80話 ジャックはここだ!メルーナの涙とラブシャワーの秘密!
文字数 5,682文字
前回のあらすじ。
何者かに操られたゼルガの一撃を喰らってしまったレックスは、致命傷を負っているものの生きていた。
そこでゼルガと一緒にセクシャルレインボーへ帰らせようと策を教えていたリサとゴラロボだが……
12時の方向から高度な炎エネルギーを持つミサイルを確認!
発射地点はセクシャルレインボー!
あろう事か、2人の考えを妨害するかのように起きたのはそのセクシャルレインボーからの攻撃。
「一刻も早くレックスを治療できる所へ。」
「このままでは飛空艇も巻き込む事に。」
それなら、とソラはナナ達の乗る飛空艇よりも先にセクシャルレインボーに向かう事を決断。
そしてさらに、
ドルチェと戦っていたはずのソニアが失踪。
事実上、自分達を狙い撃つ危険な島への強行突破をするソラ、リサ、ゴラロボ。
そして突然居なくなってしまったソニア。
4人は、最終試験から離脱してしまう――。
****
美女の手招き踊る、美と魅惑でいっぱいの島。
セクシャルレインボー。
そう書かれた1枚の紙を見てニヤニヤと笑う怪しい男。
その男の肩に胸を押し付け、頬にキスをする女性。
ここはセクシャルレインボーの宮殿。
様々な映像を映し出すモニターが壁一面に並ぶ薄暗い部屋で、男女は笑っていた。
まったく、おもしろい連中だ。
お前もそう思うだろう?
えぇ。
でも、どうして彼らを失格にしないんですか?
航路を変えたとはいえ、幻の嘘に騙されたんですよ?
いいじゃないか。
失格になるのは舵が折れた、幻の嘘に騙された、美しくなければ失格の3つがある。
唯一3つ目だけは合格してるんだ。飛び続けるチャンスは与えてやる。
それに、おもしろい事になってきたぞ。
奴ら、我々の攻撃に怯えるどころか、最終試験を離脱して強行突破しようと考えているようだ。
まったく、自分達の敵が致命傷を受け、気絶しているというのに心配をしてお家に帰してあげたいと考えるなんて、頭のおかしい連中だよ。
誰のおかげだと思っているんだろうな?ははは。
あぁ、そんなに悲しい顔をするな。せっかくの綺麗な顔が台無しじゃないか。
お前の仲間のゼルガとレックスは、頃合いを見てこの宮殿に避難させる。私の転移魔法をレックスにかけてな。
約束だ。
それとも、私がこの島に来てからー度でも約束を破った事があるか?
そうだろう。お前は何も心配しなくていいんだ。
私の指示も聞かずに勝手にメンテナンス中の飛行船に乗ったあいつらもこれで懲りるだろうし、いい薬になる。
それにだ。
あの飛行船にはもう1人裏切り者が乗っている。
あぁ、どうせ使えない奴だ。気にする事はない。
第一お前がいなくては解放する事は……
そうか。ならいいが……
いいか。お前の涙は決して誰にも渡してはならない。絶対だ。わかったな。
よし、ならば話は終わりだ。
私は用事ができた。お目当ての異世界人がここに来るのも時間の問題だろう。
それまで「奴ら」の相手をしてやろう!ははははは!
そう言うと、男は大笑いをしながら床に魔法陣を展開。
どこかへ消えてしまった。
****
宮殿内。
とある部屋を後にして、慌てて通路を走るアルテミアの姿があった。
(何が起きてるの……!?どうしてこんな事になったの……!?どうすれば……!?)
怒りなのか焦りなのか、これまでとは違った態度に変わってしまったアルテミア。
その原因は……
(何とかして助けなきゃ……!このままじゃ2人とも居なくなってしまう……!お願い、死なないで……!)
そう。
実は謎の男とメルーナの会話を密かに聞いていた彼女。
致命傷を負ったゼルガと気絶したレックス。
そして、危険を顧みずここへ強行突破するソラ、リサ、ゴラロボ。
薄暗い部屋のモニターに映ったその一部始終を見ただけでなく、男とメルーナの会話も聞いていたアルテミアは、ひどく混乱していた。
『お前の仲間のゼルガとレックスは、頃合いを見てこの宮殿に避難させる。私の転移魔法をレックスにかけてな。
約束だ。』
(あの男があんな約束守るはずがない!このまま待っていたら飛行船がここへやってきて確実に墜とされる!いえ、その前に墜ちる可能性だって充分にある……!2人を助けるにはどうすればいいの……!?)
ダン!と壁を殴るアルテミア。
その時、驚くほど優しい声が彼女を振り向かせた。
あぁ〜その、なんだ?
偶然扉の窓見てたら君が通りかかってさ、どうしたもんかな〜って……
ほら、元気出しなって!
「あの時」は元気だったみたいだけど、やっぱり何かあるみたいだな〜?
『首を突っ込むと怪我するわよ。いい子だから大人しくしてて?今は何もしないから。』
バルバトスの言葉にハッと驚き、目線を下げるアルテミア。
するとバルバトスは、扉の窓からアルテミアを見て話すのをやめ、扉に背を向けて座りだした。
オレに任せろ。
二度とそんな顔しないように、笑わせてやるから。
背を向けたまま、男らしく笑ってみせるバルバトス。
本当は向き合って笑顔を見せたいけれど、アルテミアの泣いている所なんて見たくない。
自分の涙に気付いたアルテミアは、そっと涙を拭うと照れ臭そうに笑う。
――
VIPルーム内。
落ち着いたアルテミアはバルバトスとベッドに座り、話をしていた。
――なるほどな。
って事は、メルーナちゃんとアルテミアちゃんは仲間で、レックスとゼルガっつう男も仲間。
セクシャルレインボープロジェクトのメンバーで、そのボスがねーちゃんのダチ。
けど、メルーナちゃんと話してた男ってのは何者なんだ?
あいつは異常よ。
ある日突然現れて、私達のリーダーに声をかけて、訳の分からない大会を始めさせた。
そして、この島の全てを変えた……。
ん?それってセクシャルレインボープロジェクトが始まる前からリーダーがいたって事だよな?
って事は……
VIPルームは彼専用よ。
アルテミアの声が聞こえると思ったら、案の定おしゃべりしてるなんて……どういうつもり?
どういうつもりか聞きたいのはこっちの方よ!
メルーナ、聞いて!
もう聞いたわ。
さ、行きましょう?もうすぐ飛行船がやってくる。
「あの方」は迎撃の準備をしてるわ。
犬星ソラ、ゴラロボ、リサの3人がこの島の近海までやって来た時点で飛行場から一斉射撃。
動力の「アレ」を最大出力にして光線を放つ。
待って!
あの船にはゼルガとレックスが乗ってる!
でも「あの男」は2人を転移させて助ける気なんてない!
あの言葉を本気で信じるつもり!?
今まで指示に背く事なく動いていたのは知ってるわ。
ううん、あなたと一緒に行動してきたんだもの。
全部見てきた。全部知ってるの。
でも今回は今までとは違う!
どうして指示を聞かないで勝手に飛行船に乗っただけで瀕死にされなくちゃいけないの?
ゼルガとレックスが指示を聞かないで行動するのはいつもの事で、今まで何度も何度もあったでしょう?
……!!
どうして……そんな冷たい事が言えるの……?
この島の「迎撃」がどんな意味を持つか、分かってるでしょう?
今度はミサイルじゃ済まない。2人とも死ぬかもしれない……!
あなた、それでもいいって言うの……!?
いいわけない。
あなたが優しくて、誰よりも私達の事を想ってくれてる。
そうよ。本当はこんなのおかしい。そんな事とっくに気付いてる。
迎撃なんてやめましょう?
犬星ソラ。
あの子ならきっと2人を助けてくれる。
ううん。リサもゴラロボも、みんな助かってほしい。
それに……
ジャックだってきっと見つけられるでしょう?
私が何も知らないと思ったら大間違いよ。
ほら、「あの男」が言っていたでしょう?
『私は用事ができた。お目当ての異世界人がここに来るのも時間の問題だろう。』
お目当ての異世界人。
それは私達の計画に必要な3人のうち1人。バルバトス君も含めてあと2人いる。
そのうちの1人……
ジャックはまだこの島に来ていない!!そうでしょう!?
私はジャックを解放するためにバルバトス君と一緒にこの宮殿を出て、もう1人の異世界人もこの島から出してあげる。
もちろんゼルガもレックスも助けるわ。大事な仲間だもの。私は絶対諦めない。
アルテミアの言っている事は裏切り。
姿を消したままのジャックとバルバトスを解放し、グラスオーヴィに帰れるように。
ゼルガとレックスを助け出し、一刻も早く治療をして元気になるように。
必死になるアルテミアに、メルーナは黙ってしまう。
と、その時。
なるほどなるほど?
大体の事情は把握できたよ。
つまりアレだろ?「あの方」って奴を……
そんなの無茶よ!
戦わずにここを出ればそれで済む事じゃない!!
そりゃ無理だ。
オレの仲間がピンチなんだぜ?
この島の「裏」を知っちまったし、君達も助ける事に決めた。
「あの男」ってのがどこのどいつか知らねぇが、一発殴ってやんねぇと気が済まないぜ。
何で……
何で笑っていられるの……?
どうしてそんなに笑顔でいられるの……?
あ〜ダメだダメ。
いいかい、君は笑ってなきゃダメだ。
泣くのはNG。わかった?
さてと、メルーナちゃん。
悪いんだけど教えてくれるかな?
いいや。
オレがブッ飛ばしたい奴だよ。どんな奴か教えてほしい。
それにアイツはまだここに着いてない。
それなら大丈夫さ。
それは君が知ってるんじゃないのか?
……やっぱりあなた、鋭いのね。
安心して。ジャックは必ずここへ来る。
そのための"用意"もしてきた。
きっと、飛空艇の誰かが「アレ」を見つけてくれるはず。
きっとね。
あれ……?
何で目の前がピンク色なんだ……?
っていうかここ、どこだろう……
どこを見てもピンク一色の空間。
そんな中、目を覚ましたのは今までの事を思い出そうと頭を抱えるジャック。
ええと、オレ……
確かチョコレート・クライシスでメルーナさんに会って……
『私が欲しいのは……
フレイムイーターも持っていない、復讐もしない、純粋で騙されやすくて優しくて、いつも仲間に囲まれて笑っている本体のジャック……』
『あなたが存在していいのは私の隣だけ♪
この時をずーっと待ってたわ♪』
『異世界人ジャックよ。
この女神が、あなたを新たな心へ導いてあげます♪』
あ……!そうだ!
オレ、メルーナさんの思い出を見せてもらって、すごく眠くなって……!
元気100倍!!!
……って、これ以上はアウトだからやめとくとして、とにかくすっごい元気になれた!
それに、今まではいろんな人に守ってばっかりだったけど、これからはどんどん戦って行くぞ!
まるで疲れや悩みが解決したかのようにスッキリとした顔でガッツポーズをとるジャック。
ジャックが元気になったのはメルーナとの思い出にあった。
メルーナさん、本当はいい人だったんだな。
アルテミアさんもヒビキちゃんも、セクシャルレインボーで一緒に住んでた仲間だったんだ。
それに今の状況もわかったぞ。
ソラ君はレックス君とゼルガさんを助けるために島に突っ込む気なんだ!
こうしちゃいられない。
まずはここから……!ふぬぬぬぬぬぬ!!
目の前の壁を押すかのように手を前に出し、力を入れるジャック。
しかし。
あ、そうだった……
確か思い出の中でメルーナさんが……
『次に目覚める時は「ハートの中」。自分から出るのは不可能だけど、外から壊す事はできる。』
『グラスオーヴィの倉庫の中にハートを壊すためのアイテムを置いておいたから、きっと誰かが持って来てくれるはずよ。安心して♪』
ん?ちょっと待て?
っていうかオレ、今ハートの中にいるって事?
え!?ハートって何!?誰かオレを……!!
ジャックは知らない。
自分が巨大なハート型の塊の中に入っている事を。
そのハートが、リサが飛行船で見つけた巨大なハート型の塊と同じもので、ナナ達の乗っている飛空艇にもあるという事を。
そしてそのハートを壊すアイテムが……
とにかく、先に行っちゃったのはしょうがないわ!焦ってもしょうがないし、あたし達に出来る事をすればいい!
とりあえず、ここにいないメンバーを集めましょ!ミノルと時雨、それからアイザワとかいう男もいたはず!
操縦はポンコツを信じるしかないわ。
誰かを連れてくれば幻もなんとかなるだろうし、急ぎましょ!
……あれ?
ねぇ、あのペットボトルって何かな?
スプレーみたいだけど……?
いかにも怪しいんですけど。
蓋にハートと虹のマークがあるじゃない。
ええと、名前は……
わぁ!ラブシャワーだって!
女神の涙で出来てるって書いてあるよ!ロマンティックだね♪
何が女神か。
そんなもん捨てちゃいなさい!
どうせ闇市場のアイテムに決まってるわ!
でもこれ、中身が減ってるような?
誰かが使ったのかな?
よーし。
ちょうど外が嵐だし、投げ捨ててやろうっと!
死神美少女リリムちゃんの1球、見てなさい♪
今、飛空艇から嵐の中へ投げ捨てられる……
最大のピンチだという事を。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)