45話 バルバトス襲来とジャックの秘密!?
文字数 6,919文字
前回のあらすじ。
たこ焼きボンバーとゴラロボが壊され、復讐を企むナナ。
そんなある日、ジャックは「せっかく働くんだから」とグラスオーヴィで稼ぐ目標額を決める事をリサに告白。
しかしジャックには異世界での武器や防具、アイテムや宿屋などの料金を知らず具体的な目標額が立てられない事を察したリサは、物資の実際の料金を知ってもらうため、ヒナ、ソラ、結衣と共にとある町へ買い出しを頼む事に。
その後ジャック達は一瞬で転移せず、実際に空を飛んで転移できるマジックアイテム「飛翔転移の魔法陣」を使い、グラスオーヴィから転移先の町「ウエノ」へ出発するが、その道中ナナが現実世界で死んでしまい、ニャルシーとなって異世界に生まれ変わった事を知ってしまう。
そしてジャック達に気付かれないよう尾行していたナナも……
『……そうにゃ。
でもウチはあの時会った人間がどんな人間か覚えてないにゃ。だからグラスオーヴィに……。』
自分が庇おうとした人間が誰だったのか、その真相を思い出すためジャック達の後を着いて行く事に。
……新たなる町ウエノ。
美味しい料理と数々の武器、そして――
おっと。急に立ち止まらないでくれよ。
どうしたんだい?
空か。今日はいい天気だなぁ。
こんな日は何もせず、ゆっくり空の散歩をしていたいけど……これも仕事だからね。
そうだ、今日の仕事が終わったら美味しいものでも食べに行かないかい?僕の飛空挺でひとっ飛びさ。
"とあるエリア"の無法者が大勢の人混みに紛れ、悪事を働かないよう警備する者達。
ついにこの時がやってきた!
バトルトーナメント予選大会!
運命の最終戦、いよいよ開始!!
勝つのは!どっちだああああああああああああ!?
おいおい、最後の相手がニャルシーだと?お前みたいな弱い女は引っ込んでろ。どうやってここまで勝ち抜いたんだ?あぁ〜ん?
フン。後悔すんじゃねぇぞクソガキ……!俺が誰か知ってんだろ?「闇市場」の常連だぜ?
お前がどんな痛い目に遭おうと、泣いて叫んでも誰も助けにゃ来ない。すぐに売り飛ばしてやる!
コロシアムに出場し、歓声と拍手を浴びながら頂点に立とうとする者達。
へへへ……たっぷり儲けさせてもらうぜぇ?冒険者様よぉ!!
【ジャック&ソラ&結衣】
着いたああああああああああああああああ!!
ジャック達が着いたのは大きな樹木と石碑のある広場。
その樹木に集まるように様々な屋台がズラリと横に並び、屋台の屋根にはお祭りや花火大会の時のように「盾」「剣」「魔本」「肉」などの文字が書かれ、鎧を着た男やトカゲのようなモンスターが当たり前のように行列を作っている。
さらに広場の周りには、店の外で食べられるよう設置されたテーブルと椅子のあるレストランのような酒場や、店頭に様々な剣や斧を並べている武器屋。
広場の外は民家が建ち並び細い通路になっているのか、民家の2階や3階の窓から外を歩く人へ手を振る子供、外を歩く女性に「ヘイ彼女!綺麗だね!」と声をかける細身の男など、とにかく活気ある人で賑わっていた。
じゃあその鐘が鳴るまで自由……じゃなくて!
こんなに人が多い所で1人になったら大変だよ!
冒険者様感謝祭というお祭りです。
冒険に役立つ物から生活雑貨まで、驚くような価格で売っているんです♪
ちょっと待って!みんなで一緒に行こうよ!迷子になったらどうするの!
あっ……でも、買い出しってどこに行けばいいんだろう?
リサさんからメモを渡されています。ええと、中心街の雑貨屋さんですねぇ……。
そうです。
この町、ウエノはとてつもなく広い町で、3つのエリアに分かれています。
その1つがこの中心街。
エリアの範囲は南にある大きな町の入り口からまっすぐ歩いてこの大きな広場を中心としたほとんどの民家やお店が対象となります。
町の雰囲気は見ての通り、人間さんや人と共存しているモンスターさん、獣人さん。子供から大人まで、幅広い方々が自由に歩くエリアです。
ちなみに、転移の魔法陣の行き先がウエノだった場合、基本的にこの石碑の前に着くので、町の住民の方は玄関口として冒険者の方を歓迎しているんですよ♪
次に、最も熱いのが闘乱街。
「ギルドハウス」やコロシアムがあるエリアです。
普通、冒険者ギルドというのは1つの町に1つなのですが、本当に多くの冒険者の方が歩く闘乱街ではいくつもの冒険者ギルドが建ち並び、選りすぐりの冒険者達で埋め尽くされています。
うひゃあ……すごいなぁ……。
グラリオさんやゴラゴランさんみたいなマッチョの人がたくさんいたら……。
ヒィィ!めちゃめちゃ怖い!!
ギルドハウスというのは、
ギルドに所属している方が生活する施設の事です。
最初は素朴な家具しか置いてありませんが、ギルドのランクを上げる事によって施設の内装を増築する事が出来るのです。
ちなみに、闘乱街には4桁を超えるギルドハウスがあるそうですよ♪
1つのギルドハウスにマッチョの人が100人いて、それが3000個あるとしたら合計でマッチョは……
ん?
くんくん。くんくんくん。
すごくいい匂いがする!!行こうよ!!
トータルマッチョは何人……
じゃなくて!ソラ君、ちょっと待って!
中心街の雑貨屋に行かないといけないんでしょ?
ついでに、寄りたい所があるんだけど……
ソラ君、結衣ちゃん、たこ焼きボンバーって覚えてる?
実はオレ達、そのたこ焼きボンバーに乗ってグラーディアに辿り着いたんです。
ええっ?あの船は人が乗れるような物ではなく、ただの模型ですよ?
そこはオレも思ってたんです。どうしてあんなに大きな物をナナちゃんが作れたのか。
でも、壊しちゃったのはオレ達で間違いないので……
たこ焼きボンバー、オレ達の手で作ってプレゼントして、ちゃんと謝りたいんです。
ヒナさん、たこ焼きボンバーの材料……ええと、木材とか売ってる場所ってありますか?
それなら、リサさんのメモにあった雑貨屋さんの近くにありますけど……
よーし!たこ焼きボンバーを復活させるぞー!お店まで競争だーーー!
「たこ焼きボンバーをもう1度作る」。
ナナに謝るため、ナナに喜んでもらうため、ジャック達は中心街と"とあるエリア"の境目に近い位置にある店へ向かう事に。
一方ナナは、人混みが凄すぎてきちんと会話が聞こえなかったようで……?
どこ行くにゃ?そっちは"あそこ"が近いから危ないってソニアっちが言ってたはず……。
もう、しょうがないにゃあ……
中心街。クラフトショップ。
ジャックは店員にウメダダンジョンでたこ焼きボンバーを見つけた事、たこ焼きをエネルギーにして動いた事、くいだおれ人形と正面衝突して壊れてしまった事を説明し、もう1度作りたいと伝えた。
信じられないのはわかってます。
でも本当にたこ焼きボンバーに乗って、たこ焼きを撃ったんです。
というのも、実は心当たりがあってね。
天使さんとニャルシーの女の子がここへ来た時、怪しい少年に会ったんだ。
怪しい少年ですか?
今は違いますが、あの時は女性だけで行動していたので、知り合いではないと思うのですが……
だろうね。
もしあの少年と知り合いがいるなら、会ってみたいよ。
ジョーカー……。
確かあの子、ジョーカーって名乗ってたよね?
うん!めちゃめちゃ怪しかったよね!
ボクが寝ている間、いつの間にかたこ焼きボンバーに乗ってたし!
ジョーカー……。
そうか、じゃあその少年が犯人で間違いなさそうだ。
うん。天使さんとニャルシーの女の子がここへ来て、船を完成させて出て行った後……
『えっ?
あぁ、あれはあのニャルシーの女の子が作った物でね。材料は売ってるけど、完成品は売ってないんだよ。』
『え〜?
ボクなら乗れるようにおっきくできるのになぁ。』
――その後、少年は消えてしまったんだ。
恐らく、ニャルシーの女の子の船を手に入れてウメダダンジョンに行き、君達が乗れるほどの大きさに変えてしまったんだろう。
少年の正体は分からないけど、もしかするとウメダダンジョンに住んでいたのかもしれないね。
または、大きくしたもののニャルシーの女の子のサインを見て、ウメダダンジョンに捨てた可能性もあると思うよ。
……ともあれ、君達はもう1度作りたいんだろう?
どんな形でどんな物が付いていたか覚えているなら、早速作ってみるといい。
材料ならいくらでもあるからね!
ボク覚えてる!大砲にタコの絵があって、猫の銅像があって、それからええと……
船を作った時、ニャルシーの女の子が言ってくれたんだ。
というわけで、君達の記憶が頼りだよ!
作り方は教えるから、頑張ってみてほしい!!
よーーーし!
たこ焼きボンバーを復活させるぞーーー!
かくして、
店員に作り方を教わりながら自分の記憶を頼りにたこ焼きボンバーを作り出すジャック、ソラ、結衣。
一方、そんなジャック達をジッと見つめる者がいた。
それは、ジャック達のいるクラフトショップの向かい側の酒場でランチを食べながらひと休みしていた男達。
腹が減ってはなんとやらってね!ステーキ、おかわりしようかな!
落ち着いた午後はブラックコーヒーに限る……うん、良い香りです。
それにしても、本当にいい天気だね。
ちょっとした窃盗も殺人も起きない、指名手配中のギルドも現れない、まして帝国の幹部が動いたって話も最近じゃウメダぐらい。
この先のエリアの連中も特に目立った行為もなく、住民の叫び声1つも聞こえない。
異常なし、平和そのものだ。
あぁ。
テイル・プロミーズ付近を飛んでいた他の飛空挺団があのヴェイルノートを見たようでね。
どういうわけか永い間封じられていたはずのディアスと会話し、魔族の女性が犠牲になったらしい。
ヴェイルノート……。
という事は、奴がウメダを襲った?
どうだろうね。
ウメダ周辺の森は巨大な穴になっていて、ウメダの中も壊滅状態らしいから今のウメダ周辺には近付けない。まず生存者は居ないと思っていいだろう。
先日のクラスタドームの事件と何か関係があるのかもしれないし、オルテガのおじさんにも連絡を取り合ってみるつもりだよ。
ともかく、最近になって帝国の動きが活発になったのは間違いなさそうだ。
だからこそ、この町の警備に協力してる。
……まぁ、ボランティアだけどね。
落ち着いて。
あんまり大声を出したら皆びっくりしちゃうよ。
……!
しかし、なぜこの町なのです?
この町が奴に何かしたとでも言うのですか?
それは分からない。
ただ、前から他国を滅ぼしていた時の帝国は無差別。今の帝国は何か共通点というか、計画性があるような気がするんだ。
例えば……
以前ボランティアの募集をしていた駆け出し冒険者、ジャック……。
彼はウメダで募集していた。
それに、どうも僕らとは"違う"ような……?
うん。
あの冒険者は怪しい、僕と同じ事を思ったんだよ。
さてと、じゃあジャック君の尾行は彼に任せて、僕らはウエノの警備再開といきますか!
****
一方、ナナはジャック達を見失い、
いつの間にか小さな広場を歩いていた。
どこに行ったにゃ!
ジャッきゅん、絶対許さないにゃ!
プンスカと怒り、ズカズカと歩くナナ。
ふと周りを見ると、さっきまで見ていたお洒落な店や民家の窓から顔を出す子供の姿は無く、質素な格好をした男や目付きの悪い男、営業しているのか分からない酒場の奥からジッとこちらを見つめる者達がいた。
明らかに町の様子が変わった事に気付き、自然と早歩きになっていくナナ。
苔が生え、あちこちに酒瓶や腐った食べ物が放置されている細い通路に入ると、いいことを思い付いたのか悪そうな顔をして……?
フン。4年も放っておけばこうなるにゃ。
だからアイツに言っておいたにゃ。この町を出ろと。
「ウエノをシメるボスが数年ぶりに帰ってきたぞ作戦」を考え、歩き方もボスっぽくなっていくナナ。
空想の中でしか存在しない「アイツ」に話しかけるように、独り言を繰り返していく。
「しかしこれはねぇだろう。あまりにも儚い……」
「だがこれも運命だ。ニャルシーのオレがボスになるなんて、あの時は思いもしなかった。そういう事さ。」
ナナの独り言は止まらない。
そうしているうちに細い通路を抜けると、
大きな広場に出た。
その瞬間、ナナはパッと魔法が解けたように女の子らしいアニメ声を出しかわいいポーズ。
突然聞こえた怒号に怯え、思わず悲鳴を上げてしまったナナ。
すぐに近くの壁に隠れ、慌てて声のした方を探す。
するとそこには、数人の質素な格好をした男達と大きな鉄の棒を持った男がいた。
ボス!落ち着いて下さい!奴は必ずここへ来ます!間違いありません!
必ずここに来る?
オレはここに連れて来いと行ったんだ。
それだけでも腹立たしいのに、奴を見失っただと!?
大きな鉄の棒を持った男に首を掴まれ、町の住民に助けを求める質素な男。
しかし誰も助けようとはせず、無情にも……
な……殴ったにゃ……!
おっきな棒で思いっきり、頭の上からガンって……!
あの人間、何なのにゃ!?
ギャアギャアうるせぇな……。警備の奴らに気付かれたらめんどくせぇだろ。
おい。
ここにいる全員、奴を見つけたら必ずこの広場へ連れてこい。
分かってるとは思うが、次は無いぞ。
……裏通りの酒場に行ってくる。
奴を見つけたら呼べ。
酒場に行くにゃ……?
って事は助かったにゃ……?あんな怖い人間、見た事ないにゃ……
鉄の棒を肩に乗せ、薄暗い通路に消えていく男を見て安心するナナ。
壁に隠れたまま体育座りになると、道の真ん中に落ちている紙に気付く。
そのまま誰にも気付かれないようこっそりと紙を拾いその内容を見る。
にゃ?指名手配の紙にゃ。
しかも紙が新しいにゃ。新しい指名手配って事かにゃ?ええとなになに?
指名手配。
ウメダを壊滅させ、ゲノン帝国の英雄を殺害し、グラーディアに逃亡した駆け出し冒険者……。
名前は…………
にゃっ!?
にゃああああああああああああああああああ!?
フン……。
まさか帝国の幹部を殺っちまう奴がいたとはな。
しかも駆け出し冒険者、ジョブは剣士。
何もかもデタラメだろうが、本当に"アイツ"が死んだというならそれ相応の奴って事じゃねぇか。
なんでこの町にいるか知らねぇが、"集める"価値はあるな。
【バルバトス】
ハハハ……面白くなってきたじゃねぇか。
闇市場のコレクター、バルバトス様から逃げられると思うならやってみるがいい。
会うのが楽しみだ……。
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