184話 俺のせいだ 全てを諦めた男の末路
文字数 4,443文字
ジャックサイド
→ジャック・桃華・ヴェルグ・バルトリオ
①ナイトハルトの決闘を止める
②爆弾を止める
⑤メテオヴァラスを倒す
時刻は遡り、
二手に分かれた後、モリゾーサイドがさっそく敵に見つかった頃。
ナイトメアスタジアム。
2階、廊下。
※モリゾーサイドは真下の1階。
一応カブト君に任せておいたから大丈夫だろう。
俺達の役割も大変だから気を引き締めて行かないとな。
えーと……
爆弾を止める、師匠の決闘を止める、メテオヴァラスを倒す……
この順番で進めて行った方がいいのか?
2人との決着は最後だな。
今は何としてもナイトハルトさんの命が優先だ。
爆弾を止める、と言ってもその詳細がさっぱり分からない……
どんな爆弾でどこにあって、どうしたら爆発するのか知らないといけないよね。
自分の命と引き換えに仇を取るなんて絶対ダメだよ……!
おっ!水色のでかい扉があるぞ!
中からすげぇ人の声が聞こえるな……。
何人いるかわからねぇくらいの。
そういや、そもそもこの建物は何なんだ?
ここはもともとイベント会場でね。
ナイトメア連合軍が乗っ取る時にメテオヴァラスが気に入って、闘技場にしたんだ。
今ではここに潜入して捕まえた人を見せしめとして観客の前で殴り殺す「処刑」が行われている……
観客の前で……って、
この扉の向こうには人殺しを観るための客席がわざわざ用意してあるっていうのか!?
残念だが事実だ。
真ん中にはリングがあって、それを取り囲むように1階席、2階席と観客席があるらしい。
今まで多くの犠牲者が涙を流し、命を絶った場所だ……!!
そっとだぞ。
ここで気付かれて捕まれば、ナイトハルトさんに助けられた意味が無くなる。
俺達もリングに送られて終わりだ……
水色の大きな扉は意外にも重く、ギィィィ……と音を立てて開く。
ジャックとヴェルグは顔を少しだけ覗かせて中を確認。
しかし、2人は衝撃的な「何か」を見てしまう……。
師匠はバベルとメテオヴァラスと一緒に椅子に座っていて、リング上には誰もいないな。
あれ?ヴェルグ君、今ナイトハルトさんの服の下に何か無かった?
変なものが見えた気がしたんだけど……
ナイトハルトさんの体に爆弾が固定されてるんです……!
あんなの、どうしたら助けられるんですか!!!
ジャックとヴェルグが見たもの。
それはナイトハルトの服がわずかに捲れた時にチラッと姿を現した、黒い爆弾。
四角形のそれは、胸に固定してあって、1本の管が体内に入っているように見えた。
今、最悪の想像をしたよ……!
もしあの管が心臓に繋っているとしたら、爆発するのは一度だけ!!
ナイトハルトさんの心臓が止まった時だ!!
決闘で自分が死ぬ代わりに爆発させて敵を倒すつもりなのかな……!?
その瞬間、ヴェルグの怒りが頂点に達し、全力で扉を殴って壊し、会場の中へ。
リングの横で椅子に座っているナイトハルトの元へ走るけれど……
ナイトメア連合軍の隊員を次々に殴り倒すヴェルグの前に、ドーピング済みのパンチとキックが入る。
ジャックというのはお前だな?
バベルが言った話に乗ってここに来たんだな。
この俺を倒すチャンスなんだろ?
来てみろ。
お前のパンチを真正面から受けてやる。
もし予想以上なら”強き者”として認めて、全力で相手をしてやるよ。
ん?何だ今のは?遠慮は要らないぞ。
ゴラゴラン、グラリオ、タケルの3人を助けるんじゃないのか?
こっちがドリンクを飲んでいるとはいえ、これだけ力の差があるとは思ってないぞ。
全力でかかって来いよ。
……やれやれ、期待外れだな。
ゴラゴランよりも弱い奴が俺に勝てるわけがないだろう。
当然、リングに立つ資格も無い。
嘘だ……!
こんなに力の差があるなんて……!
こんなんじゃ公開処刑を止めるなんて……!
わずか一瞬。
パンチを弾かれた事で圧倒的な力の差を知ってしまったジャックは戦意が無くなって、丸腰のままオメガスマッシュを受けてしまった。
その威力はラトリアでヴェルグと決闘をした時に受けたどのパンチよりも遥かに強力。
ジャックはものすごいスピードで客席に向かって飛び、ヴェルグも倒れている状態で観客席はパニックに。
言っておきますけど、あなたなんて怖くないですから!!
もう、こんなひどい事なんて止めましょう!
ナイトハルトさんを傷付けるのもダメです!
悪いことをやめて、良い人にならなきゃ!!
何言ってるんだ!?
話が通じる相手じゃないんだぞ!?
フン、なかなかおもしろい奴だ。
武器も持たないただの人間が何を言うかと思えば……
今、真っ先にお前を守ろうとしてくれそうな男を2人ともブン殴ったばかりなんだぞ?
よっぽど次の犠牲者になりたいようだな?
あれだけ外に出ろと言ったのにここまで来てしまったのなら仕方ない。
本当はお前達を倒すために自爆するつもりだったが……
もう、全てを諦める。
爆弾は解除したから、好きなだけ俺を殴ってくれて構わない。殺してくれ。
どうせ俺には生きる資格も目的も無いんだ。
この女を守るために死ぬつもりか?
”あの時”お前の大事な女を俺に殺されたから、今度こそは――
これ以上誰かが傷付くなら死ぬ。それだけの事だ。
それに俺は雪菜を幸せに出来る男じゃなかったんだ。
どうしてすぐ死のうとするの!?
何ですぐ命を投げ出そうとするの!?
あなたは好きな人を理由に逃げてるだけじゃない!!!
そうだよ……!
俺達はあんたを助けるって決めてんだ……!
だから命懸けで、ここに居るんだ……!!
あんたがどれだけ命を捨てようと、俺達は絶対に見捨てねぇ!!!
何言ってんだ?
まだまだやれるぞ!かかってこい!!
お前のヘナチョコパンチなんかちっとも痛くねぇ!!
2人同時にギャラクシーのパンチをして来ようと無駄だ!!
イヒヒヒヒ!やっちまえ!
お前らはウメダにも辿り着けずに全滅するんだよ!
ざまぁみろ!!ハハハハハハハハ!!
ヴェルグはメテオヴァラスに腕を引っ張られて、腹部に炎を纏ったパンチを高速で数十回連続で受け、
さっきよりも勢いを増して客席に飛ぶ。
さらにその圧倒的な破壊力で天井が崩れて、倒れたヴェルグに向かって落下……。
ジャックの姿も見えなくなってしまった。
ははは!いくら人間より強い体を持つディアスだろうと死んだだろ!
俺達に逆らうからこうなるんだ!バカな奴だぜ!
客席も天井もめちゃくちゃになるくらいのパンチを喰らえば誰だってこのザマよ!
どうしてもバベルを倒したかった。
どうしても大切な人の命を奪った男が許せなかった。
その為なら自分なんて死んでもいい、そう思っていた。
帰る所も、クラウディア連合の仲間も、これからの生き方も、全て捨てて。
「相手を殺し、自分も死ぬ」選択に迷いなんてなかった。
でもあの時、また会えた。
二度と会うことは無いと思っていた大切な仲間に会えたから。
あの頃のように、優しかったから。
1人で死ぬつもりの自分を見捨てずに、笑ってくれたから。
『師匠、大丈夫だからな……!
絶対、1人で戦わせない……死なせない、笑ってくれたから……!!』
だから、ヴェルグには絶対に、無事で居てほしかった。
もう自分の事なんて忘れて、ここから出て、生き続けてほしかった。
――それなのに。
パニックになった客席。
深刻なダメージを負って瓦礫の下敷きになり、姿を見えないジャックとヴェルグ。
あまりの衝撃に言葉を失う桃華とバルトリオ。
そして、無言のままただ呆然と立ち尽くすナイトハルト。
さて、じゃあ決闘を始めようか?
っつっても肝心のナイトハルト君は放心状態か。
何てったって死ぬつもりだった自分をわざわざ助けに来てくれた大切な仲間を、
罪を背負ったまま生きるのは辛いだろう。
望み通りにしてやるよ。最期に言い残した事はあるか?
これが全てを諦めた男の末路、というやつか。
では……
待てよ。今からでも遅くねぇ。
ナイトハルト、ナイトメア連合軍に入れよ!!
今までお前がやってきた事は”最高に最悪”だ。
どうせ帰る所もない、自分を受け入れてくれる仲間も居ない、
肝心の”敵”に傷一つ付けられず、ただ死ぬだけなんて勿体ないだろ?
だから俺達の仲間になれ! こいつらを裏切るんだ!
ナイトメア連合軍には心に闇を抱えた者に力を与えるぞ!!
(無駄だ!こいつの足元にはすでに虫が居る!
このまま頭に到達すれば、洗脳してこの場の全員を殺させる!)
(そして二度も仲間に手を出した裏切者は、
他の奴らにも手を出し、無惨な死体が転がるんだ……!)
(手首を引きちぎられ、首の骨を折られ、無惨に死ぬんだ!!)
もう一度言うぞ!!
ナイトハルト! ナイトメア連合軍の仲間になれ!!
仲間を裏切るんだ!!
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