145話 ハルさん絶体絶命!?謎の声再び!
文字数 4,671文字
獣人街、コロシアム。
その一室。
ルルカが不機嫌そうな顔で椅子に座っていると、部屋の扉が勢いよく開いてコロシアムの入り口付近にいたはずの獣人が入ってきた。
突然の事にざわめく獣人達。
するとルルカは何か思い当たる事があるのかため息をひとつ。
根拠はないけど、
いや、何が起きるかわからないけど、
ジャックは必ずハルを突破してここに来る。
それどころかルルカもアラネアも突破して、無事にシロナを助けてクエストをクリアする。
そして、ハルはそうなる事をすでに知っている。
ルルカは「そんな事あるはずない」と思いつつも、ハルの言葉を思い出し、1つの仮説が浮かんでいた……。
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コタローの「ノーツ」の力で周りにいる人に任意の歌や音楽を聴かせるという能力の"オマケ"ダンシングノーツ。
聴こえている楽曲に振り付けがあるなら周りが知らなくてもその通りに踊り出す効果や、自分の周りの風景もガラッと変わってしまう効果付き。
本来はこれをハルだけにやるつもりが、
うっかりコタローとウルク、周りの獣人達まで巻き込んでしまい、オリジナルソング「ごちゃエピ音頭」を歌って踊る事に。
そう、ここはコロシアムの前。
ジャック、コタロー、ハルが踊り始めてから5分が経過。
あれから楽曲も変わって、振り付けも頭を振り回したり手足を激しく動かしたり、より激しいものに変化。
今ジャック達が踊っている歌の名前は「ワイルドバーさんの3分間クッキング」。
テーマはクレイジー。
かつてグラスオーヴィで歌った"あの歌"……
そう、あの「ワイルドバーさんのWORLD WAR」の続編で、「ワイルドバーさんシリーズ」第二弾が今回の新曲。
しかしなぜハルが考えた歌をジャック達が踊っているのか?
それは新ジョブ「ラスター」でノーツを操るための専用武器「
本来はこれを使って
「相手に歌や音楽を聴かせて踊らせる」のを自分、
「踊る」のを一人、または複数の誰かに指定できるはずが、
今は誰が踊らせて誰が踊るのかが決まっていない状態。
つまり、今は誰でも自分で考えたオリジナルソングを周りにいる人に踊らせる事ができる……。
リビングで聴き慣れたレンジの「チーン」という音。
どこからともなく聞こえて来る「ソイヤ!」という男の掛け声。
そして、足元には茶色の板……
首を回して90度。手を叩いてオリャオリャオリャオリャ。
ハゲにコマネチしたならばマグロを片手にソリャソリャソリャソリャ。
2人は振り付けにある「マグロ」なんて持っていない。
そのヒントはまな板の上で踊るジャックとコタローの周りにあった。
ジャックが頭の毛が無い謎の男達を見ると、まるでラーメンの湯切りをするように大きなマグロを振り下ろす。
すると、ジャックも同じ動きをして叫ぶ。
初めて聴く歌の振り付けになんとかついていくジャック、コタロー。
しかし、2人の目的は自分達が踊ることじゃなく、
そう、新ジョブラスターの力を操るのはジャックではなくハル。
ノーツというエネルギー、というより「音」を
ノーツにも意思はあって、冒険者ギルドでラスターに転職したばかりだとご主人様の言う通りに動いてくれるとは限らないし、タクトがあってもそれは同じ。
ではノーツが本当に「この人はご主人様だ」と思うのはどのような人物か。
それはズバリ、音楽を大切にしていて、きちんと愛する者。
音楽で気持ちを伝えるアーティストや踊って町を元気にする踊り子もそう。
路上で歌う人、歌を多くの人に聞いてもらうために配信する人もそう。
同じ音楽の道を歩む人同士、お互いを褒め合う人もそう。
この世界ではそういった音楽に通ずる人に、ノーツという名の妖精がひと知れず力を貸してくれて、歌う人も聴く人も笑顔になれる……という噂もあるし、
ノーツの力で浮いている幻の城があるという噂まである。
そしてジャックこそ、
かつてのグラスオーヴィでライブをして、数々のオリジナルソングを生み出した張本人。
その盛り上がりを知る者は従業員だけにあらず。
今までジャックと一緒に歌った者のお墨付きで、メルーナやヒビキも驚かせた。
その時、ハルが手にしていたタクトが生き物のように勝手に動いて空高くジャンプ。
探し物をしているかのように先端の部分が右へ左へと曲がると、一直線にジャックの手の方へ飛ぶ。
いつの間にか頭の毛が無い男達は般若のお面をかぶり、包丁片手に踊り出し、
巨大なヤカンがゆっくりとジャックとコタローの方へ倒れようとしている。
いくらこれがダンシングノーツによる幻でも、ハルの歌が続いている以上周りの景色は元に戻らない。
その時。
苦しそうだね、僕が助けてあげるよ。
えへへ……
背筋がゾクッとする感覚。
2回も聞こえた同じ声、同じセリフ。
オレは、君が誰なのか知ってる――。
『……いい機会だから忠告しておくよ。』