12話 ラッキースケベは突然に!?
文字数 4,730文字
ヴェイルノートが現れてから数日。
ウメダは平和そのもので、冒険者ギルドもジャック達もいつもと変わらない日々を過ごしていた。
宿屋。ジャックの部屋。
『私は、あなた方異世界人にスキルを譲渡し、冒険の手助けをするあなたの敵……。
ゲノン帝国最高幹部、ヴェイルノート……。』
(あの人……。
どうしてオレに会いに来たんだろう……。
本当にスキルを渡しに来たのかな……。それともグラリオさんを殺すために……?)
(……指先で触れただけで相手を消すスキルはグラリオさんのスキルだった……。
ってことはグラリオさんもあの人からスキルを貰ったんだ……。その時、どんな会話があったんだろう……。)
ヴェイルノートって人が来た時、だよね。覚えてるよ。
あの人、何が目的だったんだろうな……。
オレもミノルもグラリオさんも無傷だったし、ウメダが破壊されたわけでもないし、スキルを貰ったわけでもない。
オレ達が目を覚ました後も居なくなってて、あの人と会ったのはオレ達だけ。誰も傷ついちゃいないんだ。
大丈夫だよ。
もしまたやってきても、ボクが守るから。
今度は1人でなんとかしようとしちゃダメだよ?
****
宿屋。
ジャックの部屋の隣、リリカの部屋。
脱衣所には
髪留めとリボンと魔力を増幅させる服、
学園の1年の女子生徒である事を示すピンクの制服と、2枚の生徒手帳が丁寧に置かれ、
部屋の中に甘い苺のようないい香りが漂う中、
リリカとルルカは白い風呂椅子に座り、昼下がりのバスタイムを堪能していた。
※アイコンの服はそのままです。
こら!ジッとしてなさい!
シャンプーが目に入るの苦手だったでしょ?目に入っても知らないからね!
だったら大人しくする!
まったく……せっかく頭洗ってあげてるのに目に入るのがイヤだなんて、子供じゃないんだから……
同い年でしょ、あたし達。敬語はいらないって話さなかった?
もう、すぐ忘れるんだから。
あたしが学園にいた頃から変わってなさすぎ。
あたしが好きな食べ物覚えてる?
それはクルルの好きなものでしょ?
ほら、よく学食で食べてたじゃない。
それはあのヘンタイロリロリ教師でしょ。あいつまだ教師やってんの?
ルルカちゃん?
"シャコシャコ"止まったよー?どうしたの?
じゃあ、高速でシャコシャコしてあげようか?頭が血まみれになるけど。
……あたしが居なくなってから、何か変わった事とかあった?でかいモンスターとか出たりしてない?学園は平和?
むー?ルルカちゃんどうしたのー?なんだか元気ないような〜?
んー。
おもしろい事とかすごい事とか変な事とか、そういうのはなーんにもないよー?
珍部もやることなくて、困ってるもん!このままじゃ廃部だよー!
その珍部っていうのなんとかならないの?他に名前あったでしょ?
【サイトウ】
『珍しいものを追求する部活?なんて素晴らしいんだ!
じゃあ今日からこの部活の名前は珍部だね!』
『ああ!ボクの股間のダウジングマシンが反応している!!実はさっきからボクの金の玉が揺れているんだ!!ほら見て!!』
ねぇ、金の玉って何なんだろうねー?お宝かなー?パチンッて切れるものなのー?
むー?もしかしてルルカちゃん、サイトウ先生の事キライなのー?
ヘンタイだしそりゃそうでしょ。
ほら、シャワーかけるから目開けないでね。
そう。
ほら、あたしが卒業する前に事件があったでしょ?
――
数年前。
学園都市クロノス。
魔法科。1年A組の教室。
『なっなっなっなっなんだってえええええええええ!?女子生徒の下着が盗まれた!?
本当ですかアルドス先生!!』
【アルドス】
『本当だ。
だが問題ない。犯人はこの学園の中にいる。
学園の周りには高い塀と湖、魔障壁も完備。ここから脱出する術などない。』
『いいや、安心はできない!!
下着を盗むだけでは飽き足らず、更衣室の盗撮も企んでいるかもしれない!!
なんて羨ま……けしからん輩なんだ!許せん!許せんぞ変態野郎!!』
『アホくさ……。
どう考えても女装教師に決まってんじゃん。』
『これは世界中をライブをするアイドルをリスペクトして作った、手作りのマイ・コスチュームだからね!いつかアイドル科で輝くアイドル達をプロデュースしてみせるよ!』
『ここ魔法科なんだけど……。
アルドス先生、この人本当に先生なんですか?』
『まだ研修だけどな。
魔法科、アイドル科、メイド科の見学をしている所だったんだ。』
『キミはスク水を着ているのかい!?
なんっっって素晴らしいんだ!!!お写真1枚いいかな~?』
『大丈夫だとも!
え〜キミは……ルルカちゃんっていうんだね?
この学園の女子のあんな事やこんな事はこのボクが守ってみせるから、安心して〜!』
『はあ……
ん?リリカ、何してんの?鞄の中に何か……』
思い出した?
あの事件、下着泥棒なんていなくてリリカが無くしてただけだし、あたしがヘンタイ男を嫌いになったキッカケなのよ。
違う。あたしもウサギさんは好き。
要するにあのヘンタイはトラウマなのよ。あれだけ強烈なのがいればそりゃそうなるでしょ?
サイトウ先生もおもしろいけど、オバケもおもしろくて好き!
『あのねぇ。ソーサラーなんだからアンデットなんて全体魔法で思いっきりヤッちゃえばいいじゃない。』
『……はぁ。そう言うと思って、ネクロマンサーに転職してきたわ。これでもうゾンビだろうとゴーストだろうと平気なはず。
試しにオオカミのゾンビを召喚するわよ。』
――幽霊屋敷に行けたのもノノカちゃんに会えたのも、ルルカちゃんのおかげなんだよね!ルルカちゃんがいてくれたから好きになれたんだもん!
うんっ!キラーさんもゴワスさんもノノカちゃんもみんな好きー!でもおにーさんが1番好きー!
あぁ、そういう事ね……。リリカはまだまだお子様ね!
はいはい、お風呂なら今入って……
ってちょっと!?まさかここに呼ぶ気じゃないでしょうね!?
途端に、リリカは風呂椅子から立ち上がり、浴室の扉を開け……
こっこらあああああああ!?スッポンポンでどこ行くつもりなの!待ちなさあああああああい!!
びしょ濡れのあらぬ格好のまま部屋の扉に手をかける。
ストップストップ!!
せめてバスタオル巻くかパンツくらい……ってかあたしも何も着てな……!?
その時、物音とルルカらしき声を聞いたジャックがリリカの部屋の扉をノックする。
あ、ルルカちゃんいるんだね。
ええと、この間の件、ちゃんと謝りたいんだけど……。
あの時、勝手に居なくなるなって言ってくれたの嬉しくて……。
えっ。そうなの?
なんか息が荒いようだけど、風邪かな?オレでよければ看病するよ!
おにーさん!一緒におふろ入りませんかー?ルルカちゃんも一緒ですよー!
リリカのまさかの発言に慌てるルルカ。
ドアノブに手をかけようとするリリカの前に立ち、リリカを説得。
ちょっとリリカ!?
あんた恥ずかしくないの!?今は人前に出ちゃいけない格好なのよ!?
でもおふろはみんなで入った方が楽しいよー?
キラーさんもギャランドゥさんも暑化粧さんもミノルちゃんもノノカちゃんも、みんなで入りたいなー!
え、えーと……人前に出ちゃいけない格好ってどういう……
(まずい!このままじゃあたしもリリカも全部見られて……!)
『ワーオ!!ルルカちゃん幼児体型だったんだね!!かわいいなベイビー!!』
『よ、幼児体型……!?このルルカ様がお子ちゃまだって言いたいの!?』
『わーい!幼児体型!わーい!お子ちゃま!つるーんでぺたーんなルルカちゃんかわいい〜!』
その時、ルルカは困惑。
目の前にいるリリカが両手を前に出し、笑顔でルルカに近付く。
ル〜ル〜カ〜ちゃ〜ん〜だ〜い〜じょ〜う〜ぶ〜だ〜よ〜
全てがスローモーションの中、笑顔のままルルカに迫るリリカ。
ルルカはびしょ濡れなまま抱き着かれる事を恐れ、思わず避ける。
そう、自分の後ろに部屋の扉がある事を忘れて。
咄嗟に逃げたルルカのスピードに驚き、抱き着くスピードを押さえられずそのまま扉に迫るリリカ。
ルルカは「させまい!」と両手を前に出したままのリリカを止めようとする。
あろうことか、ジャックが気になって着いてきたミノルが扉を開け、リリカが部屋の中に向かって開く内開きの扉にタイミングよくぶつかってしまった。
そしてそのまま……
突然開いた扉にぶつけてしまったリリカがルルカの手を引っ張り、バランスを崩して2人は倒れる。
瞬きすることなかれ。
目の前に広がるは桃源郷なり。
これが噂の、嗚呼噂の……
いやあのこれは事故でして……!
っていうか顔!!また幻が見えてるんですけど!?
結局、ルルカに謝りたいだけだったはずが、再び鬼そっくりの幻の顔を見てしまうジャックだった。
あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!
……その後、巨大な悪魔を召喚し、自爆する魔法「ナイトメア・ネクロエンディア」により、宿屋が全壊してしまったのは言うまでもない。
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