７８話 犬星ソラＶＳレックス！悲しみの結末！
文字数 5,948文字
ごめんね、レックス君。
この勝負……
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前回のあらすじ。
ついに現れた幻。
それは本物と同じように笑い、ネタ発言もバッチリのゴラゴラン。
リリム、結衣はすぐに幻だと見破るけれど、ナナは本物だと疑わずに飛空艇を操縦。
その結果、見事に進行方向が変わり、
ゴラロボによって小型飛行船から吹っ飛ばされたゼルガが雄叫びを上げると、天気が一転。
あっという間に大雨と強風の嵐に襲われる中、
そして……
チッ。こんな時に……！
オレを追いかけてきたのか？
ゼルガが嵐を起こし、小型飛行船の中へ戻ってこない事で”あの力”を察したレックスは慌てて操縦室から謎の部屋に移動。
部屋の中央に巨大なカプセルがあり、ピンク色のハート型の塊が入っているのを眺めていたレックスの元に駆けつけたソラは、レックスとの決着をつける事を宣言。
しかしソラは今すぐ決着をつけるのではなく、ゼルガによって起きた嵐で飛行船が落ちてしまうのを防ぐため、レックスに協力する事を提案。
「何言ってんだ？」とレックスに笑われ、自分の甘い所を指摘されるも言葉を曲げず、ソラは友達になる事を賭けたリベンジを持ち掛けると……
…………。
いいだろう。お前が勝ったら友達でも何でもなってやるよ。
今度こそ逃げるなよ！！
これを承諾し、
ソラとレックスの戦いが再び始まろうとしていた――。
『あら本当だわ。誰が作ったの？笑っちゃうわ。』
『マニュアル通りにやればいいだけだろ？こんなの誰が作っても一緒だっつーの！』
『笑うな……。』
『食べ物を粗末にするな？ははは！何言ってんだお前？こんなものに本気になってどうすんだよ？』
『おい見ろよ、ケーキがあるぞ！食っちまおうぜ！』
……ソラとレックスの戦いが始まってから数分後。
ソラはソーセージを手に持つと、スキルの「変形」を使って１メートルほどに巨大化させ、しなやかに動くヌンチャクのような武器に。
さらに硬くして、レックスの投げたナイフやフォークを
笑顔でリサに答えると、ソーセージをほんの少し柔らかく「変形」させてパクッと食べるソラ。
「うん！美味しいっ！」と笑っているけれど、レックスの攻撃を防ぐばかりで攻めようとはしない。
リサとゴラロボは疑問を抱かずにソラを笑顔で応援していた。
笑顔になっていないのはレックスただ１人。
レックスはソラがソーセージを持っている事にも気に留めず、数本のナイフやフォークを召喚すると、一歩も動かずに静かに投げる。
嵐の前の静けさ、という事デスカ？
熱などのエネルギーの感知には何も異常ありませんが、それならば下がっていた方が……
熱……。
いや、上手く言えないけど、その逆かな……。
あたしはロボットじゃないけど、もし「心の感知」が出来るとしたら……
理由は分からないけど、レックス君は今、すごく辛い気持ちになってるんじゃないかな……。
もしかしたらさっきのボクの言葉で傷つけちゃったのかもしれない。
あ、あたしも！あたしもそう思う！
なんだろ、何か思い出させちゃったとか？
ソラとリサが感じたレックスの異変。
ソラは投げる本数もスピードも変わらない、レックスの単調な攻撃をキン！キン！と弾きながら、少しずつ前に歩き出し、レックスに声をかける。
よく笑うよな、お前。
何でそんなに笑ってられるんだ？
腹いっぱい食えるからか？
美味い食べ物ばっか食えるからか？
自分が食えれば作った奴も周りの奴もどうでもいい、
『ははは！』
『ははははは！』
もうウンザリなんだ！
感謝もしなけりゃマナーも守らねぇ！
テーブルも汚して当たり前！
毎日毎日食えて当たり前だと思ってやって来る！！
その瞬間、ソラは慌ててスキルを発動。
ヌンチャクのように使っていたソーセージをハムのように平べったい形に変え、硬化したもので自分を覆う。
そしてその直後、なんとレックスはソーセージの壁に向かって全力の頭突き。
たった一撃でソラを守る壁を粉々に壊すと、４本のナイフを操ってソラの首を狙う。
ソラの首の周りを囲むようにして浮くナイフ。
少しでも動けば首を貫通し、命は無いだろう。
ソラはレックスが本気で殺そうとしている事、本当に強い事を感じると、小さな声で呟く。
強いんだね……！
君が壊した壁、石よりも硬くしたのに、簡単に壊されちゃうなんて思わなかったよ……！
でも、ボクは負けるわけにはいかない。
大切な人が君の仲間に捕まって、死んじゃうかもしれないからだ……！
『ソラ君！』
そんなの……！
そんなの、絶対にイヤだ……！！
レックス君が料理を大切にしてきたのと同じくらい、ボクはジャック君が大切なんだ！！
レックスに向かって叫ぶソラ。
瞬時に４本のナイフがソラの首を刺し、貫通。
しかし。
それは食べ物を「変形」して「合体」させたソラそっくりのニセモノ。
ニセモノが泥のように溶けたと同時に、ソラはレックスの真上に瞬間移動。
白い粉を「再生」させ、出来上がったものを手にしてレックスの頭を狙って振り下ろす。
それは……
どう？ボクのスキルで小麦粉を「再生」させてフランスパンを作ってみたよ！
「変形」させてとっても硬くしてみたんだ！
そう、それは本物の何倍にも硬化させたソラ特製のフランスパン。
すぐにソラに気付いたレックスは数本のナイフを召喚させて振り下ろされたフランスパンの
床に足をつけたソラとレックスはお互いの武器を手に、キンキンキンキン！と音を立てて攻撃。
「変形」は食べ物の性質を変える力……。
硬化させる、巨大化させる、形を変える。
そうだよ！
「合体」と組み合わせる事で、食べ物の人形やボクそっくりの人形を作る事もできるんだ！
「再生」は食べ物を進化させる力。
材料は他の物があっても、１つあればいい。
その通り！
材料があれば料理に変えられるんだ！
（今のはもともとあった能力。本人も驚いていない。だが……）
行ける……！
行けるよ！勝てるよソラちん！！
（まただ……！また笑いやがった……！クソ！クソクソクソ！！ふざけんな……！）
動揺か苛立ちか、攻撃が激しくなるレックス。
ソラはナイフに加わってフォークも飛んできた事に気付くと、フランスパンを剣のような形に変えて
また弾くだけか！？
そんなんじゃオレは殺せねぇぞ！！
殺す？
言ったよね。ボクは君に友達になってほしいんだ。
そんな事……
お前を見てるとムカつくんだよ！
これはゲームじゃねぇ！遊びじゃねぇ！殺し合いだ！！
どこまで甘いんだよお前は！！
せっかくお前のリベンジを受けたのに残念だよ！
オレは殺すつもりでやってんのに、お前は遊びのつもりだったのか！？
大体、自分を血まみれにした奴に対してどうして友達だなんて言えるんだ！
どうしてオレが悪い人間じゃないなんて言える！？
お人好しもいい加減にしろ！！
お前にとっちゃ全員オトモダチかよ！！
それじゃまるで……！
『大丈夫だ！きっとわかってくれる！いつかオレの店を建てて、オレの料理で世界中の奴らを笑顔にしてやるんだ！』
『だってそうだろ？
ご飯はみんなで食べるから美味いんだ！！』
その時、レックスの手が止まり、ソラの手に涙が落ちた。
ソラは涙に気付くと、攻撃を止めて優しく声をかける。
ボクが笑ったのは君を傷つけるためじゃないよ。
もしかしたら君と友達になれるかもしれない、一緒に笑えるかもしれない。そう思ったんだ。
それがお人好しって言ってんだよ！！
これは殺し合いだぞ！ヘラヘラ笑いやがって！！
ヘラヘラなんて笑ってないよ。
ねぇ、聞きたい事があるんだ。聞いてくれるかな？
それを聞いてどうするんだ？
あいつを奪ったのはメルーナちゃんの指示で、オレは関係ねぇぞ。
「犬星ソラのスキルを覚醒させること」。
メルーナさんからの指示だったよ。
だからボクはリサさんとゴラロボに相談した。
もしかしたらメルーナさんもレックス君も敵じゃないかもしれない。
友達になれるかもしれないって。
もう一度聞くよ。
ねぇ、どうしてジャック君を奪ったの？
あたしも聞きたいね。
ジャックはセクシャルレインボープロジェクトと何か関係があるんでしょ？
だからセクシャルレインボーに連れてったんでしょ？
……メルーナちゃんは特別なんだ。
メルーナちゃんだけはオレをわかってくれる……
『美味しかったわ♪
ごちそう様、レックス君♪』
…………。
お前ら、最終試験まで来れたんだろ。
グラーディアとか言う、金に目が眩んだ汚ねぇ町の酒場の連中なんだろ。
町は汚いけど、お店に来てくれる人達はいい人だよ。
うちの従業員は女子限定でね、ジャックもソラちんも女の子の格好をして働いてくれてるんだ。
歌も歌って楽しいんだよ！
ボク達もお客さんも、みんないっぱい笑ってるよ！
マナー悪い人もいない、傷つける人もいない！
だから毎日が楽しくて笑っていられるんだ！
ボクは君と友達になるために勝たなきゃいけない。もちろん殺したりなんてしないよ。
だから、レックス君には……
だって、辛いよ！
悲しい顔したり怖い顔したりしてるの、見たくない！
だから笑ってほしいんだ！！
そしたらもっと、がんばっちゃうぞ！
絶対負けないんだからね！
ねぇ、もう１つお願いがあるんだ。
これを聞いてくれたらバトル再開！ね？
あのね、
もし、レックス君と友達になれたら――
ソラとレックスが分かり合い、
閉ざされたレックスの心へ届きそうだったソラの願い。
お互いに笑顔で戦えたかもしれない、ソラの願い。
しかし、
ソラの目の前にいたレックスは突然のゼルガの豪腕をモロに喰らってしまい、
その衝撃から部屋の壁に勢いよく激突……。
その強力なパンチはゴラロボが受けた時よりも極めて大きく、ダメージは桁違い。
大きく腫れ上がり、血で染まった顔。
体の骨も折れ、意識はない。
突然の出来事にソラは無言。
突如現れたゼルガには目もくれず、ぐったりと倒れたレックスに歩み寄ると……
血で汚れたレックスの顔を優しく拭い、「よし。」と呟き……
泣かないよう笑顔になって、
言えなかったレックスへの質問を言葉に出してみる。
けれどもその答えは、もう帰ってこない。
何で……？
友達になれたかもしれない……！
やっと笑ってくれたかもしれない……！
ひどいよ……！こんなのってないよ……！
ゼルガの非道な行動に泣き叫ぶリサ。
その時、ソラはレックスの胸のポケットから何かが落ちた事に気付く。
震える手で拾ったそれは……
ごめんね、レックス君。
この勝負……
テーブルに並べられたたくさんの料理。
たくさんの客と、フライパンなどを持った料理人。
そして、料理を美味しそうに食べるメルーナと、嬉しそうに腕を組むレックスの笑顔。
それらはかつてレックスが安心して笑えていた時の写真。
レックスにとって忘れられない、大切な思い出。
ソラはレックスが「メルーナは特別なんだ」と言っていた事を思い出し、納得すると……
ゆっくりとゼルガの方を向き、睨みつけた。
裏切り者を消しに来ただけだ。
異世界人、犬星ソラ。
ソラちん！
そいつ、さっきと様子がおかしいよ！
おでこに何か描いてある！
リサか。
よくここまでたどり着いたな。
さすが
誰かに操られてイマス！
フン。
敵が死んだんだ。もっと喜んだらどうだ？
レックスは料理を極め、店を開いたが、怪しい者共にクレームを言われ、店は潰れた！！
何故だと思う？
店に来たのが闇市場の人間だからだ！
奴らはレックスの店にあるテーブルを壊し、客を追い出し、他の料理人を葬ってやったんだ！！
まったく、バカな男だよ。
食い物など、誰が作っても同じだというのに。
お前もそう思うだろう？犬星ソラ！！
お前はこの世界に来る前、親に捨てられた！
飯を食う時はいつも１人でメソメソと泣きながら済まし、窓の外に出る事を待っていた！
だが美味かっただろう？嬉しかっただろう？
１人で食べたって嬉しくなんかない……！
どんなに美味しい食べ物でも！
どんなに食べ物がたくさんあっても！
全然嬉しくなんかない……！
ご飯は！
みんなと食べるから美味しいんだ！！！
レックスと同じ事を言うんだなぁ、お前は。
まぁいい。
そこまで言うのなら、セクシャルレインボーの宮殿まで来るがいい。
そこでお前の本気を見せてもらおう。
ゼルガの出した嵐と幻を超えられるならな！
必ず宮殿まで辿り着く事を誓い、拳を握るソラ。
ゼルガの体を使い、話していた何者かの声が聞き覚えがあり、誰なのか考えるリサ。
正気に戻るゼルガ。
そして、操られていたゼルガの一撃を喰らい、目を覚さないレックス。
果たして、ソラ達は無事にセクシャルレインボーに着くことができるのか？
嵐の中、飛行船は激しく揺れ続ける――。
