174話 ゲートへ飛べ!金剛寺悠哉、涙のギャラクシースマッシュ炸裂!?
文字数 8,889文字
中心、獣人、魔法、暗黒。
ラトリアには4つのテーマに分けられた区域が存在し、獣人が通う学校やスパ・ラトリア、サキュバス街など、独自の特徴を持っている。
そしてそれぞれのエリアに共通しているのがラトリア、つまり町の入り口。
つまるところ、この世界の至るところで利用されている転移魔法陣によるワープを使って楽をする人もいるけれど、自分の足で歩く人にとっても欠かせないのは当然。
特にゲートを越えた先の景色はラトリアを利用する冒険者にとっての楽しみの1つである事、
それぞれの通ずる道の行き先は基本的に全く別である事、
その行き先でしか手に入らない物や用事がある事、
ワープ出来るのは全ての町や村で利用出来るわけではない事、
と言った4つの理由で、どれかのゲートが通れなくなればそれなりの問題が生じる。
そして今、多くの人が困りながらも解決への兆しが全く見えないゲートがブラックエリアにある。
『おい聞いたか?
あそこのサキュバス店の女の子、この間の夜から姿を消したらしいぞ。』
『まさかゲートに近付いたんじゃないだろうな?普通は害虫が大量発生してて通れないって聞けば近寄らないだろう。まったくどこの誰だ?』
そう、その原因はサキュバス街を利用する男達の中で噂になっている「害虫騒動」。
どうやら被害に遭うのはいつも女性で、ゲートに近付くと姿を消す、豹変する、命を落とす、と様々。
その上、もしも女性と一緒に男性が行動していれば、
それは女性よりも先に襲われて死ぬ事を意味している。
1番良いのは害虫が消える事だけど、
今はクエストの説明文に「女性受注禁止」と書いて、男性だけで駆除出来るほどの強い冒険者が来てくれるのを期待するしかない……。
――というのがブラックエリアの誰もが知っている情報……
ざっとまとめるとこんな感じかな。
……本当だ……。
クエストの詳細、よく見てなかったけどすごく危険だったんだ……。
でもどうして女性ばっかり……?
もしかしたら誰かの指示で人を襲ってるんじゃ……?
その瞬間、苦しそうな表情になるセリカ。
ジャックに害虫について説明していた時とは違い、声が大きくなる。
心当たりがあるんだね。
どこの誰だか知らないけど、害虫を操って人を襲うなんて許せないよ!
オレが成敗してやる!!
『どこの誰だか知らないが、害虫を操って人を襲うなんて許せないな!!
この私が成敗してやろう!はっはっはっは!』
っていうか、意外すぎるよ!
サキュバスの人達も害虫について知ってたって事だよね?
女性ばかり狙われてるっていうのに全然普通の態度なんだもん!
あ、えっと、その……
実は数日前にもここで害虫騒動があったんだけど、その時助けてくれた人がいてね?
今の君の言い方がちょっと似てたんだ。
でもその人、急に行方不明になっちゃって……!
そしたらアイツがまたやってきて……!!
あの時、あの人がとどめを刺さなかったからって調子に乗って、こんな事に……!!
『なぁに、命を取るまでの事じゃないさ。
自分のした事を反省して改心すればいい。
虫も強かったが君自身も強かった、なかなか効いたよ!
今度は正々堂々戦おうじゃないか!!』
あの人は行方不明になったんじゃない!
アイツらが卑怯な事をして殺したに違いない!
ゴラゴランの公開処刑を知らない人は「行方不明になった」と認識していて、
この害虫騒動は2回目の事で、最初は黒幕がいたけどゴラゴランが助けてくれた。
ところが今はゴラゴランほど強い人物が居ない状態で、どうにもならない。
(どうしよう。
公開処刑の事を話しちゃおうか?
いやでも……うーん……)
あ、ごめんなさい!
これでも騎士団の一員なのに、ここまで心が乱れるなんて思わなかったの!
ええとジャック君は……ゴラゴランさんって知ってる?
もちろんです!
彼は強いしかっこいいし、CDEネットワークのエンターテイナーとして活躍してるスーパーマッチョです!
世界中にファンがいるはずですよ!
それであなたは……
ええと、騎士団って言うとジルベスタって言う人が団長のアーリーナイト騎士団しか知らないんですけど……
私は「ランブルク騎士団」。
女性のみの団員で構成された騎士団で、サキュバス隊、ドラゴンメイド隊、チアガール、いろんな特徴の小さなチームに分かれて「ランブルク王国」や他の国の調査とか魔物の討伐をしたりしてるのがメインの仕事かな。
なるほど。
騎士団って、何だか町の平和を守る警察みたいですね。
自分の国だけじゃなくて他の国にも派遣される、って感じの。
そうだね。
そのイメージで合ってると思うよ。
元々の騎士団の意味とは違いがあるかもしれないけど、「調査と討伐」はどこもやってる事だし、監獄なんて信用できないしね。
それで、私は「セレナ」っていうお姉ちゃんと一緒にラトリアの警備のお手伝いと、忍びの里で採れる野菜の調査をしてるんだけど……
さっき話したゴラゴランさん……
あの人が最近、急に行方が分からなくなってね。
何か手がかりが無いか調査してるんだ。
なるほど……。
あの、さっきのお話ですけど……
ゴラゴランさんは一度、ここに来たんですよね?
うん、そうだよ。
確かあの時はブラックエリアの警備をしていたんだけど……
『あぁ、ファンの方かな?
そんなに驚かれるとは思っていなかったよ!
ありがとうッ!!』
『え!?あ、は、はい!
待って本物!?なにこれなにこれドッキリ!?え!?』
『は、はい!ファンです好きです推しです!!
……あ、じゃなかった、どこに行きたいんですか!?
忍びの里ですか!?グラーディアですか!?
アクスビットですか!?やっぱりバルクピースアイランド!?』
――って言われてね。
いやぁ、何でウメダに行きたがってたのかは分からないけど、恥ずかしいくらいテンションが上がっちゃったんだよ!!
(スパ・ラトリアの宴会場でポーラさんから言ってた事、やっぱり本当だったんだ……!)
『ジャックが遊園地を出てから3日経った辺りかしら。
ゴラゴラン本人が来て、ウメダはどっちへ行けばいいかって聞いてきたの。』
『その時はどうしてそこに行きたいのか分からなかったけど、すでに自分が死ぬ未来を聞いていたのなら処刑場の場所を最初から知っていて、自分からそこへ向かおうとしていたんじゃないかしら。』
『えぇ。黙って捕まるような人じゃないでしょう?
きっと正々堂々真正面から立ち向かったんじゃないかしら。』
『そしてそこで……きっと何かがあったのよ。
そうでなければあの人が捕まって処刑を受ける事態になるはずがない。』
害虫を何とかしたら聞きたい事があります!
お時間よろしいですか?
セリカはランブルクという騎士団に入っている。
それならジルベスタのような団長や他の団員からゴラゴランだけじゃなく、グラリオや大文字タケルの情報まで聞き出せるかもしれない。
しかも今確実に情報を持っていそうなのは直接ゴラゴランと戦ったという人物。
本人に会うのも簡単で、この先のゲートで害虫を操って待ち構えているかもしれない。
となればついでに人を襲うのを止めさせればラトリアの外にも出られるし、ブラックエリアのみんなが安心できる、まさに一石二鳥のWチャンス。
その後、2人はモリゾー達を追いかけるも、
サキュバスから「フロントの横から渡り廊下を歩いて、裏手に行くのを見た」という話をゲット。
フロントに一言投げかけて、急いでゲートへ向かう。
あの、サキュバスのみなさん!!
まだスタンプラリー終わってないんですけど、チェックアウトさせて下さい!!
オレ達どうしても行かなくちゃ――
2人のお話聞いてたわ。
勇気を持って立ち向かってくれる人が来てくれて安心した。
スタンプラリーの意味にも気付いてくれたみたいだしね。
私達はね、本当は怖かったけど何事も無かったみたいに明るく振る舞ってただけなの。
これでブラックエリアに住む人も、訪れる人も、みんな笑顔になれるわね!
サキュバス温泉と私達の事、忘れないでね?
あなた達の命の安全を心から願っているわ。
どんなに傷付いても絶対に負けちゃダメよ!
サキュバス温泉最高じゃボケェエエエエエエ!!
エロ大大大大好きじゃアホォオオオオオオ!!
感動して泣いちゃったじゃねーかこのスットコドッコイ!!
金剛寺悠哉、涙のおおおおおお!!
ギャラクシィィィィィィ……!!
スーパーマグナムボンバースケベ上等コラボ上等サキュバス最高スマーーーーーーーーーッシュ!!!
フオオオオオオオオオオ!!!
サキュバス温泉のスタッフ達から思いがけない言葉をもらって、両方の頬にダブルキスをもらった事が嬉しくて嬉しくて、
お人好しで優しい性格だから、感動のあまり「幻のギャラクシースマッシュ」が炸裂。
パンチをしたのは何もない所だけど、
後ろを振り向く事でパンチの勢いを利用して前に吹っ飛び、走るよりも早くゲートに向かう事が出来る。
ええ!?
ギャラクシーのパンチにそんな使い方があったの!?
よおおおおおし!
これ以上悪い事なんてさせないぞゴラァ!!
サキュバス温泉の平和はオレが守ったるわコノヤローが!!
こうなったら上空からド派手に登場して、正義の鉄槌を下してやるぞ!!
ちょっと斜め下に……!
金剛寺悠哉、感動の(中略)サキュバス最高スマッシュ!!
ウソ!?パンチの威力であんなに高く飛べるの!?
どんどん遠くに行くじゃん!
……って、ちょっと待った!!
まだ虫を操ってる敵がどんな奴か説明してないし、そんな勢いで飛んでたらゲートに突っ込んじゃうよ!?
っていうか私、置いてけぼりなんだけど!?
……あれ?何か嫌な予感がするなぁ。
まさかと思うけど、また空中でパンチしてこっちに飛んでくるつもりじゃあ……
ヒッ!?こっち向かなくていいよ!
もうそのまま前に突っ込んじゃっていいからああああああああ!
大丈夫ゲロ。
あなたもオレと一緒に飛ぶんだゲロ〜〜〜ン。
その瞬間、ジャックは長い舌を伸ばしてセリカの体を掴み、1周、2周とグルグル巻きにして……
グイッッッと思いっきり引っ張ると?
ヒィッッッ!?
イヤああああああああああああああ!?
見事、セリカが上空にいるジャックの元へ飛ぶ事に成功。
ただ本人はものすごいスピードだし実はカエルと高いところが苦手だしで、絶叫中……。
カエルイヤああああああああ!
ベロ気持ち悪いよおおおおおおおお!
高いの無理いいいいいいいい!
落ちるうううううううう!
あ〜……。
確かにもう6メートルくらいの高さなんで、さすがに落ちたらヤバいゲロね〜?
でもこうすれば大丈夫ッ!
あなたも一緒に飛ぶって言ったでしょ?
というわけで全力で吹っ飛ぶぞおおおお!
ギャラクシー&アニマルフォーゼの合わせ技を披露したジャック。
絶叫に絶叫を重ねるセリカをお姫様抱っこして、ゲートに向かって上空を飛び、猛スピードで急接近。
そして一方、先に走って行ったモリゾー、ヴェルグ、桃華、シロナは……
****
あぁん!ダメですぅ〜!
ヴェルグさん、服の中にエッチな虫さんが入ってしまいましたぁ!
取ってくれませんか〜〜〜!?
いやん!上から下に動いて……!
下は敏感だからそんなところ刺されたら壊れちゃいますよ〜!
なんと、ゲートを目の前にして大量の小さな虫が現れ、早速退治しようとしたのはいいものの、
胸のサイズに定評のあるシロナが真っ先に標的にされてしまった。
きゃあっ!
か、かゆい……!体中がかゆいですううう〜!
まずい!ただの虫じゃないはずだ!
痒くなる以外にも何かあるかもしれない!
手遅れになる前に早く追い払わなきゃ!!
くそっ!俺達には近付けないようにすごいスピードで飛び回って、2人には卑猥な所ばっかり刺しやがって!
同じ男には興味ないってか!?
そうだ!
こいつらは誰かの指示で動いてる!
どうせどこぞの変態野郎が裏で糸を引いてるんだろ!?
服の中に入ってきたよぅ!
いやぁっ!かゆいし気持ち悪いよぅ!
胸もお尻もかゆいですぅ!
どうしてエッチな所ばっかり刺すんですかぁ!
そうか!
だから女性受注禁止のクエストだったんだ!
でも……!
「難易度は最大、全滅します」っていう注意書きだろ?それなら俺も見たよ!
でも正直これだけじゃ痒いだけだし、2人が悲鳴を上げてるのを見てるのは俺達だ!
って事は……分かるだろ!?
もしくはシロナと桃華を連れて行く!
ここでゲートに近付いた女の子にイタズラして、気に入った女の子は自分の家で楽しむ!
そして、特にかわいいわけでもない女の子はここに捨てる!
あんな風にな!!
モリゾーが見たもの。
それは人間やエルフ、サキュバスなど多種族の積み重なった女性の遺体。
きっと今まで大量の虫で隠されていたのか、誰も気付かなかったのだろう。
ゲートの片隅に、見るに堪えない光景が広がっていた。
酷い、なんてもんじゃねぇ……。
自分のタイプじゃないとか、服装が気に入らないとか、たったそれだけの理由で殺して、
まるでゴミみたいに捨てたんだ……。
そして殺された女の子は誰にも気付かれず、
時間が経てば体が灰みたいに散っていく……。
もしそれぞれの家族が知ったらどんな気持ちだよ……!
じゃあこの女の人達は父ちゃんにも母ちゃんにも会えないんだ……。
もう二度と……。
シロナも桃華も同じだ!
かゆいだけで殺傷能力が無いなら「気に入られた」と判断していいと思うけど、結局自分の我儘ひとつで簡単に命を奪うような奴だからな!
本人がここに来るにしろ連れてかれるにしろ、俺達のやる事はたった1つ!!
そうだろ!? モリゾー!!
うん……!絶対に許せない……!!
命を何だと思ってるんだ……!!
怖いよ……嫌だよ……!
お兄ちゃんと一緒に居たいの、家族と一緒がいいの……!
モリゾー君、助けて……!
その瞬間、モリゾーは服の中から木製の長いお箸を出し、
ものすごい勢いで桃華とシロナの周りにいる小さな虫を掴み取ると、
一匹残らずブラックエリアを囲む高い壁に投げ、あっという間に2人を解放した。
な、なんなんだ今のは!?
速すぎて何をしてるのか全く見えなかった……!
すると、モリゾーはシロナ、桃華、ヴェルグよりも前に出て、先端が赤色のお箸に持ち替えると、
再びこちらに向かってきた大量の虫をまたものすごい速さで正確に突き刺し、箸先から700度を超える熱を与えて、動けないようにひとつにまとめるとヴェルグに交代。
任せろ!!
ビクトリィィィ……スマアアアアッシュ!!!
これで素早い動きでパンチが当たらなかったのを解決して、渾身のビクトリースマッシュで虫をゲートの向こうの大空へ吹っ飛ばしK.O。
すると、またパンチの威力を利用してブラックエリアの上空を吹っ飛んでいたジャックとセリカがタイミングよく、ちょうど「それ」を見たようで……?
え!?今何かが飛んで行かなかった!?
何だかちょっと焦げ臭いし……
きっとゲートで何かあったんだよ!!
モリゾー君とヴェルグ君だ!
桃華もシロナさんもいるぞ!
おーーーーーーい!
あっ、ちょっと待って!
もう大丈夫だから下ろしてよ!
このままじゃ恥ずかしいってば!
あそっか、お姫様抱っこしたままだ。
でもまだ下ろせないですよ?
あれから10メートルくらいまで高さアップしたので、ちゃんと着地できなかったらお陀仏です!
まぁ、アニマルフォーゼでカエルになってちゃんと地面にペタッとくっつけるかチャレンジしてみてもいいんですけどね?
上手くいけば落ちても無傷で済みますよ?
いやどう考えたって無理でしょ!!
無理無理無理無理!!
自殺行為もいいところだし、落ちる時ヒュンッ!てなるからイヤあああああああ!
こ、こうなったら……!
ランブルク騎士団の崩壊を企む敵として登録してやるうううううう!!
各騎士団の代表が集まって討議する場に、罪人としての君をどう処理するのか議題にするの!
そうなったらさっき君が名前を出したアーリーナイト騎士団のジルベスタ団長も罪人になるんだからね!
さぁ観念しなさいっ!
これはランブルク騎士団である私をお姫様抱っこで連れ去る誘拐事件に他ならないんだからね!
私まだ16才なのにお家に帰った後はカエルの舌でペロペロして楽しむつもりでしょう!?
そんな事したってどうせ上手くいかないぞー!
いやしないし!
いつも下ネタ発言する変態にツッコミする方だから健全だし!
あと同い年だし、いくら何でもマニマルフォーゼの変な使い方しないし!!
あっ!お兄ちゃんが女の人を抱っこしてお持ち帰りしようとしてるーーー!?
またまた〜!
ジャックさんは同い年の女の子でも容赦しない変態さんですよねっ?
もちろん私の事もエッチな目で見てあんな事やこんな事をする気ですよねっ?
やったーーーーーーっ!
何やってんだあいつ!?
っていうか一緒にいる女の子、どこの誰!?
ジャックの変態疑惑でなぜか盛り上がる女性陣。
ポカーンとジャックを眺めるヴェルグ。
ところがその時、セリカが何かに気付く。
何はともあれ、無事にクエストが終わったみたいで良かった〜!
こうやって楽しい会話ができるのもヴェルグ君かモリゾー君が害虫を退治してくれたおかげですね!
だって、みんなはゲートの目の前にいるのに虫と戦ってるわけでもなく普通にこうやって話してるじゃないですか!
『え!?今何かが飛んで行かなかった!?
何だかちょっと焦げ臭いし……
きっとゲートで何かあったんだよ!!』
おーい、ジャック〜?
そろそろ降りて来いよな〜?
みんなを困らせる害虫どもは一匹残らず駆除したからよ♪
じゃあやっぱりさっきの……!
ねぇ!誰がやったの!?
いやぁ、それがさぁ!
あいつら素早い動きで飛び交うもんだから俺の自慢のパンチが当たらなくて困ってたんだよ!
でも!
モリゾーがすごいスピードであっという間に捕まえてくれたおかげでこの通りッ!!
ジャックにも見せてやりたかったよ〜〜〜!
っつーわけで、クエストクリアしたわけだし、
ゲートを通過してラトリアを出る――
わずか一瞬。
モリゾーの真後ろに謎の男が現れ、耳元で呟いたと思った途端、
ものすごい風と轟音と共に、モリゾーの姿が消滅。
そしてその3秒後、大きな音を立ててブラックエリアを囲む高い壁に激突。
(……おかしい。
確かに今、俺はモリゾーを攻撃した。
だがまるで当たった気がしない。
咄嗟に偽物と入れ替わったのか。
本物は――)
謎の男が感じた違和感は的中。
ブラックエリアの壁に激突したモリゾーはボフン!と白い煙に包まれて、大きな木の枝に変化。
さらに男の真後ろに姿を現して、
箸ではなくクナイを首に押し当てる。
す、すげぇ!!
いきなり敵に攻撃されてやられたと思ったらニセモノと入れ替わってたのか!
もう俺達が勝ったも同然だぜ!!
ヒヒ……ヒヒヒヒ……
俺が攻撃したのはお前の「分身」……。
おまけに首に武器を突き付けられるとは思わなかったよ。
うう……すごい殺意だ……!
どう考えてもピンチなのに堂々としてるっていうか、全然怖がってないみたいだし……!
何なんだあの人は……!?
……"アイツ"は誰かが虫を全部倒した時だけ姿を見せる。
そして選択させるの。
「死ぬ」か「入る」か。
じゃああの人が虫を操っていた張本人で、ゴラゴランさんと戦った人!?
でも「入る」って……?
「ナイトメア連合」だよ。
簡単に言えばギルドの壁を越えたグループのようなもので、町や村を魔物に襲わせたり、物資を奪ったり、焼き払ったり……
特に「冒険者狩り」は有名で、クエストクロックを隠して冒険に出かける人も少なくないの。
あの男の名前は「バベル」。
ナイトメア連合、十五番隊隊長。
正々堂々戦わずに卑怯な手口で相手を嬲って殺すのが好きな危険人物。
(アレがバレたら終わりだ。
もし知ったら、ジャック君もヴェルグ君も、オイラを怖がって離れてしまう……)
(そんなのイヤだ……!1人になりたくない……!
普通の冒険者として生きるって決めたんだ!)
食いしん坊で、悩みの一つもないイメージのモリゾー。
次回、そんな彼からは想像もつかない壮絶な過去が明らかに――。
つづく!
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