119話 ガチャの世界脱出!ジャックの力と消滅の謎を残して!
文字数 6,733文字
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前々回のあらすじ。
ルルカによって明らかになった「死神時代のリリム」の正体。
学園の魔物を封印した事で膨大な魔力を手に入れ、多くの人を死に至らしめたルルカの過去。
そして、お互い似た境遇のルルカとリリムの出会い……。
その直後ルルカに異変が起き、
ハルがとんでもない量の魔力を感じ「多くの人が死んだルルカの過去がもう一度起きるのではないか」と絶体絶命の危機を覚悟。
しかし1人の男は諦めてはいない。
その名は「グレたグラリオ」。
ドゥーンのガチャのスキルによって誕生したゲノン帝国幹部グラリオの分身。
彼は本物と比べると正反対。
情けない所が目立つ、すぐに怖がる、ビクビクする。
いざ戦闘なんてしようものなら即逃亡、降参してしまうだろう。
けれど彼はルルカの過去を知ると感動し、心強いセリフを口にした。
それは自分自身を犠牲にしてでもこの場の全員を助けるという目的のため……。
今回は時間を少し
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途端に怒り出し、グラリオの首元に刀を当てて力強く叫ぶハル。
けれどこれはグラリオの命を守るための行動。
どんな理由であれ自分の命を捨てるなど許さない。
たとえ分身であっても文句など言わせない。
「自分は今守られているんだ」。
グラリオはハルの優しさに目を閉じて笑顔になると、ルルカを救う提案を出す。
ソーシャルゲームのように実際に素材を集めるわけではなく、リリムのように何かがキッカケで「覚醒」して今よりも強くなって救う。
これが「ガチャの分身」であるからこその特徴に気付いたグラリオの提案。
さっそく「キッカケになるものは何だろう」と考え出すグラリオに、ハルは「はぁ……」とため息をひとつ。
ハルの言葉を聞いて驚き、思わず腰が抜けてしまったグラリオ。
ジャックにはスキルが無い代わりに潜在能力がある。
それは帝国にも対抗できる力。
ハルがグラスオーヴィまで迎えに来たのは旅をしてこれを鍛えて成長させるためであり、言うならばクエスト編の
そして今、「グレたグラリオ」の覚醒進化のキッカケであり、ハルがドゥーンに「ジャックを呼んでこい」と言った理由だった。
そう言って「ふぅ……」とため息をするハル。
ともかく、ルルカを助けるにはジャックが居ないといけない。
ドゥーン、パンザレスは何をやっているのか?
不安はあるけれど、今は心を落ち着かせてジャックを待つ……。
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同時刻。
ドゥーンとパンザレスが変な方向で言い合っていた時。
そう、もうすぐで通路が壊れる異変に気付く頃……
謎の声に導かれて通路の奥へと進むジャックは、どこかにいるはずのその声の主を探しながら楽しげに話していた。
『見たよ!あのセクシャルレインボーにも行ったんだよね?』
ピタッと立ち止まり、満面の笑みを浮かべるジャック。
最初は「君はすごい人だよね?」と謎の声に話しかけられて返事をしていたけれど、人に褒められると気分が良くなるタイプのジャックはだんだんと自慢話のように話し出す。
『すごいなぁすごいなぁ!ボクだけ幸せでいいのかな〜!』
『うん。それで何とかしてジャック君やドゥーン君のサポートをしたいってわけ。大変そうだからね!
それより……』
その時、ふと違和感に気付くジャック。
気のせいだろうか、謎の声が低く聞こえたような気がした。
『もしかしてまだ聞いてないのかな?あのお婆さんから。』
『あぁ、かわいそうだなぁ。君が避けている事が現実に起きちゃうんだ。いくら泣き叫んでも無駄で、ボクだったらショックで死んじゃうよ……』
『……ボクはそんなの嫌だよ?今まで一緒に動画を撮った友達が無惨な姿になって死んでしまう。もしそうなったら動画を見返すのも辛くてできない……』
『だからボクが代わりに貰うんだ。ボクは寂しがり屋でね、いくら周りに友達って呼んでくれる人がいても孤独を感じるのさ。』
『今すぐじゃなくていいよ。仲間が消えるのはそう遠くない未来の話だし、いずれわかるから今は覚えておいてくれるだけでいい……』
いつの間にかポツンと立ち止まってしまうジャック。
何故だろうか、声の主の言った言葉に恐怖を感じてしまった。
それはかつてクラスタドームでヴェイルノートに「帝国に身を置いて仲間の安全を確保するか、そうでないか」の選択を迫られた時とは違う。
『怖がらせてごめんね。さぁそろそろ行こう。君の力は誰かを守りたいっていう気持ちが強ければ強いほど発動しやすくなるんだ。』
『まだ弱いなぁ。そんなんじゃ何も起こらないよ?』
ジャックは笑顔で感謝を伝えるけれど、不思議と冷や汗をかいてしまう。
そうしているうちに通路の壁にヒビが入り、天井の一部の落下も始まる。
ジャックは「せめて今一緒にいる人だけでも」とハル、ルルカ、ガチャの分身のグラリオと紋三郎に危機が迫らないよう願いながら、通路を走って行った……。
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そして、ジャックは"あの部屋"に辿り着く。
『それより君の力を鍛えないとダメだよ?友達がピンチになった時は?』
すると、どこからともなく別の声が……
この声は間違いなくドゥーンの声。
鍵が無いと扉が開かない事を伝えると、ドゥーンとパンザレスはブルをブン投げて鍵を手に入れる。
このまま扉を開けていいのだろうか?
ドゥーンとパンザレスは通路が壊れている中、巻き込まれるのを分かっていて鍵を届けてくれたんじゃないのか?
ジャックは「2人を助けたい!お願いだから無事でいて下さい!!」と心の中で叫ぶ。
その後、謎の声が壁の向こう……
ドゥーンとパンザレスのいる方で聞こえて……
『死んでも戻れないよ♪』
そしてジャックは、ブルと一緒に扉に手をかける。
ドゥーンとパンザレスから「ハルが自分を探していた」と聞いていたので、何かあったんだと思い……
そう叫び、いざ扉を開け……現在。
ガチャッ キィィ……
部屋の中央にいるのは涙を流して怒るルルカとハル。
そして――
光の粒が舞う中、半透明になって消えていくグラリオ。
すでにリリムの姿もなく、紋三郎もいない。
その瞬間、ブルの姿も消滅。
ジャックは「違う……」と呟きながら一歩下がる。
『それより君の力を鍛えないとダメだよ?友達がピンチになった時は?』
リリム、紋三郎、グラリオの突然の消滅。
それはさっきまで聞こえていた謎の声の言う「ジャックの力」によるものなのか?
ハルの言った「潜在能力」の効果なのか?
それともジャックが騙されていただけなのか?
ハルが呆然と立ち尽くし、
ルルカが涙を流しながらジャックに迫る中……
ドゥーンとパンザレスが歩いていた通路の壁も天井も、まるで動画を逆再生するように元通り。
「やったあああ!」と抱き合って喜び合う2人は、部屋の中央にいるジャックやハルに声をかけるけれど……
……やれやれ。
だから忠告したのに……
『今すぐじゃなくていいよ。仲間が消えるのはそう遠くない未来の話だし、いずれわかるから今は覚えておいてくれるだけでいい……』
まぁいいや。
これからのクエスト編も手助けしてあげようかな。
また会おうね。ジャック君……♪
この後、緊迫した空気の中ジャック達はガチャの世界を脱出。
分身の消滅だけでなく、ガチャの世界の崩壊の原因も分からないまま。
今回のガチャの世界の騒動はこれで終わりだが、
全てはジャックやドゥーンに話しかけた謎の声の仕業なのだろうか?
ジャックの潜在能力を鍛えるための長い長い「クエスト編」。
その中の「ガチャの話」で今回起きた謎が、
今後の話に繋がる事など、ジャックはまだ知る由もなかった……。