117話 立ち上がれグラリオ!ルルカの過去と最期の決意!
文字数 6,604文字
ガチャの世界。
最深部の部屋。
ハル、ルルカの注目を奪ったのは「喉が枯れるのではないか」と心配になるほどの叫び声。
それは自分を変えたいと願うグレたグラリオ。
「分身はビームが出せる」とドゥーンが言っていた事を思い出し、手を前に出してそれらしい名前を叫んでいた。
けれども自分の声も
ビームの名前が違うのか?
ビームを出す場所が違うのか?
様々な可能性を試してみる。
グラリオに「諦める」という選択肢は無い。
そう、諦めるわけにはいかない。
なぜなら……
グラリオが「変わらなくちゃ!」と叫んでから、わずか5分。
尋常でない
まさに手も足も出ない絶体絶命の危機。
部屋の天井に拘束されたハルも状況は同じ。
そんな最悪の事態の中、自由に動けるのはグラリオただひとり。
そう、グラリオの言うように死神は悪いイメージはあるものの、
「死を迎える予定の人間の魂が悪霊になるのを防ぐため、死後の世界へ導く役目を持つ」と言われている。
性格や喋り方はセクシャルレインボーで会ったオズウェルのように違いはあるけれど、
今のリリムのようにただ恐ろしい事を言ったり襲ったりするとは考えられない。
そして何より今までのリリムとは大違い。
もしもジャックが見たら、動揺するのは間違いない。
グラリオの疑問はただ一つ。
と、その時。
ルルカがふふっと笑ってみせた。
ガチャの分身であるリリムは過去のリリム。
ルルカは「死神時代」の意味、そして2人の出会いを語る――。
****
ジャックが異世界に来るよりも前。
ここは西の大陸を代表する学園都市、クロノス。
ルルカはまだ魔法科1年にも関わらず、突然自分が卒業した事を告げられる。
それから数時間後。
突然の出来事に動揺しながらも学園を出て自宅に帰ろうとしたところ、町を行き交う人々の目が変わっている事に気付き……
学園都市クロノスから離れたエルフの森へ。
なぜこんな目に遭わなければならないのか。
ただでさえ気分が悪いのに昼食もまだで、金銭も持っていない。
そんな時、ふと思い付いた。
ルシエラ図書館。
それは西の大陸にある大きな建物で、膨大な本が保管されている知識の楽園。
普通の卒業ではない、例外の場合はあるのか?
そこに行けば学園都市の謎が解けるかもしれないと思ったルルカは、
****
ジョブのなり方。ネクロマンサーについて。
東の大陸について。
日本の文房具。日本の歴史。
3メートル以上の高さの本棚に手を伸ばし、様々な本の知識を頭に入れていくルルカ。
二度と学園に戻れないとしても生きていけるように、椅子に座ってページをめくっていたその時だった。
「学園都市の歴史」と書かれたその本に書いてあったのは……
学園の魔物?封印?
そんな事一度も聞いた事がない。
もしかすると学園の教師でさえ知る事を禁じられているかもしれない"黒い歴史"。
ルルカは恐る恐るページをめくる。
知りたい事は違うけれど、ここに書かれている事が他人事のようには思えなかった。
何故だろうか。
本に書かれてある文字が上手く読めない。
見覚えがあるはずなのに。
いつも友達に、リリカに呼ばれているのに。
自分の名前なのに――。
生徒、教師200名が死亡。
その文章から目を逸らす事ができない。
そして頭から離れず、自分を責めるように胸が苦しくなる。
「なぜ?どうして?」
地下空洞の魔物、リリカが代わりに封印するはずだった事、人の死。
その全てが自分の記憶には無い。
ルルカの突然の「卒業」。
見知らぬ人の悪口や冷たい目つき。
ルルカが魔物の封印をした事。
10年の許可と10歳という現在の年齢。
その全てが繋がった。
ここに書いてある事は全て事実で、自分はたくさんの人を殺した。
もう二度と学園都市へは戻れない。
友達のリリカにも会えない。
そう思った途端。
突然図書館が大きな音を立てて爆発。
あちこちから燃え始め、周りにいた人は悲鳴を上げながら逃げ惑う。
さらにルルカが学園の歴史の本を持って外に出ようとすると、本棚が転倒。
咄嗟に避け、火事をなんとかしようと水魔法を使おうとするけれど何も起こらない。
そうだ、もう二度とクロノスには戻れない。
みんな自分が10歳になるまでは安心してたかもしれない。
だから卒業という事にして、「追放」したんだ。
でもこれからは違う。
本に書かれていたように、自分自身でも止められない魔力が暴走した時、みんな死んでしまうかもしれない。
それに……
これからのために本を読んだけどどうすればいいんだろう。どこか遠くに行ってしまおうか。
東の大陸?帝国?日本?
ダメだ。どこに行ってもクロノスと同じ……
自分の居場所は無い。
それならいっそ……
そう思ったその時。
爆発に巻き込まれた人を助けるため、複数の武装した男達が駆けつけた。
男達が言う「サンドリオ」。
それは港町で、大きな劇場があるオシャレな都会の街。
料理店や衣服、帽子などが売っている店も建ち並び、様々なギルドが町の外をうろつく魔物を退治する事によって平和が保たれている。
しかし……
途端にビクッと反応してしまうルルカ。
一瞬でも「助かった」と思ったけれど、目の前の男達はルルカを救出する事を中断。
スマホのような端末を出してぶつぶつと呟く。
自分の名前を言われた途端、
慌ててその場から走り出すルルカ。
爆発であちこちから火の手が上がり、本棚や机が倒れている中を必死に走って図書館から出ようとする。
魔法を使って男達に追いかけられるのを妨害したいけれど出来ない。
しかし図書館の入り口まであと少し。
その時、突然前から悲鳴が聞こえてきた。
ルルカはすぐに物陰に隠れる。
悲鳴の正体は複数の男。
何があったのか分からないが、ひどく怯えている。
すると後ろからルルカを追いかけてきた男達が。
突然の爆発の原因は男達の放火によるもの。
男達が本当にギルドの人間かは分からないけれどグループで行動しているのは確か。
すると怯えている男が大きな声で叫び出す。
入り口で立つはただならぬ表情で立つ少女。
手には目が大きく開いたままの男の生首。
辺りにはいくつもの死体が転がり、大量の血が海のように溜まっていて図書館の外は悲惨な状態。
「全て少女が殺したんだ。」
すぐにそう確信し、死の恐怖が男達とルルカを襲う。
すぐに男に捕まってしまうルルカ。
魔法が使えればこの状況から脱出できるかもしれないが、時すでに遅し……。
生首を持つ少女、リリムが不気味に笑いながらルルカの目の前に。
刹那の狂気。
ルルカが注意したにも関わらず、身も凍るようなゾクッとする恐怖と狂気を感じる事もなく男達は無惨な死を遂げた。
一瞬にして盗賊団全員が壊滅し、
図書館に残るはルルカとリリム、そして肉の塊……。
目を開き、顔が歪んだ生首がゴロゴロと転がる光景は正気の沙汰ではない。
ルルカはリリムと向かい合ったまま、震える声で呟いた。
両手を挙げて嬉しそうに笑うリリム。
表情は変わらないけれど、なぜかさっきよりも笑っているように見えた。
しかしルルカが感じたのはそれだけではない。
リリムが言った「痛くて苦しかった」。
「居場所が無い」。「死ぬしかなかった」。
何故だか、「自分と似てるんじゃないか」と思った。
――
魔物を封印し、膨大な魔力を持つ少女。そして自らを死神と名乗る少女。
2人はこの日、同じ
後にリリムは正気を取り戻し、表情も死神の力も抑える事に成功。
普通に話す事が出来るようになると、村に住んでいたところ親に虐待を受け、川に捨てられた事を告白。
その時、かつての死神オズウェルと出会い、人から死神になった事で命が助かった。
それから数ヶ月後……。
****
――現在。
いつの間にかルルカの魔法「ヘヴィストライク」が解け、天井から解放されたハル。
ルルカとリリムを見守っていたけれど、あまりの感動に涙が出てしまった。
しかし……
ハルをまっすぐ見つめるグラリオ。
あくまで分身であるはずなのにどこか本物のような安心感が感じられた。
自分を犠牲にしてでも
ハル、リリム、そしてルルカ、ガチャの世界の全てを守る決意を示したグラリオ。
最期まで情けないままでは終われない。
果たしてルルカの運命は?
ジャックはどこにいるのか?
そして消滅を覚悟したグラリオの分身は……?
つづく!