11話 グラリオの秘密。ジャックの涙。
文字数 5,664文字
(そういえばヴェイルノートって名前、末吉さんが言ってた……!ゲノン帝国を作ったっていう……!)
『あぁ、隠さなくても大丈夫。
彼はグラリオ、私やジャック君と同じ日本から来た男性。通称「異世界人」のその1人。
そして、この世界の支配者「ヴェイルノート」により建国されたゲノン帝国の幹部の1人。』
(そして帝国は、オレ達異世界人を捕まえて処刑する……!クソ、大ピンチかよ!!)
一体どなたから聞いたんでしょうかねぇ……気になりますねぇ……。
ではあなたの知っている人を言い当てましょう。この中に私の名前を出した者がいれば、手を挙げて下さい……。
(無理だ……!この人は今初めて会った……!この人がミノル達の事を知るわけ――)
一ノ瀬煌、グラリオ、ゴワス、ゴッツァン、リリカ、ルルカ、ノノカ、オルテガ、サキ……綿貫末吉……。
どうしました?
今言った中にいるはずなのですが……おかしいですねぇ……。
(ダメだ……!みんなと会った事も末吉さんから聞いた事も全部バレてる……!!どうすりゃいいんだ……!!)
……さすがはジャックさんですね。
あなたは今、仲間の命を救った。
私は「名前を言い当てた人間を消す」力を持っている。もしあなたが手を挙げていれば、言い当てた事になり仲間は全滅……。冒険者ギルドは大惨事となっていたでしょう。手を挙げなくて本当に良かったですねぇ……。ヒヒヒヒ……。
(もう無理だ……!こんな人に勝てるわけない……!殺される……!)
……。
あぁそうそう。忘れていました。
あなたが最初に出会った少女も消しましょう。
彼女の名前は金剛寺ーー
その体でよくここまで来れましたねぇ……。さすがはグラリオ将軍だ……。
なに、どうって事ないさ……!
安心してくれ。君を守る……!
強がる余裕はないはずですよ?私の魔法により、あなたの内臓に圧力がかかっているんですから。
あまり無理をすると……。
それではジャックさん。
あなたにやっていただきたいボランティアの内容を説明します。
ゲノン帝国幹部、グラリオ将軍を……あなたの手で殺して下さい……!
グラリオさんを殺す……!?
そんなことできるわけ――
今……。
たった今、ジャックさんにスキルを与えました。
そうです。
今、ジャックさんに上位ジョブよりも遥かに上回る、いわゆるチート級の力を与えました。
これは、あなたにとって敵であるゲノン帝国幹部の1人を倒すチャンス。どんなに硬い鎧も粉々に砕き、どんな巨体も一撃で無と化す。
さぁ、やりましょう……。
なんならスマートフォンで動画を撮り、動画サイトにアップロードしてもいいのですよ?
悪名高い帝国の幹部の1人を殺せばこの世界の英雄。さらにあなたの元いた世界の人達にその一部始終を見せればあなたのチャンネルは人気急上昇……。
炎上しようと所詮異世界のお話、空想だと思われるだけ。罪に問われる事だってありません。何も問題はない……。
大丈夫、力を入れる必要などありません……。指先でそっと触れてあげれば、グラリオ将軍の体は鎧ごと破裂。すぐに終わる……。
それにどうせ、これ以上無理をすれば勝手に死ぬんです。同じ事ですよ……。ヒヒヒヒ……。
ジャックが人差し指を前に出し、グラリオの頰に触れる……まさにその時。
その時、ジャックは森の中から人影が近付いてくるのが見えた。
それは、異世界で目覚めたジャックを追いかけやってきたクラスメイト、ミノル。
ボクのジャック君に……!
何してるんだああああああああああああ!!!
ミノルは叫ぶと、黒い剣を構えてヴェイルノートに斬りかかる。
黒い剣には紫色の炎が燃えている。
これは「ダークソード」……。なるほど、影騎士ですか。おもしろい。
ヴェイルノートはニヤリと笑い、着ているローブをヒラヒラと踊らせながらミノルの攻撃を避ける。
見事ですねぇ。
親友を守り、冒険者ギルドで出会った敵も守り、この私に立ち向かってくるなんて……。
その瞬間、ヴェイルノートの手に黒く蠢く塊を見たジャックは走り、ミノルを庇う。
しかし。
ヴェイルノートの手から黒い光線のようなものが空に放たれると、空から無数となった黒い光線が降り注ぎ森は爆発。
――
どれくらいの時間が経ったのだろう。
爆発した森には雨が降り、何十人ものウメダの住民がジャック、グラリオ、ミノルを探し森の中を走っていた。
煌、ルルカ、リリカ、サキ、ゴワス、ゴッツァンは仰向けに倒れたジャックを発見。
しかし、ミノルやグラリオ、ヴェイルノートの姿はなかった。
目開けなさいよ!ジャック!!
あんたこんな所で死んでどうすんのよ!!
(なんだ……?みんなの声が聞こえる……。オレ、どうなったんだっけ……。)
いよっしゃあああああああ!!
さすがジャックだ!よく生きててくれたぜ!!
ジャックは辺りを見渡し、ミノルとグラリオを探す。
そしてそのまま……
(視界が……ボヤけて……。
オレ、やっぱり……死ぬのか……?)
****
ここは、どこだろう……。
目の前にはオレの写真……。
黒い服を着た人達がいっぱい……。
なんでみんな泣いてるんだ……?
オレはどうして……
死んだんだ……?
あ……そうだった……。
オレ、帝国の最高幹部の人の魔法でやられたんだった……。
あぁ、異世界で死んだら終わりってルルカちゃん言ってたなぁ……。現実でも死んで異世界でも死んで、オレって運ないなぁ……。
そうそう。
自分でも思うよ。
大体、剣士になったばかりでレベルも低いのにあんな人に勝てるわけないんだよ。
ゲームだったらクソゲーだね、間違いなく。
序盤で必ず死ぬなんて負けイベントかって話…………
ん?負けイベント?
そうか……こんな所で死んでハイ終わりなんてあり得ないだろ……!
これはゲームで必ず死んでストーリーが進む負けイベントに違いない……!
そうと決まればこんな所さっさと出てやる!
でなきゃ「夢にまで見た憧れの異世界はクソゲーでした」ってSNSに書くぞコラー!
……わーってるよ。
こんな所で立ち止まってなんていられねーからな!
待ってろ、今そっちに……
――
起きないと、ジャックくんの大事な所を動画で撮って実況するよ!
アカウント炎上待ったなし!!!
大きな何かが顔に当たり、キョトンとするジャック。
目の前には、心配そうに見つめるリリカやルルカ、煌、ゴワス、ゴッツァン、ミノルが。
真上には、大きな大きな、それはとても大きなサービス満点のサキの胸がジャックの顔に当たってしまい、プルンプルンと揺れていた。
もう、ジャックったら……❤︎
せっかくひざまくらしてたのに、急に起きたら胸が当たっちゃうじゃない❤︎
起きてくれてよかったけど❤
今のマシュマロじゃないの!?
めちゃくちゃ柔らか――
ルルッ……だ、誰!?超怖いんですけどおおおおおおおおお!?
ヒ、ヒィィィィ!?命だけはお助けえええええええええええ!?
慌ててサキの太ももから飛び起き、逃げようとするジャック。
しかしルルカは容赦なくタックルし、ジャックは悲鳴を上げる。
あ、あれ!?幻が見えてたのかなぁ!?確かにさっき恐ろしい顔になってたはずなんだけど……!
その瞬間、ルルカは大きく振りかぶり、パシン!とジャックの頬にビンタ。
そのままジャックを抱きしめ、呟いた。
心配したんだぞ……!
いきなり宿屋からいなくなって、探しても見つからなくて、あたし……何か悪いことしたのかなって……!ジャックと一緒にいられなくなるのかなって……そんなのイヤだって思ったんだぞ……!
あの紙……隠してたんでしょ……?みんなに迷惑かけたくないからって、どう見ても怪しいのにたった1人で抜け出して、自分だけで解決しようと思ったんでしょ!?
あたしはジャックの仲間!!
リリカもミノルもサキも、ここにいるみんながジャックの仲間なの!あの紙を拾った時点で言ってくれればみんな協力する!そしたらあんな事にはならなかった!
そこんとこわかってんの!?
この天才少女を泣かせた罪は重いからね……!覚悟しとけバカジャック!
……ジャック。
みんなに迷惑かけたくない、その気持ちはわかるわ。
でもね、みんなジャックと会えて楽しいのよ。
そこはわかってあげてほしい。
****
ジャックが意識を取り戻し、起きてから数時間後。
ジャックは宿屋に運ばれたというグラリオに呼ばれた。
なに、気にする事はないさ。
あれだけ心配されたんだ。皆に愛されている証拠じゃないか。
羨ましいぞ。はっはっはっは。
あの時確かに、あのヴェイルノートって人が魔法を使って森が爆発したはずなんです。とても強くて、絶望的で、「あぁ、これ死んだな」って思いました。
でも……
オレ、体のどこも痛くない。
意識はなかったみたいだけど、服も破けてないし手も足も傷1つついてないんです。
おかしいと思いませんか?
……どうして……!
どうなってるんですか!?彼は何者なんですか!?
ジャック君、スキルの事を覚えているかい?君は今、人差し指に絶対的な力を持っているはず。
お、覚えています……!
そんなに簡単に誰かを消せるなんて怖すぎる……!こんなスキル要らない!!
ふふっ。
やはりジャック君は優しいな。
そういうと思っていたよ。
嘘……?
はっそうか!あの人は嘘を言ってたんだ!
騙されていただけなんだ!
そうさ。
指先で触れるだけで相手の存在を消す、そんな恐ろしいスキルを君は持ってなどいない。
奴は人を脅すのが好きなのさ。
……私はこの異世界に初めてやってきた人間。その時から「グラリオ将軍」と呼ばれ、ヴェイルノートから「消す力」を与えられた。
私はこの異世界の、化け物なんだ。
だから、奴がジャック君にスキルを与えたと言った時私は嘘だと見抜いていた。
奴は君の反応を見て楽しんでいたんだろう。
だが心配はいらないぞ。
スキルにはその種類1つ1つに発動条件がある。皆と共にいる時は条件が合わないよう調整しているから、安心したまえ。
どうしたんだジャック君?
そんなに難しい顔をしていないで、もっと笑ってくれ。今はヴェイルノートの目撃情報はないんだ。あの後去って行ったんだろう。もう安心だ。
そうだ、お見舞いに来た女の子がリンゴを剥いてくれたんだ。食べるかい?
なんで笑っていられるんですか!!
どうして笑って、何事もなかったみたいにいられるんですか!!
ずっと1人だったんじゃないんですか……!現実世界への帰り方もわからない、気付いたら帝国の幹部になってる、訳わかんない力を貰って、もしかしたら一緒に帰れるかもしれない人達を捕まえて……!
ずっと……辛かったんじゃないんですか……!
ずっと……!帰りたかったんじゃないんですか……!!
それなのにいつも笑って、みんなの事考えて、辛いって言えなくて……!
ずっと……!我慢してたんじゃないんですか!!!
****
翌日。
ウメダ。冒険者ギルド。
ジャック、ミノル、グラリオは、
ヴェイルノートがやってきた事を伏せ、「大きな魔法の練習をしたら失敗した」という事にし、何事もなかったようにボランティアを続けていく事を決意。
そして――
そんなに怒らないで下さい。今回はダメージを与えない魔法を使いました。ジャックさんは無傷ですよ。
それに、呼んだのはあなたじゃないですか。
それでは、あなたの力でジャックさんが力をつけ一人前になったと判断したその時は、"また"呼んで下さいね。
くれぐれも、正体を知られる事のないよう気をつけて下さい。
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