143話 獣人唖然?コロシアム前の茶番!
文字数 5,596文字
獣人街。
ここは獣人向けに作られた料理が並ぶ食堂。
多くの獣人達が箸やフォークなどを使って食事を楽しんでいた。
そしてそんな中、
「腹が減っては何とやら」とコタローとウルクに食堂に誘われたジャックは、美味しそうな木の実のスープを飲むとため息をひとつ。
シロナお姉ちゃんがピンチだよ〜!
早く助けてあげなくっちゃ!
ルルカちゃんはヤベェ。
ハルさんもヤベェ。
あとどういうわけかスマホが行方不明。
っていうか何で楽しそうなの?
ルルカとハル、その2人は仲間だったな。
という事は相手の手の内を知ってるという事か……
ええと、もともとネクロマンサーで今はマジックファイター……
な、何だって!?
魔法拳闘士は魔法を乗せた物理攻撃が得意なジョブ!
炎を乗せたパンチや氷を乗せたパンチなど、魔法+物理の高い戦闘能力を持つんだ!!
ウルク君はバトルマニアだからね!
獣人それぞれに合った戦い方を分析してノートにまとめてたり、実戦で使えるように稽古してくれたり、とにかくすごいんだよ!
別に戦闘が好きってわけじゃない。
親父に近付くためだ。
ええとね、ええとね!
とにかくすっごい人なんだよ!
偉くて強くてかっこよくて〜……!
あはは!
すごすぎて語彙力が無くなるくらいすごいんだね!
その人ならルルカちゃんとハルさんをコテンパンにできるかもしれないなぁ!
よし、もっと情報をくれ!
ハルというのはどんなジョブなんだ?武器は何を使っている?
っていうか、クエストの説明文だとコロシアムを乗っ取ったように思えるんだけど、何でそんな事したんだろう?
楽しそうだからいいけど!
……ラトリア。獣人街。
腕に自信のある獣人達が集い、富や名声を勝ち取る熱き戦場、コロシアム。
ウエノのコロシアムなど、他の町との大きな違いは出場する選手の種族。
その長い歴史上、獣人以外の種族は出場不可能とされてきたけれど、4つのエリアからなるラトリアの特徴からルール変更。
翼やツノを使った獣人の物理攻撃の他に、
4つのうち1つ、マジックエリアから腕のある人間やエルフなどの魔法攻撃も取り入れられ、稀に異世界人のスキルによる特殊攻撃も……。
しかしここはあくまで獣人街。
コロシアムの一室では名だたる優勝者の写真が多く飾られているけれど、その中でも9割を占めるのが獣人。
それはラトリアに住む獣人達の誇りであり、世界中の獣人も憧れる者は少なくない。
ところが……
突如2人のヤバい女が現れ、コロシアムは騒然。
体長3メートルを越す大型の獣人でさえもブッ飛ばしてしまう魔法拳闘士の少女が現れて見事に優勝。
その後に還暦を越しているであろう老婆が飛び入り参加し、またも圧倒的な力で優勝を勝ち取る。
そして3回目の大会が始まろうとしているのだけれど、獣人達は次々と辞退……。
あんなの勝てるわけねぇよ!
めちゃくちゃだ!強すぎるって!
ルルカさんとハルさん、頑張ってるかな?
美味しいミルクを差し入れして応援してあげなきゃ♪
そう、ストックリバディー出身ミルク売りのシロナ。
その後、ルルカは相変わらず胸の大きい女性への恨みがあるのか彼女を追いかけ回し……
星乃ハルは、誰も出場したがらない獣人達に腹を立てて脅し、なぜか受付スタッフと交代。
受付はここだ!ひよっこ共!!!
どんな相手でもいい!誰か出場しなァ!!
そう、ここは今、
2人のヤバい女に乗っ取られた混沌の戦場。
果たして、コロシアムに平和はもたらす者は現れるのか!
あぁ、上出来だよ!
全員いい芝居だった!動画もバッチリさね!
うぅ……
ジャックさんを騙すような事を……
ううん、それどころかスマホをこっそり盗んで動画まで撮っちゃってますけど……
いいんだよ。
あっちだってアタシ達2人の茶番で、ツッコミを入れるのは予想出来てるはずさ。
でも普通、こんなクエストあるわけないって思うだろう?
となれば当然、騙されてるのが分かっててここに来るはずさ。
それに、このクエストはジャックにとって必要なものになる。
そのためにコロシアムの出場者達に集まってもらったんだ。
最初は笑ってるかもしれないけど、すぐに現実を見せてやれば本気になるはずさ。
アンタもそう思うだろう?
グランドール騎士団、アラネア。
アンタはジャックとコタローの言葉を聞いた後、攻撃をやめて蜘蛛の獣人に変える薬も使わなかった。
それはジャックの潜在能力の効果によるもの。
ドゥーンが無傷でいられたのもそうだけど、アンタの心を落ち着かせたのもそうさ。
でもね、あの子はまだ不安定だよ。
味方の強化と心の安定化ができても、何の消費もなく無限にできるわけじゃない。
まして今回みたいに倒れるようじゃ己の身も守れず死ぬだけなのさ。
彼は私を救ってくれたわ。
一切戦わず、私を理解して、"世界を変えた"。
だっておかしいもの。
彼が倒れた後、ビースト学校に行く途中も、学校の中でも、このコロシアムでさえも、私を馬鹿にする者はいない。
まるで今までが夢だったみたいに、私の望む世界に変わったの。
あり得ない事だけどそうとしか思えない……
つまりアップデート……!
だから、彼には生きていてほしいの。
グランドール騎士団にはアルクのような化け物がたくさんいるし、ゲノン帝国に狙われる事だってあるはず。
味方を強化する代わりに倒れる事なんてあってはならない……!
あぁ、そうしてくれると助かるよ。
ただアタシ達の目的は本人に気付いてもらう。
ヒントは出してもいいけど、手は抜かないでくれるかい?
わかりました!
私は傷を癒してあげればいいんですよね?
あぁそうとも。
ジョブはヒーラーだったね?
ジャックが死にそうになったら怪我を治してあげておくれ。
出場者はあたしに付いてきて!
これから詳しい指示を出すから協力してちょうだい!
よくわかんねぇけど、優勝したのは君だからな!何でも言ってくれ!
ハルとルルカに乗っ取られたコロシアム。
シロナの救出と脱出。
しかしこれらは全てダミー。
本当の目的はジャック自身のレベルアップで、
ハル、ルルカ、アラネアでさえも敵として戦い、
戦闘の知識と経験を身につけられるのはもちろん、
コタロー、ウルクがいる事から潜在能力を使わせて鍛えられるし、新たな発見もあるかもしれない。
全ては、今はまだ明かせないジャックの潜在能力を上げたその先の「本当の理由」のためなのだけど……
……はぁ。
とはいえ、ここから先は上手くいかないか……
まったく、"アイツ"は何考えてんだい……
本当にジャックは成長するんだろうね?
今まで少しの迷いもなく、どこか自信のある態度で行動してきたハルの眉間が少しずつ動き出していた……
****
そして数十分後。
コロシアム付近に姿を現すことになるけれど、ハルの予想通り「ただの茶番だよ」と話していたジャック達。
ただ何もせずクエストに挑戦するわけではなく、とある作戦が……
うん。ここまで来といてなんだけど、ほんとにコロシアムを乗っ取るなんてしないと思うんだよね……
うーん。何だろう。
きっと理由があるっていうか、別の何かがあるような気がするんだ。
さすがにコロシアムに着いたらネタバラシ、大成功〜! なんて事するはずないし。
裏があるって事だろ?
いいじゃないか、こっち側とあっち側のジョブとそれぞれの戦い方を考えるチャンスだって言っただろ?
うーん、そうだね!
あっちも何かしてくるだろうけど、こっちだってがんばるぞ!
ファントムから新しいジョブに変えたからどんな戦いになるか楽しみだよ!
ウルク君にはジャック君の"提案"通りに作戦を考えてもらったもんね!
正直、戦闘を楽しみにするなんて盗賊か帝国か、悪事を働く奴ばかりだけど……
ジャックの想いを聞いて提案されたら、作戦を考えるこっちまで楽しみになってくるよ!
そう、今回は敵サイドであるハルとルルカも救出するシロナも味方。
となればもちろん本気で剣を振るのも殴るのも避けたいところ。
そこでジャックはウルクに一つ提案をして、自分達3人の動き方を決めてもらった。
そしてその結果、ジャックには「ジョブを変えた」という大きな変化が起きたのだけれど、あくまでもそれは「1つ目の変化」。
とりあえず新しいジョブになったけど具体的にどんな事ができるのか居ても立っても居られない様子……。
ああっ!早く戦いたいなぁ!
今すぐにでも新しい力をババーッと使って、
デュクシっていうのは効果音で、
男の子がヒーローごっことかでパンチとかキックとかする時に言うんだよ〜。
作者が小学生の時は友達にチョップしながらデュクシ!って言ったりして遊んだのだ。
それって何年前!?
デュクシっていうのは今も流行ってるの!?
平成生まれの人でも知っている人が少ないかもしれないネタをぶっこむジャック。
「読者は覚えていますか?」と言いたげにコタローと軽くパンチをして「デュクシ」を連発。
ちなみに元ネタは諸説あるけどとある格闘ゲームの打撃音がデュクシ!と聞こえるらしいです。
――
3人がいるのはセントラルエリアと同じように飲食店や武器屋、冒険者ギルドなど様々な店が建ち並ぶ商店街のような大きな道。
目の前には巨大な円形の建物、コロシアムがある。
中でも目を引くのは道の真ん中に設置された獣人の胸像や全身の銅像たちで、ジャックは「あっ!」と驚く。
動画撮りたい!!
あの銅像、誰なんだろ!獣人の偉い人かな!?
あれはコロシアムの歴代優勝者だよ!
よく見るとどんな名前か掘ってあるんだ!
獣人街の職人さんが作ったんだよ〜!
何それ!?撮るしかないじゃん!!
撮れ高なんですけどーーー!?
ひとつひとつ撮りたいんですけどーーー!?
あっ!この銅像、すごいよ!
眼帯をした怖〜い人間と栗頭の人間がイナバウア~してる!
ええと、確か説明文が彫ってあるはず!
……あっ!
これは歴代優勝者の候補で、遠い大陸に実在する人間なんだって!
名前は……
その大陸、当作品でよく使う効果音「ピューッ」に喧嘩売った奴がいるよ。
作者に申し訳ないから自分の作品では使わないようにしようって。
そんなこと言ったの、だれ!?どこの作品!?
証拠はバッチリ撮った!?
おやおや!おやおやおやおや!
ねぇ~~ジャックくぅ~~ん。
顔にモザイクがあるけど、これって作品名なんだっけ~~~?
キズナ〇〇〇〇〇〇〇の主人公だよ♪
うちの作者が続きを書かないうちに興味深いセリフがあったんだ。
粋な計らいをしてくれたみたいだね♪
あ〜。
同じサイトのチャットノベルランキング上位にいる、キズナでワンダーランドな物語だよね?
そうだよ?
よくコラボするのはお互い合作に近いからなんだ。
他作品って言ってもお隣さんみたいなものだからね、頼まなくても向こうでこっちの誰かの名前が出てるのさ。
というわけで一言。
あっちがばばばばばなら こっちはびびびびび。
あっちの作者の首がピューッ。
おいコラ。
作戦、覚えてるか?俺達はこれから何をする?
あれぇ?なんだっけ?
久しぶりのコラボで嬉しくて忘れちゃったよぉ。
ちょっとキズナでワンダーランドの最新話を読んできてもいいかなぁ?
コロシアムを前にして緊張感ゼロのメタ発言をするジャック、コタロー。
久々のコラボもして、とてもシロナを救出するようには見えない。
3人を見てそう思ったのはコロシアムの入り口の近くにいる数人の獣人達で、ルルカの指示で「様子を見ておくように」と言われていた。
緊張感のカケラもないが、あの人間がジャックで間違いないな。
けどまさか、学校の子どもまで一緒とは……
油断するな。
犬のビーストはともかく、あの狼の方はどこかで見た事があるぞ。確か……
と、その時。
コロシアムの入り口である大きな鉄の扉の奥から「はぁ……」と大きなため息が聞こえて、
獣人達が扉を覗くと、そこには刀を肩に乗せて外へ歩いてくるハルの姿が……
フン。
これから敵のアジトに乗り込んで仲間を救うってのに、のんびりすぎるというか相変わらずというか……
敵前で堂々とふざける奴がどこにいるんだい?
ジャックのくせに生意気や過ぎないかい?
あえて照明を消したコロシアムの入り口の、その暗闇から聞こえるハルの声。
「ヒッヒッヒッヒッ……」という笑い声も聞こえて、それがゆっくりゆっくり大きくなってくる。
けれどジャックはニコニコ笑顔。
今までとは違う大きな変化があって、その1つ目が「新しいジョブ」。
戦う相手が味方であっても遠慮なく戦える”愉快な”武器で、コタローとウルクと立てた作戦もある。
次回、コロシアムの獣人達もハルもビックリのまさかのバトルが始まる――。
つづく!
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