99話 届け!ソラの笑顔とライドウの願い!
文字数 7,597文字
前回のあらすじ。
幸せのエネルギーで飛躍的にパワーアップしたジャックとソラ。
ブラックビーストの触手への真正面からのパンチで押していた2人は体を登ることに。
ところが、ブラックビーストはライブ会場の外にいる観光客の心に変化を与える事で力が増し、押されてしまい……
ジャックがソラの言葉の意味に動揺した瞬間、
メキッと鈍い音を立て、巨大なパンチが直撃。
ジャックとソラはそのままライブ会場へ落下……。
ファイナルライブで盛り上がっていたはずのライブ会場は、再び静まり返ってしまう。
そして同時刻、
メルーナはライドウに闇市場を誘った張本人と出会い、「切り札がある」と宣言。
今回は時を少し、遡るーー。
****
セクシャルレインボー、宮殿。
バルバトスが宮殿に来てすぐ、メルーナが空のショーケースを見ていた部屋。
何者かが黒く染まった剣を手にしてショーケースを開ける。
その時、メルーナが声をかけた。
『……へぇ?どうして私だとわかった?
女神の力か?』
『さすが女神といった所か。
だが私を殺しても無駄だ。アレを止める事も闇市場を消す事もできない。』
『それより何をしに来たんだ?』
『……。』
『この状況で、か?』
****
現在。
飛行場にいたソニア、ドルチェ、ジュリア、マホの4人はなんとかブラックビーストの被害を受けずにライブ会場付近へ。
なるべく目立たないように通路を歩かず、森を歩いていた。
ソニアが見たもの。
それはライブ会場の入り口にいる大勢の女性。
ガラス張りの扉を叩きながら大声で叫んでいた。
何かを察してライブ会場に近付くジュリア。
その後を付いていくソニアは、やがて「それ」に気付く。
空に放り出されるソラ。
助けようと手を繋ぐも、ブラックビーストの攻撃を喰らってしまうジャック。
高い位置から地上まで落ちていく2人。
そう。
ブラックビーストとの戦闘の数分前の映像が、ライブ会場入り口の中にあるビジョンに映し出されていた。
大勢の女性の後ろで立ち尽くすソニア。
いつの日か「カジノのオーナーが」とライドウの話をした時、ジャックは「わかってくれる」と言って笑ってくれた。
そのジャックが今、苦戦している。
身を守る事もできず、受け身もとれず、まともに敵の攻撃を喰らって絶体絶命の危機に陥っている。
拳を握って震えるソニアの手をとって中に入ろうとするドルチェ、ジュリア。
すると、扉の向こう側の通路からラビッタの姿が。
ラビッタはジュリア達に気付くとすぐに扉を開けた。
居ても立っても居られなくなったソニア。
すぐにでもジャックのそばに行って、あの訳の分からない化け物から助ける。
まだ間に合う。まだ間に合うんだ!
本当は不安で押し潰されそうだけど、無事でいる事を信じるしかない。
とにかく走るしかない。
そう思い、走ろうとしたその時。
モニターを見て驚くマホとラビッタ。
さっきまでの映像が今の映像に変わったのか、
過度にズームアップして動画を撮る時のように、目まぐるしく映る瓦礫の山。
確かに一瞬見えたはずのソラの姿を探してカメラを右へ左へと動かしているその時……
何か思い立ったような
モニターからは「いたああああああ!」と喜ぶ声が聞こえる。
しかし、ソラは頭から血を流し、服も汚れている。
なぜかジャックの姿もない。
すると、ライブ会場のモニターに自分が写っている事に気付いたのか、
ソラは表情を変えて笑顔で呟いた。
カメラ目線で優しく笑うソラに困惑するジュリア、ラビッタ。
しかしソニアは何かに気付いたのか、ライブ会場へ走ろうとする。
一同、団結。
ソニアはライブ会場、ナナ達がいるステージへ。
ラビッタは映像を流す。
ドルチェ、ジュリア、マホは大勢の女性と共に島中の観光客に声をかける。
失われた「元気」。
幸せのエネルギーをもう一度強く持つため、ソラに協力。
ジャックもきっと無事でいる。
そう信じ、ソニアは笑顔で走った。
****
ライブ会場。
ソラの映像を見て安心する観客。
そして、巨大なブラックビーストを見上げるソラ。
まだ諦めてはいない。
喰らった攻撃が大きく、血も流しているけれど、
激痛に耐えながらブラックビーストの注意を引きつけるように、持ち前のスピードとジャンプ力で自由に動き回る。
そして、そんなソラから距離をとって瓦礫の山を必死に走るジャックは重傷を負っていない。
かなり焦ってはいるけれど、諦めてはいなかった。
それは数分前、
ジャックがブラックビーストの触手によるパンチをまともに受けてしまう瞬間。
「最後の力を使う。」とソラが優しく笑った時の事。
「嫌だ」と言ったのに手を繋いで、自分を守るようにして一緒に落下。
その結果、気付いた時にはソラは頭から血を流し、「良かった」と笑った。
そう。
ブラックビーストの攻撃をまともに受けたのはジャックではなくソラ。
「最後の力を使う。」と言ってすぐに察したジャックを安心させようと優しく笑って、身代わりになった。
メルーナもオズウェルも自分を信じている。
それはソラも同じで、全てを託すために……
大きく叫ぶジャック。
喜びよりも困惑の方が大きく、このままでは幸せのエネルギーが増えても戦えそうにない。
次もまたソラに助けられたら、その時はきっと……
数分前、ソラに言われた作戦を思い出し、全力で走るジャック。
ブラックビーストがレックス達の心を不安にした時はソラと一緒にいたし、ライブの盛り上がりもあったから平気だった。
でも今はソラが犠牲になって、訳わかんなくて、ただ走るのが精一杯。
「ソラ君は無事?無事だよね?」と走りながらソラの姿を探すけれど、ブラックビーストが動くたびに焦ってそれどころじゃない。
そんな事を考えている間に巨大なしっぽを見つけたジャック。
「見つけた……!」と声を漏らし、ソラがいた方を振り向いたその時。
突然聞こえた声。
その聞き覚えのある声のした方を探すけれど見つからない。
その代わりに、ライブ会場のモニターにソラが見えた。
ライブ会場のどこかで叫んでいるソニアの声。
声が揺れたような、寂しい気持ちを感じた。
ジャックへ向かって集まるシャボン玉。
今再びライブ会場に現れると、ジャックの隣にソラが元気よくジャンプして登場。
2人は自分に集まっていく幸せの力をぎゅっと握りしめて、しっぽに向かって跳ぶ。
ズン!
ブラックビーストのしっぽを左右から殴るジャックとソラ。
気のせいだろうか、さっきよりも強くなったのかしっぽは塵のように消えていく。
勢いよくジャンプして自分の体をよく見ると、強くしっかりと光っていた。
さらに……
ライブ会場のいろいろな所から飛んでくるシャボン玉。
それはライブ会場の中だけではない。
ピチピチビーチや飛行場、至る所からふわふわと飛んでいた。
大空から飛んでくるシャボン玉に気付いたソラ。
見ると、ソラがグラスオーヴィから乗ってきた飛空艇が見えた。
2人手を繋いで。
目の前に迫る触手に恐れず。
体を登り、確実に。
観客が攻撃されそうになったらすぐに鉄壁の筋肉ムキムキの分身を忘れずに。
もちろん、リサやレックス達を襲う触手もノックアウト。
ブラックビーストの頭の右、左に分かれて力を溜めるジャックとソラ。
この一撃で全てが終わる。セクシャルレインボーを助けられる。
瀕死のライドウも、島中のみんなもきっと……
ジャックとソラの戦いを見ていた島中のいる人の全ての声。
ラビッタの行動も無事に成功。
ドルチェ、ジュリア達の行動も成功していた。
【ジャック&ソラ】
せーーーーーーーーーーーーーーーの!!!
ブラックビーストの頭の上から同時にパンチをするジャックとソラ。
そんな2人に願いを乞うライドウ。
そして……
…………。
誰かの声がする。
これは……男2人の声だ。
いつも聞いていたような、懐かしいような声だ。
はぁ。ダメだ。全然起きないじゃないか。
3人で集まって話し合おうって言ったのはこいつだろ?
どうなってんだ?まったく……
まぁまぁ。昨日の夜も寝ずに考えていたようだから、疲れてるのさ。
しばらく寝させてあげよう。
寝させてって……
あ、じゃあ、酒を――
俺はこの声を知っている。
いつも真面目で優しい男の声。
酒が大好きで、お調子者の男の声。
どっちも子供の頃からいつも一緒で、町の周りをうろつく魔物を討伐した事もある。
そうだ。名前は……
あ……
生きてた……!生きてた……!
2人とも死んでなどなかったんだ……!
離れるものか!
闇市場など必要ない!便利なアイテムなど必要ないんだ!
****
ライドウが目を覚ましたことに気付かないジャック達。
その中でライブ会場のステージで倒れたライドウが視線を変えてセクシャルレインボーの山を見た瞬間、七色の虹がセクシャルレインボーの上空にかかり、キラキラと輝いていた。
その時、ライドウの口から「虹だ……!」と言葉が漏れた。
ライドウの言葉に気付き、目を覚ました事に気付いたバルバトス。
そして、自分の攻撃で倒れたはずのバルバトスに気付いたライドウ。
すると、バルバトスは何故かライドウとリサに背を向ける。
そして虹を見上げたまま一言。
……セクシャルレインボー編。
もう少しつづく。