28話 ジャックの忘れられない一日!後編
文字数 9,958文字
金剛寺の湯。
男湯。
通常の浴槽、打たせ湯、寝湯、サウナ、水風呂などが並んだ大浴場に、最初にやってきたのはジャック。
恥ずかしそうにタオルで前を隠しながら脱衣所をそそくさと出ると、普通の浴槽へ。
※アイコンの服装はそのままです。
あ〜……やっぱり温泉っていいなぁ……。普通のお風呂はすぐに出るけど、温泉は特別だよ……。
手足をゆっくりと伸ばし、天井を見上げるジャック。
男湯と女湯の仕切り壁をぼーっと見つめる。
その時、謎のBGMを歌う男達の声が。
慌ててジャックが後ろを振り向くと、オルテガ、煌、ゴワスが横一列に並んで登場。
3人はタオルで前を隠さず、小刻みに腰を振りながら踊っていた。
うわあっ!?
なんでタオルで隠してないんですかー!
っていうかオルテガさんもいるし!?
ん?この音楽、テレビで聞いた事あるぞ?
それにその踊り、どこかで……?
あらジャック、見たくないの?
ちょっとがっかりだわ〜。
あーあー。男じゃねーなージャックきゅんは〜。
そうやってプカプカ浮かしてるだけじゃ、大人にはなれないんだぜ~?
まぁまぁ、ジャックはまだ子供なんだ。
どうせまだ生えてないのさ。見なくてもわかる。
おお?なんだ〜ジャック〜?まさか「生えてます!大人です!」なんて言うつもりじゃねーだろーな〜?
あ、隠してもムダだぞ~?
ヤングかアダルトかシルバーか……うん、ギリギリヤングだな。
おいおい野暮な事聞くなよ。女湯に聞こえたら笑われちまうぞ~?
なぁゴワス?
そうね。
アタシみたいにアダルトだったらあんな壁登るくらい簡単だけど、ヤングじゃ難しいわね♪
すると、旅館の入り口で末吉と話していた男性がガララッと扉を開け、入ってきた。
こいつの名前は千本松。
この旅館を建設したチームの一員。
そして、ベイビーもボーイもヤングも越し、男の全盛期であるアダルトの最高峰……!マッチョの上腕二頭筋の力こぶと間違えられ、チョモランマとも呼ばれた男!!
【千本松玄馬】
頭が高ぇのう……。
オルテガの仲間、千本松玄馬。
大の字になり、どっしりと構え、腕を組み、お湯の中に隠れたジャックの股間を見下ろす。
彼の下半身は、
獰猛な獣のように、神々しい龍のように、威風堂々と立っている。
ぐう……ッ!やはり、全裸の時はこいつの前じゃまともに立ってられねぇ!
や……ヤヴェーぞ……ッ!
なんだこの威圧感……!次元が違う……!
このチョモランマは……登れない……!!!
全身の震えが止まらない……!
ジャックなんてひとたまりも――
その時、ゴワスは何かを見て目を疑った。
それは、千本松の股間から放たれる威圧感の前に、一歩たりとも引かずに立つジャックの姿。
オレだって……!
男だああああああああああああああああ!!!
この人の股間の前で、自分の股間を晒すなんて恥ずかしい……。
こんなにも立派なモノを見せられたら、自分のなんて……。
男なんて辞めてしまおうか……。
きっと誰もが口を揃えて諦めるだろう。
しかし、ジャックは諦めない。
誰かに「そんな事で」と笑われようと、
ルルカに「サイテー」と嫌われようと、
世界中の女の子に「下品」と言われようと、
腰に手を当て、一歩も後ろに下がらず堂々としたポーズを保ち、懸命に立ち続ける。
その心が、その勇姿が、その小さなモノが千本松の心を動かした。
その時、千本松はジャックの諦めようとしないその姿を見て、とある夏の出来事を思い出す……。
――
千本松玄馬。
38歳。独身。
五知谷ジムの隣にある「天の湯」。
ちょっと不思議な女性が番台に立つ、それなりに古い銭湯である。
『あぁ、たまに来ますけど……最近は見ていませんねぇ……。』
残念そうに肩を落とす千本松。
そのまま入浴料を払い、広い浴槽で手足を伸ばす。
(五智谷市で相次ぐ失踪事件……。まさか、アイツはもう居なくなったのか……?ワシは間に合わなかったのか……!?)
悔しそうに拳を握り、男湯と女湯の仕切り壁を睨む千本松。
不意にガララッと扉が開き、2人の客が入ってきた。
それは……。
『本当なんだ。
確かにあの少年は犯人にやられてしまった。
しかしその直後、消えてしまった!』
『だから本当だと言ってるだろう?明日グラリオに話してみるつもりだ。』
『それより、ゴラゴラン……だったか?
なんなんだその名前?なんで本名で名乗らないんだ?』
『この名前は……、
人から貰った名前だ。そのうち話してやるさ。
絶対にグラリオに聞くなよ。』
千本松はチラッとゴラゴランと青年を見る。
すると、ゴラゴランは少し申し訳なさそうに話しかけた。
『ワシは人を探しにこの五智谷市に来た。ゴラゴランといえばボディビルの大会では有名、それならば情報も集まるはず。
ただ、探しているのは失踪した可能性が高い。最悪ワシらも"あちら"へ行ってしまえば帰ってこれない可能性も――』
『……いいのか?この五智谷市では失踪事件が相次いでいる。都市伝説ではなく本当に人が消えるんだ。自分の身も消えるかもしれないんだぞ。』
『私は目の前で人が消える所を見ました。恐らく、ごく普通の高校生です……!』
『私は悔しい……!あの場に居ながら何も出来ず、その結果彼の命と引き換えに助かってしまった、その中の1人……!
まだ「ありがとう」と言っていないんです。
ならば、彼の行き先がどこであろうと言いに行かなくてはならない!』
そうか……!
奴が言っていたのはお前だったんだな……!
ジャック。ワシの負けだ。
諦めないという気持ち、伝わったぞ……!
立派なモノを持ってるじゃないか……!
改めて自己紹介をしよう。
千本松玄馬だ。ジャック、よろしくな。
ゴワスっつったっけ?
ずっと気になってたんだけどよ、あんたの連れの緑のヤツの正体、もしかして……
シーッ。
その話はアタシ達がメインで活躍するお話で明かしてあげるから、今はシークレットよ?
ネタバレになっちゃう♪
あ〜……よくわかんねーけど、なんとなく察したっつーかなんつーか……なんかすまんな。
ネタバレっていうのかそれ?
それはともかく、ゴッツァンって「兄じゃなくて姉」って言ってた事あるよなぁ。
ほら、オレっちがゴッツァンの事を「ネグリジェババア」って言って、その後ゴワス、ゴッツァンが名乗っただろ?
確か……
『そんな怯えなくていいわよん。
アタシの名前はゴワス。
脂肪ブラザーズ、弟。』
『ゴッツァン。
脂肪ブラザーズ、姉。
あげる。(野太い声)』
ほんとだ!!姉って言ってた!!
男湯と女湯、どっちに来るんだろう……
てか、遅くないか?
グラリオのおっさんもゴッツァンもすえきっちゃんも、まだ入ってきてないよなぁ。
あそういえば、グラリオさん、ルルカちゃんが変なあだ名をつけたよなぁ……。
確か、ギャランドゥだったような……?
グラリオって、あのグラリオだろ?
それなりに歳食ってるだろうし、ボーボーなんじゃねーか?
この中だと胸に毛が生えてるのは千本松さんだけかぁ。
すると、オルテガは待ってましたとばかりに都合よく足元にあった小さなカメラのような物を持ってドヤ顔をする。
よしわかった!
女子必見!男子全員の身体的なステータスを分析するマシンを紹介するぜ!!
説明するぜ。
コイツはマギアルクラフトで作られた代物でな?
カメラで人を撮ると、どんな体型なのか分析して文章にしてくれるんだ。
その点は問題ない。
これは、文章にした結果を壁とか天井に映像として写す事ができるんだ。
まぁまぁジャック、そう言うなよ〜。おめーも気になるだろ〜?ボインちゃんの体型♪
もちろんだ!!
男は体型、女は体型とボインを徹底分析!!どうよジャック~?気になるだろ~?
ボインちゃんのボ・イ・ン♪
バカ言ってんじゃねーよ〜?
久々に会ったと思ったら女ばっか連れてきやがって〜。おめーが連れてきたんだろ〜?
おうともよ!わかってんじゃねーかコノヤロー♪
一体何カップなのか気になるだろ〜?
もちろん、あのチビもコレさえあれば丸裸!ウッヒョー!!
おいマジかよ!ロザリアちゃんの……ロザリアちゃんの……!
パッネェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
まぁ、まずはオレらでやってみようぜ!ほいポーズ、カシャカシャっとな!
ちょっと気になるわねぇ。
アタシ、こう見えてボディケアしてるから大丈夫だと思うけど……。
千本松のおっさんは文句無しのSクラスだとして、自分の体型はどうなんだろうなぁ〜?
これで「モテモテボディー」なんて結果が出たらどうしようか〜?
ジャック。
体型、普通。
下半身、純白ツルツル&不屈のボーイ。
一ノ瀬煌。
体型、細め。
下半身、ナチュラル&ベイビー。
オルテガ。
体型、ガッチリ。
下半身、熱帯雨林&ややシルバー世代。
ゴワス。
体型、リンゴ。
下半身、お手入れバッチリ&控えめアダルト。
千本松玄馬。
体型、細マッチョ。
下半身、迷いの森&難攻不落のチョモランマ。
おいちょっと待てー!どこが当たってるんだよー!!
オレはベイビーじゃねーぞ!アダルトだぞアダルト!!
螺旋のように渦巻いてるだろー!?
おかしいなぁ~。故障か~?
オレはまだシルバーじゃねーぞ?
熱帯雨林は認めるけど。
絶対壊れてますよ!
不屈のボーイってなんですか!?物申したいんですけど!?
ジャック!諦めなければ必ずやり遂げられる!そうだろう?
笑顔で何言ってるんですか!
っていうかあなたのアレ、当たってるんですけど!?
パネェー!ジャックのベイビーとおっさんのチョモランマが〇〇して〇〇になってるぞ!?
なんだよ~!今ちょうどジャックのベイビーが登山してるとこ……
あーーっ!ダメだ!気をつけろジャック!山の天気は変わりやすいんだぞ!
オルテガ、煌、ジャックは男湯に入ってきたゴッツァンを見て驚愕。
オルテガはすぐに「丸裸V」を手に取り激写。
分析結果を壁に写すと、
煌、ジャック、千本松、ゴワスは壁を見て目を疑った。
ゴッツァン。
体型、洋ナシ。
下半身、ビックバン&真夏の暴れん坊将軍。
アウトおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
****
一方、女湯。
タオルで体を隠さず、恥ずかしがらずに温泉を堪能するスタイル抜群の美女が2人。
※アイコンの服装はそのままです。
そして、少女達の中で呪われたかのように美女の胸を睨みつけるネクロマンサーが1人……。
わぁ……細い体、白い肌……。
幽霊も脱げるんだね……。
ジャックくんってすごいよね!
ボクがふざけて怒られることはあるけど、本気では怒らないし……みんなに優しいし!
こうやってみんなに会えたの、ジャックくんのおかげだと思うんだ!
そうですね……。
ジャックさんのために、恩返しがしたいです!
すると、ミノルは脱衣所の方を見る。
そこには、リリカの隣で恥ずかしそうにタオルで体を隠している1人の少女が立っていた。
【金剛寺桃華】
はい!金剛寺桃華です!
悠哉……じゃなくて、ジャックさんの妹です!
仲良くしてくださいっ!
そう、女性陣がなかなか脱衣所から出ず、男湯の騒動に気付かなかった理由。
それはジャックの妹、金剛寺桃華との偶然の出会い。
男達があれやこれやとやっている間、女性陣はそれぞれ自己紹介をしていた。
桃華ちゃん、一緒に入りましょう?
とっても気持ちいいわよ♪
私、友達になりたいです!桃華ちゃんって呼んでもいいですか?
それなら、敬語は無しにしましょ?
さっき自己紹介したけど、あたしは西の大陸の天才少女、ルルカよ。
ジャックはあたしの栄養素だから、そこんとこヨロシク。
冗談よ。簡単に信じるところはジャックそっくりね。
ネクロマンサーの魔力吸収には綺麗な血が必要な時もあってね?
だいぶ前、ジャックに吸わせてもらった事があるの。だから栄養素って言ったのよ♪
珍部部長、リリカだよ!珍しい噂が大好き!よろしくー♪
はぁ……それにしても、あんまりしんみりしたくはないけどやっぱり寂しいわね……。ジャックの事は話した通りだけど、これからどうするのかは決まってないと思うわ。
兄妹なんだし、会っといた方がいいんじゃない?
呼ぶってあんた、まさか女湯に……?前の事覚えてないの!?
壁の上、開いてるでしょ?
あそこに登って、ジャックくんの名前を呼んでみるだけだよ!
さすがに混浴は恥ずかしいもん!
ええええええええええええええええええええええええええええええ!?
こらミノル!なんて事言いだすの!この子すぐ信じるんだからー!
お兄ちゃんはお父さん、お兄ちゃんはお父さん、お兄ちゃんは――
っていうかややこしい事になってるじゃない!お兄ちゃんはお父さんってどういう事なのー!?
っていうか……この壁、結構高いわよ?怪我したらどうするつもりなのよ?
ミノルちゃんとリリカちゃんをフワフワにしてあげる♪
すると、サキは魔法を発動。
ミノルとリリカの体が風船のように浮き、2人は壁の開いている部分まで辿り着いた。
すると今度は、ミノルとリリカの体が白い泡で包まれた。
男湯と女湯の仕切り壁からひょこっと顔を出し、男湯を覗くミノル、リリカ、桃華。
サキの魔法で体に泡が付いている3人は、壁の上に胸を置くように覗く。
一方、その様子を後ろから見るサキ、ロザリア、ルルカ、ノノカ。
目の前の壁を見上げると、ミノル、リリカ、桃華のお尻が仲良く並んでいた。
これ、泡で隠れてなかったら死ぬほど恥ずかしいんだけど……。
っていうかあの泡、ちょっと減ってない?
ええとね、バブルコアの泡は何かにこすったり手で払ったりすると消えるの。
あと、水に触れると消えるわ❤セクシーでしょ❤
セクシーなのは仕方ないわ。
だって、サキュバスの泡だもの❤
「はぁ……」とため息をするルルカ。
その瞬間、ルルカは何かに気付く。
(何……?誰かに見られてるような気がする……。
天井、ううん、もっともっと上から見られてる……。)
不審そうに天井を見上げ、首を傾げるルルカ。
一方、バブルコアの話を聞いていないミノル、リリカ、桃華は……。
ええっ!?壁の上に立ったら全部見えちゃうよう!
んもう、冗談で言ったのにー!
鼻の下を伸ばすオルテガと、不思議そうに首を傾げるグラリオが壁を登ろうと肩車をし、小声で気合いを入れていた。
お、おう!もちろんだとも!
いやぁ、石鹸を壁の上に蹴とばしてしまってよ!異世界人でもそういう事よくあるよな?
いや、上に蹴とばす事は普通ないと……
って、ちょっと待つんだ!私は異世界人ではないぞ?断じて!!
なんでオレが肩車する側なんだあああああああああ!!
なぜって、オルテガ殿が「石鹸を取ってくれ」と言ったからじゃないか。
いやぁ、立派な温泉がよく見えるぞ!なんて素晴らしいんだ!!
(クソー!確かに石鹸取りたいから協力してくれとは言ったけどよ!オレが肩車される側じゃないのかよ!!
てかこいつ、めちゃくちゃ筋肉すごくねーか!?
どんだけ筋肉鍛えてんだよ!こいつの脚ゴリラか!?
クッソ!負けてられるかああああああああああああああああああああ!!!)
おお……!ああ……!オルテガ殿、髪が大事な所に当たってくすぐったいぞ!!
冗談ではない!本当に……!
あっああ……!おお……!そんなにスリスリしたら……!!ああっ……!!
マギアル魂ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!
おお!おお!?
す、すごいぞ!さっきより高くなったぞ!!これなら石鹸を見つけられそうだ!!
マギアルクラフトの技師の誇りを込めた「マギアル魂」全開で力を込めるオルテガ。壁のてっぺんに届きそうなグラリオ。
しかしこの時、オルテガは忘れていた。
始めから石鹸などなく、自分が壁を登るためにグラリオに協力してもらおうとしていた事を。
しかしその時、グラリオは上を見上げ、固まってしまった。
本当に悪気はなく、ただ純粋に上を見上げ……固まってしまった。
お、おい!グラリオ!?返事がないぞどうしたんだ!?
ま、まさか……何かいいものでも見えたってのか……?
そう、これは偶然の事故。
「あり得ない」と思うような、しかし確かにあり得るハプニング。
グラリオは、真上の景色をしっかりと見てしまった。
そして、そのまま――
目を閉じ、優しい表情を浮かべ、
「何を見たんだ!?」と動揺するオルテガの肩から落ちるグラリオ。
熱いお湯に抱かれても、表情は変わらない――。
オルテガは気付かない。
肩車をしていたその真上、
そう、仕切り壁の上に、ミノル、リリカ、桃華が立っていた事に。
恥ずかしいよう!お兄ちゃんじゃない人に見られちゃった~!
本当ですね……上から、男の人の声が聞こえるような……?
ルルカ、サキ、ロザリアが男の声に気付く。
それは気のせいではない。
――ウメダ、金剛寺の湯。
その上空に、ものすごいスピードで落下する謎の男がいた。
それは……。
なんと、鬼ヶ崎連合ギルドマスターの鬼塚アモン。
彼はみるみるうちに服が破けていく。
おいおいおいおい冗談じゃねーーーーぞ!?
ジャックに会いに来ただけなのに!なんでオレのスキルはコレなんだよおおおおおおおおお!?
アモンのスキル。
それは「瞬間移動」。
対象の人物、またはモンスターなどの現在位置に一瞬で移動できる代物。
しかし、スキルを発動するといつも空中に浮いていた。
横の座標は合ってんのに!なんで縦の座標がおかしいんだよおおおお!
ハッ 下にあるのはなんだ……?
あれは煙突、あれって温泉のマーク……?お、温泉!?
クソ!もうやけくそだ!!
イチかバチか、このまま落ちてみるしかねぇ!
運よくあの煙突に入って温泉にドボーンって感じで行けば、助かるだろ!!
おっしゃ行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
やけくそから覚悟に変わり、歯を食いしばってまっすぐ下を見つめるアモン。
「もしかしたら」、「もしかすると」。弱気になった自分の心の声が聞こえる。
アモンはブンブンッと首を横に振り、まるで隕石のように垂直に落ちる。
アモンは煙突の中に見事入る事に成功。
不思議と手足や頭が周りに当たらず、怪我をしていない。
「これなら行ける!」と笑顔になるアモン。
暗く狭い煙突の向こうに、希望の光が差し込む。
何かしら?さっきより大きくなってるわ!
ミノルちゃん、リリカちゃん、桃華ちゃん、降りてきて!
会いに来たぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
アモン、無事生還。
両手を挙げてバンザイをし、見事浴槽に落下したアモン。
全裸になり、ずぶ濡れになってしまったが怪我はない。
やった!やったぞ!!ついにやったああああああ!
オレは……!オレは……!!
「やってやったぞ!」とガッツポーズ。
「オレ様、すごすぎ!」と笑顔。
「温泉ダイブ!超エキサイティング!」とドヤ顔。
しかし……。
えっ。ルルカ様!?あのルルカ様!?
やった!会えたぞ!!
って、うおおおおおおお!!
ご褒美!ありがとうございます!!
っていうか何で全裸なんだ!?ん、まさか!?
いやあの、これは事故でして……あはは!
そ、そうだジャック!ジャックに会いに来たんです!!
やだなぁ~ジャックったらどこにいるのかしら~♪
うおっ!?バカでけぇセクシー美女が2人!?
ダブルボインヤベェなオイ!?
あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!
冷たい息吹と闇の魔法を喰らい、熱いお湯に入りながらカチンコチンに凍るアモン。
……こうして、楽しい楽しい温泉の時間は終わった。
鬼塚アモンの尊い犠牲の元に。
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