作っていたもの。
それは、いくつもの料理を集めて作り上げた巨人。
右手に剣、左手に盾を持ち、頭は「はんぺん」のように白い。
しかし、見るからに弱そうな見た目とその技名とは裏腹に、ミノルの攻撃を盾で防ぐ事に成功。
決まった!ワサビシールド!!効果はバツグンだー!!
まさかの盾の名前に驚くあまり、猫の銅像の影に隠れていたはずのジャックが二度もツッコミをしてしまった。
あいつ一体何なのよ!?食べ物でできたモンスター作るなんて聞いた事ないし、変な名前ばっかりつけるし、あの子の攻撃受け止めるし、ジャックは生きてるし、もう意味わかんない!
スキル!?
それって、異世界人だけが使える能力よね……?
うん。ソラ君のスキルは食べ物を操ること。食べ物を自由に動かしたり、合体させたり、分解・再生したり、いろんな事ができるんだ。
合体?もしかして、フードモンスターとかいうのは……
あれはソラ君の頭の中でイメージした生き物を食べ物で作ったもの。
たぶん、盾がワサビで剣がネギでできてるんじゃないかな?
あの時ソラ君がやったのは「合体」じゃなくて「分解」。
「分解」は、料理になる前の状態に戻す能力。
うん。
ミノルの攻撃がオレ達に当たる直前、ソラ君はすぐ気付いたんだ。
ミノルが攻撃してすぐ、スパゲッティに当たってた事に。
スパゲッティ……?
もしかして、ソラはそれを使って……?
その通り。
ソラ君はミノルの攻撃に巻き込まれたスパゲッティを「分解」して、乾麺の硬さを何倍にも上げるために「変形」の能力を使った。そして……
『だって、麺を硬くして盾にしようと思ったのに力が足りないんだもん。あの子強くて怖いねぇ!』
『大丈夫!麺にした時、半分だけ分けておいたんだ。この麺を硬いものから柔らかいものにして、すごーく伸びるようにして〜……よしできた!』
『あとは踏むだけ!トランポリンみたいにピョンって跳べるから、天井からぶら下がってる鎖にしがみついて!』
『船に繋がった鎖までジャンプするの!?その後は!?』
『リリムちゃんも狙われるかもしれないから、ボクがなんとかする!ジャック君は鎖から銅像の後ろに飛んで、隠れてて!』
ソラが「君はボクが守る」と言ってくれた事、自分を守ろうと目の前に来てくれた事。
リリムは小声で「何よ……」と呟き、嬉しそうに微笑む。
なんで生きてるの。なんで生きて良いの。
良いわけない。良いわけないよね?
なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
消えたはずのジャックとソラが無傷で現れ、ソラのスキルのおかげでリリムも無傷のまま。
「消えろ」と願った人間が、傷1つつかずに生きている。
嫉妬、怒り、疑問が混ざり、ミノルの感情はおかしくなっていた。
ええと、それについてなんだけど……。
君の名前、リリムちゃんでいいんだよね?やってもらいたい事があるんだけど……。
まず、ミノルの技の正体……。
あれはミノルのスキルなんだ。
信じられない事だけど、ミノルの攻撃の黒い渦巻……あれはミノルが抱いた嫉妬そのもの。
ミノルは嫉妬の感情を力に変換する事ができるんだ。
嫉妬を力に!?そんな事あるの!?
じゃあ嫉妬すればするほど強くなるって事!?
オレもソラ君に聞くまでは信じられなかった。でもリリムちゃんが狙われた時、オレとソラ君が攻撃された時よりミノルの攻撃が大きくなってた……。
あれはミノルの嫉妬がどんどん大きくなってる証拠、このままさらに大きくなれば大変な事になる……!
なるほどね……。
確かにソラとジャックが会ってから急に機嫌悪くなったもん。ジャックの事好きなのかなって思ってたけど、ソラのスキンシップがダメだったのね……。
でも、あたしにあの子の嫉妬をなんとかするのは無理よ!?見るからに怖いし、あんなのどうやって説得するの!?
あぁ、説得はソラ君がするみたいなんだ。
オレは説得した後の事を考えたいから、協力してほしいんだけど……。
説得の後って……そんなのソラにできるの?それにあの子、あんなに怖いじゃない……。
これからたくさん冒険したいんだ。
ミノルは、大切な相棒だからさ♪
ジャック……。
仕方ないわね。超エリートな死神、このリリム様に任せなさい!
ジャック君、私にも手伝わせて!ミノルちゃんを助けてあげよう?
ジャックの気持ちが伝わり、笑顔で協力する事を決めるリリム、リーシャ、結衣。
ジャックは「ありがとう」と呟き、ソラと共に考えた作戦を話す。
そしてミノルは……。
なんでボク以外の女と話してるの?なんであんなに笑ってるの?ねぇなんで?どうしてあんなに笑ってられるの?
苦しい……苦しいよ……ジャックくん、なんで助けてくれないの?ボクは君を愛しているのにどうしてボクを見てくれないの?
そいつらはボクじゃない。ボクじゃないんだよ。ねぇ、ボクを見てよ。ちゃんと見ててよ。
ねぇ!
ミノルちゃん!君のスキルは君自身の心を蝕む「禁忌」のスキル!とっても危険なものなんだ!!お願いだから落ち着いて!自分を取り戻して!!
誰だ?ダレだ?誰だ誰だ誰だ!!
オマエはジャックくんじゃない!
ボクの……ボクの……!!
スキルの効果かスキルの使い過ぎか、体の色が変わり果て膨大な嫉妬心を抱くミノル。
その嫉妬は大好きなジャックをも消してしまうほどの力を持った巨大な渦となり、巨大な船たこ焼きボンバーをも超える圧倒的な火力と大きさを持って放たれる。
しかし、
「みんなを守りたい」と願うソラの気持ちも負けてはいない。
ミノルを攻撃せず、フードモンスターの防御力を強化したのはジャックやリリム達を守りたいだけではない。ミノルも傷つけず、守りたいからだった。
体中の力を振り絞り、仲間を守る盾となるソラ。
ふと、いつかの記憶が蘇る。
『死んでしまったのだからしょうがないだろう。もう諦めなさい。』
『おい。誰に向かって口を聞いてるんだ?今まで育ててやった親に、その態度は何だ!!』
『あいつは死んだんだ!!もう2度と戻って来ない!!』
『痛い目に遭いたいのか?
ったく、これだから捨て子なんて嫌だったんだ……。』
『俺はお前の父親じゃねぇ!お前は親に捨てられたんだよ!!』
『あいつと同じさ。あいつが死んじまったのも、お前が親に捨てられて、今日まで俺と暮らしてきたのも、全部しょうがねぇ事なんだ。』
「ソラにとって大切な人が死んだ」。
「ソラは親に捨てられた」。
決して誰にも話したくない、ソラの秘密。
ふと、涙が溢れた。
わかるよ……。
大切な誰かを奪われた、大切な誰かにもう会えない。
その気持ち。
でも大丈夫。
ボクは君の大切な人を奪うつもりなんてないよ。ボクはボクが諦めなかった結果を知れて……この異世界で、ジャック君と会えて……とっても嬉しいだけなんだ……!
あぁ、諦めなくてよかったなぁって……。
生きていてくれて、ありがとうって……そう思ったら、嬉しくて嬉しくて……!
本当は泣いちゃうけど、それを隠してたくさん笑ってただけなんだ……!
ソラの大切な人。
それは、幼い頃遊んだ事のある親戚。
ジャックだった。
ところが数年後、ジャックが亡くなった事を知ってしまい、反対する親を押し切って家を出ようとする。
その時に自身が親に捨てられた事を知り、そこからは地獄――。
本当の親ではないと言った男から数日間虐待を受け、学校に行ける体ではなくなり、自宅から外に出る事など出来ない監禁生活を強いられていた。
部屋の窓から空を見上げ、「鳥はいいなぁ……」と呟きながら「ここから出たい」と願っていた。
段々と外に出たいと願う事も無くなり、
体も衰弱していたある日の事。
部屋の窓を眺めていたソラの元に、謎の人物が現れる。
それは……。
『金剛寺悠哉……。数日前、惜しくも死んでしまったあなたの親友……。しかし……。』
『その代わり、彼のいる所はこの世界ではない。きっと会う事は出来ますが、1度行けば2度と戻って来る事は――』
そう、ソラを虐待の毎日から救い、ジャックとソラを会わせたのはなんと、ゲノン帝国最高幹部ヴェイルノート。
ヴェイルノートの行動により、ジャックと再会する事ができたソラはとても嬉しかった。ただそれだけだった。
あの日からボクは、精一杯生きたよ……?
異世界に来てから、いっぱい食べて、いっぱい冒険して、ジャック君に会えるのをずっとずっと待ってたんだよ……?
ミノルちゃんもそうなんでしょう?
ボクにとってジャック君は大切な人で、
君にとってもジャック君は大切な人……。
同じ人を大切に想ってる者同士、もし君さえよかったら……
皆を守ろうとリリム達に背中を向けていたソラ。
そんなソラの背中を見て、リリムは寂しさを感じる。
すると、段々とソラの作ったフードモンスターの姿が消えていく。
そしてミノルの攻撃も、星のようにキラキラと輝く光の粒になり、いつの間にか消え、2人は倒れてしまった。
ミノルとソラに駆け寄るジャック。
2人の表情を見ると、とても安心したように微笑んだまま「すー……」と眠っていた。
口に手を当てるジャック。
2人が寂しくないように、しっかりと手を握り、共に横になるのであった。
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