55話 ジャック変身?火を喰らう魔剣フレイムイーター!
文字数 5,017文字
精霊の森の中心部にある、
巨大なマナの塊「クリスタル」。
紅によって傷つけられた事により、森の中に魔物が入り込んでしまう。
ノノ、アルバートは
クリスタルと精霊術士の力があれば森の火を一気に消けると判断し、4人で魔物から守ろうとするが……
(くそ……!フレイムリザードを倒すには水の魔法が有効!しかしサイレントナイトは魔法系ジョブに沈黙を与える!この戦いに勝てたとしてもノノちゃんが魔法を封じられれば森の火は消せない!!)
紅にとってジャック達が考えている事などお見通しだったのか、戦闘と火を消す上で必要不可欠なノノの魔法を封じるような魔物が現れ、苦戦……。
焦ったアルバートは、
魔物の弱点を探ろうと1人で行動し始めるが、いつの間にか毒を受けていた事により手足が痺れさらに状況は悪化。
地面に倒れてしまったアルバートに、オークは毒が付着した棍棒の一撃を振るう。
****
毒……?
いつ毒状態になったんですか!?誰がアルバートさんを……!
!
じゃあ、オークの顔がアンデットモンスターみたいに溶けてるのは毒地に住んでいる種類のオークだから……?
いや、あのオークの行動……何か意図的なものを感じる……!
恐らく毒を付与できるようになったのも"手加減"しているのもあの女の仕業だろう……!
紅さん……?
どうして手加減してるってわかるんですか?
アルバートがノノを庇った時、持っていた戦斧を棍棒に持ち替えた……!あれは殺さずに毒を付与し、動けなくなった所を狙うため……!
ノノは悪くない。
紅がこの魔物達を呼んで邪魔して来るのもアルバートが庇ったのも森を救うのにノノが必要不可欠だからだ。自分に自信を持ってくれ。
それより、紅は必ず現れる。
何故かはわからないが、今狙われているのはアルバートの方だ。魔法を撃たず私の後ろに隠れていてくれ。
(クソ……!
アルバートがオークに攻撃されてから数分は経ったぞ!ジャック、間に合わなかったのか!?)
ノノに説明しつつアルバートの方を見るソニア。
しかし、オークの一撃で砂埃が舞い、辺りは何も見えない。
まるで天に救いを求めるように、空に向かって立ち昇る黒煙を見上げ、何かを待つソニア。
それはアルバートが攻撃を受ける数分前、素早く動きながら敵の弱点を探っていた時の事。
ソニアはジャックに渡そうとしていた"あるもの"をこっそりと持ち、タイミングを見計らっていた。
『あれ、アルバートさんの動きが少し遅くなったような……?』
『アルバートは毒を受けていたんだ!あのオーク、アルバートがノノを庇った時、戦斧から棍棒に持ち替えて攻撃してきただろう?あの棍棒に毒が付いていたんだ!』
意を決し、ソニアがジャックに渡したもの。
それは赤く、ドラゴンが口を開けているような模様の入った剣だった。
『すごい!なんだか持ってるだけで熱いし、赤くてかっこいいし、ずっしりくるし、もしかして伝説の剣!?』
『ふふっ。残念、その逆だ。伝説でも何でもない、普通の剣だよ。』
『だがジャックなら、いやジャックだからこそ大丈夫。なぜなら……』
突如、砂埃が晴れると同時に姿を現したジャック。
ソニアから渡された剣を使い、アルバートに直撃したはずのオークの棍棒の一撃をなんとか受け止め助ける事に成功していたが、
ソニアの気持ちに反応するように大きく叫ぶと赤く染まり、棍棒ごとオークの体を真っ二つに斬って倒してしまった。
ソニアちゃんの言う通り本当に毒が……。このままじゃ危険です。今のうちにソニアちゃんの所へ逃げて下さい。ノノちゃんなら水属性の回復魔法が使えるはず、休んでいて下さい。
回復魔法?なぜそれを知っている?
君はジャック……なのか……!?
さぁ早く。
獲物……いや、魔物はオレに任せて下さい。
大丈夫。ノノちゃんもアルバートさんもソニアちゃんも、精霊の森も全部守ります。
ジャックの言葉に動揺するアルバート。
しかし何故だろうか。
赤い剣でオークを一撃で倒し、姿も変わったジャックだが、不思議と違和感や威圧感は感じられない。
言ってしまえばさっきまでと同じ、いつも通りなのだが、どこか安心感があった。
君がジャックなのはわかった。
しかし、今の力は何だ?なぜ姿が変わったんだ?
オレは今まで、本当にいろんな人に助けられてきました。
いや、助けられてばっかりでした。
クラスタドームで会った人達もそうです。ソニアちゃんもグラリオさんも必死になってくれて、中にはゴラゴランさんみたいに帰って来れなくなった人もいた。
でも。
本当は戦いたいんです。
本当は守りたいんです。
優しくしてくれたみんなの事、笑ってくれたみんなの事、失いたくないんです。
だからオレは嬉しい。
この力があればやっと守れる。
大好きなみんなを守れるんです!
ふふっ。
全部守りたい、か……確かにノノの親父さんも言ってたな……
親父さん、すごいよな。壊滅寸前の精霊の森を守ったり、水不足の村を救ったり、国の戦争を止めたり……
人の味方でもあるし精霊の味方でもある。
相手が誰だろうと関係ない、みんな助けようとする。
ジャックと同じだな♪
そう。
ノノの父、グランにとって相手の種族など関係ない。
助けを求める者がいるならば居てもたっても居られずに手を貸してしまう。
その事から彼を英雄と呼ぶのは精霊だけではない。
人もそう、鬼もそう。魔族も獣人も帝国の幹部でさえも助けようとする。
(何をやっているんだ、ボクは……!!このままではあの人に近付く事などできない!彼に、ジャック君に越されてしまう……!それでいいのか……!?いや良くない……!)
(ボクも……守りたい……!憧れのあの人のように……!!)
思いもよらぬジャックの活躍で次々に倒れていく魔物達。
そして、まるで誰かが足りない分を補充するかのようにクリスタルの前に集まってくる魔物達。
アルバートは焦り、「毒を受けているから何だというんだ!」と自分に喝を入れると剣を持ち、ジャックに負けじと魔物に攻撃していく。
アルバートさん無事で良かったけど、どうしてジャックさんがあんなに強くなったんですか?
あっ……それって確か、ソニアさんのお部屋に飾ってあった剣じゃ……?
あぁ。
何十年も前、鬼と恐れられていた剣豪……私の父が戦いの中で火ダルマになってしまった事があってな?その時、あの魔剣で炎を斬って生き延びたらしいんだ。
火を斬る!?
じゃあもしかして森の火を消す事も……!
きっとできるだろう。
"真の力"はそれ以上に強いらしい。
普段は他の剣と同じように静かで、とてもすごいようには見えないだが。
でも……使い手の「大切なもの」がはっきりと分かった時、魔剣に認められる事でその真の力を発揮するんだ。
ジャックだよ。
この前、どうしようもなく悩んでいた私の前でジャックが魔剣を拾って、全部断ち切ってくれたんだ。
えっ!?断ち切ったって、斬られちゃったんですか!?
うん。ジャックと出会った事で悩んでいた事を、綺麗さっぱり消してくれた。
正確にはあの時ではないけれど、そんな気がするんだ。
悩みが解決したかのように笑顔で答えるソニア。
ソニアが言っている魔剣とは、精霊の森に着いてから魔本について説明した時と同じように時雨と出会った日、小鳥がソニアに対して使おうとした炎の魔本をジャックが真っ二つに斬ってしまった時に使った剣。
『小鳥ちゃん、落ち着いて!
ソニアちゃん、怪我はない!?』
そうだな!
「この世界の先輩」として、私達も負けていられないな!
そうさ。
もともとは武器なんて見た事も使った事もないはずなのに魔本だけを斬って、今はたくさんの魔物と戦って私達を守ってくれている。
でも。
守られるより一緒に守りたい。
そう思わないか?
意気投合し、笑顔で武器を取るノノとソニア。
アルバートもまた、ジャックに越されてしまうという不安は消え、ジャックと背中合わせに立ち、剣を握っていた。
マナ10個の納品、確認!
よく帰ってきたなあ!オレは嬉しいぞ!!
決まってるだろ!
クエストクリアだあああああああああ!!!
ジャック達は魔物から水のクリスタルを守り、火を消す事で無事に精霊の森を救う事に成功。
グラスオーヴィに帰宅し、
初のクエストクリアを果たしたジャックは、心配していたミノルやソラの前でフレイムイーターを握り……
おおおおお姉ちゃん!?
さっきまで「ソニアさん」だったじゃないか!私が怖くないのか!?
本当か!?最初に会った時から今まで、怖がっていたじゃないか!
ほらあの時だ!
【ノノの父親/グラン】
『――娘のノノだ!寂しがり屋で人見知りだが、この店で面倒見てやってくれないか?』
【ソニアの父親/グラス・オーヴィ】
『いいぞ。ほらソニア、挨拶だ。メイド服が似合っててかわいいなぁ!』
『ソニア・オーヴィだ。ソニアと呼んでくれ。よろしく頼む。』
『まぁ大丈夫だろう。それよりせっかくウチに寄ったんだ、一杯飲んだらどうだ?1人で寂しいなら俺も飲んでやるぞ?』
『父さん?お酒は飲み過ぎるなと言ったはずだが、まさか飲んだのか?』
『いや!飲んでない!飲んでないぞ!?グラン、お前が余計な事を言うから……!』
『ソニアちゃん、聞いてくれ。昨日コイツが飲まないとやってられねぇ!と言って俺をだな……』
もう怖くないよ。
ジャックさんもアルバートさんも、みんなかっこよかった。
4人で協力し、共に戦った事でノノの苦手意識が消え、2人の距離は縮まった。
そしてアルバートは……
結界が傷ついただけで壊れたわけじゃない?という事は……?
ええそうです。
アルバートさんが戦っている間に結界を強化したので、また魔物が入ってくる事はありません。
それより、
彼らと一緒に行かなくて良かったのですか?
いいんです。
ジャック君とは共に戦ったけれど、ボクにとっては憧れの人に最も近いライバル……。
次に会う時までに腕を上げなくては。
……それと、ボクがここにいれば森に迷惑がかかるかもしれません。しばらく旅に出ようと思います。
ロゼッタさん、くれぐれも帝国には気をつけて下さい。
わかりました。
アルバートさん、精霊の森はあなたをいつでも歓迎致します。頑張って下さいね♪
(ジャック君、ありがとう。また会える時を楽しみにしているよ。それまでお互い、強くなろう!!)
精霊の森から旅立ち、帝国の幹部を辞め、広い世界を歩き出す。
きっとまた会える、その日を信じて――
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