165話 ようこそ楽園へ!ラトリア最後の思い出作り!Part.5
文字数 8,224文字
ソニアとはジャックに好意を寄せるグラスオービィの女の子。
桃華達にソニアの事を説明したバルバトスだけど、一同はびっくり。
ジャックもやるねぇ!
まぁ、命懸けでシロナちゃんとアラネアちゃんを守った男だ!
惚れる女の1人や2人くらい居てもおかしくないよなぁ〜!
うううう〜!
結婚するなんて聞いてないですよ~~!
ちっちゃい時から私がお嫁さんになりたいって思ってたのに〜〜〜!
恋する心というのは優しい心を持った人が抱くものです。
ソニアという女性はとても素敵な方なんですね♪
あぁ。
ジャックがグラスオーヴィに来るまでは男を好きになった事なんて無かったけど、あいつは恋をした。
その後は自分の気持ちを疑ったりいろいろあったけどやっぱり好きなんだって気付いた。
でも、ジャックがグラスオーヴィを出て行ったあの日からソニアは笑わなくなった……
『バルバトス、もう限界だよ。ジャックがいない世界なんて耐えられない。
この剣で私を――』
けど、精神的には死んでると言っていいだろうな。
オレや周りの人間に頼っても意味がないと察したソニアはその翌日、
そうだ!その後あいつはもう一度、死ぬつもりで飛び降りた!
そして全身に大怪我を負って、次のチャンスを期待してる!!
なるほどな……。
恋ってのは人を幸せにするって言うけど、必ずしもそうなるとは限らない。
お前はソニアを救いたい一心でここに連れて来たんだな?
そうだ。
この最後のチャンスに全てを賭けている。
もしここでジャックに会えなかったら、このスパ・ラトリアの屋上から飛び降りて……!!
そうですよ!そんなの悲しすぎます!!
絶対に自殺なんてやってはいけない事です!!
好きな人が離れたきり戻って来ない。
そのショックは本人にしか分からないもの。
でも、それだけはやってはいけません……!
バルバトス、状況は分かった。
俺達も協力したいが、どう行動したらいい?
何か考えがあるんだろ?
ジャックは今、ドゥーンとパンザレスと3人で控え室に行っているはずだ!
ソニアがライブの出演者なら、もしかしたらすでに会えているかもしれないぞ!
……そうか……!
でも、控え室には居ないと思う……!
とにかく指示をくれ!!
何かあってからじゃ遅いだろ!?
そうだよ!
ソニアさんを助けるのがどんなに難しくたって、やってみなくちゃ分かんない!
わ、分かった!!
じゃあジャックと他の仲間をここに呼んで来てくれ!
その後ゴワスと合流して作戦を実行する!!
よーーーし!
ジャックとソニアを再会させる「恋よもう一度プロジェクト」を始めるぞおおおおおおお!!
****
テレテテー テレテテー
テレレレレ テ・レ・テ・レ テレテレ!
ドカーン!
私は正義のヒーロー!
愛と友情のマッチョ、スーパーゴラゴラン!!
恋する女の子の心を弄ぶ悪党め!
どれだけ悩んで辛い想いをしているのか分かっているのか?
大人しく降参してその子を離すんだ!
嫌なこった!
この女は恋なんて向いてなかったんだよ!
お前達、やってしまえーーーっ!
やあっ!とうっ!
喰らえっ!ゴチャゴチャヴィィィーーーム!!
ぐ、ぐわーーーーーーっ!
おのれスーパーゴラゴラン!
覚えていろおおおーーーーーー!
ありがとうスーパーゴラゴラン!!
私、自分の気持ちを諦めてたけどもう一度アタックしてみる!
その意気だ!
最初に抱いた恋心は君の本心!
諦めるなんてもったいないじゃないか!
私は応援しているよ!幸せになってくれ!
おや、胸のハートが鳴りだしたぞ。
また誰かが助けを求めているようだ!
それではまた!
次回、100話。
スーパーゴラゴランとハッピーウェディング!
再放送、また見てね!
テレビに映るゴラゴランの顔。
ピッと音が鳴って、画面が消える。
白いベッド。大きなテレビ。
ソファーとテーブル、トイレと浴室。
よくあるホテルの洋室の部屋は、日本を模して作られたスパ・ラトリアの自慢のひとつ。
ところがここは電気を消していて真っ暗な室内。
6階のビアガーデンの明るさと人の声を遮断するためか、カーテンは締め切った状態で、
唯一の灯りだったテレビも今、消えた。
ここは7階、宿泊施設。
部屋の大きな窓からはビアガーデンの他にナイトプール、1階の外にある大きなプールも見えるだけではなく、
ラトリアの中心街の街並みが一望できる豪華な部屋。
ここに泊まっているのはソニアで、ゴワスの希望で良い部屋にしてもらった。
カーテンの向こうは綺麗な夜景だったな……
どうせグラスオーヴィに戻る気は無いし、最期は此処にしよう。
そう言うとベッドから起きて、
カーテンと窓を開け、ベランダに出るソニア……。
周りはライトアップされたラトリア中心街の夜景。
その真下にあるのは今日、自分が出演する予定のビアガーデンとナイトプール。
ビアガーデンは6階。ここは7階。
1階分の高さは大きいから、ここから飛んでも充分か。
どうせなら屋上に行きたかったが立ち入り禁止だったし……
客の声がここまで聞こえる……。
ライブ本番まであと30分か……
そうだ、ビアガーデンのステージの上に落ちよう。
頭から落ちれば死ねるよね。
みんな血まみれの死体を見たらどんな顔をするかな?
…………まぁ、どうでもいいか。
****
同時刻。
前回、ライブの控え室に到着したジャック達。
ソニアの事など知る由もない男3人は、とあるアイドルと会っていた。
【星乃未来】
お久しぶりです!ジャックさん!
私、星乃未来です!覚えていますか?
おいおいおいおいおい!!
あの大物アイドル、らいちゃんだろ!?
あれ?待てよ?
星乃って……どこかで聞いた名前……?
久しぶりの再登場、星乃未来。
星乃紋三郎が祖父、ハルが祖母。
「CDEネットワーク」という芸能事務所のようなものに所属している大人気アイドル。
そして、ジャック、ドゥーン、パンザレスと同じ日本から来た異世界人。
それで、どうしたの?
スタッフのフリなんかしなくても、クラスタドームのライブを助けてくれたヒーローなんだから堂々としていればいいのに。
あっ。
いけない、あと30分で始まっちゃう。
良かったら一緒にビアガーデンに行きませんか?
マジで!?そこでライブやるんでしょ!?
ミー達も見ていいってこと!?
ねぇねぇ、コラボするんでしょ!?
どこの誰と一緒に歌うの〜?
教えてよ〜〜〜!
5人の女の子がメインメンバーなんですけど、
バルバトスっていう男の人も歌ってて、とっても人気なんですよ!
グラスオーヴィさんの曲は楽しいですよね!
元気が出る曲、悲しい曲、激しい曲、踊りも素敵です!!
うん!
あ、でもひとつ心配な事があって……
今日の午前中ここでリハーサルをやってたんだけど、1人だけ元気が無くてびっくりしちゃったんです。
確か名前は〜……
『初めまして!星乃未来です!
今日はよろしくお願いします!』
『初めまして、オレはバルバトス。
それでこっちが……』
『……これから死ぬ人間の名前を知ってどうするんだ?』
『ご、ごめんよ!悪気は無いんだ!ちょっと訳ありで……!』
挨拶の時もリハーサルの時も笑ってくれなくて、温泉もご飯も興味がないみたいで……
それに手とか足とか、どこも怪我をしてて……
ずっと下を向いて、どこかに行っちゃったの。
うん。
気になってバルバトスさんに聞いてみたら「本当は歌が大好きでいつも笑ってた」って教えてくれて……
おいおい、それって「恋してます」って言ってるようなものじゃん!
そのソニアって子だよ!
相手は誰だか知らないけどさ……
その恋、上手く行かなかったんだろうな〜!
えっ。
じゃあ失恋して元気が無かったのか。
そのソニアって女の子。
だろうね。
恋愛なんてのは上手く行けばそれで良いけど、そうじゃなければ人を狂わせるものなのさ。
いるじゃん?
元カレを刺した、元カノを刺した。
ニュースにもなってるけど、別に珍しい事じゃないのよ。
失恋のダメージは本人しか分からず!
ショックなんて受けようものなら本人でも何するか分からず!
死ぬことだってある!!
いいや、あるさ!
俺だって初恋の女の子にフラれた時、小学校の先生に泣き付いた事あるもの!
今「大した事ないじゃん」って思っただろ?
でもミーにとってはすっっっごいショックで、
でも失恋なんて初めてでどうしたらいいか分からない。
だから大人に泣き付くしかなかった。
でももし目の前にカッターがあったら?
ショックが怒りに変わったら?
誰にも相談出来ずに死ぬ事を考えたら?
大袈裟に聞こえるかもしれないけど、誰しもが失恋のショックで予想外の行動に出る可能性があるって話だよ。
「そんな事あり得ない」なんて言い切れないだろ?
それにたとえ付き合えても、結婚できても、後から相手の嫌な所に耐えられなくなって離婚するなんて話も普通にあるじゃないか。
え?そうだなぁ……
実は浮気してたとか、
自分以外の女と話してたとか、
付き合ってるのに自分より趣味を優先されたとか、
好きなのに一緒にいられない、とか……
私も恋はした事ないけど、心配ですね……
ソニアちゃん、大丈夫かなぁ……
分かった!!
そのソニアっていう子が元気無い理由は、
せっかく両想いで一緒に暮らせていたのに相手の男が趣味を優先して出て行ってしまったからだ!!
『やっぱり男なんて大嫌いだ。
人の気持ちも知らないで、平気で居なくなろうとする。
どうせもう次の冒険にワクワクしてるんだ……!』
きっとソニアちゃんは男に「ここで待っててくれ」みたいな事言われてたけど待つのが辛すぎて、ライブどころじゃないんだよ!!
『オレはもっともっと強くなって、もっともっと有名になりたい。
もし本当に世界を変える鍵になってるなら、みんなが笑っていられるような世界にしたい!』
何て奴だ!
ソニアちゃんがかわいそうじゃねぇか!
その男が出て行く時は笑顔だったかもしれないけど、本当は必死に引き止めたかったに違いない!!
普段の声とはまるで違う、怒鳴り声にも似たような大声で叫ぶジャック。
ソニアに出て行く事を伝えた時、
ミノルや小鳥、ゆめとのお別れ。
ドゥーンとパンザレスは知る由もないけれど、あの日グラスオーヴィを後にして旅に出た記憶を思い出して、自分が責められているような気がした。
あっ……!
い、いや何でもないよ!
いきなり大声出してごめんね!
未来ちゃん。
ソニアちゃんがどこにいるか、分かるかな?
う〜ん……
ご飯にも温泉にもライブにも興味ない感じだったし、他の控え室にも居ないと思うの……。
とりあえず、ビアガーデンまで一緒に行こ?
きっと会えるよ!
あんなに笑っていたソニアが笑わなくなった。
いや、もっと深刻な事態になっている可能性もある。
パンザレスの言った通り、全ての原因はグラスオーヴィを飛び出して、ハルと一緒に旅をしている自分かもしれない……。
ジャックは予期せぬ事件を防ぐため、
もう一度ソニアと会う事を決めて、未来と一緒に走り出す……。
****
そして同時刻。
ここはライブステージ。
まだ30分前だというのに大勢の客が温泉やプールから移動してきたようで、ビアガーデンは人、人、人。
その中でも注目を浴びていたのは、太鼓を叩くスタッフと上半身裸の男達。
まったく、2人を再会させるのはいいけど名前が「恋よもう一度プロジェクト」って……
まぁいいわ。
楽しいライブも自分の命も台無しになんて絶対にさせないんだから!
頼んだわよ、みんな!!
野郎どもーーーっ!
美味い料理、美味い酒、ちゃんと楽しんでるかーーー!?
でも、一番はスペシャルライブが観たいだろーーー!?
よーーーし!
じゃあかわいい女の子達の歌を聴く前に、肉体美と熱〜いダンスと歌を見ていけーーーーーーっ!
サプライズライブの始まりだああああああああああああああ!!
おおーーーーーーっ!
見ろよあの腕の筋肉!厚さ何センチくらいあるんだ?
しかも歌って踊るのか?
すげーーーっ!かっこいいーーーっ!
筋肉組ヴェルグ、ウルク、バルバトスが一定間隔を空けて立ち、力いっぱいのファイアーダンスを披露。
さらにステージには
ギター、ドラム、ベース、マイクが設置されて、
ゴワスの連絡を受けた仲間がどんどん登場。
本当に会いたいのはジャックだろうけど、まずはソニアちゃんの目をこっちに向かせるわ!
完全に予定外のサプライズライブ、スタートだね!
本当は居るはずのないメンバーがどんどん集まれば「ジャックも居るかもしれない」って思ってくれるかもしれない!
しかもここに集まるように連絡したメンバーには「ライブに参加して盛り上げてちょうだい」としか伝えてないわ!
真実を知ってるのは代表者だけ!
ちゃんと見ててよソニアちん!
絶対に笑わせてみせるからね!!
まだまだマッチョは増えるぞーーーっ!!
みんな出てこーーーい!!
【轟鬼】
火の勢いが足りないんじゃないか?
もっと派手に回してやる!!
【秀樹】
はははははははは!
私の情熱はこんな熱さじゃ済まないぞ!!
【オルテガ】
腹筋が割れてるのはただの職業柄だって言ったのに、何で俺までファイアーダンスしなきゃいけねーんだよ!?
続いて演奏するメンバーを紹介するぜ!まずはギター!
そしてこのサプライズライブのために急遽参加してくれたボーカルはこの男!
グラスオーヴィで歌って〜?
セクシャルレインボーでも歌って〜?
食いしん坊で〜? マッチョで〜?
聞き間違いをすればすぐ食べ物の名前が出てくる〜!
バルクピースアイランドを代表する美少年〜!!
みんなーーーっ!
今日はいっぱい楽しんで行ってねーーーっ!!
うおおおおおおおおお!?
ソラだああああああああ!!
また会えたあああああああああ!!
もちろんさ!
本当はジャック君に聴かせてあげたいけど……
いつかまた会う時をグッと我慢して、思いっきり歌うんだ!!
…………何なんだ。
見たことない奴らも集まって何をする気か知らないけど、
今のソラの言葉は気に入らないな。
我慢なんて散々だ。耐えられない。
ソラの気持ちも知ってるけど一緒にいられるなんて叶わないんだよ。
いつ帰ってくるか分からないのに待つしかないなんて辛すぎる……。
あいつはこの苦しみを知らないからあんな事言えるんだ……
今ここにはグラスオーヴィ、セクシャルレインボー、
バルクピースアイランドのメンバーが一部集まっている。
その誰もが何人も絆を結んだ仲間。
しかしそれが何だと言うのか。
懐かしの顔を見るも、ソラの言葉を聞くも、ソニアの心は動かず……。
客室のベランダに立っているだけで出演する気などまるで見えない。
むしろいつ身を乗り出して落ちてもおかしくないこの状況。
と、その時。
にゃにゃ!
ソニアっち!部屋にいるかにゃ!?
ドア開けてにゃ!大変なのにゃ!!
最期は此処と決めたんだ。
ライブは出ないし、もういつでもベランダから落ちれる……
開けてくれないならいいにゃ!
「手紙」をドアの隙間に入れておくから読んでみてにゃ!!
絶対、絶対、ぜーーったい読んでみてにゃ!!!
やっぱり読まないつもりにゃ?
だったら手紙を折って〜隙間にポイッ!
ヒュッ……
ナナの奇跡的なコントロールでドアの隙間からベランダまで届き、綺麗に折られた手紙はソニアの足元へ。
ソニアっちは覚えてるかにゃ?
グラスオーヴィでみんなが歌った曲の中で、1つだけ「約束」を決めたものがあるにゃ。
それは「彼が帰って来るまではライブで歌わない」。
他の曲はグラスオーヴィの営業中何でも歌っていいって決めたでしょ?
それで、その約束を知ってるのはセクシャルレインボーからちゃんと帰ってきたメンバー全員。
ソラっちは途中で居なくなっちゃったから当然知らないんだけど……
…………。
それとこの手紙と、どういう関係がある。
それにそんな約束も何の曲だったかも覚えてない。
ウソにゃ!
約束を考えたのはソニアっちだもん!
あの日から一度だって歌わなかったにゃ!
『約束だ!
ジャックが帰って来るまであの曲は封印する!
絶対に歌うんじゃないぞ!
もちろんライブツアーもダメだ!』
『何度でも言うさ!!
私はジャックを待ち続けるんだ!
またグラスオーヴィで生活できる時まで封印だ!』
さ、早く読んでみてにゃ〜!
ベランダにいたら風で飛ばされちゃうにゃ!
本当に大変な事が書いてあるんだから~~~!
読んだ?読んだにゃ?
う〜〜ん、やっぱりここ開けてにゃ〜〜!
部屋に入るなりすぐにベランダに向かうナナ。
ソニアの足元に落ちていた手紙を拾うと、折れている所を戻して目の前で見せる。
そこに書いてあったのは……
ソニア・オーヴィさんへ。
今日のライブでこれを歌って下さい。
ソニアっち!大変って言った意味が分かったにゃ!?
「みんなとここで」は約束の曲だからライブツアーで歌っちゃいけないけど!
この手紙を書いた人は本当はグラスオーヴィに居た人なのにそれを知らないにゃ!!
……私が約束を考えたのはジャックが居なくなった後。
グラスオーヴィの人間は全員この約束を知っている。
ライブの客はこの歌を知るはずがない……。
他に「みんなとここで」を知っているのは……?
この手紙を書いたのはジャックで間違いない。
そう確信すると途端に叫び出し、慌ててビアガーデンのステージを見るソニア。
しかしただでさえしばらくの間、何も飲まず食わずだったためか、足元がフラつき、手も震えている。
らいちゃんの控え室にゃ!
星乃未来ちゃんのお部屋のドアの隙間に挟まってたにゃあ〜〜〜!
どこ行くにゃ!?
ま、待ってにゃあ〜〜〜〜〜〜!!!
ナナを放っておいて部屋から出て行くソニア。
果たして、ジャックとの再会は果たされるのか?
つづく!
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