105話 絶叫必須!?恐怖と涙のゴーストコースター!
文字数 5,897文字
正義を信じ優しい心を持った少年。
今はまだ完全体ではないし、人数も少なく、誕生したばかりなので秘密の力も発揮できない……。
バッドガール&グッドボーイ。
それは、いずれ
カボチャやゾンビ達は口を揃えて、「何がしたいんだろう……」と呆れていた。
そして始まったのはバッドガール&グッドボーイの設定の話。
単純にサングラスをかけてガラが悪そうに見えるからバッドガール、優しくて単純だからグッドボーイだと決めたのだろうけど、アトラクションエリアを担当するポーラさえも呆れる始末。
すると今まで呆れていたゾンビ達が2人を囲み、とあるアトラクションの乗り場までの道を作る。
ほら、道を作っておいたからまっすぐ歩きな。
俺たちゃ優しいゾンビなんだぜ?
なかなか進まずにその場で立ち止まっていると、次第にゾンビ達はそわそわして……
さっさと行っちゃってくれよ!
俺達は何もしないし、まっすぐ行って乗り場に入ってくれれば出番は終わりなんだ!
ムチの音は整列の合図なんだけど、次に音が鳴ったら……
背筋を伸ばしてピン!と立ち、顔を上げる。
中には目を見開き、冷や汗をかいている者も。
そしてその威圧感をさすがにヤバいと感じたのか、ナナは……
自分達をただのニャンコとワンコに格下げすると、怯えるソラの服を掴んでダッシュ。
右も左もゾンビが立っている一本道をただまっすぐ走り抜け、たどり着いた先の建物は……
その名もゴーストコースター。
ライドアトラクションとは、
乗り物に乗って猛スピードでかけ抜けたり一回転したりするもの。
物語に沿った登場人物やオブジェクト、仕掛けなどを見ながらゆっくり、または早くかけ抜けるものの2種類がある。
遊園地の入場ゲートのような建物にゾンビと男の絵が描かれ、入り口は暗く狭い。
ナナとソラは怯えながら暗闇の中を進んで行った……。
これでもう大丈夫、出番も終わって休憩休憩。
ご主人様も許してくれる。怒られずに済みましたー。
しかし?
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水色のペロペロキャンディにマカロン、ビスケットにチョコレート、アイスにソフトクリーム。
テーブルの上にはチョコレートファウンテンのようなものが並び、たくさんのお菓子が乗っている。
村エリア担当。フラン。
彼女はシャンデリアによってオレンジ色に照らされる広い部屋で、椅子に座って鼻歌を歌いながら足を揺らし、目の前のお菓子を堪能していた。
するとギィィ……と扉が開き、
ステージエリアを担当する幽霊、サリーが現れた。
マシュマロとチョコレートを手に取り、食べずに魔法を唱える。
それはクシャクシャに折れた遊園地のパンフレット。
中には地図も書いてある。
村エリアやステージエリアの名前はもちろん、エリアの中の細かい場所の名前やトイレの位置、まだ殺風景なお菓子エリアでさえもしっかりと
フランはお菓子に手を当てながら村エリアの所に
舞台は再びアトラクションエリアへ……。
****
ゴーストコースター。
それはストーリーに沿ったライドアトラクションで、様々な仕掛けや登場人物を見ながら走る乗り物。
カボチャの形をした箱型の乗り物に乗ってスタート。
まず最初は、走るスピードはゆっくり。
狼の遠吠えが聞こえる夜、小さな村で人間の子供達がハロウィンを楽しんでいる。
そんな中、村に男の旅人がやってきてお菓子をちょうだいと言われる。
すると突然、村に飾ってあったカボチャが動き出し、白い布を被ったオバケが旅人を追いかけ、子供達は赤い涙を流して泣き叫ぶ。
訳も分からず暗い森を走り、たどり着いた先は何年も放置されているような古い墓地。
と、同時に乗り物のスピードもノロノロと遅くなって……
とその時、乗り物がガタン!と大きな音を立てて揺れる。
物語では墓地の地面から手が現れ、旅人の足を掴んでいる。
その瞬間、乗り物のスピードが一気に上昇。
乗り物は2人乗りで2両編成。
ナナとソラの後ろにゾンビがよじ登り、「ゔぁあああ」と唸り声を上げながらこちらに手を伸ばしている。
さらに乗り物は暗闇の中を右へ左へ曲がり、途中チラッと見える物語の旅人も森や洞窟の中をひたすら走る。
しかし、地面から元気よくスピンして登場するアグレッシブなゾンビ達から逃げるのは困難。
ついに行き止まりの崖に追い込まれてしまう……。
ジェットコースターの
物語の旅人もトロッコを見つけるもレールは崖の下。
しかし止まるわけにはいかないので意を決して決死のダイブ!
さらに落ちている途中、乗り物の左右から物語の冒頭で楽しそうにしていた子供達が血まみれの状態でこちらに訴えかける。
前からは子供達、後ろからはゾンビに囲まれた状態で、あまりの恐怖の連続についにバグりだした2人。
ナナは乗り物を蹴り飛ばし、ソラはスキルを発動。
その衝撃で天井が崩れ、ゾンビの頭上に直撃。
……その後、猛スピードの絶叫は10秒以上も続き、ようやく出口に到着。
まさに「チーン」という効果音が似合う状況でぐったりしたまま動かない2人。
はいゴール。お疲れ様〜。
どうなってんだ?
ご主人がやれって言ったんだど!
最初はオセロで遊んでいたけれど、動かない2人に「返事ないど?」と死んでしまったのではないかと心配して近付く。
すると……
それを見たゾンビ達はすぐに土下座。
悪かったど〜!オラ達弱いゾンビだからご主人様に従ってるだけなんだど〜〜〜〜〜!
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どうだ?怖かっただろー!
あんた達に体験してもらって感想聞きたいんだど!
そしたらもっといいヤツ作れるから!
これから大丈夫だど!他のお客さんも気に入ってくれる事間違いなしだど!
ご主人もいいゾン……ゴースト!
この遊園地に人を呼びたいだけだからがんばってるだけだど!
お菓子が見つからなくて困ってるけど!
悪いのは天井壊したあんた達だ!
あの方はオラ達弱いゾンビを必要としてくれる!
あの方の悪口だけは許さんど!
あの方はなぁ!
実は彼女はネクロマンサーで、この遊園地を開園して多くの人に楽しんでもらいたいと願うフランに協力。
人の住む所から離れた土地にあるゾンビの故郷に足を踏み入れるも、「荒らさないでくれ」と土下座する弱いゾンビ達を決して見下したりせずに手を差し伸べた。
それからの日々はフランの願いのために人の脅かし方などを練習。
今日ナナとソラが遊園地に来るまで、ゴーストパレードの踊りもゴーストコースターの演出も何度も何度も努力を続けてきた。
抱き合って、泣いて、涙を拭いて。
ここまでの練習の日々の中で失敗したり落ち込んだり、まだポーラと出会う前の「弱い自分」に戻りそうな事もあった。
けれど、「怖い」と言わせたくて。
悲鳴を聞きたくて。
「また来たい」と思わせたくて。
あの日、自分達を必要としてくれたポーラに喜んでほしくて。
……いや、ポーラ様!
おれ達を今日まで育ててくれてありがとうございました!!
「怖かった」って言ってほしくて頑張ってきて、本当に良かったど!!
すると、2人の乗っていた乗り物の後ろに走っている途中で崩れて落ちてきた天井の一部が光りだす。
ナナもソラもゾンビ達も見守る中、それは……
これはフランがスイーツマジックを使う上で最も魔力が高く、すでにアトラクションの乗り物はほとんど完成しているため、これがあれば完成間違いなし。
そして同時にフラン、ペトリー、ポーラ、サリーの誰かを「本当の姿」にする力もある。
恐怖のアトラクション、ゴーストコースター。
そこで見たものは、恐怖と絶叫と、たくさんの笑顔と涙。
そして「夢のお菓子」。
はいチーズ!
この日、ゴーストコースターの入り口に大勢のゾンビ達とポーラ、それからナナとソラも含めた笑顔いっぱいの集合写真が飾られた。
アトラクションエリア完成!
つづく!