１７０話 再出発の前に！ソラとソニアの選択！
文字数 5,659文字
……宴会場を貸し切ってそれぞれ思い思いのひと時を過ごしたジャック達。
あれからジャックのほっぺたに手形が付いて、
ステージの上でオリジナル曲を歌って踊って、
レックスや末吉が作った料理とデザートを堪能して、
思い出話やおもしろい話、下ネタ、それぞれの近況を話して、
ジャックのスマホでいろんな動画を撮って、
たくさん笑って泣いて驚いて騒いで。
その後、
宿泊施設で寝るメンバーは客室で眠って、
酔い潰れたメンバー、または眠くなったメンバーは宴会場で眠って、
起きているメンバーは夜中でもやっているサービスを堪能して。
現在の時刻は午後１１時。
あと５分で午前０時を回るところ……。
ビアガーデンのステージに腰を掛けて、
不思議なくらい白く見える丸い月を見上げていた犬星ソラ。
宴会場とサプライズライブではたくさん笑って騒いでいたけど、月の光に照らされたソラの顔はどこか寂しそうに見えた。
……何だ、ここに居たのか。
まだ起きてたのか？
明日の朝になればジャックはこの町を出て公開処刑を止めに行く。
集団で乗り込むつもりなら別だけど、そうじゃないならほとんどのメンバーがここでお別れの可能性が高い。
そうなれば……
……まったく。
そんなに寂しいなら明日の朝までジャックと同じベッドで寝れば良かっただろ？
意地張っちゃって……
別に一緒に居たけりゃ居ればいいじゃんか。
後で泣いても知らないからな。
あ、そうだ。
バルクピースアイランドに行ってから何してたか話したのか？
うん！
修行して王様に会えた事、島のマッチョをまとめる護衛隊のリーダーになった事、今日会えたのは休暇が取れたからだよーって事……
ついでに日焼けした理由も話しちゃった！
ははは！
あの時は面白かったなぁ！
ソラがビーチでゴラゴランのマネしてポージング取って２４時間ずーっとトレーニングしてたんだよな〜！
……アタシからも礼を言わせておくれ。
この”再会”でジャックがたくさん笑ったのは大きな意味があるはずだ。
おわっ！？ビックリしたぁ！
ステージの裏に隠れてたのかよ！？
あなたは星乃ハルさん、だよね？
確かジャック君が旅に出かけるキッカケを作ったっていうお婆さん……
えっと、その……
ジャックは死なせないよ。
これから先どんな相手が待ち受けてるか分からないけど、あの子こそゴラゴランの死を避けられる唯一の希望なんだ。
もちろん旅のゴールでゲノン帝国皇帝が出てこようと、アタシは
それが通すべき「筋」ってモンだからね。
それにしてもジャックは本当にすごいねぇ。
普通たった１人のためにこれだけ集まったりしないよ？
宴会場もライブもエラい盛り上がりだったじゃないか。
まったく、あんな幸せ者見た事ないよ……
今から言う事はまだ誰にも話してないんだけど……
いいかい、よく聞いておくれ。
ジャックは明日の朝、８時にここを出る。
でもその時、アタシが一緒に付いていくかは分からない。
ジャックがこれから先やるのはこの２つさ。
順番で言うと決戦に相応しい仲間と出会って準備する公開処刑が最後だから、このラトリアを出たらピットセレブに行って奴隷解放をするという「寄り道」をする事になるが……
なるほど？
ジャックが奴隷解放しやすいように
それは１人で行くのか？
まさか。
ドゥーン、パンザレス、ルルカちゃんを連れて行くつもりさ。
多分、ラトリアの獣人達とはここでお別れになると思う。
コタローとかシロナはバイバイだろ？
じゃあ明日の朝ジャックと行動するのは誰なんだ？
ん？まさか……？
そのまさかさ。
犬星ソラ、アンタが望むならジャックと一緒に公開処刑の仲間を集めて処刑場に行く旅の仲間に入っていい。
でも、断るならそれでもいいよ。一緒に行かずに出来る事があるならそっちでも構わない。
まぁ、どうするかはアンタ次第だ。
もし一緒に行くなら賑やかなメンバーと一緒に行く事になるよ。
ハルが言っているのは、
ソラとジャックで一緒に旅が出来るチャンスを与える、という話。
ハルはピットセレブに先に潜入するドゥーン、パンザレス、ルルカを含めた４人組に入る。
ラトリアで出会ったウルクやコタローとはここでお別れ。
ソラはジャックとすでに決められたメンバーと一緒に旅をする……。
ただ、どうするかは自由。
もしこれを断ればまたジャックとは離れ離れになって、バルクピースアイランドに戻る事になり、公開処刑が終わるまでは会えない――。
もし一緒に行くなら、
明日の朝、７時半にジャックが泊まってる客室においで。
もちろん時間厳守だ。
それと、この話は他のみんなには秘密だよ？
アンタだから話したんだ。
ソニアちゃんがあれだけジャックに惚れてるんだ、もしお嫁に行けない事態になったら大変さ。
絶対に付いて行く事は出来ない。
そう言うと、ハルは宴会場の方へ入って行った。
するとヒビキはハルが隠れていた方とは違う方のステージ裏をチラッと見て一言……。
そこにはこっそりと隠れていたソニアの姿が……
……おいおい、バレてるじゃねぇか。
ジャックに付いてっちゃダメだ、そう言われちゃったけど付いて行きたいよな？
どうするんだ？ソニア。
＊＊＊＊
翌朝。
６階。宴会場。
盛大にくしゃみをしたのは早朝の寒さで飛び起きたオルテガ。
お酒で酔い潰れてそのまま眠ってしまったようだけど、ここは寝室ではないので枕も無ければ布団も無いわけで……
寒ぅぅぅッ！！
オレ様の抱き枕、抱き枕……
あった〜〜〜！
モーニングＫＩＳＳ。
お好きでしょ〜。
あら、やっと起きたの？
他のみんなはすでに起きてるわよ？
おはようございます、オルテガ殿。
朝食の用意が出来ましたよ。
お味噌汁、白米、魚にお漬け物。
玉子焼きとウインナーと海苔。
まさに「これぞ
なんと言っても大人数なので多めに作るのは大変でしたが、私の経営している宿屋「
ひとつひとつ丁寧に盛り付けました。
ほんと美味そうだよなぁ！
いやぁ、料理人として負けてられないぜ！
レックス君は「夜」に出すビアガーデンの料理を担当、私は「朝」を担当。
上手く役割を果たせて良かった。
よーし！じゃあここはジャックから一言もらって、
ソラの元気な「いただきます」で食べようぜ！
そんでソニアちゃんの〜……
……って、あれ。
ジャックとソラが居ないぞ？
ソラ君は分からないけど、
ジャックならとっくに食べて８階の客室に行ったわよ。
え〜〜〜？
せっかくあいつのために集まったってのに〜。
とりあえず食べようぜ〜？
せっかくの朝ご飯が冷めちまうよ〜。
【一同】
いただきます！！！
＊＊＊＊
８階。
ジャックが泊まっている部屋。
それじゃ、改めてこれからの行動を決める会議を始めるよ。
今回ラトリアでは別行動を取っていたから、それぞれのサイドで起きた事を全員知っておく必要がある。
というわけでまずはここまでのおさらいだ。
じゃあコロシアムの外にいた私達からね。
ジャックの旅のキッカケはハルとゴラゴランの出会いから始まって、死ぬ未来を変えるためにアップデートの力が必要だった。
次にあの声の正体か。
アレはゲノン帝国の皇帝で、ミー達はヴェイルノートからゴラゴランとグラリオとタケルの公開処刑を知った。
その処刑日はまだ先で、
処刑場となる場所は
しっかりと準備をしておけ、と言っていたな……。
……アラネアさんと戦ってる間にヴェイルノートさんが襲ってきて、すごく強かった……。
それにアップデートじゃどうにもならないって言われて、コロシアムが爆発して……
じゃあその後か。
ジャックが爆発を利用して屋敷にシロナちゃんとアラネアちゃんを避難させたんだ。
そこで俺達は出会ったんだけど……
そのお屋敷はダイナーという奴隷商人の方が持っている物件のようで、
ジャックさんはピットセレブで捕まっている奴隷さんを解放するためにそこへ向かう事にしたんです。
次はボクだ！
あのギャラララ・ラルルがビースト学校に来たんだ！
そこでドゥーンとボクが指名手配犯になってる事を知って、それからあの女の子が……！
ゲノン帝国の裏の幹部、ピリカが現れたんだ。
２人はグランドール騎士団のアルクを復活させるつもりらしい。
何を企んでいるかは謎だ……
ギャラララはともかくピリカは危険だね。
帝国の考えに逆らうような裏切り者を始末するのが仕事でね、頭の中はわずか７歳の女の子とは思えないほどグロテスクな事ばかり考えてるんだ。
"アレ"は人間じゃないよ……！
はぁ！？
あたしより３つも年下じゃない！
生意気なんだけど！！
確か帝国の階級は下から一般兵士、幹部の手下、幹部、最高幹部、裏の幹部、皇帝……
ピリカは上から２番目だな。
会った事がある人で例えると、
ヴェイルノートよりも上！？
どんな奴なの！？
その子と同じ階級の幹部が他にもいるはずだよ。
今後の行動に関わってくれば命の保証は無い……
もしもゴラゴラン達を助け出す敵ならそれ相応の戦力が必要だね……
……ともかく、おさらいは以上だね。
それじゃあ桃華ちゃんに「手紙」について話してもらおうと思うんだが……
分かりました。
じゃあ、手紙の内容について説明しますね。
内容はアップデートについて、潜在能力について、
敵の名前ですが……
わざわざ教えてくれるのはラッキーだよ！
でも一体どこなんだ！？
別にどこだって驚きやしないが、敵にとって有利な場所だったら厄介だねぇ。
おおよそ皇帝とその手下どもが待ち構えてる所だとは思うけど……
それだとゲノン帝国しかないわね。
まぁ、普通に考えたらそうなるか……
なんてったって敵の本拠地だもん、地理も分からないし入国だって難しいかもしれないわ。
ううん。そこじゃない。
私もルルカちゃんも、“あそこ”で会ったじゃん。
え？なにそれ？
じゃああたしはもう旅のゴールに行った事があるって事？
“あの時“は処刑場なんて無かったから、ゲノン帝国の人達が新しく作ったんじゃないかな。
だとしたら、あそこに住んでいた人はもう、みんな殺されちゃったかも……
……お兄ちゃん。
この世界で初めて私達が会ったのはどこ？
えっ……！？
ま、待ってよ！あそこは……！！
＊＊＊＊
同時刻。
６階、宴会場。
あ〜あ。遅いなぁ……
何してんだ？ジャックのヤツは……
あと１０分で７時半になるにゃ。
主役が戻って来ないと身動き取れないにゃ〜
それぞれの家に帰るべきかまだここにいるべきか……。
解散ならそれでもいいけど、どうすりゃいいか分からずこのまま過ごすのもなぁ〜……
何人かは温泉に行ったけど、そのうち戻って来るだろうからねぇ。
ソニアちゃんも見当たらないし困ったよ……
彼女なら８階で見たぞ。
もう心配は要らないと思ったから声は掛けなかったが、重い表情をしていたな……
ソラきゅんも心配にゃ。
昨日はあんなに笑ってたのに朝食も食べずにどっか行くなんて～。
あんなに食いしん坊なのに？
へぇ、槍でも降るんじゃないか？ははは！
うわぁ！？何だよ！？
いきなりキレるなよ！！
『この話は他のみんなには秘密だよ？』
な、何でもない……！
いきなり怒鳴ってすまなかった……！
『先に戻ってて。ボクは大丈夫だから。』
お、おい！？
いきなり走ってどこ行くんだよ！？
何か隠してるにゃ。
昨日の夜、みんなが寝静まった後にトラブルがあったのかも。
おいおい！ちょっと待ってくれよ！
オレ達はジャックの仲間だからこうやって集まったんだろ？
初めて見る顔は多いけどよ、トラブルを起こすようなメンツなんか居ないだろ！！
少なくともオレはお前らを信用してんだ！
悪いかこの野郎！
バーーーカ。
そんなの分かってるよ、おじさん！
誰がおじさんだ！
オルテガだって自己紹介しただろ！
巨乳のねーちゃん！
信用しているのはみんな同じだよ。
ジャック、ソラ、ソニアの心配をしているだけさ。
ヒビキちゃんが焦っているように見えたから、揉め事ではないと思う。
仲間同士でも打ち明けられない悩みはよくある事。
急いで帰る必要はないんだしここで座って待っていましょう？
きっとみんな笑顔で戻って来てくれるわ。
ウチも賛成にゃ！
ジタバタしてても進まないにゃ！
突如として居なくなったソニアとソラ。
ヒビキは宴会場を出て８階を目指す。
そして……
やっぱり無理だ……！
もう直接話しに行くしかないよ！
こんなの無理に決まってる……！
何も知らないフリをして帰るなんてできない！会いに行こう！
【ソラ＆ソニア】
何でここに……？
２人が居るのはジャック達が話し合いをしている部屋の前。
そう、まさかの鉢合わせ――。
早まるなよ！
ソラああああああああああああああ！！
次回、第４章クエスト編 最終話！
つづく！
