156話 助けに行こう!桃華の過去と憧れの人、ジャックの言葉!
文字数 6,192文字
前回のあらすじ。
モリゾーを含めたコタロー救助隊はついに炎に包まれた屋敷に到着。
その一方、
火事の中恐れを知らずに入っていく人影が現れ、爆発から行方が分からなかったジャックと出会う。
おい!!誰かいるんだろ!?
オレはさっきお前のすげぇパンチを見たぞ!
隠れても無駄だ、出て来やがれ!!
彼の名はヴェルグ。
人間ではなく魔族の一種「ディアス」で、同族のみが暮らす国の王子。
そして、かつてヴェイルノートと一緒にジャック達を襲って、ウメダを壊滅させた敵のうちの1人で、あの日ジャックに恋心を抱いたサキに非情な一撃を放ったディアス最強の男の実の息子――。
【ヴァーデル】
『これも運命だ。お前はデミアを助ける事はできない。今ここで……』
【サキ】
『私はジャックと出会えて、本当の強さを知ったの!!
絶対諦めない事が本当の強さだってわかったの!!』
『だから……私は諦めない……!
どんなに小さなバリアしか作れなくても……!
ジャックを疑ったりしない!!』
そして、そんな彼がこのラトリアに来たのは、とある親友を助けに行くための仲間探し。
ジャックが必死にシロナとアラネアを守ったのを見て惚れてしまった。
実はオレの親友がタチの悪い連中に捕まっちまってな。
すぐにでもブチ殺しに行きたいが相手が悪すぎる。
つまり、オレは仲間を探してるのさ。
ともあれ、今は屋敷に逃げ遅れた子どもを探すのが先。
2人は協力して炎の中を進む……。
****
ラトリア、獣人街。
現在、5組に分かれてそれぞれ別々に行動しているジャック達。
そのメンバーは以下の通り。
屋敷の中で子どもを探す「ジャックサイド」。
メンバーはジャック&ヴェルグ。
屋敷の外で救助活動をしようとする「コタローサイド」。
メンバーはコタロー救助隊&モリゾー。
屋敷の中で気を失う「シロナサイド」。
メンバーはシロナ&アラネア。
コロシアムの外にいる「ドゥーンサイド」。
メンバーはドゥーン&ルルカ&ハル。
獣人街でジャックを探す「パン桃サイド」。
メンバーはパンザレス&桃華。
そして今回、
この中で最初に動くのはジャックサイド。
2人は1階にある部屋をひとつずつ順番に開けてくまなく探してみることにしたけど、屋敷の広さと部屋の多さに苦戦……
おーーーい!
どこにいるんだ!出て来ーーーい!
オレたちゃ悪い奴じゃねーぞ!
お前を助けに来たんだよーーー!
くそっ!ダメだ!
この廊下、部屋が多すぎてひとつずつ扉開けてたらキリがないぞ!
廊下には一定間隔を空けて扉が6つ。
突き当たりに進むと、長い廊下が左右に分かれていてさらに部屋の扉がズラリと並んでいる。
それはまるでビジネスホテルの廊下のようだけど、あまりにも扉が多い。
ここが敵のアジトで全部ブッ壊していいなら楽だったな……!
それに2階もこんな感じだったら最悪だ……!
そういえばジャック、女2人を抱いてたけど無事なのか?
うん。
3階に大きな部屋があって、そこで寝かせてあるよ。
他の部屋は火事で大変な事になってたけど、その部屋だけは天井も壁も綺麗で大丈夫そうだったんだ。
そういえばベッドもソファーもあったし、お風呂場も広くて豪華だったなぁ。
金色のテレビもあったっけ……
黄金のテレビかよ……
その部屋、よっぽど金がかかってるんだな。
そうだね。
何であの部屋だけすごいのかは分からないけど、とりあえず2人は大丈夫だと思う。
これぞお金持ち!って感じだったから、起きたら安心してくれるんじゃないかな。
無理するな。
ギャラクシーになってる間は身体能力が上がるけど完全じゃねぇ。
お前は人間なんだ、火も煙も危険なのは変わらない。
俺が熱を緩和してやるから、一度別のジョブに変えてみてくれ。
あの~言いにくいんだけど、オレは君のお父さん……
えっと、ヴァーデルさんに襲われて死ぬはずだった異世界人なのに、いいの?
安心しろ。
オレは親父なんて大嫌いだし、お前に感謝してるんだ。
アイツ、ヴェイルノートに呼ばれてウメダに行ったけどさ。
帰ってきた時はすっげー不機嫌で、家がめちゃくちゃになったんだ。
断崖絶壁に建てられた自慢の古城に住んでるってのにいろんな物が崖から落ちたんだ。
不機嫌……?
あっそうか、あの時お父さんが来てオレを見逃すよう交渉してくれて……
親父、シャルティア、ヴェイルノート、チョコ、ノノカ。
この5人はウメダから手を引いたんだ。
ウメダは……あそこは……
この世界で初めて友達ができた大事な場所だ……
『友達?くだらん!!
貴様はディアスの王、この私の息子なんだ!
同族は己の力を鍛えるための道具、殺して当然!
大人しく命令を聞け!』
オレの記憶に残る親父は最低だ。
やってみたい事も気になる事も否定ばかり、望むものは何も叶わない。
命令を聞くのは当たり前で、聞かなきゃ虫ケラみたいにブン殴られる。
あいつにとってオレは操り人形も同然。
友達なんて作れるわけない……!
でもあの日、オレはあいつが怒り狂ったのを初めて見てスカッとした!
ずっと恨んできた奴をどんな奴がブッ飛ばしたのか気になって、聞いてみたんだ。
そしたら……
『ヴェイルノートから手を引くように言われ、魔法陣で強制的に城に転移された……!』
いつもなら同族でも容赦なく殺して力を鍛える親父が初めて殺さずに帰宅。
原因を聞けば戦わずにウメダダンジョンに向かった異世界人だって言うから、オレはそいつに会いたくなったんだ。
ジャックだよ。
こうやって実際に会えて良かったけど、親父には気を付けろよ。
ディアスの国から消えたっきり行方が分からないんだ。
シャルティア姉さんなら会えるかもしれないけど……
親父と一緒にいる綺麗な人だよ。
魔族で吟遊詩人。
歌とピアノの演奏が好きでさ、ノノカっていうゴーストのお姫様の世話をしてるんだ。
あ〜、でも今は……
あ、覚えてるよ!
最後に会った時はヴァーデルさんの味方って感じだったけど、本当は良い子なんじゃないかなって思ってたんだ!
……まぁとにかく、せっかくこうやって会えたんだ。
早いとこ子どもを見つけて、大事な話をしようぜ!
ヴァーデルとヴェルグの親子の関係。
シャルティアとノノカの今。
話したい事はたくさんあるけれど、今は救助を優先しないといけない。
しかし2人は会話の内容を何者かにじっ……と見つめられている事なんて気付いていなかった――。
****
一方、ここは屋敷の近く。
ここにいるのはジャックサイドのヴェルグとの出会いなんて知る由もない「パン桃サイド」。
2人はジャックに会うためコロシアムに向かったけれど、一刻を争う重大な問題が発生……
あまりの緊急事態に桃華は叫びだす。
ちくしょうちくしょう!
ちくちくちくちくちくちくちくちくちくちく
ちくちくちくちくちくちくちくちくちくちく
こぉ〜〜んなかわいい子が妹なんて嘘だよなぁ!
ウチの妹とは大違いだチクショーめ!
あぁ〜〜ジャックが妬ましい!あぁ〜〜!
いるよ?いるけど?
お兄ちゃんって呼んでほしいのに全然呼んでくれないし、言葉遣いもひどいよ?
『ほら見てくれよ〜!今日のために衣装用意して、メイクも頑張ったんだ〜!』
――はぁ……
あの時はほんとにショックだった……
お兄ちゃんショックだったぞチクショー……
でも!!
それに比べて清村先輩、いやドゥーン!
あの人にはかわいい弟と妹がいるんだ!!
こっちの世界にいるかは分かんないけど!!
はぁぁぁ羨ましい!妬ましい!
どーーーしてそんなにかわいいの!?ボクがお兄ちゃんになっていい!?
まずは黒岩家と金剛寺家で仲良くしようよ!!ねぇねぇねぇねぇ!!
桃華の小さな手、少しでも叩いたらすぐ折れてしまいそうな足、あどけない顔。
体を舐め回すように凝視して「かわいいかわいい」と同じ事を言うパンザレスに、桃華はビクビク怯えながらその場に立ち尽くす。
本当は逃げたいけど怖くて体が動かない……
というのもあるけど、今はパンザレスから逃げている場合じゃない。
少し遠くに黒煙が見えていて、どう見ても……
(どうしよう火事が起きてる……!
でも今はそれどころじゃないっていうか……この人を何とかしないと!)
ん?
そういえばさっきから何か騒がしくないか?
それに焦げ臭いような……
それでは行きますよ。
大きく息を吸って〜〜吐いて〜〜。
私と一緒にやってましょう〜〜
うわっ!?火事だ!
桃華ちゃん、深呼吸なんてしてる場合じゃないぞ!
近付いちゃダメだ!逃げよう!
あっ!!そ、そうですね!
今すぐ助けに行きましょう!!
え!?
ジャックに会わないといけないんでしょ!?
ここは危険だし、早く逃げようって!
いいえ!
お兄ちゃんならこういう時、絶対助けに行きます!
無茶だって分かっていても走って行っちゃうんです!
そういう人なんです!
で、でも君はかわいい女の子じゃないか〜。
ボクも水を消すスキルなんて持ってないし、よく見たらみんなバケツリレーしてるじゃん!
消化活動は他の人に任せておけば……
他の人なんて待ってられないです!
それに私達で助けられるかどうかなんて、やってみなくちゃ分からないじゃないですか!
……なんて、今のは人に言われた言葉なんですけど!
でも私はその人を守るためにこの世界に来た。
そんな気がするんです♪
そう、スキルもジョブも魔法もない、普通の生活をしてたあの頃の私は臆病な中学生で……
あの日も、私は……
『よくないよ。
学校の先輩に桃華の宝物を盗まれたんでしょ?だったらちゃんと大切なものなんですって言いに行こう。分かってもらえるよ!』
『でも、3年生には不良の人達がたくさんいるんだよ?まともにお話なんて聞いてくれるわけないよ!怪我したらどうするの?』
『……それにほら、宝物はまた買えばいいし、お小遣いならたくさんあるから!今日は無理かもしれないけどまた今度……!』
『なら、家で待っててよ。
オレの高校も桃華の中学校も近いんだし、1人で行ってくる!』
『待ってよ!!
今日はお兄ちゃんにとって大事な日なんだよ!?
プレゼントは必ず渡すから、もう少し待って!
傷ついてほしくないの!!』
『そうだ、先生!
それにパパもママもいるよ!
後で電話してお願いしよう?だから――』
『大丈夫♪
せっかく桃華が用意してくれたんだ。
他の誰かなんて待ってられないよ!
それにちゃんと返してくれるかなんて、やってみなくちゃ分からないじゃん!』
『悠哉ああああ!桃華ああああ!
無事で良かったああああああ!
パパはとても心配したんだぞおおおお!』
『大丈夫!どこも怪我してないよ!
ちゃんと話したら分かってくれた!』
『みんなでお祝いしましょう♪
ママ、とっておきのケーキを用意したんだから♪』
――その日からなんです。
私がお兄ちゃんに憧れて、ほんの少し勇気を出せるようになったの。
あ、そういうわけで別に私がすごいっていうお話じゃなくて、その……!
生意気な事言ってごめんなさいっ!
うぅ、恥ずかしいっ!
あ、穴があったら入りたいですっ!
今のは聞かなかった事にして下さいっ!
お兄ちゃんにはナイショですよ!?
……はぁ。
お人好しというか、前向きというか、
人を傷つけたくないとか友達だとか、
ジャックも桃華ちゃんもホントにすごい兄妹だよ。
分かったよ、ボクの負けだ。
桃華ちゃんは消化活動より火事になってる家に用があるんだろ?
大丈夫、1人で行かせやしないよ。
それに、どうも匂うんだよなぁ……
中に誰かいるかもしれない!とか言って、これといって作戦なんて無いくせに、火の中に飛び込みそうなお人好しがいるような気がする……
よっし!
もし綺麗なお姉さんがいたらジャックより先に助け出して「助けてくれてありがとうのチュー」をもらうぞ〜〜〜!
ええええええええ!?
走るの早すぎですよ!待ってくださ〜〜〜い!
桃華とジャックの過去話を聞いて心動かされたパンザレス。
本当に屋敷の中にジャックがいるか分からないけど、もしかしたら会えるかも……
そんな願いを胸に最初に会うのは屋敷の中にいるジャックサイドではなく、屋敷の外にいるコタローサイドだけど……
あれ?これって……
コンビニとかスーパーで見る「アレ」だよね?
何でこんな所に……?
……はぁ。
やっと分かったぜ、子どもの正体もここが"何なのか"も。
ジャック、お前の仲間もこの獣人街にいるのか?
そうか。
聞くまでもないかもしれないが、もちろん子どもは助けたいよな?
これから先、この屋敷にいる事で何が起きたとしても。
うんっ!
シロナさんとアラネアさんだけこの中にいる!
どんなに助けるのが難しくても諦めないよ!
やってみなくちゃ分かんないからね!
おっ!気合十分だな!
さっそくギャラクシーにジョブチェンジするなんて戦闘準備は万全ってか?
よし、ここが何なのか教えてやる!
ジャックが偶然見つけた"あるもの"を見て何かに気付いたヴェルグ。
果たして、彼の口から明かされる子どもの正体と屋敷の秘密とは?
次回。
桃華に下ネタ発言をするパンザレスに恐怖の獣人が襲来……?
私はウサギの獣人。
耳はいつでも取れて、よく切れるんです。
あなたの股間を真っ二つにしてスマホで激写しましょうか?
ドゥーンのみたいになりたいのかな?
かな?かな?かな?かな?かな?かな?かな?かな?
そして、桃華が持ってきた手紙の内容が明らかになるけれど……
アップデートと潜在能力についての全てと、
公開処刑をする敵が誰なのか、
それから――
ゴラゴラン、グラリオ、大文字タケル3名の居場所が分かったんです!!!
という事は、ジャックの旅のゴール……!
処刑場がどこか分かったんだな……!
守らなきゃ……!!
ゴラゴランさんだけじゃない……!
グラリオさんもドゥーンさんも、ここに閉じ込められてる奴隷の人も!
3階の階段はどこだ?
全部助けるために全部壊してやる……!!
オレの体なんてどうなろうと知った事じゃない……!!
ごちゃエピ!
157話、屋敷の正体とジャックの異変!
つづく!
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